マスカレード〜祝祭の王が見初めし花嫁は〜

汐の音

文字の大きさ
8 / 11

8 決戦! 〜アレクとシルバ〜

しおりを挟む
「さあ、賭けた選手は残ったかい!? 残りはいよいよ決勝戦! しかも、ふたりとも可愛い子ちゃんだ!」

「「「「うおぉぉぉ!!!!」」」」

 王家が主催する魔法トーナメント、その決勝杯。全七試合のうち、第六試合までを終えた会場は異様な熱気に包まれていた。
 何しろ、決勝進出者がふたりとも立ち姿のうるわしい精霊若君。

 ……――に、扮した少女にも見えるのだから。

 本戦開始前に賭博券チケットを売りさばいた売り子たちの威勢のよい煽り文句に、酔いの回った男性陣の一角からは野太い怒号が響き渡る。
 なかには「チクショオォ!」と叫ぶ可哀想なお父さんもいたが、それはそれ。みな、その瞬間を待ち侘びていた。
 すなわち黒衣の金緑石アレキサンドライトと狐面のシルバ
 勝利の女神がほほえむのは、いったいどちらなのか――。

 国王が宣言したとおり、今年の優勝者と準優勝者にはクリソベリル王女への求婚権が授けられる。もっとも、どちらかが確実に王女自身である以上、そのことも余計に観衆の関心に火を付けるのだが。

 とくに、観客席できゃあきゃあと騒ぐ女性陣の大半は王女の熱烈なファンであり、予選リーグの早い段階からアレキサンドライトをと見抜いていた。
 従って、もう片方の少年こそが話題の燃料となっている。


「ねえねえ、やばいわ……! あの子、姫と同じくらいの背格好じゃない? 下手すると年下なんじゃないの?」
「ばっかねぇ、それがいいんじゃない。平民のあたしらだって、相手の年がふたつ三つ下くらい、何なのさ」
「え~、まあ、そうなんだけど」

 もごもごと口ごもる仮面を着けた少女は、所在なさげに胸の前で指を組み変えた。

「姫、強い殿方のほうが好きなんじゃない? だって、無理やり決められた相手が自分よりも弱くて、しかも年端もいかない男の子だったりしたら」
「お気の毒ってこと?」
「うん……」

 眉を下げる少女に、居合わせた友人が訳知り顔でちっち、と舌を鳴らした。いわゆるドヤ顔で彼女を諭し始める。

「わかってないわねぇ。いい? 男子たるもの、成長はあたしらより遅いけど、伸び始めたらあっという間よ。例えばあそこのシルバ君。彼が十三歳くらいとして、姫は今、十八歳。想像しなさい、おふたりの四年後を」
「はっ………………!? そ、それは」
「わかるでしょ?」
「「「わかる!!!」」」

 たちまち一致団結。どこまでも恋や結婚に夢を見ていたいお年頃の少女たちは、いっせいに頷いた。

 クリソベリル王女は、普段から気さくに城下に出てきてくださる、親しみやすい王族だ。むしろ仮装したときのほうが謎めいて口数が少なく、近寄りがたい。それがいっそうの魅力となっている。

 彼女たちが「シルバ=仮面を取れば超絶美少年」という、ふわふわした夢にうっとりしたところで、おもむろに会場の空気が変わる。

「あ」
「出られたわ。始まるわよ……!」

 眼下の平たい敷石が詰められた正方形の魔法領域フィールド
 そこに、ふたつのほっそりとした人影があった。


   ◆◇◆


 ――開始の鐘が鳴り、早々に動いたのはアレクだった。

(っ!)

