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1巻
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それからすぐに幸三が立ち去り、愛菜も部屋を出て給湯室経由でマーケティング部に戻った。席に着くなり馬場が興味津々の顔を向けてきたが、笑顔で受け流しやりかけの仕事に集中する。
午前中にこなすべき業務をすべてやり終え、休憩の時間になると席に着いたままいったん頭の中を空っぽにした。
面倒な事に巻き込まれたのは間違いない。しかし、引き受けた以上、最善を尽くすべきだ。
そう覚悟を決めると、愛菜は午後の会議に向けて、もう一度資料を確認し始めるのだった。
会長たちから呼び出された二日後。その日の仕事を終えた愛菜は、残業も寄り道もせずまっすぐ帰途についた。
愛菜の住まいは築三十年の賃貸マンションで、駅から徒歩で五分もかからない。部屋は四階建ての二階にあり、間取りは1LDKで一人暮らしにはちょうどいい広さだ。
作り置きのおかずで手早く晩御飯を済ませ、シャワーを浴びたあと、鏡の前で入念にスキンケアをする。
今日の午後、愛菜個人のスマートフォン宛に健一郎からメッセージが送られてきた。目を通すと、雄大とのお見合い場所と時間が記されていた。
「日曜日の午後三時から五時まで、か。ランチタイムでもディナータイムでもないし、まずは軽く会って話すって感じかな」
待ち合わせの場所は都内のラグジュアリーなホテル内にあるイタリアンカフェだ。調べてみたところ、ドレスコードはスマートカジュアルだが、メニューを見ると普段使いするには高すぎる店のようだ。
仮にも見合いをするのだから、いつも以上に見た目には気をつけなければならない。
愛菜はふと思い立って、スマートフォンを手に取り、ウェブ版の社内報を表示させた。
「あ、これだ。……アップじゃないからイマイチよくわからないけど、やっぱり副社長ってかなりのイケメンだよね」
雄大が本社勤務になって以来、独身の女性社員たちの間で「新田雄大」や「副社長」がトレンドワードになっていた。
その画像は、彼が本社勤務になった際に各部の部長を集めて挨拶をした時のものだ。
副社長就任後の雄大は、瞬く間に頭角を現して地位にふさわしい実力があると証明した。
馬場をはじめとする部長クラスの人たちも口々に雄大の経営者としての資質を絶賛しているし、何より数字が彼の有能ぶりを如実に表している。
(副社長として有能なのは間違いないし、せっかくだから、こっちもいろいろと学ばせてもらおう。それにしても、こんな人が恋愛にも女性にも慣れていないって、本当かな?)
未だに不可解な事はあるし、立場的にやりづらい事も多々ありそうだ。しかし会長は、あれこれ構えずに、まずは息子と会ってみてほしい、と言っていたではないか。
だから当日は、初対面の挨拶をして、互いに気になる事を質問したり答えたりする。そうすれば、おのずと距離が縮まるだろうし、相手への理解も深まるはずだ。
とりあえず、会うだけ会ってみよう。
愛菜は覚悟を決め、両方の掌で頬をパンと叩いて自分に気合を入れた。
見合い当日は晴天で、ちょうどいい気候だった。
愛菜は午前七時に目を覚まし、軽く朝食を取りながら雄大の顔を思い浮かべる。
今日までの間、愛菜はそれとなく社内でも雄大の姿を探していた。しかし、常に忙しい彼を探すのは至難の業だ。
最終的には携わっている業務上役員のスケジュールデータを閲覧できる智花の助力により、ようやく金曜日に一瞬だけ遠目に見かける事ができた。
とはいえ、周囲に人も多く距離もあったから、おそらく彼は気づいていないだろう。愛菜自身も視界の隅に彼をとらえただけで、当然目も合わなかった。
(でも、さすが新田グループの御曹司よね。思っていた以上にイケメンだったし、オーラがあったかも)
これまで副社長の雄大を、異性として意識した事などなかったし、興味もなかった。
しかし、一応は正式な見合い相手だ。
彼を知り己を知れば百戦殆からず。
自分なりに情報を集めて準備を整えてきたし、あとは実際に会ってみて、雄大がどんな人物であるか己の目で判断しよう。
そんな思いを胸に家を出て、指定された時間に合わせて待ち合わせの場所に向かった。
考えてみれば彼ほどハイスペックな男性との出会いなんて、望んでも得られるものではない。
婚活が上手くいっていない今、今回の話はきっと流れを変えてくれる転機になる。
むろん、本当に副社長とどうこうなるわけがないし、社長の言う良縁も期待していない。
だがこの出会いは、ある意味、愛菜にとっては新しく経験値を積むまたとない機会になるはずだ。
緊張の面持ちでホテルのエントランスに足を踏み入れ、迎え入れてくれたドアマンに軽く会釈をする。時刻を確認すると、約束の時間の十分前だ。
いったん化粧室に行って鏡の前でメイクや服装の最終チェックをしたあと、一階の東側にあるカフェを目指す。男性との待ち合わせは何度となくしてきたが、自社の副社長ともなると、いつも以上に緊張する。
今日の服装は、白と紺色のワンピーススーツで、お見合いにしては少々堅苦しい感じが否めない。
しかし、お見合いとはいえ目的は別にあるし、これくらいが妥当だと判断した。
顎を上げ背筋をシャンと伸ばして店の奥に進んだ。
「こちらでございます」
カフェの案内係に誘導された屋根付きのテラス席は、緑に囲まれた眺めのいい特等席だ。そこにはすでに、こちらに背を向けて男性が座っている。
案内係の声で振り向いたその人が、椅子から立ち上がり愛菜に向き直った。
