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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活
第1話 そして、月日は流れ流れて……
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女神イルテミス様のおかげで8つのスキルを取得した俺は王国子爵家の子供として、亜人種も生活している異世界に転生を果たした。
それから、17回目の誕生日を無事に迎えた俺は通い慣れた王立魔術大学で師事している教授の研究室に呼び出された。いろいろあって地球世界への再転生はしていない。それは偏にこの世界から旅立つことを先送りにするものができたからに他ならない。
「ディーハルト君、真に以って遺憾だが、君の王宮魔術師の採用試験の結果は筆記、面接ともに上位であったが、実技が……最下位だったため、不合格との通知がきた」
俺の目の前の人物、普段からこの姿勢であれば長身眼鏡イケメンである教授が心底苦渋に満ちた表情でディーハルト・アレスター、今生の俺に王宮魔術師の試験に落ちたことを告げた。
その言葉を聞き、俺はやっぱりかという諦念と、一部の上位貴族の選民意識が酷過ぎるため、元からあまりなかったこの国の王族への忠誠心は俺の中から一切なくなった。
知り合う機会に恵まれた人柄を知る親しい王族に対する心証こそ変わらないものの、既知の友好的ではない人物と王族のラベルで括れる未見人物達への心証はマイナス、試験に落ちる原因となった人物達はこのとき完全に俺の敵であると俺は分類した。
「……そうですか、残念です。それで、関係者への対応はどうなっているんですか?
教授に渡した僕の実技試験の映像は僕の王宮魔術師就任を非常に期待されていた方々に試験終了後に手紙を添えて送っています。ああ、もちろん、ありがたくも最も一緒に僕と王宮魔術師の仕事をすることを楽しみにされていらっしゃったフレア公女殿下には渡していませんよ。比喩表現ではなく、まず間違いなく物理的に王宮で血の雨が降りかねませんからね」
「はぁ……その言葉にはものすごく現実味があり過ぎるから、全く笑えないよ。陛下の勅命で、王権を振りかざして君の試験官に割り込んだ第二王子殿下は王位継承権を最下位にされ、3ヶ月の謹慎。本来担当するはずだった試験官の王宮魔術師は情状酌量の余地があったため、3年間の減俸。裏で糸を引いていたと思われる王宮魔術師筆頭殿は証拠不十分なため、お咎めなしといったところだ。全く以って、忌々しい」
俺の言葉に顔を引き攣らせた教授は今回の黒幕へ向けて苦々しげにそう言った。
現王宮魔術師筆頭となっている人物は教授と同じく、エルフ族で同年代、同期ではあるものの、教授が人柄と実力・能力主義であるのに対して、彼は血統と家柄を重視する保守派侯爵家の当主である。そのため、出身が下級貴族である俺に対しての当たりが強い。
しかも、貴族で覚えている人はもうほとんどいないかもしれないが家同士の過去に厄介な因縁があるのが更に両家の関係を面倒な方に傾けている。
王宮魔術師の実技試験は対戦相手である試験官が名のある王宮魔術師を相手にすると知って、受験者が萎縮して実力を発揮できなくなるのを避けるために、試験官はフードつきのローブを深く被り、顔出しと名乗りを控えることが義務付けられている。
しかし、俺の試験官をするため現れた第二馬鹿王子殿下は血迷っているとしか思えない行動に出た。素顔を堂々と晒し、更に俺に対して声高に名乗りをあげて命令したのだった。
どう考えても俺の王宮魔術師就任を妨害する意図がある行動にしか見えない。
「僕に対しては、王宮魔術師試験を不合格にすることによる相殺でお咎めなしですか?」
「ああ。王子殿下の君にした愚行は臣下である王国貴族の忠誠を崩すのに充分だったけれども……君もやりすぎだよ。無傷と言わずとも、軽傷で済ませていれば君は王宮魔術師になれたかもしれないのに」
