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第五章 ヒノボリの神隠し
満腹堂
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「どうやら、ひと山超えたようだな」
キキョウ様との謁見を終え、皇宮から出てきた僕を見たクロッキアさんは、開口一番にそう言った。
「き、緊張しました・・・・・・ものすごく」
「無理もない。だが、異人として生きるならば避けては通れない部分でもある。まぁ、やるべきことは済ませたのだから、腹ごしらえでもしよう」
と、その言葉を見計らったかのように、お腹が小さく鳴った。
恥ずかしい。そう思うよりも早く、立木さんが笑い声をあげる。
「意外と度胸あるんじゃね、祐介君? 腹減った、程度で済むなら大物だぜ」
「う・・・・・・なんだか、ごめんなさい」
「いやいや、責めてねぇって。むしろその逆だよ。しかしまぁ確かに、そろそろ昼時だしな。早速、都一の食堂に案内してやるよ」
歩き出す立木さんに促され、僕らも牛車を牽きながら都の中心を目指す。
来た道を戻り、再び人の波をかき分けながら辿り着いた先は、大通りに面した一件の宿屋だった。
横に広い入り口の上には、分厚い木の板に力強い文字で「満腹堂」と彫り込まれている。
名前からしても食堂だとばかり思っていたけど、視界の先に映る光景は食堂というよりも、やはり宿屋という感じだ。
「ちょっと待っててな、今話つけてくるからよ」
牛車の置き場とか必要だろ?――そう言いながら店内へと姿を消す立木さん。
僕を含め、ターナ、クロッキアさんの三人は、言われたとおり建物の入り口横で、彼の帰りを待った。
「結構、お客さん入ってますね」
「ああ、繁盛はしているようだな。見る限り、一階の奥部分が食堂になっているらしい」
「え、本当ですか?」
言われ、入り口からにゅっと顔だけ出して店内の様子を伺うと、確かに座敷っぽい所で食事をしている人達の姿があった。
食処と宿屋が併設されているとは、そりゃ繁盛するわけだよ。
考えてもみればホテルにレストランが入っているのと同じだけど、世界が変わるとちょっとした感動を覚えてしまう。
そんな風に、僕が「わぁ、すごい」なんて呑気に店内へ視線を泳がせている時だった。
「なぁにやってんだい!!」
「す、すんませんっしたぁー!」
そんな、罵倒と謝罪の声が聞こえてきたのは。
僕を含めた何人かの注目を集めたその声は、恰幅の良い女性と槍を床に置いて、あまつさえ正座までさせられている男性のものだったようで。
明らかに見覚えのある後ろ姿の男性は、女性の圧倒的な勢いに完敗状態な様子だ。
「異人が二人もいて、あっさりと悪人に出し抜かれてんじゃないよ!」
「ほんと、すんません! いや、ちゃんと警備の強化とかはしてたんですけどね、聞いてくださいよ女将さん・・・・・・」
「なんだい、言い訳かい?」
恰幅の良い女性――女将さん、と呼ばれたその人は、前掛け姿のままに眼前で正座をする男性の頭をがしっと鷲掴みにする。
なんだか、入り口から様子を伺っている僕にも、ミシミシと嫌な音が響いてきそうなほど、その腕には青筋が立っていた。
「あ、ちょ、たんま! たんまですって女将さん!」
「あんた達、ワクナちゃんのお母さんがどんだけ心配したか・・・・・・」
「わ、わか、分かってますって! ちゃんと、落とし前はつけますから! つけますから、頭を握りつぶすのだけはやめてー! さすがに死ぬ! 異人でもそれは死んじゃうからー!」
と、そこで女将さんの視線が僕とぶつかる。
「ん? ・・・・・・おやま」
鬼のような形相から一転、ぱっと普通の顔つきになった女将さんは、思わず・・・・・・なのかどうかは分からないけど、鷲掴みにしていた立木さんの頭部を解放し、こちらを指差す。
「リュウヤくん、あれ、あんたの連れかい?」
「はー、はー・・・・・・っぶねぇ、まじで頭蓋骨の軋む音が聞こえた・・・・・・」
「ほら、聞いてんのかい!」
「わー! 聞いてます! 全部聞いてます!」
再び頭部を掴まれた立木さんが、青い顔でこちらを振り向く。
「そう! それよ、女将さん! 新しいお客さん連れてきたんだって!」
「あらやだよ、リュウヤくん! それならそうとお言いよ! お客さんを待たせちゃ悪いじゃない」
「いや、取り付く島もなく罵倒されたから・・・・・・」
「何か言ったかい?」
「いえ、なにも」
ぎらり、と女将さんに睨まれた立木さんは、青い顔のまま貼り付けたような笑顔を浮かべながら首を横に振った。
気づけば、僕だけではなくターナとクロッキアさんも様子を伺っていたようで、入り口に女将さんがやってくる。
「いらっしゃい! あんた達、リュウヤくんとシュウジくんの知り合いなんだってねぇ?」
打って変わり、女将さんは元気な笑顔でそう話しかけてくれた。
「あぁ、一応は。だが、取り込み中を邪魔するつもりはない。こちらも別段急がない、続けてくれ」
「おいぃっ!?」
クロッキアさんの言葉に、立木さんが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「はっはっはっ! 涼しい顔して言うじゃないか! こりゃまた、いい男とかわいらしいお客さんだよ!」
なんというか、すごく豪快な女将さんだ。
そして、当たり前は当たり前だけど、いい男というのはクロッキアさんのことで、かわいらしいというのは僕とターナだろう。
ま、まぁ・・・・・・この女将さんからすれば、確かに僕はそうだろうなぁ、とは思うけど。
「女将さん、一応紹介するぜ? この少年が、俺らと同じ異人の祐介君だ」
「異人? この大人しそうな男の子がかい?」
「おう。これでも、ついさっきキキョウ様と謁見してきた帰りなんだからな。それと、このかわいこちゃんがその祐介君の付き人のターナちゃん」
紹介され、ターナが「初めまして」と丁寧にお辞儀をする。
「ありゃ、本当にかわいい子だねぇ。こちらこそ初めまして。あたしゃ、オーネって言うんだけど、みんなが女将さんなんて呼ぶもんだからそっちの方が慣れちゃってね。だから、みんなも気軽に女将さんって呼んでおくれよ」
僕とターナが「はい」と返事をすると、立木さんがまだ終わってないとばかりに続けた。
もっとも、クロッキアさん自身はどっちでもいい、といった雰囲気だったけど。
「んで、最後のこっちの剣士がクロッキアさん。俺らの見立てでも、かなりの腕前だぜ」
「あぁ、見りゃ分かるよ」
「ほぅ・・・・・・ご婦人、武芸の心得があるのか?」
クロッキアさんがそう聞くと、女将さんは頬を赤らめながら立木さんの背を思い切り叩いた。
「ぐっ!?」と不意の衝撃に咳き込む彼をよそに、女将さんはこれまた豪快に照れるのだった。
「ご婦人だなんて、生まれて初めて言われたよ! いやだね、優男でもない本物のいい男が弱いはずないじゃないか」
「そ、そうか」
さすがのクロッキアさんも、予想外の返答だったらしい。
若干の戸惑いが口調に表れていた。
「まぁ、軒先で立ち話もなんだい、入っておくれよ。二人の紹介ってことは、宿を探してうちに来たんだろう?」
「そそ。ここなら俺とシュウジが入り浸ってるから、一番安心だしな。女将さん、いいだろ?」
「もちろんだよ! 断る理由なんかないさ」
「ありがたい。牛車の置き場はあるだろうか?」
クロッキアさんが、牛さんの身体をぽんぽんと叩きながら聞く。
「あぁ、あるよ。リュウヤくん、案内してやっておくれよ」
「あいよ。あ、それと女将さん。俺らこの後、飯食うから座敷に通しておいてくれ」
分かったよ、と答えると、僕とターナは女将さんの案内で建物の奥へと案内された。
木造建築のそこは、木の香りが懐かしさを感じさせ、座敷も板張りながらネグロフよりもはるかに馴染みがある。
さすがに畳はないみたいだけど、座布団らしき正方形の敷物が用意されているみたいだ。
「さ、ここでくつろいでおくれ。きっと、もう少しでシュウジくんとワクナちゃんも戻って来るはずだからさ」
「あ、二人はお出かけ中ですか?」
「ワクナちゃんのお母さんのところに行ってるのさ。あの人、ただでさえ闘病してるってのに・・・・・・ワクナちゃんが行方不明になってから、更にやつれてねぇ。そりゃもう、見てられないくらいだったよ」
戻ってきてくれて本当によかったよ、と女将さんは胸をなで下ろしていた。
そんな表情を目にすると、僕らもワクナさんを助けることができて、本当によかったと思わず顔がほころんでしまう。
促された僕らは、靴を脱いで座敷にあがる。
が、そこで、僕はふと振り向くと、ターナが僕を見ながら珍しく驚いた表情を浮かべていた。
「ユウスケ様、ここは靴を脱いであがるものなのですか?」
「え、違うの? 座敷っていうから、僕はてっきりそうだとばかり・・・・・・」
「あぁ、そうだよ、ターナちゃん。東じゃあ一般的なんだけどね、他所から来た旅人なんかは、みんな最初は目をぱちくりさせるもんさ」
女将さんの言葉で分かった。
そっか、ターナはネグロフにいたから座敷の文化がなかったんだ。
というか、ヒノボリに座敷があることも考えてみれば驚きだけど、日本生まれの僕としては何の違和感もない。
説明を受けて理解したターナも、靴を脱いで僕の隣に座る。
「な、なんだか・・・・・・難しいですね」
けど、座敷に慣れていないターナは、当然ながら座布団――と思しき敷物だけど、見た目がまんまなのでそう呼ぶことにする――にも、不慣れなようだ。
足を伸ばして座ればいいのか、正座で座ればいいのか、分からないようだった。
まして、あぐらなんていう発想はないだろう。
「ターナ、正座してみて」
「は、はいっ」
「そうそう。それでね、左右どちらでもいいから、やりやすい方に足をずらしてみて」
「えっと・・・・・・こ、こう・・・・・・でしょうか?」
僕に言われるまま、正座の姿勢から右側に足をずらしていく。
ぎこちない動きながらも、次第にバランスを取ろうとして、自然と足の位置が定まっていくのが分かった。
「どう? 安定した?」
「は、はい。・・・・・・凄いです、ユウスケ様」
「そんな、大袈裟だよ。これね、横座りって言って、元の世界だと女の人がよくする座り方なんだ」
確か、女座り、とも言うんだっけ?