落ち着いたグレーのスーツを着こなした彼を見て、一瞬息が止まる。
美男だとは、十分承知していたつもりだった。けれど、まっすぐにこちらを見つめてくる笑みをたたえた彼の顔は、そんなありふれた単語では言い表せないほど魅力的だ。
「はじめまして。新田雄大です。今日は、わざわざお越しいただいてありがとうございます」
「は……はじめまして。賀上愛菜です」
言いながら、愛菜は雄大の差し出した手を握り、握手をした。
雄大と会うにあたり、愛菜はイギリスの文化やマナーについてひと通りの知識を頭に入れている。
アイコンタクトを取りながらの握手は、イギリスでは基本中の基本だ。思っていたよりも強く握られ、反射的に同じだけ掌に力を込める。
吸い寄せられるような焦げ茶色の瞳と少年のような屈託のない笑顔に、鼓動が速くなるのを感じた。
挨拶を交わしたあと、それぞれの椅子に腰を下ろす。
「飲み物は、どうしますか? よければ、美味しいワインでもいかがです?」
そう訊ねてくる様子は、いかにもスマートだ。
愛菜は頷いてオーダーを彼に任せた。容姿がいい男性は大勢いるが、間近で見る雄大は、瞬きをするのを忘れてしまうほど容姿端麗だ。
彼の美男ぶりに魅入られている間に、テーブルの上にワインと生ハムやチーズを使った軽食が運ばれてきた。
「ここに来ていただく事になった経緯は、会長と社長から聞かされています。面倒な事をお願いしてしまって、本当に申し訳ありません」
雄大に頭を下げられ、愛菜は即座に首を横に振った。
「面倒な事だなんて、とんでもありません。むしろ私なんかが副社長のお見合い相手で本当にいいのかどうか……」
「いえ、あなたでよかったです。それに、相手が賀上さんでなければ、僕も同意していなかったでしょうし」
「え?」
「いえ――まずは、こうしてお会いできた事を乾杯しましょう」
「あ……はい」
雄大に促され、愛菜はグラスを手にして軽く上に掲げた。ひと口飲んで喉を潤すと、ようやく少し落ち着いて彼の顔を見られるようになる。
以前見かけた時に予測できていたが、彼の身長は百九十センチ近くある。それに、立ち居振る舞いがとても優雅だ。
これまで出会った男性の中には、マナー以前に無礼で下品な振る舞いをするエセ紳士がたくさんいた。そんな人たちとは最初から比べるべくもないが、雄大は本物のジェントルマンといった感じだ。
「ここは、仕事でもよく利用するんですよ。雰囲気がいいし、軽いミーティングにうってつけなので」
「開放的だし、居心地がいいですね。ここでなら、商談も上手くいきそうです」
「そうでしょう? カフェなので食前に軽く飲んだり食べたりする感じで、そこから先の商談は場所を変えてランチやディナーを食べながら、という流れで――」
会話する声は落ち着いているし、今のところ女性に慣れていないといった印象はない。しかし、慣れているふうを装う男性はいるし、そうと判断するのは早いだろう。
しかし、はじめてまともに顔を合わせて話したが、この短い間でも雄大が好青年である事は伝わってくる。
まだ二十代でありながら、彼には将来新田グループを背負って立つと思わせるだけの風格のようなものがあった。そう遠くない未来にさらに上の地位に就くだろうし、時が来ればふさわしい女性を妻として迎えるに違いない。彼を見ていると自然とそう思えるのに、なぜ雄大は自分のような一般社員との見合いを受け入れたのだろう?
それが謎だが、今は余計な事を考えている時ではない。彼はまさしく理想の結婚相手であり、自分は雄大の正式な見合い相手としてここに来ているのだ。
(私みたいな一般庶民とは、こんな機会でもなければ会う事もないんだろうな)
その後はしばらくの間、天気や新たに運ばれてきた料理に関する話をする。
終始微笑んではいるが、愛菜は内心ドキドキだ。緊張のせいもあって、いつも以上に喉が渇き、自然とグラスを傾ける回数が増えてしまう。
「お酒はお好きですか? ここはシャンパンの種類も豊富ですよ」
屈託のない笑顔はとても人懐っこくて、つい無条件で頷きたくなってしまう。
しかし、愛菜はここに美味しいお酒と料理を楽しみに来たのではない。
「お酒は好きですが、外ではあまり飲まないようにしているので」
「あぁ、そうですね。すみません、初対面でやたらとお酒を勧めるなんて、よくありませんよね」
雄大が両方の眉尻を下げて、申し訳なさそうな顔をする。
「いえ。副社長が、厚意で言ってくださってるのはわかっていますから。ただ、その……」
「なんですか? 遠慮せず言ってください」
彼に促されるも、愛菜はなおも躊躇して口ごもった。プライベートはさておき、ビジネスパーソンとして自分よりも遥か上にいる雄大に物申すのは大いに気が引ける。
しかし、言いかけてやめるのもよくない。
「あの、海外では、お酒を交えての会話は普通なんだと思いますけど、今はプライベートですし、先ほどの言葉を誤解して受け取ってしまう人がいたりするんじゃないかな、と……」
「と、言うと?」
「たとえば、たくさん飲ませて酔っぱらわせるつもりだと思われたり、そこまでお酒を勧めるって事は、家に帰すつもりがないと受け取られたり……」
「ああ、なるほど。僕が相手に対して、邪な考えを持っていると思われかねないって事ですね」
雄大が、納得したように頷く。少し声が大きかったのか、少し離れたテーブルにいる中年のカップルが揃ってこちらを振り返った。
「も、もう少し声を抑えてください」
唇に人差し指を当てて前かがみになる愛菜に、雄大がハタと気がついた様子ですまなそうな表情を浮かべる。
「すみません。うっかりしていました」
雄大が中年カップルに軽く頭を下げると、二人はにっこりと微笑んで会釈してくれた。