俺の問いかけに教授はため息とともにそう返した。
「愚問ですよ教授。誰であれ、たとえ現国王陛下であっても、俺は亡くなった両親と亡き友、今の家族、恩義のあるフレア公女殿下を愚弄する輩を許すつもりはありません。それに殺してしまったら、それで終わりじゃないですか」
そう言った俺を見て、教授はなぜか再び顔を引き攣らせた。解せぬ。
あの愚かな王子殿下は俺の家が下級貴族であることを理由に俺を嘲笑するだけに留まらず、亡き俺の両親達と友人、今の俺の家族、そして、厄介ごとに巻き込む腐れ縁だが、恩人とも言えるウェルダー公爵令嬢のフレアの名をあげ連ねて罵詈雑言を吐いたのだ。
だから、本人了承の上で、俺は試験官である王子殿下を初級魔術【火弾】並列行使の大弾幕で、そのご自慢の防御の上から、圧倒的に蹂躙した。
1つ1つの威力を抑えて手加減して行使していたのだが、俺が思っていたよりも第二王子が使う王家の秘術【聖光大楯】が雑で汚い術式であった。
加えて、名前負けの標準サイズの魔力楯、更に魔術防御が俺の予想以上にヘボかったため、どこぞのバリアよろしく、パリーンと小気味よい音ともに数秒で見事に割れてしまい、馬鹿王子が瀕死になったのは想定外だった。うん、全く以って想定外だ。
まぁ、おかげで、術式を調整する必要があるけれども、俺は王家の秘術である【聖光大楯】を使えるようになった。当然、誰にもこのことは話していないが、目の前の人の様に気づいている人はいるかもしれないな。
「これまでの君の功績を鑑みれば、君程の人材を王宮魔術師にしないという選択肢はないというのに、あの大馬鹿者共め……ああ、胃が痛い」
教授はそう言って、嘆きながら胃に手を当てた……出会った当初よりも教授の頭髪が薄くなっているのは俺の気の所為だね。その原因の大半は厄介ごとを巻き起こし、ときに巻き込まれたフレアだし。
「いえいえ、僕の功績と言っても、全てフレア公女殿下の行動の尻馬に乗った形で挙げたものばかりじゃないですか。僕個人だけではとてもあんな功績はどうあってもあげられません。僕の様な凡人をフレア公女殿下の様な天才と一緒にしないでください」
そう苦笑とともに俺は返したのだが、
「君ねぇ……君の魔術制御技術は私が知る限り、下手すると王国随一かもしれないのだよ! 私の魔術だけでなく、王立学園のあの忌々しいご老体の放った魔術にも干渉して打ち消せる者が凡才な訳ないだろう!? まして、今の王国の魔術師で、君の様に既存の魔術式を書き換えて使っている者は君を含めて両手で数える程しかいないんだよ!? しかも、全員が君の関係者じゃないか!!」
ヒートアップした教授の様子に俺は閉口せざるをえなかった。
閑話休題、俺は今後の去就を決めなければならない。フレアに引きずられる形で受けた王宮魔術師の道は閉ざされた。通常であれば、再応募も可能だろうけれども、俺が再度志願しても、今回のことを理由に受け付けてすらもらえないことは目に見えている。
教授の伝手で、来年度にこの魔術大学で研究室をもつことも1つの道ではある。しかし、今の大学中枢は入試の準備で忙しいため、現時点では無理だ。いくつかストックしている手札を使って、強引に進めることもできなくはないが、今は手札を切るときではない。
それに、しばらくは継承権最下位に転落したあの腐れ王子殿下がいるこの王都にいたくないから、王都でのアルバイトや仕事に就くことはないな。
実家の子爵領に戻ると、王宮魔術師筆頭殿が嫌がらせをしてきて義父さん達に迷惑がかかるかもしれないから、実家に戻るのはしばらくはなしだ。義父達には手紙で採用試験に落ちたことを伝えよう。
そうだ、フレアに振り回されてきた所為で後回しになっていた国内旅行に出るとしよう。お世話になっているフレアのご両親が治めている南の公爵領は当然訪れる予定は後の方にしてっと……。
「ああ、なにか悪企みしているところ悪いけれど、君に任せたい仕事があるんだ」
夢が膨らむこれからの旅行計画に没頭しようとした俺に教授が不意に声をかけてきた。