まさか誰かに教える日がくるとは思ってもみなかったけど、役に立ってよかった。
それに、やっぱりターナにはよく似合う座り方だったし。
「ユウスケくん、だっけ? あんた、よく座敷を知ってるみたいだねぇ。東の人間以外は、大抵四苦八苦するもんなんだけど」
「僕も、立木さんや池谷さんと同じ、日本人なんです。日本でも、座敷は珍しくないので」
「そうなのかい!? ってことは、ユウスケくんもダイク様の子孫ってわけかい! そりゃあ、知ってるわけだよ」
ダイク様の子孫・・・・・・そんな伝わり方をしているとは。
とはいえ、日本人の血を引いている、という点で考えれば間違いでもない。
生まれた世界も国も同じなのだから、女将さんからすれば、僕は確かにダイク様の子孫なのだろう。
「そうとなったら、満腹堂としても気合いを入れてもてなさなきゃいけないね」
「あ、そんな・・・・・・贅沢は言わないので・・・・・・」
「なぁに言ってんだい! ダイク様っていやぁ、ヒノボリどころか東の地で知らない人間はいないくらいのお方さ。今じゃあ、ほとんど神様みたいなもんだからね。リュウヤくんやシュウジくんと同じともなれば、それなりのもてなしをしないと、あたしの気がおさまらないってもんさ!」
「は、はぁ・・・・・・」
女将さんのやる気・・・・・・もそうだけど、勢いもすごい。
完全に僕とターナは引いてしまっており、こうしちゃいられない、とばかりに僕らの前から姿を消した女将さんを、ただ呆然と見送ることしかできなかった。
そうこうしている内に、立木さんとクロッキアさんが戻って来、更に少し待つと池谷さんとワクナさんが現れた。
こうして、お昼時を迎える中、タイミング良く全員が揃ったのだった。
「ワクナさん、お母さんどうでしたか?」
気になっていた僕は、真っ先にそう切り出した。
「うん、私が戻ってきたこと、すごく喜んでくれた。まさかヒノボリに戻って来られるなんて、考えてもいなかったから・・・・・・本当に、ありがとう」
「僕もよかったです。これで、少しでも体調が良くなるといいですね」
「きっと、よくなると思うわ。私もお母さんの傍にいてあげられるし、イケタニ様のはからいで、またここで働かせてもらえることになったし」
「え、本当ですか?」
聞き返しながら池谷さんの方を見ると、「お安い御用だ」と親指を立ててみせる。
僕が言うのもなんだけど、さすが異人様。
「とはいえ、俺が提案しなくても女将さんは雇ったと思うけどね。まぁ、ここは違法を許した俺らの不手際の責任ってことで、皇宮付きの異人からの提案とした方が多方面にとって聞こえが良いだろ?」
「文句言う連中もいないし、変な噂も立たないしな。俺らっていうよりも、皇宮の権限が絶大なだけなんだけどな」
曰く、ヒノボリにおいて皇とはただの統治者ではないらしい。
当然、その皇の直接管理下にある皇宮もまた、特別な立場にあり、国軍でさえも容易に反発ができないほどなのだとか。
「内政と軍隊を分ける理屈は理解できるが、この戦時に国軍の立場が弱いとは驚いたな。都を見る限り、そのような様子は見受けられないが」
クロッキアさんが、疑問を口にすると、池谷さんが頷く。
「尤もだ。普通であれば、戦時というのはどうしても軍隊の権限が強くなる。直接犠牲を払うことも影響し、国を統治する側も軽視できないだろうからな。だが、ヒノボリは代々、皇自らが国軍を管理しているんだ」
「・・・・・・へ?」
あ、あの・・・・・・キキョウ様が?
というのは失礼だから言葉にはしないけど、代わりに心中を覗かせるような声がもれてしまう。
「つまり、国軍の頂点、総合指揮権は皇にある。通常の王国であれば、大将や将軍の立場に皇がいる。それが、ヒノボリという国なんだ」
「中央集権制の究極か」
「あぁ。だから、ヒノボリでは皇に逆らえる者は誰一人としていない。俺や隆也も含めてな」
「ま、反旗を翻すつもりもねぇけどさ。一見すると危うい構造だが、元々そんなやつぁ皇になれないよう、うまいことできてるみてぇだぜ。詳しい中身は分からねぇけど」
ヒノボリの異人二人でも分からないならば、外野は想像するだけ無駄というものだろう。
けれども、代々ということは昔っからそうなら、今の今まで国が存続していることが何よりの証拠なのではないだろうか。
途中から、そんなお堅い話をしていると、それを破るように女将さんの声が響き渡った。
「なぁに辛気臭い話してんだい。ここは食堂と宿の店、満腹堂だよ! するなら腹の減る話にしておくれ」
「はは、違いねぇや、女将さん。例のあれ、作ってくれた?」
「もちろんさ! はいよ、ご注文の特別献立おまちどおさまっ」
立木さんの言葉に応えると、女将さんは両手に持っていた皿を並べていく。
立ち上る湯気、食欲をそそるその香りは、とても親しみのあるもの。
ざく切りの野菜に肉、そして芳ばしい色合いの麺。
そう、それはまさしく――。
「焼きそばだ!!」
――なのである。
野菜と肉の詳細は不明であるものの、それは間違いなく、あの「焼きそば」。
ある意味で奇跡のような料理の出現に、僕は完全に興奮状態にあった。
「おや、本当に『焼きそば』なんて言うんだねぇ」
きょとん、とする女将さんに対し、立木さんがにやりと笑う。
「だから言ったろぉ? これはな、俺ら日本人にとっては一種のソウルフードなんだよ。いや、向こうにいる時はそうでもなかったんだけど、この世界だとこんくらいしか再現のしようがねぇしさ」
「あんた達の世界じゃあ、そんなに高級な食べ物なのかい?」
女将さん、ソウルフードの意味を理解していないご様子。
続けて、立木さんが回答をしてくれる。
「いや、逆よ逆。ちょー庶民的な料理。たぶん、食ったことないやつなんていないんじゃないかってくらい。この世界じゃ俺らは異人だけどさ、元の世界じゃあ普通の一般人なんだぜ、俺ら」
「あぁ、なるほどねぇ。あたしゃ、異人様だから大層良いもの食べて育ったんだとばかり思ってたよ」
そう、特別なのは異世界だから。
元の世界では、大衆料理も大衆料理である焼きそば。
けど、今となっては幻級の味そのものである。
「良い香りですね、ユウスケ様」
「うん! 早く食べましょう!」
もう待ちきれない、とばかりに手を合わせる。
「お、いいねぇ。それ、やっぱやっちゃうよなぁ」
「だな。わざわざ忘れるほどのものでもないしな」
そう言い、立木さんと池谷さんも同じように手を合わせる。
そして。
「いただきます」
三者三様の言葉が、食堂に広がるのだった。
「はー、こうして見ると、本当に同じ文化の中で育ったんだって実感するねぇ」
「女将さん、この・・・・・・食事前に手を合わせる行為は、ご存知なのですか?」
フォーク片手に食事を開始する僕の隣で、ターナが女将さんに問う。
「まぁ、知ってるというか、元はダイク様が食事の際には必ずやってたってことで、広まった行為というか仕草なんだよ。なんでも、命を頂くっていう感謝の意味を表してるそうだよ。あたしゃ伝説みたいなもんかと思っていたんだけど、ユウスケ君まで同じことをしているのを見ると、世界は違えど文化を感じるよ」
「確かに、ネグロフでもユウスケ様は必ず食前と食後に手を合わせておりました。それどころか、ユウスケ様だけでなく他の異人様も皆、されていた記憶があります」
「・・・・・・え、一人じゃねぇの?」
――しっかりと食感のある野菜。
――香辛料で下味のついた、薄切りの肉。
――なにより、ソースなんてない世界のはずなのに、意外なほど忠実に再現されているソース味。
きっと、この味の再現には立木さんと池谷さんの協力もあったはず。
でなければ、こうまで高いクオリティで焼きそばを再現できるとは思えない。
そもそも、焼きそばがどんな料理かさえ、この世界の人達には分からないだろうし。
なんて、僕が一心不乱に焼きそばを食べている中、ターナの言葉にヒノボリの異人二人は手を止めていた。
「はい。ネグロフで執り行われた儀式では、二十九人の異人様が召喚されました」
「――に、二十九人!?」
「――ぐっ! ごほっ、ごっほ!」
叫んだのは立木さん。
現在進行形で咳き込んでいるのが、池谷さん。
そして、一応話は聞きながらも、もぐもぐしているのが僕とワクナさんとクロッキアさん。
「ちょ・・・・・・ちょっと待った。何かの間違いじゃねぇのか?」
「いえ、確かでございます。召喚された異人様の人数を間違えるなど、あり得ません」