「副社長がおっしゃるとおり、ご自身にそういうつもりがなくても、相手を不快にしたり、もしくは都合よく勘違いされて迫られたりする場合もあるので気をつけたほうがいいかもしれません」
「なるほど……。言われてみれば、確かに以前そういう事がありました。仕事関係で知り合った人の個人的なパーティに呼ばれた時、シャンパンを飲みながら話していたら急に二人きりになりたいと言われて――」
雄大から聞かされたいくつかのエピソードは、明らかに相手側の勘違いによるものだった。
彼には、まったくそんなつもりはなかったようだが、ビジネスによる繋がりであっても、きっかけさえあれば恋愛に発展してしまう。
そうしたつもりがないなら明確な線引きが必要だし、誤解を招くような言動をしてはならない。
愛菜が遠慮がちにそう告げると、雄大が真摯な顔つきで頷いた。
「肝に銘じます」
それからしばらくの間あれこれと話をしてみた結果、雄大の恋愛に関する知識は限りなく乏しく、女性の扱いに関してもマナーに則ったものに限られているのがわかった。
当然、恋愛における男女の機微や駆け引きなど、まるで理解していないようだ。もともとの性格もあってか、彼はとても正直で嘘がない。
しかし、そんな雄大の印象と、今目の前にいる彼の外見には、大きなギャップがあった。
見るからに落ち着きのある紳士だし、女性に対しては丁寧で話題も面白く会話が弾む。
それなのに、彼からは色恋に関する欲をまったく感じない。これほどのスペックがあれば、望んだらすぐにでも恋人ができそうなものなのに、彼の女性に対する興味のなさに驚かされる。
これは、思っていた以上に手がかかるかも――
愛菜はもうひと口ワインを飲み、グラスをテーブルの上に置いた。
「そういえば、先ほど『相手が賀上さんでなければ、僕も同意していなかった』とおっしゃいましたが、それはどういう意味でしょうか?」
「ああ、それはそのままの意味ですよ。さっきは、はじめましてと言いましたが、実は賀上さんの事は以前から知っていました。何度か社内でもお見掛けした事があるんですよ。直近だと、二日前の金曜日に、会社の大会議室前の廊下で――」
「えっ、気づいていらっしゃったんですか?」
「もちろんです。それに、少し前に賀上さんが発案したマーケティング部の提案書を読みましたが、とてもよかった。あれ以外にも、実に有益で面白いアイデアを出してくれていますね」
「恐縮です。まさか、副社長が私の事を気に留めていてくださったとは思いませんでした」
「優秀な社員は普通に仕事をしていても目立ちますからね。それに、馬場部長からも何度か賀上さんの話を聞いています。着眼点が良くて頭の回転も速いと」
自分の仕事ぶりをきちんと評価されていると知って、愛菜は素直に喜んでにっこりと笑った。
「馬場部長は、部下の使い方が上手いというか、能力を引き出す術に長けていらっしゃるんだと思います。ある程度こちらに判断を任せてくださるし、躓いた時にはすぐに手を貸していただいたりして――」
部下のアイデアを横取りしようとした田代部長とは大違いだ――とは言わないが、そう思いながら、馬場が自分を褒めてくれていた事を嬉しく思った。
その後も仕事に関する話で盛り上がり、気がつけば二人のグラスが空になっている。
「少し喉が渇いたな。僕はシャンパンを頼みますが、賀上さんもいかがですか?」
咄嗟に辞退しようとしたが、確かに喉が渇いていた。お酒を交えての会話については、さっき話したばかりだし、雄大の言葉を素直に受け取っても問題ないだろう。
「ありがとうございます。では、もう一杯だけいただきます」
雄大が頷き、二人分のシャンパンをオーダーする。すぐに運ばれてきたグラスで二度目の乾杯をしたあと、雄大に話題を振られるまま、新田証券における今後のマーケィング戦略について楽しく語り合った。
会話は思いのほか盛り上がり、二人は、ごく自然な感じで互いの個人的な連絡先を交換し、次の約束をする。
「では、次の土曜日に、またこの場所で」
「はい、楽しみにしています」
あっという間に二時間が経過し、愛菜は雄大とともにホテルの前に出る。彼に見送られながら待機していたタクシーに乗り込み、閉じたドアの窓越しに会釈をした。
にこやかに微笑んでいた雄大が、愛菜に向かって手を振る。
うっかり手を振り返しそうになったが、すんでのところで持ち上げた右手を左手で押さえた。
タクシーがホテルの敷地を出ると、愛菜は一気に脱力してゆったりとシートにもたれかかる。
(終わった……)
しかし、ホッとしたのも束の間、シートから背中を離し渋い顔をする。
思いがけず仕事ぶりを評価されたのが嬉しくて、ついあれこれと話し込んでしまった。場が盛り上がったのはいいが、あれではただの上司と部下の会話だ。
仮にも今日はお見合いをしに来たというのに、初手から失敗してしまったかもしれない。距離は縮まったけれど、二人の間には恋愛要素など皆無だ。
(私とした事が、何やってんのよ。こんなんじゃ、会長の期待に応えられないじゃないの)
愛菜は猛省し、次こそは上手くやろうと心に誓った。
それはそうと、雄大があれほど気さくで接しやすいとは思わなかった。
性格は明るく、真面目。それに、話し上手であると同時に聞き上手でもある。ハイスペック男子に見られがちなおごった様子もない。
彼は婚活においては間違いなく優良物件だ。
たった二時間ではあるけれど、愛菜はすでに雄大に対して好印象を抱いている。
雄大はスペックも人柄も問題ないし、恋愛に不慣れだとしても、女性に対して苦手意識を持っているわけではない。
初対面であれほどスマートに振る舞えるなら、何も心配いらないのでは?
