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第一章 今生の出会い
11 王女のもくろみ
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ロザリンド王女曰く――語る内容はまるで未来を見てきたかのようで、ヨルナとサリィは、引き込まれるように聞き入ってしまった。
「サジェス兄上はこのあと、夜会で一目惚れ予定の伯爵令嬢がいるわ。トール兄上はヨルナ嬢の公算が高い」
「!! わ、私……???」
「まぁっ」
申し訳ないが嬉しくはない。とにかく意外性と驚きが勝り、ヨルナはぴしり、と固まった。一方で嬉々と顔を輝かせるサリィの姿がある。
ロザリンドは、辟易といった様子で肩をすくめた。
「言っとくけどね。トール兄上は真性の変態よ。生身の女性に興味がないの。ご自身で研究されてる魔法の花が唯一の関心対象だもの。残念だったわね、アーシュじゃなくて」
「いえ。そもそも私は、特定のかたには……って。ちょ、ちょっとお待ちください、王女殿下」
「なによ」
すらすらと淀みなく喋るロザリンドのペースに、すっかりはまりつつあったヨルナは、慌てて挙手した。
王女は、うろんな目つきで言葉の続きを促している。
ごくり、と喉が上下するのを感じた。
なぜだろう。すごく緊張する。
「――ひょっとして。殿下は予知能力がおありなんですか」
「まさか」
馬鹿馬鹿しい、と言わんばかりの口ぶりに、ほっとしたような。がっかりしたような。
が、次の瞬間。気のせいでなければ、とても悪どい表情で微笑まれた。
「あんたたちには、絶対わからないわ。だって私、この世界を生まれる前から知ってる。――ぜんぶ、ゲームなのよ。“ロザリンド”は悪役王女。ヨルナ、あんたが正ヒロイン。だから、あんたさえ望めば、実はどの王子とも結婚できる」
「……………………は?」
たっぷり六秒は間を空けて、呆けるように訊き返した。
気のせいだろうか。パワーワードが目白押しだった。
ロザリンドは炎色の髪を揺らし、やれやれと頭を振る。それから、ぴたり、とヨルナの鼻先に人差し指を突きつけた。
今まで見てきた彼女のなかでは、一番キリッとした顔だった。
「だ か ら! これは乙女ゲームなの。わたし、前世ではそりゃあ鬼のようにやり込んだのよ? “ロザリンド”は二週目以降に選べる隠しヒロインで、なんと追放後に飛ばされる場所次第でヒーローが確定するシステム。当時は滅茶苦茶画期的だったわ。ちなみに私の推しは魔族だから、なんッッッとしても、最大最悪レベルの素行不良で両親から追放してもらう必要があるの。もー、わかった?」
「…………」
「……ええと」
不覚にもわかる。わかってしまった。
一応地球の日本で暮らしていましたからね。
手は出さなかったけど、そういう一大ジャンルがあるのは知っている。確か。
「つまり、それは、“逆ハーレム”……?」
「姫様までいったい何を」
「あらぁ」
ぼうっとした弾みで、つい、古い記憶の単語がこぼれ落ちてしまった。
サリィはかわいそうに、理不尽なアウェー感に苛まれている。
ロザリンドは、ぎらりと水色の瞳を輝かせてヨルナににじり寄った。つ、と人差し指でちいさな顎をもたげ、まじまじと首を傾げて眺め見る。
「まさか……。あんたもなの? ちょ~っと、ゲームの“ヨルナ”とは反応が違うなって思ったのよね」
「あ、はい」
「? 姫様!?」
――――――
かくして。
うっかり転生者とバレた“私”は、ロザリンド追放計画に荷担するよう、それはしつこく言い含められてしまった。
「サジェス兄上はこのあと、夜会で一目惚れ予定の伯爵令嬢がいるわ。トール兄上はヨルナ嬢の公算が高い」
「!! わ、私……???」
「まぁっ」
申し訳ないが嬉しくはない。とにかく意外性と驚きが勝り、ヨルナはぴしり、と固まった。一方で嬉々と顔を輝かせるサリィの姿がある。
ロザリンドは、辟易といった様子で肩をすくめた。
「言っとくけどね。トール兄上は真性の変態よ。生身の女性に興味がないの。ご自身で研究されてる魔法の花が唯一の関心対象だもの。残念だったわね、アーシュじゃなくて」
「いえ。そもそも私は、特定のかたには……って。ちょ、ちょっとお待ちください、王女殿下」
「なによ」
すらすらと淀みなく喋るロザリンドのペースに、すっかりはまりつつあったヨルナは、慌てて挙手した。
王女は、うろんな目つきで言葉の続きを促している。
ごくり、と喉が上下するのを感じた。
なぜだろう。すごく緊張する。
「――ひょっとして。殿下は予知能力がおありなんですか」
「まさか」
馬鹿馬鹿しい、と言わんばかりの口ぶりに、ほっとしたような。がっかりしたような。
が、次の瞬間。気のせいでなければ、とても悪どい表情で微笑まれた。
「あんたたちには、絶対わからないわ。だって私、この世界を生まれる前から知ってる。――ぜんぶ、ゲームなのよ。“ロザリンド”は悪役王女。ヨルナ、あんたが正ヒロイン。だから、あんたさえ望めば、実はどの王子とも結婚できる」
「……………………は?」
たっぷり六秒は間を空けて、呆けるように訊き返した。
気のせいだろうか。パワーワードが目白押しだった。
ロザリンドは炎色の髪を揺らし、やれやれと頭を振る。それから、ぴたり、とヨルナの鼻先に人差し指を突きつけた。
今まで見てきた彼女のなかでは、一番キリッとした顔だった。
「だ か ら! これは乙女ゲームなの。わたし、前世ではそりゃあ鬼のようにやり込んだのよ? “ロザリンド”は二週目以降に選べる隠しヒロインで、なんと追放後に飛ばされる場所次第でヒーローが確定するシステム。当時は滅茶苦茶画期的だったわ。ちなみに私の推しは魔族だから、なんッッッとしても、最大最悪レベルの素行不良で両親から追放してもらう必要があるの。もー、わかった?」
「…………」
「……ええと」
不覚にもわかる。わかってしまった。
一応地球の日本で暮らしていましたからね。
手は出さなかったけど、そういう一大ジャンルがあるのは知っている。確か。
「つまり、それは、“逆ハーレム”……?」
「姫様までいったい何を」
「あらぁ」
ぼうっとした弾みで、つい、古い記憶の単語がこぼれ落ちてしまった。
サリィはかわいそうに、理不尽なアウェー感に苛まれている。
ロザリンドは、ぎらりと水色の瞳を輝かせてヨルナににじり寄った。つ、と人差し指でちいさな顎をもたげ、まじまじと首を傾げて眺め見る。
「まさか……。あんたもなの? ちょ~っと、ゲームの“ヨルナ”とは反応が違うなって思ったのよね」
「あ、はい」
「? 姫様!?」
――――――
かくして。
うっかり転生者とバレた“私”は、ロザリンド追放計画に荷担するよう、それはしつこく言い含められてしまった。
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