「まぁ、そりゃ・・・・・・そうだろうけどよ」
ターナの言葉は、尤もであった。
ただ、立木さんが言いたいことはそうではないようだ。
「じゃ、じゃあなんだ。ネグロフでは二十九人も一気に召喚されて、生き残ったのはたった一人だってのか?」
ターナを責めるつもりではないのだろうけど、立木さんの語気は明らかに強まっていた。
「およしよ、リュウヤくん。事情は分からないけど、ターナちゃんのせいじゃないだろう?」
「あ、わりぃ。そういうつもりじゃなかった・・・・・・」
「いえ、お気持ちはご尤もでございます」
視線を落とすターナに代わり、次に口を開いたのはクロッキアさんだった。
「異人は生きている。ネグロフと運命を共にしたわけではない」
「・・・・・・食事の席に相応しくはないが、聞いても構わないか、御仁?」
「あぁ。ユウスケがネグロフを脱したように、他の異人も同様に滅びを免れているはずだ。ただ、少々込み入った事情があってな・・・・・・ユウスケ以外は、現在ルカルディ王国の庇護を受けているだろう」
それを聞き、立木さんと池谷さんの表情から緊張が抜けていく。
「そういうことかぁ。ったく、焦ったぜ」
「あぁ。だが、そういうことならば安心した。・・・・・・しかし、それにしてもとんでもない人数だな」
「あぁ、俺らの時は俺と秀司の二人だったし、二回目の時だって一人だったよな、たしか」
そこで、二人の視線が僕に向けられる。
さすがにこうなると夢中で食べていたとはいえ、一旦手を止めなければならない。
口の中のものを胃へ送り出すと、僕は答えた。
「一クラス丸ごと、召喚されたんです」
半ば予想していた部分もあるのかもしれない。
ヒノボリの異人二人は驚きこそしなかったものの、再び表情を硬くする。
池谷さんが、苦々しく重たい様子で口を開いた。
「なるほど。・・・・・・今になって、事の重みが鮮明になってきたな」
「あぁ。祐介君に会って、ちょっと浮かれてたってのはあったよな」
「そ、そんな、二人とも急にどうしたんですか・・・・・・」
折角の食事なのに、これでは色々と勿体ない。
「高校生だったね、祐介君」
「は・・・・・・はい、そうですけど・・・・・・」
池谷さんは確認するように聞くと、静かに頭を振った。
「若すぎる、あまりにも」
それは、その場の誰もが口を噤む一言だった。
「元の世界では、武術はおろか、争いと呼べるものさえ経験のない年齢だ。それどころか、社会さえよく知らない、本来ならばまだ守られるべき存在だったはず」
「大人だから平気ってわけじゃねぇけど・・・・・・だからって、よりによって学生を召喚するこたぁねぇだろうによ」
「で、でもっ・・・・・・それは、この世界の人だって覚悟の上だって、立木さんも言っていたじゃないですか」
「そりゃな。けどな、大人だって音を上げちまうような環境に放り込まれたって実感、あるか?」
「・・・・・・・・・・・・え」
それは・・・・・・どうだろうか。
僕が言葉を返せないでいると、立木さんは困ったように頭を掻いた。
「クロッキアさん、綺麗事ばっか吹き込んでんじゃねぇのか」
そして、そんな言葉を放ったのだった。
再び、食事の場に緊張が走る。
これには、蚊帳の外だったワクナさんでさえ、食事の手を止めていた。
「どこまで話してるのか知らねぇけどよ・・・・・・祐介君、『この世界』を何も知らないんじゃねぇか?」
「・・・・・・・・・・・・」
クロッキアさんは完全にフォークから手を離し、じっと立木さんを見据えたまま沈黙を保っている。
これが、更に空気を重くさせたと気づくのに、数秒もいらなかった。
「・・・・・・だんまりかよ。あんた、異人の護衛ってことは少なくとも、ただの兵士じゃねぇだろ。祐介君は、納得した上で異人として旅をしているんじゃねぇのか?」
「た、たつ――」
「――わりぃな。けど、後回しにはできねぇんだ」
割り込もうとした僕の言葉は、あっさりと迎撃されてしまった。
というか、相手にされていない。
僕がどうこうではなく、クロッキアさん自身に矛先が向いているのだ。
こうなると、僕自身が割って入るスペースさえない状態だった。
加えて、あの女将さんでさえ、困った様子は見せているものの、どうすることもできない様子。
もはや、事の推移を見守る他なかった。
「もう一度聞くぜ、クロッキアさん。祐介君は、『この世界』をどこまで知ってるんだ?」
「・・・・・・」
「御仁、間違っても事を荒立てようとしているのではない。だが、貴方はこの世界の住人だ。我々を利用し、人類を救いたいと考えても、何ら不思議はない。・・・・・・そして、彼はまだ幼い。社会も世間も知らない、子供だ」
「信頼さえ勝ち取っちまえば、利用することなんざ容易いぜ。それこそ、朝飯前だろ」
「・・・・・・・・・・・・」
クロッキアさんは、まだ沈黙を守っている。
視線こそ外さないが、口を開く様子もない。
食器の音さえ躊躇してしまうような、場違いな緊張と静寂。
「言っておくぜ。祐介君は、あんたの仲間である前に、俺らの世界の人間だ。同じ世界、同じ国に生まれた命なんだ。・・・・・・それを使って、世界を救おうとしているって・・・・・・あんた、分かってんのか?」
池谷さんは冷静な表情を崩さないが、立木さんは違った。
徐々に、ではあるが、確実に怒りが沸いてきている。
僕は正直、そこまで怒りを覚える理由が見当たらないのだが、なんとなくでも伝わってくるものはある。
要は、僕をいいように利用しているのではないか、とクロッキアさんを疑っているのだ。
ターナに矛先が向かないのは、僕らの引率役がクロッキアさんだからだろう。
「――おい、なんとか言ったらどうだよ!」
「ちょ、ちょっとリュウヤくん! 落ち着きなさいよ!」
クロッキアさんの沈黙を否定的に受け止めたのか、立木さんが身を乗り出しながら声を張り上げた。
それを、女将さんが言葉で宥め、池谷さんが物理的に肩を抑えつけて制している。
まさに、一触即発といった雰囲気だ。
そこで、ようやくクロッキアさんがその沈黙を破るように、静かに口を開いた。
「全てを話してはいない」
シンプルな一言だった。
嘘偽りさえ盛り込むスペースもない、簡素な言葉。
故に、それがはっきりとした答えだと判断するにも、大した時間は要さなかった。
そして、意外にもそれに問いを発したのは、立木さんではなく池谷さんだった。
「なぜ、全てを話さないのか。隠したところで、いずれは分かること。異人として生きる以上、それこそ避けては通れないだろうことは、考えるまでもないだろう。正直、俺は貴方を信用している。言動、立ち振る舞いから見ても、私利私欲で他者を利用する類いの人間ではない。それは、隆也も同じだ」
「だからこそ、都合良く扱われているならば許せない」――そう、思っているが故の怒りだ、と池谷さんは言う。
「では、逆に聞こう。全てを話し、どうなるという?」
「・・・・・・なんだと?」
「落ち着け、隆也。お前もお前で、頭に血が上りすぎだ」
続けて欲しい、と池谷さんが目配せでクロッキアさんを促す。
「彼は・・・・・・ユウスケは、心優しい。通常、心には殻がある。そうすることで、人は傷や痛みを紛らわせる。悲哀や絶望も、殻に閉じこもってしまえば耐え凌げる。だが実際は違う。耐え凌げるのではない・・・・・・そうでもしなければ、壊れてしまうからだ」
「それで?」
「ユウスケは、この心の殻が他人よりも薄いと感じる。・・・・・・あまりにそのまま、事物を受け止めてしまう。この世界で、誰かの死に涙することは容易いことではない。死が近すぎるがゆえに、一度悲しみに暮れたら最後、立ち直れなくなるかもしれない。そんな恐れが、人々にはある」
だが、ユウスケは違う、とクロッキアさんは僕を見た。
「彼は・・・・・・失われた全てに対して顔を伏せた。悲しいと。残念だと。例えそれが、一度は自らに刃を向けた相手であってもだ」
そして、再度、ヒノボリの異人らを真っ直ぐに見据えた。
「私は、彼の慈悲を知っている」
「・・・・・・・・・・・・」
「だからこそ、私は彼とターナを守ると誓った」
そこまで聞くと、立木さんも少し怒りがおさまってきたのかもしれない。
幾分落ち着きを取り戻した中で、再び池谷さんが言葉を投げる。
「祐介君に、全てを話さないことが『守る』ことだと?」
クロッキアさんは、首を横に振った。