むしろ、わざわざ愛菜に依頼したりせず、彼にふさわしい相手と普通に見合いをしたほうがよかったのではないかと思うくらいだ。
(でも、会長が直々に私に頼んできたくらいだもの。実際に恋愛をする前に、多少なりとも経験を積んでおいたほうが安心よね。次に会う時には、副社長が女性を恋愛対象として意識できるようになってもらわないと……)
それこそが、愛菜が果たすべき目的のひとつだ。
この先、いざ本気で見合いや恋愛をする時、雄大が困る事のないよう試験的に付き合って恋愛に慣れてもらう。
そうなれば、自然とその時々にふさわしい言動が取れるようになるに違いない。
『あれはとても利発な子だ。賀上くん、雄大をよろしく頼むよ』
幸三の言葉を思い出しながら、改めて自分の役割をしかと心に刻み込む。
愛菜は今一度タクシーのシートにもたれかかり、腕組みをして今後について考えを巡らせた。
そして、帰宅するなり今日の報告をすべく幸三から渡されたスマートフォンを取り出し、電話に出た彼に雄大とともに過ごした二時間の報告をするのだった。
雄大と見合いした週の土曜日、愛菜は前回と同じ場所、同じ時間に彼と待ち合わせをしていた。
前回は仕事の話がメインになってしまったが、今回は本来の役割をしっかり果たすつもりでいる。
引き受けたからには、確実に結果を出すのは当たり前だ。
且つ、できるだけ短期間で終えられるよう、計画的にプランを進めねばならない。といっても、仕事熱心で出張も多い雄大は、プライベート返上で忙しくしている様子だ。
前回、今回と二回にわたってデートの時間を確保できたが、今後の予定を調べたところ、来月の半ばまで週末のスケジュールは埋まっていた。
できるだけ短期間で終わらせたいと思っているが、こればっかりは雄大のスケジュール次第になりそうだ。
しかし、これくらいでへこたれるような自分ではない。
愛菜は雄大との付き合いを段階的に進められるよう計画を練り、三カ月でひととおり終わらせられるようスケジュールを組んだ。
方針が決まったら、あとはそれを実行するのみ。
上手くいけば報酬が得られるし、自分のキャリアアップにも繋がる。さらには停滞している自分の婚活状況から脱却するきっかけになってくれるかもしれない。
そう期待できるほど、雄大は魅力ある人物だ。
本気の恋愛をする事はないにしろ、こんな機会を与えられた自分は、とてつもなくラッキーだと言えるだろう。
待ち合わせの時刻は、午後三時。
前回は相手が副社長だから、肩に力が入りすぎていたのかもしれない。
(今日は一緒にカフェでお茶をして、そのあとで街ブラ。その間に、もう少し距離を縮める。ただし、今日は仕事の話はナシ! それからの予定は、二人で話し合って決めるって事でいいよね)
思っていた以上に恋愛経験値が低い雄大だから、できるだけハードルを低く設定してみた。
そんな事を考えながらクローゼットの扉を開け、あらかじめチョイスしておいた洋服を取り出す。
薄紫色のカットソーはボートネックで、袖はふんわりとしたデザインだ。それに合わせたフレアスカートは白地に花模様があしらわれており、膝下十センチの長さがある。
どちらも新品ではないものの、ベルトとハイヒールを合わせればカフェデートにもマッチするお気に入りだ。
仕事に行く時はいつも原色に近い色合いのものを選ぶ愛菜だが、プライベートではパステル調の淡い色合いのものを好んで着る。
会社では常にバリキャリのイメージを崩さないが、本来の愛菜はゆるふわのコーディネートが大好きなのだ。
幸三からは相手が雄大だからといって無理や遠慮はしなくていいと言われているし、今回は本来のスタイルで行くと決めた。それに、そのほうがやりやすい。
ファッションに合ったメイクとヘアスタイルを施し、すべての準備を終えて、部屋の隅に置いてある姿見の前に立つ。
「うん、いい感じ」
前回は格好も会話も堅苦しさが否めなかったが、雄大は思っていたより話しやすかったし、今日はもう少しプライベートについて探ってみようと思う。
鏡に映る自分を見ながら、愛菜はふと前回会った時の雄大の顔を思い浮かべた。
飾り気がなく自然な立ち居振る舞いに、屈託のない笑顔。
仕事の話に終始してしまったものの、彼との会話は本当に楽しくて実のあるものになった。
(それだけでも、この話を引き受けてよかったと思えるよね)
お見合いについての報告は、すでに幸三と健一郎ともに済ませている。
どちらも電話で連絡をしたのだが、健一郎との通話はものの数分で終了したが、幸三とは思いがけず長電話になり、一時間近く話していた。そこで愛菜は、これまで明かされなかった雄大に関する事実を聞かされる事になった。
雄大は幼い頃から神童と言われるほど優秀で、その資質を最大限に伸ばすべく小学校卒業後イギリスに留学した。それは彼自身が希望し、両親も賛同して実現した事だったらしい。その後、彼は現地で最高の知識と社交術を身に着け、卒業後はそのままイギリスの大学に進学した。
そこまでは、誰が見ても順風満帆な人生を歩んでいた彼だが、大学に入って一年後、車の運転中の事故で大怪我を負った。
優秀な医師たちのおかげで手術は成功。しかし、彼は目を覚ます事なく、昏睡状態のままベッドで二年を過ごす事になってしまったのだという。
その間、雄大のそばには母親の恵理子が常時付き添っていたらしい。献身的な母親の思いが天に通じたのか、その後、雄大は奇跡的に意識を取り戻した。
それ以後、雄大は体力の回復とリハビリに励みながら大学に復学して、以前にも増して熱心に勉強に励んだようだ。
『幸い、後遺症もなく、驚くほど優秀なビジネスセンスを身に着けた大人になった。妻もたいそう喜んで、雄大のそばでサポートを続けていたんだが――』
優秀な成績で大学を卒業した雄大は、新設された新田証券ロンドン支局に就職する。そこが軌道に乗ったのを機に、帰国して本社勤務になる予定だった。
けれど、そこでさらなる不幸が雄大を襲う。
母親の恵理子が病に倒れ、急逝してしまったのだ。それにより、帰国が予定より半年遅れ、ようやく今年の春に本社勤務が叶ったのだった。
『ちなみに、この事を知っているのは親族のみで、それ以外で教えたのは賀上くんがはじめてだ』
幸三にそう言われて、愛菜は知った事実はぜったいに口外しないと彼に誓った。
それにしても、まさかそんな事があったなんて――
超がつくほどのハイスペック男子なのに、女性慣れしてないなんておかしいと思っていた。
けれど、それほど大変な過去があったなんて考えもしなかった。
大勢の部下に囲まれて廊下を歩いていた雄大を見た時、愛菜は彼を極めて優秀な苦労知らずのおぼっちゃまだと思った。
だが、彼の辿ってきた道を知った今は、そんなふうに思っていた自分を恥ずかしく思う。
(人を見た目で判断しちゃダメって、十分すぎるほど理解してたはずなのに)
婚活においては、相手の人柄を正しく見極める必要がある。婚活を始めた当初こそ見た目に惑わされて失敗する事もあったけれど、今ではかなり正確にその人の本質を見極められるようになった。
婚活でいい結果を出せていないが、人の本質を見極める目だけは養われたと自負していただけに、情けない限りだ。
こうなったらいっそう気を引き締めて、この仕事をやり遂げなければならない。自分は人に教えられるほど恋愛経験が豊富なわけではないが、ぜったいに雄大を素敵な恋愛結婚ができるようにしてみせる!
