とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星

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第4章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール~北方封鎖地編

第105話 ただ逃すだけでは済ますはずがない件

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ミャウミャウ煩い害獣ミャックは配下のゾンビ冒険者達のゾンビ化がルシィの【聖火焔】で解除され、彼等からも敵視されことで、ようやく味方がいなくなったことに気づくと、それまでとは比べものにならない速さで逃走を開始した。

「これで勝ったと思うなミャウ!」

俺はこの場で奴に引導を渡したかった。しかし、ゾンビ化が解除された者達の中には肉体の欠損が激しい状態で元に戻ってしまった者もいたため、すぐに治療しないければ、今度は完全な死体になる者が少なくなかった。助かる彼等の命を見捨てることができなかった俺達は害獣ミャックの追撃を断念せざるを得なかった。

とはいえ、あの害獣ミャックにはその姿を見失う前に俺は【マーカー】を打った。奴の逃走潜伏先は【マーカー】と連携している【地図情報】で分かるようにしているから問題はない。

俺達は害獣駆逐よりも正気に戻った怪我人達の治療をすることにした。



「すまない。助かった」
「ありがとうございます」

先程まで脇腹を大きく抉られて、あの世からのお迎え秒読み段階だった冒険者達から俺達は次々に礼を言われた。

通常の回復薬では手遅れだった俺治療した冒険者のその傷は獣人達の集落を巡っている行商人の護衛依頼で負ったらしい。

元に戻った商隊の護衛をしていた冒険者達の話では、行商先である三猫娘達の集落を目指して移動しているときにゾンビ達の襲撃を受けた辺り以降記憶が曖昧になっているそうだ。

ちなみに【空間収納】に隔離していたゾンビ冒険者達もルシィの【聖火焔】でゾンビ化を解除した。残念だが、数名は手遅れだったため灰になってしまった。

【解析】で詳しく調べたところ、俺達が行使できるゾンビ化の解除手段はルシィと俺が使える【聖火焔】と【聖光】、【聖水】だけであることが判明した。

ルシィは前述の3スキルをスキルとしてルールミナスだった時から持っていたものだが、俺は【想技創造】と【魔術創造】チートスキルでそれらの効果を模倣する形で創った。

これまで【想技創造】を何度も試行して分かったことだが、既に存在するスキルも【想技創造】で作成可能であることが分かった。

ただし、一部のスキルに関しては【複製コピー】先の個人によって【複製】不可が追加される様だ。一例として、前述の【聖火焔】と【聖光】、【聖水】があり、飛鳥では【複製】可能であったが、クロエでは【複製】不可だった。対象のスキルにスキル適性が完全にないものは俺のスキルでも【複製】による使用ができないようだ。

今回浄化したゾンビは30体だが、元に戻った冒険者達の話をまとめると、敵戦力としてのゾンビの総数は100体近くいると思われる。

そして、ここにはいなかったが、獣人のゾンビがその半数、50体近くいるらしいことが分かった。三猫娘達の集落以外の獣人の集落が襲われていることも容易に想像できることから、ゾンビの数はそれ以上の数に増えている可能性が高い。

犯罪者達の戦力についてはマーカーを打った害獣ミャックが敵拠点に到達すれば奴の周囲の情報を得ることができる。しかし、奴が元薬品ギルド長達の信頼を十分得ているかは疑わしい。

奴が任されたゾンビ達戦力の中に並の冒険者を上回る獣人のゾンビがいなかったことから、ミャック経由で敵の主力を把握することは期待できないと俺は思っている。

ゾンビから運良く元に戻った冒険者達はメルキオールに戻り次第、冒険者ギルドに報告すると言ってくれたので、ヘリオスんとバルガスのとっつあん宛に犯罪者共の現時点まで判明している行動をまとめた報告書を渡すよう依頼として頼んだ。

その依頼の報酬は引き受けてくれた冒険者達の人数分のメルキオールまでかかる日数の保存食糧とボロボロになった彼等の装備の代替品となる、販売しても問題ないとベルにお墨付きをもらった俺の習作武器防具を作製者を伝えずに市場価格よりも割安で販売した。

俺の習作武器防具に対する彼等の反応はかなり良かったので何気に嬉しかった。

【地図情報】で確認しているが、現状、メルキオールまでの道中に野生の魔物以外は存在していないので、その装備と食糧があれば彼等は無事メルキオールに到着できるはずだ。

また、手紙とは別に俺は冒険者達との話し合いを終えてすぐにヘリオスさんとバルガスのとっつあんにギルドカードを使って、今回の悪い知らせを報告した。ほうれんそうは大事、超大事。早ければ早いほどいい。

これによって、後日、事態を楽観視していた行政府軍の司令達幹部は余罪も追及されて懲戒免職となった。



さて、保護した三猫娘達からも飛鳥達が話を聴いてくれていたから、犯罪者どものこれまでの動きが大体わかったので、状況を整理しよう。

ちなみに、三猫娘達の住んでいた集落は先行させた使い魔によって、既に【地図情報】で確認済み。俺達はそこへ現在向かっている。

集落の被害は怪我人はいるものの、死傷者はいない。更に、ゾンビ化の侵食をされている者もいなかった。

集落で餓死者が出る様子も今のところない。急いで向かう必要はないことが分かったので、俺達はのんびり三猫娘達の集落へ向かっている。

話を戻そう、メルキオールから逃走した元薬品ギルド長達は前もって裏取引で入手した豚鬼の養殖実験を行なって失敗した廃集落に逃げ込む準備と思われる食糧の輸送を時期は不明だが、早い時から始めていたことがヘリオスさん達の調査で分かった。