「僕でなければ駄目なんですか?」
「うん、ディーハルト・アレスター、君でなければ誰にも解決できないことだと私は思っているから君に頼みたい」
教授は出会ったときの不敵な笑みを浮かべて、俺にそう告げた。
それから、17回目の誕生日を無事に迎えた俺は通い慣れた王立魔術大学で師事している教授の研究室に呼び出された。いろいろあって地球世界への再転生はしていない。それは偏にこの世界から旅立つことを先送りにするものができたからに他ならない。
「ディーハルト君、真に以って遺憾だが、君の王宮魔術師の採用試験の結果は筆記、面接ともに上位であったが、実技が……最下位だったため、不合格との通知がきた」
俺の目の前の人物、普段からこの姿勢であれば長身眼鏡イケメンである教授が心底苦渋に満ちた表情でディーハルト・アレスター、今生の俺に王宮魔術師の試験に落ちたことを告げた。
その言葉を聞き、俺はやっぱりかという諦念と、一部の上位貴族の選民意識が酷過ぎるため、元からあまりなかったこの国の王族への忠誠心は俺の中から一切なくなった。
知り合う機会に恵まれた人柄を知る親しい王族に対する心証こそ変わらないものの、既知の友好的ではない人物と王族のラベルで括れる未見人物達への心証はマイナス、試験に落ちる原因となった人物達はこのとき完全に俺の敵であると俺は分類した。
「……そうですか、残念です。それで、関係者への対応はどうなっているんですか?
教授に渡した僕の実技試験の映像は僕の王宮魔術師就任を非常に期待されていた方々に試験終了後に手紙を添えて送っています。ああ、もちろん、ありがたくも最も一緒に僕と王宮魔術師の仕事をすることを楽しみにされていらっしゃったフレア公女殿下には渡していませんよ。比喩表現ではなく、まず間違いなく物理的に王宮で血の雨が降りかねませんからね」
「はぁ……その言葉にはものすごく現実味があり過ぎるから、全く笑えないよ。陛下の勅命で、王権を振りかざして君の試験官に割り込んだ第二王子殿下は王位継承権を最下位にされ、3ヶ月の謹慎。本来担当するはずだった試験官の王宮魔術師は情状酌量の余地があったため、3年間の減俸。裏で糸を引いていたと思われる王宮魔術師筆頭殿は証拠不十分なため、お咎めなしといったところだ。全く以って、忌々しい」
俺の言葉に顔を引き攣らせた教授は今回の黒幕へ向けて苦々しげにそう言った。
現王宮魔術師筆頭となっている人物は教授と同じく、エルフ族で同年代、同期ではあるものの、教授が人柄と実力・能力主義であるのに対して、彼は血統と家柄を重視する保守派侯爵家の当主である。そのため、出身が下級貴族である俺に対しての当たりが強い。
しかも、貴族で覚えている人はもうほとんどいないかもしれないが家同士の過去に厄介な因縁があるのが更に両家の関係を面倒な方に傾けている。
王宮魔術師の実技試験は対戦相手である試験官が名のある王宮魔術師を相手にすると知って、受験者が萎縮して実力を発揮できなくなるのを避けるために、試験官はフードつきのローブを深く被り、顔出しと名乗りを控えることが義務付けられている。
しかし、俺の試験官をするため現れた第二馬鹿王子殿下は血迷っているとしか思えない行動に出た。素顔を堂々と晒し、更に俺に対して声高に名乗りをあげて命令したのだった。
どう考えても俺の王宮魔術師就任を妨害する意図がある行動にしか見えない。
「僕に対しては、王宮魔術師試験を不合格にすることによる相殺でお咎めなしですか?」
「ああ。王子殿下の君にした愚行は臣下である王国貴族の忠誠を崩すのに充分だったけれども……君もやりすぎだよ。無傷と言わずとも、軽傷で済ませていれば君は王宮魔術師になれたかもしれないのに」
俺の問いかけに教授はため息とともにそう返した。
「愚問ですよ教授。誰であれ、たとえ現国王陛下であっても、俺は亡くなった両親と亡き友、今の家族、恩義のあるフレア公女殿下を愚弄する輩を許すつもりはありません。それに殺してしまったら、それで終わりじゃないですか」
そう言った俺を見て、教授はなぜか再び顔を引き攣らせた。解せぬ。