愛菜は気を引き締め、意気込みも新たに待ち合わせのイタリアンカフェに向かう。
二度目とはいえ、やはり緊張はする。時間どおりに店に着き、前と同じ席で待っている雄大を見つけて、背後から声を掛けた。
「副社長、こんにちは」
「こんにちは、賀上さん。今日も来てくれてありがとう」
そう言いながら立ち上がった雄大は、濃紺のテーラードジャケットに淡い空色のシャツを合わせ、ドット柄のネクタイを締めている。
にこやかな表情をした彼が、愛菜に向かって大きな花束を手渡してきた。深紅の薔薇がメインになっているそれは見るからに豪華で、両手で持つと顔が半分隠れてしまうほどの大きさがある。
午前中にこなすべき業務をすべてやり終え、休憩の時間になると席に着いたままいったん頭の中を空っぽにした。
面倒な事に巻き込まれたのは間違いない。しかし、引き受けた以上、最善を尽くすべきだ。
そう覚悟を決めると、愛菜は午後の会議に向けて、もう一度資料を確認し始めるのだった。
会長たちから呼び出された二日後。その日の仕事を終えた愛菜は、残業も寄り道もせずまっすぐ帰途についた。
愛菜の住まいは築三十年の賃貸マンションで、駅から徒歩で五分もかからない。部屋は四階建ての二階にあり、間取りは1LDKで一人暮らしにはちょうどいい広さだ。
作り置きのおかずで手早く晩御飯を済ませ、シャワーを浴びたあと、鏡の前で入念にスキンケアをする。
今日の午後、愛菜個人のスマートフォン宛に健一郎からメッセージが送られてきた。目を通すと、雄大とのお見合い場所と時間が記されていた。
「日曜日の午後三時から五時まで、か。ランチタイムでもディナータイムでもないし、まずは軽く会って話すって感じかな」
待ち合わせの場所は都内のラグジュアリーなホテル内にあるイタリアンカフェだ。調べてみたところ、ドレスコードはスマートカジュアルだが、メニューを見ると普段使いするには高すぎる店のようだ。
仮にも見合いをするのだから、いつも以上に見た目には気をつけなければならない。
愛菜はふと思い立って、スマートフォンを手に取り、ウェブ版の社内報を表示させた。
「あ、これだ。……アップじゃないからイマイチよくわからないけど、やっぱり副社長ってかなりのイケメンだよね」
雄大が本社勤務になって以来、独身の女性社員たちの間で「新田雄大」や「副社長」がトレンドワードになっていた。
その画像は、彼が本社勤務になった際に各部の部長を集めて挨拶をした時のものだ。
副社長就任後の雄大は、瞬く間に頭角を現して地位にふさわしい実力があると証明した。
馬場をはじめとする部長クラスの人たちも口々に雄大の経営者としての資質を絶賛しているし、何より数字が彼の有能ぶりを如実に表している。
(副社長として有能なのは間違いないし、せっかくだから、こっちもいろいろと学ばせてもらおう。それにしても、こんな人が恋愛にも女性にも慣れていないって、本当かな?)
未だに不可解な事はあるし、立場的にやりづらい事も多々ありそうだ。しかし会長は、あれこれ構えずに、まずは息子と会ってみてほしい、と言っていたではないか。
だから当日は、初対面の挨拶をして、互いに気になる事を質問したり答えたりする。そうすれば、おのずと距離が縮まるだろうし、相手への理解も深まるはずだ。
とりあえず、会うだけ会ってみよう。
愛菜は覚悟を決め、両方の掌で頬をパンと叩いて自分に気合を入れた。
見合い当日は晴天で、ちょうどいい気候だった。
愛菜は午前七時に目を覚まし、軽く朝食を取りながら雄大の顔を思い浮かべる。
今日までの間、愛菜はそれとなく社内でも雄大の姿を探していた。しかし、常に忙しい彼を探すのは至難の業だ。
最終的には携わっている業務上役員のスケジュールデータを閲覧できる智花の助力により、ようやく金曜日に一瞬だけ遠目に見かける事ができた。
とはいえ、周囲に人も多く距離もあったから、おそらく彼は気づいていないだろう。愛菜自身も視界の隅に彼をとらえただけで、当然目も合わなかった。
(でも、さすが新田グループの御曹司よね。思っていた以上にイケメンだったし、オーラがあったかも)
これまで副社長の雄大を、異性として意識した事などなかったし、興味もなかった。
しかし、一応は正式な見合い相手だ。
彼を知り己を知れば百戦殆からず。
自分なりに情報を集めて準備を整えてきたし、あとは実際に会ってみて、雄大がどんな人物であるか己の目で判断しよう。
そんな思いを胸に家を出て、指定された時間に合わせて待ち合わせの場所に向かった。
考えてみれば彼ほどハイスペックな男性との出会いなんて、望んでも得られるものではない。
婚活が上手くいっていない今、今回の話はきっと流れを変えてくれる転機になる。
むろん、本当に副社長とどうこうなるわけがないし、社長の言う良縁も期待していない。
だがこの出会いは、ある意味、愛菜にとっては新しく経験値を積むまたとない機会になるはずだ。
緊張の面持ちでホテルのエントランスに足を踏み入れ、迎え入れてくれたドアマンに軽く会釈をする。時刻を確認すると、約束の時間の十分前だ。
いったん化粧室に行って鏡の前でメイクや服装の最終チェックをしたあと、一階の東側にあるカフェを目指す。男性との待ち合わせは何度となくしてきたが、自社の副社長ともなると、いつも以上に緊張する。
今日の服装は、白と紺色のワンピーススーツで、お見合いにしては少々堅苦しい感じが否めない。
しかし、お見合いとはいえ目的は別にあるし、これくらいが妥当だと判断した。
顎を上げ背筋をシャンと伸ばして店の奥に進んだ。
「こちらでございます」
カフェの案内係に誘導された屋根付きのテラス席は、緑に囲まれた眺めのいい特等席だ。そこにはすでに、こちらに背を向けて男性が座っている。
案内係の声で振り向いたその人が、椅子から立ち上がり愛菜に向き直った。
落ち着いたグレーのスーツを着こなした彼を見て、一瞬息が止まる。
美男だとは、十分承知していたつもりだった。けれど、まっすぐにこちらを見つめてくる笑みをたたえた彼の顔は、そんなありふれた単語では言い表せないほど魅力的だ。
「はじめまして。新田雄大です。今日は、わざわざお越しいただいてありがとうございます」
「は……はじめまして。賀上愛菜です」
言いながら、愛菜は雄大の差し出した手を握り、握手をした。