メルキオールから逃亡後、食糧などは周辺の森での狩猟と北にある封鎖地までに散在している比較的友好なエルフや獣人達と取引をしている行商人達を襲う強奪で賄っているようだ。

行商人と護衛達は襲撃時、身体能力に優れる獣人達も集落を襲って、従順な者は奴隷化し、反抗的な者などはゾンビにして配下に組み込んで、襲撃に加えているのが分かった。

三猫娘の話、専ら次女のクロネの説明で、年末前の食糧売買のために到着するはずの行商人の商隊が2週間前の到着予定日を3日以上大幅に過ぎても集落に来なかったことに集落は一時期騒然となったらしい。

待てども頼みの商隊が来ないため、1週間前位に冬越えのための食糧調達のために周辺生息して活動を始めているモフモバニー狩りに狩人達を送り出すことが決まり、4日前にその狩人達が狩りに出発したそうだ。

彼等は集落の実力者揃いの狩人集団だったことから、集落の皆から大きな狩りの成果を期待されていたものの、結果は全く違う事態になった。辛うじて、命からがら若手の狩人1人だけが集落に戻ってきた。

その生存者の証言で、異様な集団に強襲され、不思議な粉の薬でおかしくなった仲間が自分達を襲いかかる様になったそうだ。

おかしくなった仲間はなぜか襲撃者の命令に大人しく従って自分達を襲い、残った仲間も振り撒かれた薬とおかしくなった仲間に噛みつかれることによって、次々におかしくなっていった。

そんな中、実力不足なのに集落での評判目的で、密かに勝手について来ていた足手まといのミャックが襲撃者達に呆れるほど清々しい命乞いをして狩人達を裏切った。

ミャックは人間族達に媚びと集落の仲間を売って、その怪しい襲撃者達の仲間になったらしい。

そして、そのとき辛うじて残っていたのはその若手狩人と狩人達のリーダーだけだった。

リーダーは殿となって、襲撃者達とおかしくなった仲間達の足を止めるためにその場に残り、最後に残った生存者を集落への伝令として逃したそうだ。

伝令として生き残った狩人が集落に到着したのが一昨日。ミャック率いるゾンビ達の襲撃を受けたのは一昨日の夜だそうだ。

モフモバニーを狩りに出た狩人達が出会ったのは元薬品ギルドの人間達でほぼ間違いないだろう。

話しであった獣人達がおかしくなった粉薬は錬金術を継承してきたメルクリウス家で禁忌薬物に指定された「ゾンビパウダー」と思われる。

俺は今回の出発前にミーネさんから、この禁忌薬物が存在する可能性があるため、警戒するよう忠告を受けている。行商人の護衛依頼を受けていた冒険者達がゾンビ化したのもこの薬が原因だ。根拠は俺の【鑑定】。その状態異常の詳細でゾンビ化の原因として明記されていた。

「ゾンビパウダー」によるゾンビ化はバイオでハザードな某ゲームにウィルスの様なものらしいが、侵食が前述の俺とルシィの魔術で浄化解除が可能。

侵食が完了してゾンビ化の解除ができなくなる理由は、肉体の本来の持ち主の意識と魂が肉体を侵食する存在に喰い殺されてしまうためだ。

侵食する存在に喰い殺された魂は侵食する存在の一部として取り込まれ、肉体が死滅するまで苦しみ続けるらしい。

ゾンビパウダーに寄生主を侵食する存在はなんであるかとミーネさんは言っていた。

残念ながら、既に数名の冒険者はその犠牲者になっている。そして、その犠牲者の数は逃亡した犯罪者集団の手によって今も増え続けているのだろう。



「……それで、なんでこうなっているのか」

三猫娘の集落への移動中のケイロンが牽く馬車の中、俺はなぜか保護した三猫娘の内の2人、照り焼きバーガーにご執心の白髪のシロネと鯛焼きを少しずつ食べている桃色髪のモモネに懐かれて、いつの間にか俺の両膝の上はこの2人に占領されていた。

「……ん? はむはむ……」

「あぅ……ごめんなさい。やっぱり、モモネ、邪魔ですよね。モモネはどきます」

シロネは俺の言葉に一瞬反応して咀嚼を止めたが、気にせず再開した。図太い。

一方、モモネはオドオドと俺に謝って、食べるのをやめて俺の膝からいそいそと降りようとし始めた。

庇護欲を煽る幼いモモネのその様子から、まるで俺がモモネを虐めている様な罪悪感が湧いてきた。しかも、なぜか飛鳥達から刺さってくる無言の視線が冷たい。

「馬車での移動中に席を立つのは危ないから、このままでいいよ」

俺にロの気はないのだがと内心でため息をつきつつ、俺はモモネの頭を撫でて、危なっかしく俺の膝上から降りようとしていた彼女を留めた。

「……ありがとう、ございます」

モモネは嬉しそうにはにかんでそう答えた。

「……。ん!」

そのモモネの隣にいる食事に集中していたシロネは俺に撫でられるモモネが羨ましかったのか、自分も撫でろと頭を突き出してきた。俺は苦笑しつつ、空いているもう1つの手でシロネの頭を撫でた。

先に名前が挙がっていたクロネとこの2人は姉妹なのだが、長女であるはずのシロネは次女のクロネよりも小柄で、背丈が末妹で幼女に見えるモモネとほぼ同じ低身長。

しかし、重さは……シロネの目付きが急に鋭くなったので、ノーコメント。その理由についてはシロネ自身の許可を得て、【鑑定】したことで判明した。
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