「それは、世界が教えることだ。私が語るべきものではない。・・・・・・世界を知る、とはそういうことではないのか?」
どれほど言葉にしようと、全ては伝わらない。
第三者を通したところで、本当の意味で僕が知るべき内容は伝わらない。
クロッキアさんは、そう言った。
「だから、私は彼に旅を提案した。世界を救うためには、世界を知る必要があると――――」
「――――未来を切り拓くには、未来を捉える必要がある、ですよね」
視線が、僕に集中する。
ちゃんと覚えている。クロッキアさんの言葉。
その続きを口にし、僕は更に言葉を紡いだ。
「立木さん、池谷さん。・・・・・・ありがとうございます。僕のこと、心配してくれて。でも、クロッキアさんはちゃんと話してくれました。もちろん、全部じゃないかもしれないけど・・・・・・でも、ちゃんと・・・・・・現実の残酷さは、伝わってます」
何もできなかった。
いや、何かできた試しなんてない。
僕はただ、あの白色の滅びを見ているしかできなかった。
「ネグロフがなくなっちゃった時・・・・・・たくさんの人も、亡くなりました。僕、何もできなかった。生き延びることさえ、自分一人じゃ満足にできなかった。僕のために死んでいった人達もいました」
自然と、頬を伝うものがあった。
「今は、何も知らない子供と同じです。それは、僕も分かっています。でも、そんな僕でも・・・・・・消えないまま、残っているんです。誰かに守られて生き延びたことも、僕を守って死んでしまった誰かのことも、その人達にお墓さえ作ってあげられなかった、自分の無力さも」
痛いくらい、覚えている。
消えるはずがない。
忘れるはずがないのだ。
それは、たった一瞬だったかもしれない。
立木さんや池谷さんからすれば、僅かな悲劇でしかないのかもしれない。
けれども、思い出せば――。
「僕は――――」
「もういい」
――――こんなにも胸を抉るくらい、深く残っている。
だから止められても懸命に動こうとする口を、堪えきれないというように、誰かが抱き寄せた。
「ユウスケ様、もうよいのです」
ターナだった。
ターナが、僕の顔を胸元に抱き寄せ、服の袖で涙を拭ってくれる。
その白くて細い手もまた、僅かに震えていた。
「もう、いい。ユウスケ、君がこれ以上、責任を感じる必要はない」
「でも、僕は、」
「いいんだ。君は生き延びた。他の異人も生き延びた。それだけで、十分に責務は全うしている。それ以外は、君が背負うべきものではない」
クロッキアさんはそう言うと、僅かに低い声で続けた。
「ユウスケとターナは、一国の滅びをその目で見た。・・・・・・数え切れないほどの屍の上に、自分達の命が成り立っていることを、この二人は誰よりも強く自覚している。これは、武を収めた我々では知ることのない地獄だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「守る側ではなく、守られる側として死を受け止めることは、想像を絶する。我々は武で己を支えることができる。だが、ユウスケやターナは己の心で耐えるしかない。剣も盾も、鎧さえない心に、自責という刃を突き立てられる苦しみと、必死に戦っているのだ。・・・・・・異人殿、これ以上、この若者達にまだ苦難を強いろと言うのか」
クロッキアさんの言葉に、続く反論はなかった。
滲んだ視界でうまく見えないけど、立木さんも池谷さんも、今は視線を落としているようだ。
少しでも、僕の言葉が伝わったならいいのだけど。
僕のせいで、クロッキアさんがこれ以上責められるのは辛いから。
「・・・・・・すまない。御仁を疑った、こちらの失態だ」
池谷さんはそう言い、僕らに頭を下げた。
同時に、「ごめん。俺も、つい」と立木さんも同じように頭を下げる。
それを、クロッキアさんは落ち着いた口調で返した。
「謝罪は必要ない。それほどまでに、貴方がたもユウスケのことが大切だったのだろう。異人としてではなく、同じ世界、同じ国の者として。ならばお互い、埋めるべき溝を埋めた。そういうことで、十分だろう」
「参ったな。・・・・・・どうやら、人の器としては御仁には敵いそうもないようだ」
そこでようやく、「それはどうだろうか」とクロッキアさんから笑いがもれた。
つられるように、池谷さん、立木さんも順々に、ぎこちないながらも笑みを浮かべた。
よかった。なんとか誤解は解けたみたいで。
と、ほっとしたのも束の間――――。
「笑ってんじゃないよ! この人騒がせ!」
――――女将さんの怒声と共に、ヒノボリの異人へげんこつが落ちた。
ごちん、なんて音はしないけど、綺麗に真上から貫くような一撃は見事なもの。
その証拠に、二人とも座敷の上で脳天をおさえながらもんどり打っている。
「ユウスケくんどころか、女の子まで泣かせて! どうなってんだい、あんた達!」
言われて見回すと、ターナも・・・・・・ワクナさんまで、何故か泣いていた。
まぁ、僕が真っ先に涙を流してしまったから、他人にとやかくは言えないけど。
「ご、ごめん・・・・・・女将さん。あと、すげー・・・・・・いたい」
絶え絶えな声音で、立木さんが女将さんに謝る。
しかしながら、これではいそうですか、とはいかないだろう。
そして、やはりその通りになった。
「当たり前だよ! まったく、せっかく作った焼きそばも冷えちまったじゃないか。もう一回作るから、今度は食べることに集中しな! いいね!?」
言いながら、二人の弱々しい返答を聞くよりも早く、女将さんは厨房へと姿を消してしまった。
後に残された僕らは、お互い顔を見合わせながらも、少しだけ笑い合う。
「ターナ、全然減ってないね」
「はい。なんだか、食べる機会を見失ってしまいまして・・・・・・」
結局、完食できていた人は誰もいなかったようだ。
「ワクナさんもごめんなさい。なんだか、泣いちゃったみたいで」
「ううん、いいの。その・・・・・・まさか、そんな辛い経験してヒノボリにやってきたとは知らなくて・・・・・・」
あぁ、そっか。
ネグロフが滅亡したっていうのは、関所でちょろっと話に出たくらいだから、僕らが当事者とは思わなかったのかな。
なんだか、ワクナさんまで悲しい気持ちにさせてしまったみたいで、申し訳ないなぁ。
「まぁ、仕切り直しとしては丁度いいだろう」
「そうですね。・・・・・・あ、そうだ。食事の後は、都を少し見て回りたいです」
「調達したい物資もあるからな、私も異論はない。幸い、ヒノボリをよく知る人間が三人もいるしな」
「お、おう・・・・・・案内は、まかせとけぇ・・・・・・」
余程加減がなかったのか、未だ座敷で悶える立木さんから声だけが届いてくる。
ワクナさんも、「服とか日用品なら良いところ知ってるわ」と賛成してくれた。
こうして、再びヒノボリでの昼食が続くのであった。
キキョウ様との謁見を終え、皇宮から出てきた僕を見たクロッキアさんは、開口一番にそう言った。
「き、緊張しました・・・・・・ものすごく」
「無理もない。だが、異人として生きるならば避けては通れない部分でもある。まぁ、やるべきことは済ませたのだから、腹ごしらえでもしよう」
と、その言葉を見計らったかのように、お腹が小さく鳴った。
恥ずかしい。そう思うよりも早く、立木さんが笑い声をあげる。
「意外と度胸あるんじゃね、祐介君? 腹減った、程度で済むなら大物だぜ」
「う・・・・・・なんだか、ごめんなさい」
「いやいや、責めてねぇって。むしろその逆だよ。しかしまぁ確かに、そろそろ昼時だしな。早速、都一の食堂に案内してやるよ」
歩き出す立木さんに促され、僕らも牛車を牽きながら都の中心を目指す。
来た道を戻り、再び人の波をかき分けながら辿り着いた先は、大通りに面した一件の宿屋だった。
横に広い入り口の上には、分厚い木の板に力強い文字で「満腹堂」と彫り込まれている。
名前からしても食堂だとばかり思っていたけど、視界の先に映る光景は食堂というよりも、やはり宿屋という感じだ。
「ちょっと待っててな、今話つけてくるからよ」
牛車の置き場とか必要だろ?――そう言いながら店内へと姿を消す立木さん。
僕を含め、ターナ、クロッキアさんの三人は、言われたとおり建物の入り口横で、彼の帰りを待った。
「結構、お客さん入ってますね」
「ああ、繁盛はしているようだな。見る限り、一階の奥部分が食堂になっているらしい」
「え、本当ですか?」