雄大と会うにあたり、愛菜はイギリスの文化やマナーについてひと通りの知識を頭に入れている。
アイコンタクトを取りながらの握手は、イギリスでは基本中の基本だ。思っていたよりも強く握られ、反射的に同じだけ掌に力を込める。
吸い寄せられるような焦げ茶色の瞳と少年のような屈託のない笑顔に、鼓動が速くなるのを感じた。
挨拶を交わしたあと、それぞれの椅子に腰を下ろす。
「飲み物は、どうしますか? よければ、美味しいワインでもいかがです?」
そう訊ねてくる様子は、いかにもスマートだ。
愛菜は頷いてオーダーを彼に任せた。容姿がいい男性は大勢いるが、間近で見る雄大は、瞬きをするのを忘れてしまうほど容姿端麗だ。
彼の美男ぶりに魅入られている間に、テーブルの上にワインと生ハムやチーズを使った軽食が運ばれてきた。
「ここに来ていただく事になった経緯は、会長と社長から聞かされています。面倒な事をお願いしてしまって、本当に申し訳ありません」
雄大に頭を下げられ、愛菜は即座に首を横に振った。
「面倒な事だなんて、とんでもありません。むしろ私なんかが副社長のお見合い相手で本当にいいのかどうか……」
「いえ、あなたでよかったです。それに、相手が賀上さんでなければ、僕も同意していなかったでしょうし」
「え?」
「いえ――まずは、こうしてお会いできた事を乾杯しましょう」
「あ……はい」
雄大に促され、愛菜はグラスを手にして軽く上に掲げた。ひと口飲んで喉を潤すと、ようやく少し落ち着いて彼の顔を見られるようになる。
以前見かけた時に予測できていたが、彼の身長は百九十センチ近くある。それに、立ち居振る舞いがとても優雅だ。
これまで出会った男性の中には、マナー以前に無礼で下品な振る舞いをするエセ紳士がたくさんいた。そんな人たちとは最初から比べるべくもないが、雄大は本物のジェントルマンといった感じだ。
「ここは、仕事でもよく利用するんですよ。雰囲気がいいし、軽いミーティングにうってつけなので」
「開放的だし、居心地がいいですね。ここでなら、商談も上手くいきそうです」
「そうでしょう? カフェなので食前に軽く飲んだり食べたりする感じで、そこから先の商談は場所を変えてランチやディナーを食べながら、という流れで――」
会話する声は落ち着いているし、今のところ女性に慣れていないといった印象はない。しかし、慣れているふうを装う男性はいるし、そうと判断するのは早いだろう。
しかし、はじめてまともに顔を合わせて話したが、この短い間でも雄大が好青年である事は伝わってくる。
まだ二十代でありながら、彼には将来新田グループを背負って立つと思わせるだけの風格のようなものがあった。そう遠くない未来にさらに上の地位に就くだろうし、時が来ればふさわしい女性を妻として迎えるに違いない。彼を見ていると自然とそう思えるのに、なぜ雄大は自分のような一般社員との見合いを受け入れたのだろう?
それが謎だが、今は余計な事を考えている時ではない。彼はまさしく理想の結婚相手であり、自分は雄大の正式な見合い相手としてここに来ているのだ。
(私みたいな一般庶民とは、こんな機会でもなければ会う事もないんだろうな)
その後はしばらくの間、天気や新たに運ばれてきた料理に関する話をする。
終始微笑んではいるが、愛菜は内心ドキドキだ。緊張のせいもあって、いつも以上に喉が渇き、自然とグラスを傾ける回数が増えてしまう。
「お酒はお好きですか? ここはシャンパンの種類も豊富ですよ」
屈託のない笑顔はとても人懐っこくて、つい無条件で頷きたくなってしまう。
しかし、愛菜はここに美味しいお酒と料理を楽しみに来たのではない。
「お酒は好きですが、外ではあまり飲まないようにしているので」
「あぁ、そうですね。すみません、初対面でやたらとお酒を勧めるなんて、よくありませんよね」
雄大が両方の眉尻を下げて、申し訳なさそうな顔をする。
「いえ。副社長が、厚意で言ってくださってるのはわかっていますから。ただ、その……」
「なんですか? 遠慮せず言ってください」
彼に促されるも、愛菜はなおも躊躇して口ごもった。プライベートはさておき、ビジネスパーソンとして自分よりも遥か上にいる雄大に物申すのは大いに気が引ける。
しかし、言いかけてやめるのもよくない。
「あの、海外では、お酒を交えての会話は普通なんだと思いますけど、今はプライベートですし、先ほどの言葉を誤解して受け取ってしまう人がいたりするんじゃないかな、と……」
「と、言うと?」
「たとえば、たくさん飲ませて酔っぱらわせるつもりだと思われたり、そこまでお酒を勧めるって事は、家に帰すつもりがないと受け取られたり……」
「ああ、なるほど。僕が相手に対して、邪な考えを持っていると思われかねないって事ですね」
雄大が、納得したように頷く。少し声が大きかったのか、少し離れたテーブルにいる中年のカップルが揃ってこちらを振り返った。
「も、もう少し声を抑えてください」
唇に人差し指を当てて前かがみになる愛菜に、雄大がハタと気がついた様子ですまなそうな表情を浮かべる。
「すみません。うっかりしていました」
雄大が中年カップルに軽く頭を下げると、二人はにっこりと微笑んで会釈してくれた。
「副社長がおっしゃるとおり、ご自身にそういうつもりがなくても、相手を不快にしたり、もしくは都合よく勘違いされて迫られたりする場合もあるので気をつけたほうがいいかもしれません」
「なるほど……。言われてみれば、確かに以前そういう事がありました。仕事関係で知り合った人の個人的なパーティに呼ばれた時、シャンパンを飲みながら話していたら急に二人きりになりたいと言われて――」
雄大から聞かされたいくつかのエピソードは、明らかに相手側の勘違いによるものだった。
彼には、まったくそんなつもりはなかったようだが、ビジネスによる繋がりであっても、きっかけさえあれば恋愛に発展してしまう。
そうしたつもりがないなら明確な線引きが必要だし、誤解を招くような言動をしてはならない。
愛菜が遠慮がちにそう告げると、雄大が真摯な顔つきで頷いた。
「肝に銘じます」
それからしばらくの間あれこれと話をしてみた結果、雄大の恋愛に関する知識は限りなく乏しく、女性の扱いに関してもマナーに則ったものに限られているのがわかった。
当然、恋愛における男女の機微や駆け引きなど、まるで理解していないようだ。もともとの性格もあってか、彼はとても正直で嘘がない。
