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第4章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール~北方封鎖地編

第106話 三猫娘達の事情と彼女達の集落の慣習の件

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保護した三猫娘の長女であるシロネが食べた食事量は現時点で、実際に目の当たりにしないと信じられない量、この世界の冒険者基準で、成人男性冒険者15食分を超えている。1日分ではなく、1食分でだ。

俺の【空間収納】内の食糧にはまだ3ヵ月分以上保管して余裕があるから、今は問題ない。

如何に獣人に健啖家が多いと言っても、シロネの食事量は明らかに異常だ。しかも、彼女の150cm前後の小柄な体から考慮すると、食べた料理は何処に消えていったという話もある。

シロネの過食とも言える食事量の原因は高レベル【鑑定】でないとわからない彼女の異常体質、元の世界にはない【英傑症候群】という先天性疾患だ。

この【英傑症候群】は「英雄症候群ヒーロー・シンドローム」に名前が似ているけれども、精神的な病気ものではない。この世界の肉体に発症する先天性の身体異常だ。その症状を分かりやすく言うならば、体内の筋肉の密度が常人の3倍以上の人が該当するとされる病気と俺の【鑑定】に出ている。

シロネの場合は特に【英傑症候群】による体内筋肉密度の異常が著しい。彼女の筋肉の密度は俺の【鑑定】結果では人族よりもただでさえ、筋肉量が多い9と出ていた。

シロネの身長が双子の妹のクロネよりも小さいのはこの特異体質と獣人の集落の食糧事情にも原因があると思われる。摂取できる栄養が足りず、肉体の成長よりも現状維持に回さざるを得ない程、シロネの体の栄養事情は切迫していた様だ。

加えて、シロネの身体はその筋肉の異常密度において燃費が【英傑症候群】罹患者の中でも極端に悪い。俺達と出会わなければ、シロネの命はあと数日保たなかったことが判明している。

他の2人の窮状と飛鳥達の懇願もあって、俺はシロネ達が満足するまで食事をさせることを許可した。シロネの俺達の予想を遥かに上回る健啖家ぶりには姉妹であるクロネとモモネも知らなかったのか、驚愕していた。

シロネに比べると当然だが、クロネとモモネは食事の量は人族と同じ位。若干、モモネが少食ぎみだ。

三猫娘達の集落は先代の長が任期のときから始まったメルキオールからの行商人達の商隊と定期的な食糧の取引があるので、行商人達と付き合いのない他の集落よりも食糧事情はいい方だ。

しかし、彼等の基本生活は狩猟採集生活。たった一人の娘の食事のために集落一帯の獲物を狩り尽くす訳にもいかない。残念だが、現状でシロネが生まれた集落に留まるつもりなら、彼女には死ぬ未来しかない。

三猫娘の詳しい間柄はシロネとクロネは集落の長の双子姉妹で、モモネは2人の5歳下の妹だそうだ。

この世界の情勢や三猫娘達の集落の食糧事情を考えれば、シロネは口減らしで早々に殺されていてもおかしくない。現に、同じ疾患を抱えた先人の9割5分は餓死で亡くなっているという知りたくない事情も【鑑定】結果に出ていた。貴族子弟であれ、高位貴族でない限り、成長するにつれて必要な食事量が増える。そして、家計を次第に圧迫し、家を傾けてしまう。残りの1割も寿命で亡くなった人はわずかというとてもありがたくない情報が【鑑定】でわかった。

このまま集落へシロネ達を送り届けても、栄養不足によって体が限界を迎えてしまうため、シロネが餓死する未来はどうあっても変わらない。

その上、集落の現状では万が一、ヒュドラ襲来まで【英傑症候群】持ちのシロネが生き延びることができても、燃料不足と身体の成長不足、武器の質不足に加えて、手練れの戦闘要員狩人達が元薬品ギルド長達の所業で壊滅しているなど数多くの敗因でヒュドラの餌になる未来しかない。

自分で内心呆れているけれども、このまま飛鳥達と懇意になった3人を見捨てるのは寝覚めが悪い。

姉妹と仲良くなったクロエから【念話】で三猫娘を引き取るべきだとという進言がきてもいる。また、可愛いもの好きの飛鳥からは三猫娘をこのままメルキオールにまとめてお持ち帰りしたいという欲望まみれの要望が届いている。

俺達に気を許してくれているのがわかるが、飛鳥の嗜好に合うものが絡むと、普段の良識ある彼女からは考えられない位欲望に正直になっている。そこが可愛く思えてしまっている俺がいるため、俺は自嘲せざるを得ない。しかし、いくら文化レベルが元の世界よりも進んでいないこの世界でも、人のお持ち帰りはダメだ。

シロネ達を連れて行くにしても親に話をつけて、筋を通す必要性を俺が飛鳥達に説いていると、クロネが、

「あたし達の食事と生活を保障してくれるなら、あたし達はあなた達について行くわ。あたし達は集落では厄介者扱いだし、さっきのゾンビ達の囮りになると言って、あたし達は集落から飛び出してきたから、戻らなくても殺されたことにされておしまいよ。父さん達も今頃迷惑者のあたし達がいなくなって清々しているんじゃないかしら」