言われ、入り口からにゅっと顔だけ出して店内の様子を伺うと、確かに座敷っぽい所で食事をしている人達の姿があった。
食処と宿屋が併設されているとは、そりゃ繁盛するわけだよ。
考えてもみればホテルにレストランが入っているのと同じだけど、世界が変わるとちょっとした感動を覚えてしまう。
そんな風に、僕が「わぁ、すごい」なんて呑気に店内へ視線を泳がせている時だった。
「なぁにやってんだい!!」
「す、すんませんっしたぁー!」
そんな、罵倒と謝罪の声が聞こえてきたのは。
僕を含めた何人かの注目を集めたその声は、恰幅の良い女性と槍を床に置いて、あまつさえ正座までさせられている男性のものだったようで。
明らかに見覚えのある後ろ姿の男性は、女性の圧倒的な勢いに完敗状態な様子だ。
「異人が二人もいて、あっさりと悪人に出し抜かれてんじゃないよ!」
「ほんと、すんません! いや、ちゃんと警備の強化とかはしてたんですけどね、聞いてくださいよ女将さん・・・・・・」
「なんだい、言い訳かい?」
恰幅の良い女性――女将さん、と呼ばれたその人は、前掛け姿のままに眼前で正座をする男性の頭をがしっと鷲掴みにする。
なんだか、入り口から様子を伺っている僕にも、ミシミシと嫌な音が響いてきそうなほど、その腕には青筋が立っていた。
「あ、ちょ、たんま! たんまですって女将さん!」
「あんた達、ワクナちゃんのお母さんがどんだけ心配したか・・・・・・」
「わ、わか、分かってますって! ちゃんと、落とし前はつけますから! つけますから、頭を握りつぶすのだけはやめてー! さすがに死ぬ! 異人でもそれは死んじゃうからー!」
と、そこで女将さんの視線が僕とぶつかる。
「ん? ・・・・・・おやま」
鬼のような形相から一転、ぱっと普通の顔つきになった女将さんは、思わず・・・・・・なのかどうかは分からないけど、鷲掴みにしていた立木さんの頭部を解放し、こちらを指差す。
「リュウヤくん、あれ、あんたの連れかい?」
「はー、はー・・・・・・っぶねぇ、まじで頭蓋骨の軋む音が聞こえた・・・・・・」
「ほら、聞いてんのかい!」
「わー! 聞いてます! 全部聞いてます!」
再び頭部を掴まれた立木さんが、青い顔でこちらを振り向く。
「そう! それよ、女将さん! 新しいお客さん連れてきたんだって!」
「あらやだよ、リュウヤくん! それならそうとお言いよ! お客さんを待たせちゃ悪いじゃない」
「いや、取り付く島もなく罵倒されたから・・・・・・」
「何か言ったかい?」
「いえ、なにも」
ぎらり、と女将さんに睨まれた立木さんは、青い顔のまま貼り付けたような笑顔を浮かべながら首を横に振った。
気づけば、僕だけではなくターナとクロッキアさんも様子を伺っていたようで、入り口に女将さんがやってくる。
「いらっしゃい! あんた達、リュウヤくんとシュウジくんの知り合いなんだってねぇ?」
打って変わり、女将さんは元気な笑顔でそう話しかけてくれた。
「あぁ、一応は。だが、取り込み中を邪魔するつもりはない。こちらも別段急がない、続けてくれ」
「おいぃっ!?」
クロッキアさんの言葉に、立木さんが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「はっはっはっ! 涼しい顔して言うじゃないか! こりゃまた、いい男とかわいらしいお客さんだよ!」
なんというか、すごく豪快な女将さんだ。
そして、当たり前は当たり前だけど、いい男というのはクロッキアさんのことで、かわいらしいというのは僕とターナだろう。
ま、まぁ・・・・・・この女将さんからすれば、確かに僕はそうだろうなぁ、とは思うけど。
「女将さん、一応紹介するぜ? この少年が、俺らと同じ異人の祐介君だ」
「異人? この大人しそうな男の子がかい?」
「おう。これでも、ついさっきキキョウ様と謁見してきた帰りなんだからな。それと、このかわいこちゃんがその祐介君の付き人のターナちゃん」
紹介され、ターナが「初めまして」と丁寧にお辞儀をする。
「ありゃ、本当にかわいい子だねぇ。こちらこそ初めまして。あたしゃ、オーネって言うんだけど、みんなが女将さんなんて呼ぶもんだからそっちの方が慣れちゃってね。だから、みんなも気軽に女将さんって呼んでおくれよ」
僕とターナが「はい」と返事をすると、立木さんがまだ終わってないとばかりに続けた。
もっとも、クロッキアさん自身はどっちでもいい、といった雰囲気だったけど。
「んで、最後のこっちの剣士がクロッキアさん。俺らの見立てでも、かなりの腕前だぜ」
「あぁ、見りゃ分かるよ」
「ほぅ・・・・・・ご婦人、武芸の心得があるのか?」
クロッキアさんがそう聞くと、女将さんは頬を赤らめながら立木さんの背を思い切り叩いた。
「ぐっ!?」と不意の衝撃に咳き込む彼をよそに、女将さんはこれまた豪快に照れるのだった。
「ご婦人だなんて、生まれて初めて言われたよ! いやだね、優男でもない本物のいい男が弱いはずないじゃないか」
「そ、そうか」
さすがのクロッキアさんも、予想外の返答だったらしい。
若干の戸惑いが口調に表れていた。
「まぁ、軒先で立ち話もなんだい、入っておくれよ。二人の紹介ってことは、宿を探してうちに来たんだろう?」
「そそ。ここなら俺とシュウジが入り浸ってるから、一番安心だしな。女将さん、いいだろ?」
「もちろんだよ! 断る理由なんかないさ」
「ありがたい。牛車の置き場はあるだろうか?」
クロッキアさんが、牛さんの身体をぽんぽんと叩きながら聞く。
「あぁ、あるよ。リュウヤくん、案内してやっておくれよ」
「あいよ。あ、それと女将さん。俺らこの後、飯食うから座敷に通しておいてくれ」
分かったよ、と答えると、僕とターナは女将さんの案内で建物の奥へと案内された。
木造建築のそこは、木の香りが懐かしさを感じさせ、座敷も板張りながらネグロフよりもはるかに馴染みがある。
さすがに畳はないみたいだけど、座布団らしき正方形の敷物が用意されているみたいだ。
「さ、ここでくつろいでおくれ。きっと、もう少しでシュウジくんとワクナちゃんも戻って来るはずだからさ」
「あ、二人はお出かけ中ですか?」
「ワクナちゃんのお母さんのところに行ってるのさ。あの人、ただでさえ闘病してるってのに・・・・・・ワクナちゃんが行方不明になってから、更にやつれてねぇ。そりゃもう、見てられないくらいだったよ」
戻ってきてくれて本当によかったよ、と女将さんは胸をなで下ろしていた。
そんな表情を目にすると、僕らもワクナさんを助けることができて、本当によかったと思わず顔がほころんでしまう。
促された僕らは、靴を脱いで座敷にあがる。
が、そこで、僕はふと振り向くと、ターナが僕を見ながら珍しく驚いた表情を浮かべていた。
「ユウスケ様、ここは靴を脱いであがるものなのですか?」
「え、違うの? 座敷っていうから、僕はてっきりそうだとばかり・・・・・・」
「あぁ、そうだよ、ターナちゃん。東じゃあ一般的なんだけどね、他所から来た旅人なんかは、みんな最初は目をぱちくりさせるもんさ」
女将さんの言葉で分かった。
そっか、ターナはネグロフにいたから座敷の文化がなかったんだ。
というか、ヒノボリに座敷があることも考えてみれば驚きだけど、日本生まれの僕としては何の違和感もない。
説明を受けて理解したターナも、靴を脱いで僕の隣に座る。
「な、なんだか・・・・・・難しいですね」
けど、座敷に慣れていないターナは、当然ながら座布団――と思しき敷物だけど、見た目がまんまなのでそう呼ぶことにする――にも、不慣れなようだ。
足を伸ばして座ればいいのか、正座で座ればいいのか、分からないようだった。
まして、あぐらなんていう発想はないだろう。
「ターナ、正座してみて」
「は、はいっ」
「そうそう。それでね、左右どちらでもいいから、やりやすい方に足をずらしてみて」
「えっと・・・・・・こ、こう・・・・・・でしょうか?」
僕に言われるまま、正座の姿勢から右側に足をずらしていく。
ぎこちない動きながらも、次第にバランスを取ろうとして、自然と足の位置が定まっていくのが分かった。
「どう? 安定した?」
「は、はい。・・・・・・凄いです、ユウスケ様」
「そんな、大袈裟だよ。これね、横座りって言って、元の世界だと女の人がよくする座り方なんだ」
確か、女座り、とも言うんだっけ?