しかし、そんな雄大の印象と、今目の前にいる彼の外見には、大きなギャップがあった。
見るからに落ち着きのある紳士だし、女性に対しては丁寧で話題も面白く会話が弾む。
それなのに、彼からは色恋に関する欲をまったく感じない。これほどのスペックがあれば、望んだらすぐにでも恋人ができそうなものなのに、彼の女性に対する興味のなさに驚かされる。
これは、思っていた以上に手がかかるかも――
愛菜はもうひと口ワインを飲み、グラスをテーブルの上に置いた。
「そういえば、先ほど『相手が賀上さんでなければ、僕も同意していなかった』とおっしゃいましたが、それはどういう意味でしょうか?」
「ああ、それはそのままの意味ですよ。さっきは、はじめましてと言いましたが、実は賀上さんの事は以前から知っていました。何度か社内でもお見掛けした事があるんですよ。直近だと、二日前の金曜日に、会社の大会議室前の廊下で――」
「えっ、気づいていらっしゃったんですか?」
「もちろんです。それに、少し前に賀上さんが発案したマーケティング部の提案書を読みましたが、とてもよかった。あれ以外にも、実に有益で面白いアイデアを出してくれていますね」
「恐縮です。まさか、副社長が私の事を気に留めていてくださったとは思いませんでした」
「優秀な社員は普通に仕事をしていても目立ちますからね。それに、馬場部長からも何度か賀上さんの話を聞いています。着眼点が良くて頭の回転も速いと」
自分の仕事ぶりをきちんと評価されていると知って、愛菜は素直に喜んでにっこりと笑った。
「馬場部長は、部下の使い方が上手いというか、能力を引き出す術に長けていらっしゃるんだと思います。ある程度こちらに判断を任せてくださるし、躓いた時にはすぐに手を貸していただいたりして――」
部下のアイデアを横取りしようとした田代部長とは大違いだ――とは言わないが、そう思いながら、馬場が自分を褒めてくれていた事を嬉しく思った。
その後も仕事に関する話で盛り上がり、気がつけば二人のグラスが空になっている。
「少し喉が渇いたな。僕はシャンパンを頼みますが、賀上さんもいかがですか?」
咄嗟に辞退しようとしたが、確かに喉が渇いていた。お酒を交えての会話については、さっき話したばかりだし、雄大の言葉を素直に受け取っても問題ないだろう。
「ありがとうございます。では、もう一杯だけいただきます」
雄大が頷き、二人分のシャンパンをオーダーする。すぐに運ばれてきたグラスで二度目の乾杯をしたあと、雄大に話題を振られるまま、新田証券における今後のマーケィング戦略について楽しく語り合った。
会話は思いのほか盛り上がり、二人は、ごく自然な感じで互いの個人的な連絡先を交換し、次の約束をする。
「では、次の土曜日に、またこの場所で」
「はい、楽しみにしています」
あっという間に二時間が経過し、愛菜は雄大とともにホテルの前に出る。彼に見送られながら待機していたタクシーに乗り込み、閉じたドアの窓越しに会釈をした。
にこやかに微笑んでいた雄大が、愛菜に向かって手を振る。
うっかり手を振り返しそうになったが、すんでのところで持ち上げた右手を左手で押さえた。
タクシーがホテルの敷地を出ると、愛菜は一気に脱力してゆったりとシートにもたれかかる。
(終わった……)
しかし、ホッとしたのも束の間、シートから背中を離し渋い顔をする。
思いがけず仕事ぶりを評価されたのが嬉しくて、ついあれこれと話し込んでしまった。場が盛り上がったのはいいが、あれではただの上司と部下の会話だ。
仮にも今日はお見合いをしに来たというのに、初手から失敗してしまったかもしれない。距離は縮まったけれど、二人の間には恋愛要素など皆無だ。
(私とした事が、何やってんのよ。こんなんじゃ、会長の期待に応えられないじゃないの)
愛菜は猛省し、次こそは上手くやろうと心に誓った。
それはそうと、雄大があれほど気さくで接しやすいとは思わなかった。
性格は明るく、真面目。それに、話し上手であると同時に聞き上手でもある。ハイスペック男子に見られがちなおごった様子もない。
彼は婚活においては間違いなく優良物件だ。
たった二時間ではあるけれど、愛菜はすでに雄大に対して好印象を抱いている。
雄大はスペックも人柄も問題ないし、恋愛に不慣れだとしても、女性に対して苦手意識を持っているわけではない。
初対面であれほどスマートに振る舞えるなら、何も心配いらないのでは?
むしろ、わざわざ愛菜に依頼したりせず、彼にふさわしい相手と普通に見合いをしたほうがよかったのではないかと思うくらいだ。
(でも、会長が直々に私に頼んできたくらいだもの。実際に恋愛をする前に、多少なりとも経験を積んでおいたほうが安心よね。次に会う時には、副社長が女性を恋愛対象として意識できるようになってもらわないと……)
それこそが、愛菜が果たすべき目的のひとつだ。
この先、いざ本気で見合いや恋愛をする時、雄大が困る事のないよう試験的に付き合って恋愛に慣れてもらう。
そうなれば、自然とその時々にふさわしい言動が取れるようになるに違いない。
『あれはとても利発な子だ。賀上くん、雄大をよろしく頼むよ』
幸三の言葉を思い出しながら、改めて自分の役割をしかと心に刻み込む。
愛菜は今一度タクシーのシートにもたれかかり、腕組みをして今後について考えを巡らせた。
そして、帰宅するなり今日の報告をすべく幸三から渡されたスマートフォンを取り出し、電話に出た彼に雄大とともに過ごした二時間の報告をするのだった。
雄大と見合いした週の土曜日、愛菜は前回と同じ場所、同じ時間に彼と待ち合わせをしていた。
前回は仕事の話がメインになってしまったが、今回は本来の役割をしっかり果たすつもりでいる。
引き受けたからには、確実に結果を出すのは当たり前だ。
且つ、できるだけ短期間で終えられるよう、計画的にプランを進めねばならない。といっても、仕事熱心で出張も多い雄大は、プライベート返上で忙しくしている様子だ。
前回、今回と二回にわたってデートの時間を確保できたが、今後の予定を調べたところ、来月の半ばまで週末のスケジュールは埋まっていた。
できるだけ短期間で終わらせたいと思っているが、こればっかりは雄大のスケジュール次第になりそうだ。
しかし、これくらいでへこたれるような自分ではない。