あの愚かな王子殿下は俺の家が下級貴族であることを理由に俺を嘲笑するだけに留まらず、亡き俺の両親達と友人、今の俺の家族、そして、厄介ごとに巻き込む腐れ縁だが、恩人とも言えるウェルダー公爵令嬢のフレアの名をあげ連ねて罵詈雑言を吐いたのだ。
だから、本人了承の上で、俺は試験官である王子殿下を初級魔術【火弾】並列行使の大弾幕で、そのご自慢の防御の上から、圧倒的に蹂躙した。
1つ1つの威力を抑えて手加減して行使していたのだが、俺が思っていたよりも第二王子が使う王家の秘術【聖光大楯】が雑で汚い術式であった。
加えて、名前負けの標準サイズの魔力楯、更に魔術防御が俺の予想以上にヘボかったため、どこぞのバリアよろしく、パリーンと小気味よい音ともに数秒で見事に割れてしまい、馬鹿王子が瀕死になったのは想定外だった。うん、全く以って想定外だ。
まぁ、おかげで、術式を調整する必要があるけれども、俺は王家の秘術である【聖光大楯】を使えるようになった。当然、誰にもこのことは話していないが、目の前の人の様に気づいている人はいるかもしれないな。
「これまでの君の功績を鑑みれば、君程の人材を王宮魔術師にしないという選択肢はないというのに、あの大馬鹿者共め……ああ、胃が痛い」
教授はそう言って、嘆きながら胃に手を当てた……出会った当初よりも教授の頭髪が薄くなっているのは俺の気の所為だね。その原因の大半は厄介ごとを巻き起こし、ときに巻き込まれたフレアだし。
「いえいえ、僕の功績と言っても、全てフレア公女殿下の行動の尻馬に乗った形で挙げたものばかりじゃないですか。僕個人だけではとてもあんな功績はどうあってもあげられません。僕の様な凡人をフレア公女殿下の様な天才と一緒にしないでください」
そう苦笑とともに俺は返したのだが、
「君ねぇ……君の魔術制御技術は私が知る限り、下手すると王国随一かもしれないのだよ! 私の魔術だけでなく、王立学園のあの忌々しいご老体の放った魔術にも干渉して打ち消せる者が凡才な訳ないだろう!? まして、今の王国の魔術師で、君の様に既存の魔術式を書き換えて使っている者は君を含めて両手で数える程しかいないんだよ!? しかも、全員が君の関係者じゃないか!!」
ヒートアップした教授の様子に俺は閉口せざるをえなかった。
閑話休題、俺は今後の去就を決めなければならない。フレアに引きずられる形で受けた王宮魔術師の道は閉ざされた。通常であれば、再応募も可能だろうけれども、俺が再度志願しても、今回のことを理由に受け付けてすらもらえないことは目に見えている。
教授の伝手で、来年度にこの魔術大学で研究室をもつことも1つの道ではある。しかし、今の大学中枢は入試の準備で忙しいため、現時点では無理だ。いくつかストックしている手札を使って、強引に進めることもできなくはないが、今は手札を切るときではない。
それに、しばらくは継承権最下位に転落したあの腐れ王子殿下がいるこの王都にいたくないから、王都でのアルバイトや仕事に就くことはないな。
実家の子爵領に戻ると、王宮魔術師筆頭殿が嫌がらせをしてきて義父さん達に迷惑がかかるかもしれないから、実家に戻るのはしばらくはなしだ。義父達には手紙で採用試験に落ちたことを伝えよう。
そうだ、フレアに振り回されてきた所為で後回しになっていた国内旅行に出るとしよう。お世話になっているフレアのご両親が治めている南の公爵領は当然訪れる予定は後の方にしてっと……。
「ああ、なにか悪企みしているところ悪いけれど、君に任せたい仕事があるんだ」
夢が膨らむこれからの旅行計画に没頭しようとした俺に教授が不意に声をかけてきた。
「僕でなければ駄目なんですか?」
「うん、ディーハルト・アレスター、君でなければ誰にも解決できないことだと私は思っているから君に頼みたい」
教授は出会ったときの不敵な笑みを浮かべて、俺にそう告げた。
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