まさか誰かに教える日がくるとは思ってもみなかったけど、役に立ってよかった。
それに、やっぱりターナにはよく似合う座り方だったし。
「ユウスケくん、だっけ? あんた、よく座敷を知ってるみたいだねぇ。東の人間以外は、大抵四苦八苦するもんなんだけど」
「僕も、立木さんや池谷さんと同じ、日本人なんです。日本でも、座敷は珍しくないので」
「そうなのかい!? ってことは、ユウスケくんもダイク様の子孫ってわけかい! そりゃあ、知ってるわけだよ」
ダイク様の子孫・・・・・・そんな伝わり方をしているとは。
とはいえ、日本人の血を引いている、という点で考えれば間違いでもない。
生まれた世界も国も同じなのだから、女将さんからすれば、僕は確かにダイク様の子孫なのだろう。
「そうとなったら、満腹堂としても気合いを入れてもてなさなきゃいけないね」
「あ、そんな・・・・・・贅沢は言わないので・・・・・・」
「なぁに言ってんだい! ダイク様っていやぁ、ヒノボリどころか東の地で知らない人間はいないくらいのお方さ。今じゃあ、ほとんど神様みたいなもんだからね。リュウヤくんやシュウジくんと同じともなれば、それなりのもてなしをしないと、あたしの気がおさまらないってもんさ!」
「は、はぁ・・・・・・」
女将さんのやる気・・・・・・もそうだけど、勢いもすごい。
完全に僕とターナは引いてしまっており、こうしちゃいられない、とばかりに僕らの前から姿を消した女将さんを、ただ呆然と見送ることしかできなかった。
そうこうしている内に、立木さんとクロッキアさんが戻って来、更に少し待つと池谷さんとワクナさんが現れた。
こうして、お昼時を迎える中、タイミング良く全員が揃ったのだった。
「ワクナさん、お母さんどうでしたか?」
気になっていた僕は、真っ先にそう切り出した。
「うん、私が戻ってきたこと、すごく喜んでくれた。まさかヒノボリに戻って来られるなんて、考えてもいなかったから・・・・・・本当に、ありがとう」
「僕もよかったです。これで、少しでも体調が良くなるといいですね」
「きっと、よくなると思うわ。私もお母さんの傍にいてあげられるし、イケタニ様のはからいで、またここで働かせてもらえることになったし」
「え、本当ですか?」
聞き返しながら池谷さんの方を見ると、「お安い御用だ」と親指を立ててみせる。
僕が言うのもなんだけど、さすが異人様。
「とはいえ、俺が提案しなくても女将さんは雇ったと思うけどね。まぁ、ここは違法を許した俺らの不手際の責任ってことで、皇宮付きの異人からの提案とした方が多方面にとって聞こえが良いだろ?」
「文句言う連中もいないし、変な噂も立たないしな。俺らっていうよりも、皇宮の権限が絶大なだけなんだけどな」
曰く、ヒノボリにおいて皇とはただの統治者ではないらしい。
当然、その皇の直接管理下にある皇宮もまた、特別な立場にあり、国軍でさえも容易に反発ができないほどなのだとか。
「内政と軍隊を分ける理屈は理解できるが、この戦時に国軍の立場が弱いとは驚いたな。都を見る限り、そのような様子は見受けられないが」
クロッキアさんが、疑問を口にすると、池谷さんが頷く。
「尤もだ。普通であれば、戦時というのはどうしても軍隊の権限が強くなる。直接犠牲を払うことも影響し、国を統治する側も軽視できないだろうからな。だが、ヒノボリは代々、皇自らが国軍を管理しているんだ」
「・・・・・・へ?」
あ、あの・・・・・・キキョウ様が?
というのは失礼だから言葉にはしないけど、代わりに心中を覗かせるような声がもれてしまう。
「つまり、国軍の頂点、総合指揮権は皇にある。通常の王国であれば、大将や将軍の立場に皇がいる。それが、ヒノボリという国なんだ」
「中央集権制の究極か」
「あぁ。だから、ヒノボリでは皇に逆らえる者は誰一人としていない。俺や隆也も含めてな」
「ま、反旗を翻すつもりもねぇけどさ。一見すると危うい構造だが、元々そんなやつぁ皇になれないよう、うまいことできてるみてぇだぜ。詳しい中身は分からねぇけど」
ヒノボリの異人二人でも分からないならば、外野は想像するだけ無駄というものだろう。
けれども、代々ということは昔っからそうなら、今の今まで国が存続していることが何よりの証拠なのではないだろうか。
途中から、そんなお堅い話をしていると、それを破るように女将さんの声が響き渡った。
「なぁに辛気臭い話してんだい。ここは食堂と宿の店、満腹堂だよ! するなら腹の減る話にしておくれ」
「はは、違いねぇや、女将さん。例のあれ、作ってくれた?」
「もちろんさ! はいよ、ご注文の特別献立おまちどおさまっ」
立木さんの言葉に応えると、女将さんは両手に持っていた皿を並べていく。
立ち上る湯気、食欲をそそるその香りは、とても親しみのあるもの。
ざく切りの野菜に肉、そして芳ばしい色合いの麺。
そう、それはまさしく――。
「焼きそばだ!!」
――なのである。
野菜と肉の詳細は不明であるものの、それは間違いなく、あの「焼きそば」。
ある意味で奇跡のような料理の出現に、僕は完全に興奮状態にあった。
「おや、本当に『焼きそば』なんて言うんだねぇ」
きょとん、とする女将さんに対し、立木さんがにやりと笑う。
「だから言ったろぉ? これはな、俺ら日本人にとっては一種のソウルフードなんだよ。いや、向こうにいる時はそうでもなかったんだけど、この世界だとこんくらいしか再現のしようがねぇしさ」
「あんた達の世界じゃあ、そんなに高級な食べ物なのかい?」
女将さん、ソウルフードの意味を理解していないご様子。
続けて、立木さんが回答をしてくれる。
「いや、逆よ逆。ちょー庶民的な料理。たぶん、食ったことないやつなんていないんじゃないかってくらい。この世界じゃ俺らは異人だけどさ、元の世界じゃあ普通の一般人なんだぜ、俺ら」
「あぁ、なるほどねぇ。あたしゃ、異人様だから大層良いもの食べて育ったんだとばかり思ってたよ」
そう、特別なのは異世界だから。
元の世界では、大衆料理も大衆料理である焼きそば。
けど、今となっては幻級の味そのものである。
「良い香りですね、ユウスケ様」
「うん! 早く食べましょう!」
もう待ちきれない、とばかりに手を合わせる。
「お、いいねぇ。それ、やっぱやっちゃうよなぁ」
「だな。わざわざ忘れるほどのものでもないしな」
そう言い、立木さんと池谷さんも同じように手を合わせる。
そして。
「いただきます」
三者三様の言葉が、食堂に広がるのだった。
「はー、こうして見ると、本当に同じ文化の中で育ったんだって実感するねぇ」
「女将さん、この・・・・・・食事前に手を合わせる行為は、ご存知なのですか?」
フォーク片手に食事を開始する僕の隣で、ターナが女将さんに問う。
「まぁ、知ってるというか、元はダイク様が食事の際には必ずやってたってことで、広まった行為というか仕草なんだよ。なんでも、命を頂くっていう感謝の意味を表してるそうだよ。あたしゃ伝説みたいなもんかと思っていたんだけど、ユウスケ君まで同じことをしているのを見ると、世界は違えど文化を感じるよ」
「確かに、ネグロフでもユウスケ様は必ず食前と食後に手を合わせておりました。それどころか、ユウスケ様だけでなく他の異人様も皆、されていた記憶があります」
「・・・・・・え、一人じゃねぇの?」
――しっかりと食感のある野菜。
――香辛料で下味のついた、薄切りの肉。
――なにより、ソースなんてない世界のはずなのに、意外なほど忠実に再現されているソース味。
きっと、この味の再現には立木さんと池谷さんの協力もあったはず。
でなければ、こうまで高いクオリティで焼きそばを再現できるとは思えない。
そもそも、焼きそばがどんな料理かさえ、この世界の人達には分からないだろうし。
なんて、僕が一心不乱に焼きそばを食べている中、ターナの言葉にヒノボリの異人二人は手を止めていた。