愛菜は雄大との付き合いを段階的に進められるよう計画を練り、三カ月でひととおり終わらせられるようスケジュールを組んだ。
方針が決まったら、あとはそれを実行するのみ。
上手くいけば報酬が得られるし、自分のキャリアアップにも繋がる。さらには停滞している自分の婚活状況から脱却するきっかけになってくれるかもしれない。
そう期待できるほど、雄大は魅力ある人物だ。
本気の恋愛をする事はないにしろ、こんな機会を与えられた自分は、とてつもなくラッキーだと言えるだろう。
待ち合わせの時刻は、午後三時。
前回は相手が副社長だから、肩に力が入りすぎていたのかもしれない。
(今日は一緒にカフェでお茶をして、そのあとで街ブラ。その間に、もう少し距離を縮める。ただし、今日は仕事の話はナシ! それからの予定は、二人で話し合って決めるって事でいいよね)
思っていた以上に恋愛経験値が低い雄大だから、できるだけハードルを低く設定してみた。
そんな事を考えながらクローゼットの扉を開け、あらかじめチョイスしておいた洋服を取り出す。
薄紫色のカットソーはボートネックで、袖はふんわりとしたデザインだ。それに合わせたフレアスカートは白地に花模様があしらわれており、膝下十センチの長さがある。
どちらも新品ではないものの、ベルトとハイヒールを合わせればカフェデートにもマッチするお気に入りだ。
仕事に行く時はいつも原色に近い色合いのものを選ぶ愛菜だが、プライベートではパステル調の淡い色合いのものを好んで着る。
会社では常にバリキャリのイメージを崩さないが、本来の愛菜はゆるふわのコーディネートが大好きなのだ。
幸三からは相手が雄大だからといって無理や遠慮はしなくていいと言われているし、今回は本来のスタイルで行くと決めた。それに、そのほうがやりやすい。
ファッションに合ったメイクとヘアスタイルを施し、すべての準備を終えて、部屋の隅に置いてある姿見の前に立つ。
「うん、いい感じ」
前回は格好も会話も堅苦しさが否めなかったが、雄大は思っていたより話しやすかったし、今日はもう少しプライベートについて探ってみようと思う。
鏡に映る自分を見ながら、愛菜はふと前回会った時の雄大の顔を思い浮かべた。
飾り気がなく自然な立ち居振る舞いに、屈託のない笑顔。
仕事の話に終始してしまったものの、彼との会話は本当に楽しくて実のあるものになった。
(それだけでも、この話を引き受けてよかったと思えるよね)
お見合いについての報告は、すでに幸三と健一郎ともに済ませている。
どちらも電話で連絡をしたのだが、健一郎との通話はものの数分で終了したが、幸三とは思いがけず長電話になり、一時間近く話していた。そこで愛菜は、これまで明かされなかった雄大に関する事実を聞かされる事になった。
雄大は幼い頃から神童と言われるほど優秀で、その資質を最大限に伸ばすべく小学校卒業後イギリスに留学した。それは彼自身が希望し、両親も賛同して実現した事だったらしい。その後、彼は現地で最高の知識と社交術を身に着け、卒業後はそのままイギリスの大学に進学した。
そこまでは、誰が見ても順風満帆な人生を歩んでいた彼だが、大学に入って一年後、車の運転中の事故で大怪我を負った。
優秀な医師たちのおかげで手術は成功。しかし、彼は目を覚ます事なく、昏睡状態のままベッドで二年を過ごす事になってしまったのだという。
その間、雄大のそばには母親の恵理子が常時付き添っていたらしい。献身的な母親の思いが天に通じたのか、その後、雄大は奇跡的に意識を取り戻した。
それ以後、雄大は体力の回復とリハビリに励みながら大学に復学して、以前にも増して熱心に勉強に励んだようだ。
『幸い、後遺症もなく、驚くほど優秀なビジネスセンスを身に着けた大人になった。妻もたいそう喜んで、雄大のそばでサポートを続けていたんだが――』
優秀な成績で大学を卒業した雄大は、新設された新田証券ロンドン支局に就職する。そこが軌道に乗ったのを機に、帰国して本社勤務になる予定だった。
けれど、そこでさらなる不幸が雄大を襲う。
母親の恵理子が病に倒れ、急逝してしまったのだ。それにより、帰国が予定より半年遅れ、ようやく今年の春に本社勤務が叶ったのだった。
『ちなみに、この事を知っているのは親族のみで、それ以外で教えたのは賀上くんがはじめてだ』
幸三にそう言われて、愛菜は知った事実はぜったいに口外しないと彼に誓った。
それにしても、まさかそんな事があったなんて――
超がつくほどのハイスペック男子なのに、女性慣れしてないなんておかしいと思っていた。
けれど、それほど大変な過去があったなんて考えもしなかった。
大勢の部下に囲まれて廊下を歩いていた雄大を見た時、愛菜は彼を極めて優秀な苦労知らずのおぼっちゃまだと思った。
だが、彼の辿ってきた道を知った今は、そんなふうに思っていた自分を恥ずかしく思う。
(人を見た目で判断しちゃダメって、十分すぎるほど理解してたはずなのに)
婚活においては、相手の人柄を正しく見極める必要がある。婚活を始めた当初こそ見た目に惑わされて失敗する事もあったけれど、今ではかなり正確にその人の本質を見極められるようになった。
婚活でいい結果を出せていないが、人の本質を見極める目だけは養われたと自負していただけに、情けない限りだ。
こうなったらいっそう気を引き締めて、この仕事をやり遂げなければならない。自分は人に教えられるほど恋愛経験が豊富なわけではないが、ぜったいに雄大を素敵な恋愛結婚ができるようにしてみせる!
愛菜は気を引き締め、意気込みも新たに待ち合わせのイタリアンカフェに向かう。
二度目とはいえ、やはり緊張はする。時間どおりに店に着き、前と同じ席で待っている雄大を見つけて、背後から声を掛けた。
「副社長、こんにちは」
「こんにちは、賀上さん。今日も来てくれてありがとう」
そう言いながら立ち上がった雄大は、濃紺のテーラードジャケットに淡い空色のシャツを合わせ、ドット柄のネクタイを締めている。
にこやかな表情をした彼が、愛菜に向かって大きな花束を手渡してきた。深紅の薔薇がメインになっているそれは見るからに豪華で、両手で持つと顔が半分隠れてしまうほどの大きさがある。
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