と鼻息荒く言った。

「……クロネ」

「クロネお姉ちゃん……」

そう言ったクロネにシロネからは咎める視線、モモネからは気遣う視線が向けられた。

どうやら3人の集落での立場もいろいろ面倒なことがある様だ。

一度このまま三猫娘の集落に行って、3人の親に連れて行くことの確認をとる必要性を説明し、この場で3人の受け入れの判断は保留にした。

ちなみにシロネがモフモバニー狩りのメンバーに選ばれなかったのは、選ばれたメンバー達の小さいプライドとそれに伴うそのメンバーの大多数がシロネを蔑視していたことに起因しているらしい。

クロネがその話しをしたとき、シロネは思う所は何もないというか、全く彼等に関心がないようで、話しを流していた。シロネ曰く、

「集落のみんなのためにご飯を沢山とってきてくれるなら、わたしでなくてもいいし、わたしは別行動で自分とみんなの分を狩りに行っていた」

しかし、主に話していたクロネ本人からは暗黒魔竜であるクロエがドン引きする程のドス黒いオーラが漏れ出ていた。その姿を見て、俺はクロネの姉妹愛が命より重いがシスコンであることを確信した。

次女であるクロネは特異体質のシロネと異なり、普通の体質で同年代と変わらず成長し、この世界の成人年齢、15歳に達している。

シロネが戦闘狩りに特化しているのに対して、クロネの能力は良く言えば万能、悪く言えば突出した能力がないと言える。

ただ、脳筋寄りの思考と天性の勘の良さをもつシロネと並の獣人達に比べてクロネが理性的な判断をする傾向(シロネとモモネが絡むことを除く)が強いため、2人揃うとバランスが取れていると言える。

モモネが極端に自己主張が乏しいこともあって、主に3人一緒のときの行動決定はクロネがすることが多い様だ。

末妹のモモネは並の獣人の子供よりも体が弱く、力も弱い。どうやら隔世遺伝で数世代前に交わった人間の因子が強く出てしまっているのが原因と思われる。

同年代の獣人の子供の動きに比べてモモネの反応は遅れがちで、シロネとクロネが見ていない所で同年代の子供達にいじめられていたらしい。そのため、モモネは自信をなくしてしまい、今の内向的な性格になってしまった様だ。このこともクロネの姉妹魂シスコンに拍車をかけていると思われる。

また、シロネも度が過ぎる者には灸を据えていたと思われるのが、クロネがするこの話を聞いているときのシロネの表情から伺えた。

更に俺の【鑑定】で分かったことだが、モモネはあらゆる【魔術】系スキルの適性が低い獣人の中で、稀有な【錬金術】スキル持ちで、ステータスも下記の様に魔術師寄りのものだった。


名前:モモネ
性別:女
クラス:錬金術師

筋力:F
耐久:E
敏捷:F
器用さ:B
魔力:A
精神力:A
幸運:D

スキル:なし
SRスキル:【鑑定LV2】、【錬金術LV2】、【分解LV1】、【再構成LV1】
SSRスキル:なし



大多数が脳筋の集落で、モモネは両親と一部の理解ある大人以外からは爪弾きにされていて、シロネ共々クロネの目が届かない所で、その大人達からも酷い扱いをされていた様だ。

最後に、三猫娘達の集落で生まれた女性は姉妹であれば揃って、最初に相手を見つけた姉妹の夫に甲斐性があれば、その下に姉妹揃って嫁ぐという、理解し難い因習があるらしい。

単純に考えれば獲物を多く獲れる実力者、安定して食事ができる伴侶を姉妹で共有することで血を繋ぐのが目的なのだろうが、負担を強いるのはいかがなものか。それに一緒に嫁ぐ姉妹に反発はないのだろうか。

「その心配はないぞ。ご主人」

顔に出ていたのか、クロエが俺の思考に割り込んできた。

「どうしてだ?」

「うむ。なぜなら、獣人の方が人族よりも本能的なためか、発情期になりやすい。本能的に見抜くのか、相手に自身を養うことができるかをはかったかの如く発情期に入る。“”で得る伴侶ならば女性の方も積極的に協力しあうから問題としない。ご主人はベルのときに“発情期”の厄介さは知っておるじゃろう?」

クロエの言葉によって、出会った当時のベルの様子が頭を過り、俺は納得せざるを得なかった。しかし、

「ここで“発情期その”話が出ると言うことは、もしかして……」

「うむ、ご明察じゃ。シロネはご主人を対象に発情期の兆しが出ておるのう。モモネはまだがまぁ、時間の問題じゃな」

「……クロネは?」

「あの黒猫娘は兆しも出ておらぬが、あの様子ではもしかしたら、生涯“発情期”は来ぬかもしれぬな。じゃが、シスコンあの性格だから、シロネ達と共にあるため、同じ伴侶に嫁ぐことに否やは言わんじゃろう。我が本人に直接確認しておいたから間違いない」

発情期のことに関しては、【鑑定】の備考の末尾の▼表示で省略されていたのを俺が見落としていたのがわかった。不覚。

クロエに言われから、三猫娘のステータスログを再確認したら、きちんと状態異常の項目で発情期の兆しに関する記述があった。

「あの3人を引き取ることに関しては既にメイド長ベルの許可も得ておるから問題ないです。主様」

既にベルに根回しをした 外堀を埋めていたルシィの言葉に俺は内心で嘆息せざるを得なかった。



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