「はい。ネグロフで執り行われた儀式では、二十九人の異人様が召喚されました」
「――に、二十九人!?」
「――ぐっ! ごほっ、ごっほ!」
叫んだのは立木さん。
現在進行形で咳き込んでいるのが、池谷さん。
そして、一応話は聞きながらも、もぐもぐしているのが僕とワクナさんとクロッキアさん。
「ちょ・・・・・・ちょっと待った。何かの間違いじゃねぇのか?」
「いえ、確かでございます。召喚された異人様の人数を間違えるなど、あり得ません」
「まぁ、そりゃ・・・・・・そうだろうけどよ」
ターナの言葉は、尤もであった。
ただ、立木さんが言いたいことはそうではないようだ。
「じゃ、じゃあなんだ。ネグロフでは二十九人も一気に召喚されて、生き残ったのはたった一人だってのか?」
ターナを責めるつもりではないのだろうけど、立木さんの語気は明らかに強まっていた。
「およしよ、リュウヤくん。事情は分からないけど、ターナちゃんのせいじゃないだろう?」
「あ、わりぃ。そういうつもりじゃなかった・・・・・・」
「いえ、お気持ちはご尤もでございます」
視線を落とすターナに代わり、次に口を開いたのはクロッキアさんだった。
「異人は生きている。ネグロフと運命を共にしたわけではない」
「・・・・・・食事の席に相応しくはないが、聞いても構わないか、御仁?」
「あぁ。ユウスケがネグロフを脱したように、他の異人も同様に滅びを免れているはずだ。ただ、少々込み入った事情があってな・・・・・・ユウスケ以外は、現在ルカルディ王国の庇護を受けているだろう」
それを聞き、立木さんと池谷さんの表情から緊張が抜けていく。
「そういうことかぁ。ったく、焦ったぜ」
「あぁ。だが、そういうことならば安心した。・・・・・・しかし、それにしてもとんでもない人数だな」
「あぁ、俺らの時は俺と秀司の二人だったし、二回目の時だって一人だったよな、たしか」
そこで、二人の視線が僕に向けられる。
さすがにこうなると夢中で食べていたとはいえ、一旦手を止めなければならない。
口の中のものを胃へ送り出すと、僕は答えた。
「一クラス丸ごと、召喚されたんです」
半ば予想していた部分もあるのかもしれない。
ヒノボリの異人二人は驚きこそしなかったものの、再び表情を硬くする。
池谷さんが、苦々しく重たい様子で口を開いた。
「なるほど。・・・・・・今になって、事の重みが鮮明になってきたな」
「あぁ。祐介君に会って、ちょっと浮かれてたってのはあったよな」
「そ、そんな、二人とも急にどうしたんですか・・・・・・」
折角の食事なのに、これでは色々と勿体ない。
「高校生だったね、祐介君」
「は・・・・・・はい、そうですけど・・・・・・」
池谷さんは確認するように聞くと、静かに頭を振った。
「若すぎる、あまりにも」
それは、その場の誰もが口を噤む一言だった。
「元の世界では、武術はおろか、争いと呼べるものさえ経験のない年齢だ。それどころか、社会さえよく知らない、本来ならばまだ守られるべき存在だったはず」
「大人だから平気ってわけじゃねぇけど・・・・・・だからって、よりによって学生を召喚するこたぁねぇだろうによ」
「で、でもっ・・・・・・それは、この世界の人だって覚悟の上だって、立木さんも言っていたじゃないですか」
「そりゃな。けどな、大人だって音を上げちまうような環境に放り込まれたって実感、あるか?」
「・・・・・・・・・・・・え」
それは・・・・・・どうだろうか。
僕が言葉を返せないでいると、立木さんは困ったように頭を掻いた。
「クロッキアさん、綺麗事ばっか吹き込んでんじゃねぇのか」
そして、そんな言葉を放ったのだった。
再び、食事の場に緊張が走る。
これには、蚊帳の外だったワクナさんでさえ、食事の手を止めていた。
「どこまで話してるのか知らねぇけどよ・・・・・・祐介君、『この世界』を何も知らないんじゃねぇか?」
「・・・・・・・・・・・・」
クロッキアさんは完全にフォークから手を離し、じっと立木さんを見据えたまま沈黙を保っている。
これが、更に空気を重くさせたと気づくのに、数秒もいらなかった。
「・・・・・・だんまりかよ。あんた、異人の護衛ってことは少なくとも、ただの兵士じゃねぇだろ。祐介君は、納得した上で異人として旅をしているんじゃねぇのか?」
「た、たつ――」
「――わりぃな。けど、後回しにはできねぇんだ」
割り込もうとした僕の言葉は、あっさりと迎撃されてしまった。
というか、相手にされていない。
僕がどうこうではなく、クロッキアさん自身に矛先が向いているのだ。
こうなると、僕自身が割って入るスペースさえない状態だった。
加えて、あの女将さんでさえ、困った様子は見せているものの、どうすることもできない様子。
もはや、事の推移を見守る他なかった。
「もう一度聞くぜ、クロッキアさん。祐介君は、『この世界』をどこまで知ってるんだ?」
「・・・・・・」
「御仁、間違っても事を荒立てようとしているのではない。だが、貴方はこの世界の住人だ。我々を利用し、人類を救いたいと考えても、何ら不思議はない。・・・・・・そして、彼はまだ幼い。社会も世間も知らない、子供だ」
「信頼さえ勝ち取っちまえば、利用することなんざ容易いぜ。それこそ、朝飯前だろ」
「・・・・・・・・・・・・」
クロッキアさんは、まだ沈黙を守っている。
視線こそ外さないが、口を開く様子もない。
食器の音さえ躊躇してしまうような、場違いな緊張と静寂。
「言っておくぜ。祐介君は、あんたの仲間である前に、俺らの世界の人間だ。同じ世界、同じ国に生まれた命なんだ。・・・・・・それを使って、世界を救おうとしているって・・・・・・あんた、分かってんのか?」
池谷さんは冷静な表情を崩さないが、立木さんは違った。
徐々に、ではあるが、確実に怒りが沸いてきている。
僕は正直、そこまで怒りを覚える理由が見当たらないのだが、なんとなくでも伝わってくるものはある。
要は、僕をいいように利用しているのではないか、とクロッキアさんを疑っているのだ。
ターナに矛先が向かないのは、僕らの引率役がクロッキアさんだからだろう。
「――おい、なんとか言ったらどうだよ!」
「ちょ、ちょっとリュウヤくん! 落ち着きなさいよ!」
クロッキアさんの沈黙を否定的に受け止めたのか、立木さんが身を乗り出しながら声を張り上げた。
それを、女将さんが言葉で宥め、池谷さんが物理的に肩を抑えつけて制している。
まさに、一触即発といった雰囲気だ。
そこで、ようやくクロッキアさんがその沈黙を破るように、静かに口を開いた。
「全てを話してはいない」
シンプルな一言だった。
嘘偽りさえ盛り込むスペースもない、簡素な言葉。
故に、それがはっきりとした答えだと判断するにも、大した時間は要さなかった。
そして、意外にもそれに問いを発したのは、立木さんではなく池谷さんだった。
「なぜ、全てを話さないのか。隠したところで、いずれは分かること。異人として生きる以上、それこそ避けては通れないだろうことは、考えるまでもないだろう。正直、俺は貴方を信用している。言動、立ち振る舞いから見ても、私利私欲で他者を利用する類いの人間ではない。それは、隆也も同じだ」
「だからこそ、都合良く扱われているならば許せない」――そう、思っているが故の怒りだ、と池谷さんは言う。
「では、逆に聞こう。全てを話し、どうなるという?」
「・・・・・・なんだと?」
「落ち着け、隆也。お前もお前で、頭に血が上りすぎだ」
続けて欲しい、と池谷さんが目配せでクロッキアさんを促す。
「彼は・・・・・・ユウスケは、心優しい。通常、心には殻がある。そうすることで、人は傷や痛みを紛らわせる。悲哀や絶望も、殻に閉じこもってしまえば耐え凌げる。だが実際は違う。耐え凌げるのではない・・・・・・そうでもしなければ、壊れてしまうからだ」
「それで?」
