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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活
第19章 スタミナはないよりは当然あったほうがいい
しおりを挟むシャルが魔術を使える様になってから俺の授業進行は予定を遅滞なく消化した。
シャルの魔術の技量はこれまで魔術が使えなかったのが信じられないレベルまで上達している。全ての基本属性はもちろん、上位属性も行使できる様になった。その中でもやはりアウロラ家が得意とする水と氷属性を好んで使う傾向があり、次によく使うのは土と地属性。
また、俺が研究開発している植物を使った木属性魔術もいくつかシャル本人の強い要望とナターシャ様の有無を言わせぬ圧力からシャルに教えている。
現状のシャル課題は威力が高いけれども発動後隙が大きい上級魔術に頼りがちになっている点だ。上級魔術に比べて威力は低いけれども発動速度が速い初級魔術や中級魔術との使い分けができれば一人前と言えるだろう。
一方、レティの志望動機の問題も俺が地球世界の生活家電を再現するために開発している生活魔術をレティに教えたら、魔術を人に教えられる様になりたいから入学したいという十分な動機に決まった。
前半の講義で設けていた筆記試験対策の座学も既に筆記試験突破に必要過ぎる学力を2人は身に付けたため、雑学の雑談をそこそこしてから、実技試験対策の体力作りの時間になっている。
俺の見立てでは今の2人の実技試験の試験官はまず間違いなく、学園長だ。
あの学園長がただ魔術撃つだけで終わらせてくれるはずがない。実戦さながらの模擬戦をやらされる。しかも、確実に大人気ない学園長お得意の『無属性貫通魔力弾』を放ってくるだろう。
『無属性貫通魔力弾』は一見すると、ただの無属性の魔力弾なのだが、その実、超高速で回転している魔力弾であるため、着弾点をドリルの様に抉りとる危険物だ。実技試験では学園長がスキル【手加減】を付与するから、当たっても死ぬことはないけれども、下手な所に当たると瀕死。
安直に魔術士の必修魔術である各属性の『障壁』を使っても『障壁』の魔力がどんな属性であっても『無属性貫通魔力弾』の回転に巻き込まれて簡単に穴を開けられてしまうのだ。
更に、学園長は最初はワザと弾速を落として射出してくるが、受験者の目が慣れてきたら一気に速度を上げたものを混ぜてくる。学園長の担当している実技試験は一定時間が経つと、さながら弾幕ゲーの様な様相になってくるから受験者には長時間動き続けられる体力が必要になってくる。
俺とフレアが入試を受けた時の学園長が担当した俺達以外の受験生は典型的な体力のない魔術使だったため、粘った幾人かは合格点に多少色が付いた評価。初弾を回避できずに倒れた者は受験態度やこれまで学園側が集めた日頃の素行の良し悪しの情報で実質的な合否が決まっていた。
『無属性貫通魔力弾』対策は地属性魔術で強固に作った『大地の障壁』を複数設置して対抗することが1つの手だ。ただし、破損させられたらすぐに穴を塞ぐ勢いで使わないと次弾が次々に着弾して無効化される。
『大地の障壁』で防ぎつつ、それ越しで学園長に魔術を撃つ。『大地の障壁』が目隠しになって、こちらの姿は向こうには見えないから、有利なポジションへ移動して攻撃するのが効果的だ。当然ここでも体力が必要になる。
予想通りというか、レティはメイドの仕事をしているだけあって、そこそこ体力はあるのだが、箱入りお嬢様であるシャルは全く体力がなかった。
上級貴族でなまじっか強力な魔術が使えるシャルは将来的に貴族の義務で戦場に行かなければならない時が来る可能性が極めて高い。戦場で体力がなければ行軍の足手まといになるばかりか、そうそうないとは思うが、魔力切れなどで魔術が使えなくなったら、最悪、味方のために切り捨てられて、戦場に置き去りにされかねない。戦場ではなにが起きるかわからないから、たとえ兵士に慕われている貴族であっても、そういうことも頭の片隅に置いておかなければ危険だ。
とはいえ、体力作りはこの世界でもらくなことではない。俺が強制することではないので、本人達の意思を確認した所、2人とも強いやる気を見せたため、筋力トレーニングを開始することになった。
2人の訓練内容は俺が以前受け持った教え子達に実施した訓練メニューを2人に合わせて調整したもので、2人の地獄は始まった。ただ、なぜか興味をもたれたナターシャ様も2人の筋力トレーニングに参加されることになった。
そこで1つの問題が出てきた。この世界には運動着という物がないから、3人分のジャージとハーフパンツを俺の【異世界購買】で用意することになった。結構な出費になったが、セバスチャンさんに相談して経費として落としてもらうことができた。
また、この世界には女性用の下着は色気皆無のカボチャパンツで胸の下着はなかった。上はサラシの様な布を巻くか何もつけないかの2択だった。
今では俺の【異世界購買】で購入された高額のサンプルを基に王都とアレスター子爵領、ウェルダー公爵領では地球世界の女性下着を参考にした模造品が広まっている。
しかし、アウロラ公爵領までには届いていなかったため、俺が【アイテムボックス】に入れさせられているフレアの運動時用と普段使い用2種を手紙のやりとりでメリッサ様の許可得ていたナターシャ様に提出することになり、急遽、ナターシャ様とレティの運動時用の下着がマーサさん達アウロラ公爵家のメイドさんの手によって作られた。
なぜ、こんな話を挟んだかというと、ナターシャ様とレティの何もつけていない豊かな胸部装甲の運動時の超振動が大変、目に毒だったからだ。本人達もかなり痛がっていた。シャル? ノーコメントで……。
地球世界になかった『治癒魔術』は体内の疲労物質を分解して、筋肉の回復を促進することが俺には分かっているけれども、一般には怪我が治る魔術としてしか認識されていない。当然、俺は3人が『治癒魔術』を習得してから筋力トレーニングを開始している。
準備運動や整理運動といった概念もこの世界にはないので、準備体操を充分にしてから訓練開始。内容は実技の講義で頻繁に利用する訓練場を周回するジョギングが中心。
この世界の人体構造は地球世界とほぼ同じなので、トレーニング後の食事も屋敷の料理人達の協力の下、筋トレに適したものになっている。
それらと本人達の努力によって、最初は訓練場を1/4周もできなかったシャルも今では涼しい顔で4周目に入っている。目に見える形で着実に筋力トレーニングの効果が現れている中、いよいよ俺のアウロラ公爵家での家庭教師生活も最終日を迎えることになった。
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