 立っていた位置から飛び退すさり、シルバことアウロラが口のなかで呪文を唱える。全文ではなく短縮詠唱だ。でなければ対応できない。
 流石、先手必勝の魔法トーナメントだと肝を冷やす。目の前では成人男性ひとりを楽に包めるほどの火柱が踊っていた。

 いやいや王女。殺傷能力高すぎやしませんかと胸中で突っ込む。

「降りよ、重き風の槌。囲め、氷檻!」

 とたんに轟、と背後から風圧が吹き抜け、アレクへと向かっていった。魔法による風上をとってから、炎の反対属性による直接攻撃。
 もうもうと水蒸気でけぶる視界に、試しに風刃を投げ込む。しかし、涼やかな声が聞こえ、刃も霧も容易く取り払われた。

「大気の精霊、旋回! つぶてよ散れ!」
「……くっ。水精、守って」

 アレクの言葉どおりに視界が晴れ、あまつさえ無数の砂粒が集まり、広範囲で飛んでくる。
 とにかく速い。避けられないと悟り、苦し紛れに水壁を張って、辛うじて防ぐことができた。

 バシャン! と、礫を絡め取った水が地に落ちる。
 パチパチ、と、アレクは感心したように拍手していた。嫌味ではなく、本当に称えてくれているようだ。

「すごいね。こんなに防がれるのも、攻められるのも初めてだ。どこで習ったの?」
「それは……エーセルブラン……って! 何を喋らせるんだ、試合中に!?」
「へえ。エーセルブランシュ。学都だね、いいな、私も行ってみたかった」
「……お……、アレク」
「偉いねシルバ。私を、『私』と知っても普通に接してくれる。好きだよ、そういうの」
「ありがとう。でも、……攻撃しながら余裕で告白されるのも、何だかなぁ」
「おや失礼」

 まるでダンスのステップを踏むように軽やかに、予選リーグでシルバが見せた氷槍をレイピアに変えて突き出してくる。
 遊ばれているような気がした。
 むしろ、遊ばれている。


(遊ばれ……)

 多少は体術の心得もある。あやうげなくそれらを躱し、それでもムカムカとするものがあった。

 そりゃあ、一国の世継ぎの姫ともなれば、婿選びは大事だろう。自由に振る舞えないことのほうが多い。学都に行きたかったというのも、まんざら嘘ではなさそうだ。それでも。

(~~あの女装男といい、勝手に手のひらに乗せて弄ばれるのは……、好きじゃない!!)

 躊躇が消えた瞬間だった。
 また、抑えていた本気がぎらりと顔をのぞかせた瞬間だった。

「――火精よ来たれ! 風よ、道となれ! 溶かせ、その金の環を!!!」
「なっ……え?」


 ボウウッ!!


 ひと筋の鋭い突風に、わずかだが火がともる。狙い定めた攻撃は寸分違わずアレクの左手首を直撃した。「あちっ」振り払った腕から粉々になった腕輪が剥がれ落ちる。


「――――――!!!! 勝者! シルバーーー!!」


「う」

 無様だけれど、はぁ、はぁと肩で息をつく。片膝をつくと額から汗が滴った。つい、残りの魔力を全部、あの一撃に注いだ弊害だった。
 すい、と、目の前に黒い手袋の手が差し出される。
 正真正銘、今度こそ感嘆の表情のアレクだった。目元を覆う仮面越しでもわかる。

「すごい。。初めてだ」
「どうも……うわっ!?!?」

 ぐいっと引っ張り上げられ、倒れそうになったところを抱きとめられた。
 一拍遅れての大歓声。悲鳴。拍手と足踏みに地鳴りまでするようだ。
 目を白黒させていると、こっそりと口元を耳に寄せられた。アレクは、いたずらな声で囁いた。

「おめでとう。よかったら、夜が明けて人の子に戻った『私』とも友人でいて欲しい。聞かせてほしいな、学都のこと。憧れなんだ」

「よ」


 ――――喜んで、と伝えようとした。
 そのとき。


。いつまで、くっついてるんだ……!!」
「へっ!?」


 突如、つむじ風とともに現れた声の主にもぎ取られ、腕のなかに閉じ込められた。

「あ、貴方。なんで!?」

 ふぁさりと顔の横に光の滝のような金の髪が降りかかる。見上げた顔は仮面で隠されていたが、紛うことなき麗人――ただし男性(※おそらく)がいた。

 夢で、アウロラに不埒な真似を働いた。
 あの男だった……!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

処理中です...