「ユウスケは、この心の殻が他人よりも薄いと感じる。・・・・・・あまりにそのまま、事物を受け止めてしまう。この世界で、誰かの死に涙することは容易いことではない。死が近すぎるがゆえに、一度悲しみに暮れたら最後、立ち直れなくなるかもしれない。そんな恐れが、人々にはある」
だが、ユウスケは違う、とクロッキアさんは僕を見た。
「彼は・・・・・・失われた全てに対して顔を伏せた。悲しいと。残念だと。例えそれが、一度は自らに刃を向けた相手であってもだ」
そして、再度、ヒノボリの異人らを真っ直ぐに見据えた。
「私は、彼の慈悲を知っている」
「・・・・・・・・・・・・」
「だからこそ、私は彼とターナを守ると誓った」
そこまで聞くと、立木さんも少し怒りがおさまってきたのかもしれない。
幾分落ち着きを取り戻した中で、再び池谷さんが言葉を投げる。
「祐介君に、全てを話さないことが『守る』ことだと?」
クロッキアさんは、首を横に振った。
「それは、世界が教えることだ。私が語るべきものではない。・・・・・・世界を知る、とはそういうことではないのか?」
どれほど言葉にしようと、全ては伝わらない。
第三者を通したところで、本当の意味で僕が知るべき内容は伝わらない。
クロッキアさんは、そう言った。
「だから、私は彼に旅を提案した。世界を救うためには、世界を知る必要があると――――」
「――――未来を切り拓くには、未来を捉える必要がある、ですよね」
視線が、僕に集中する。
ちゃんと覚えている。クロッキアさんの言葉。
その続きを口にし、僕は更に言葉を紡いだ。
「立木さん、池谷さん。・・・・・・ありがとうございます。僕のこと、心配してくれて。でも、クロッキアさんはちゃんと話してくれました。もちろん、全部じゃないかもしれないけど・・・・・・でも、ちゃんと・・・・・・現実の残酷さは、伝わってます」
何もできなかった。
いや、何かできた試しなんてない。
僕はただ、あの白色の滅びを見ているしかできなかった。
「ネグロフがなくなっちゃった時・・・・・・たくさんの人も、亡くなりました。僕、何もできなかった。生き延びることさえ、自分一人じゃ満足にできなかった。僕のために死んでいった人達もいました」
自然と、頬を伝うものがあった。
「今は、何も知らない子供と同じです。それは、僕も分かっています。でも、そんな僕でも・・・・・・消えないまま、残っているんです。誰かに守られて生き延びたことも、僕を守って死んでしまった誰かのことも、その人達にお墓さえ作ってあげられなかった、自分の無力さも」
痛いくらい、覚えている。
消えるはずがない。
忘れるはずがないのだ。
それは、たった一瞬だったかもしれない。
立木さんや池谷さんからすれば、僅かな悲劇でしかないのかもしれない。
けれども、思い出せば――。
「僕は――――」
「もういい」
――――こんなにも胸を抉るくらい、深く残っている。
だから止められても懸命に動こうとする口を、堪えきれないというように、誰かが抱き寄せた。
「ユウスケ様、もうよいのです」
ターナだった。
ターナが、僕の顔を胸元に抱き寄せ、服の袖で涙を拭ってくれる。
その白くて細い手もまた、僅かに震えていた。
「もう、いい。ユウスケ、君がこれ以上、責任を感じる必要はない」
「でも、僕は、」
「いいんだ。君は生き延びた。他の異人も生き延びた。それだけで、十分に責務は全うしている。それ以外は、君が背負うべきものではない」
クロッキアさんはそう言うと、僅かに低い声で続けた。
「ユウスケとターナは、一国の滅びをその目で見た。・・・・・・数え切れないほどの屍の上に、自分達の命が成り立っていることを、この二人は誰よりも強く自覚している。これは、武を収めた我々では知ることのない地獄だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「守る側ではなく、守られる側として死を受け止めることは、想像を絶する。我々は武で己を支えることができる。だが、ユウスケやターナは己の心で耐えるしかない。剣も盾も、鎧さえない心に、自責という刃を突き立てられる苦しみと、必死に戦っているのだ。・・・・・・異人殿、これ以上、この若者達にまだ苦難を強いろと言うのか」
クロッキアさんの言葉に、続く反論はなかった。
滲んだ視界でうまく見えないけど、立木さんも池谷さんも、今は視線を落としているようだ。
少しでも、僕の言葉が伝わったならいいのだけど。
僕のせいで、クロッキアさんがこれ以上責められるのは辛いから。
「・・・・・・すまない。御仁を疑った、こちらの失態だ」
池谷さんはそう言い、僕らに頭を下げた。
同時に、「ごめん。俺も、つい」と立木さんも同じように頭を下げる。
それを、クロッキアさんは落ち着いた口調で返した。
「謝罪は必要ない。それほどまでに、貴方がたもユウスケのことが大切だったのだろう。異人としてではなく、同じ世界、同じ国の者として。ならばお互い、埋めるべき溝を埋めた。そういうことで、十分だろう」
「参ったな。・・・・・・どうやら、人の器としては御仁には敵いそうもないようだ」
そこでようやく、「それはどうだろうか」とクロッキアさんから笑いがもれた。
つられるように、池谷さん、立木さんも順々に、ぎこちないながらも笑みを浮かべた。
よかった。なんとか誤解は解けたみたいで。
と、ほっとしたのも束の間――――。
「笑ってんじゃないよ! この人騒がせ!」
――――女将さんの怒声と共に、ヒノボリの異人へげんこつが落ちた。
ごちん、なんて音はしないけど、綺麗に真上から貫くような一撃は見事なもの。
その証拠に、二人とも座敷の上で脳天をおさえながらもんどり打っている。
「ユウスケくんどころか、女の子まで泣かせて! どうなってんだい、あんた達!」
言われて見回すと、ターナも・・・・・・ワクナさんまで、何故か泣いていた。
まぁ、僕が真っ先に涙を流してしまったから、他人にとやかくは言えないけど。
「ご、ごめん・・・・・・女将さん。あと、すげー・・・・・・いたい」
絶え絶えな声音で、立木さんが女将さんに謝る。
しかしながら、これではいそうですか、とはいかないだろう。
そして、やはりその通りになった。
「当たり前だよ! まったく、せっかく作った焼きそばも冷えちまったじゃないか。もう一回作るから、今度は食べることに集中しな! いいね!?」
言いながら、二人の弱々しい返答を聞くよりも早く、女将さんは厨房へと姿を消してしまった。
後に残された僕らは、お互い顔を見合わせながらも、少しだけ笑い合う。
「ターナ、全然減ってないね」
「はい。なんだか、食べる機会を見失ってしまいまして・・・・・・」
結局、完食できていた人は誰もいなかったようだ。
「ワクナさんもごめんなさい。なんだか、泣いちゃったみたいで」
「ううん、いいの。その・・・・・・まさか、そんな辛い経験してヒノボリにやってきたとは知らなくて・・・・・・」
あぁ、そっか。
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なんだか、ワクナさんまで悲しい気持ちにさせてしまったみたいで、申し訳ないなぁ。
「まぁ、仕切り直しとしては丁度いいだろう」
「そうですね。・・・・・・あ、そうだ。食事の後は、都を少し見て回りたいです」
「調達したい物資もあるからな、私も異論はない。幸い、ヒノボリをよく知る人間が三人もいるしな」
「お、おう・・・・・・案内は、まかせとけぇ・・・・・・」
余程加減がなかったのか、未だ座敷で悶える立木さんから声だけが届いてくる。
ワクナさんも、「服とか日用品なら良いところ知ってるわ」と賛成してくれた。
こうして、再びヒノボリでの昼食が続くのであった。
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