僕らがそれを越えるまでは

どぶねこ

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迷える希望のあの頃

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「……はい…?」


困惑の表情を浮かべる青年。

それもそのはず。
知らない男が突如部屋に勢いよく入って、意味不明な言葉を叫んだのだから。


静寂と気まずさに包まれる空間で、もちろん牧田はあせっていた。

(やってしまったーーーーーーーーーーーーーーー)

冷汗がとまらない。
余りの興奮に反射的に自分でもわけのわからない言葉を発していた。
ここからどう挽回すればいいのか、いつもの優秀な牧田であれば思考が回ったかもしれないが、いま彼の頭の中は完全に真っ白だった。
とりあえず何か言わなければという思考のみが先走る。

「あ、えっと突然、ごめんなさい、怪しいものではないんだけど、、、っていうと怪しいものに思われるかもしれないけど、ほんとに怪しいものではないんだ、あ、えっと、名刺名刺」

焦った手つきでポケットの中にある財布から名刺を取り出し、青年の前へと両手で差し出す。

「改めまして、僕はTWエンターテイメントでアーティストのスカウトをしている牧田亮平といいます。」

まだ突然の出来事に困惑気味がぬけず、おずおずと差し出された名刺を受け取る青年
受取った名刺を見て「はぁ、、、」という当惑の相槌しか返ってこなかった
そんな様子を焦った牧田は弁解しようとする。

「あの、その、本当に怪しい会社とかではなくて、TWエンターテイメントってもしかしたら聞いたことないですかね?最近ですと、えっと、LEOとかDYDとかが所属している一応大手の芸能事務所といわれているのですが、、、」

(しまった、男の子だから女性アイドルグループの方が知ってたかもしれない)
牧田は的外れな心配をしていた。

「はい、TWエンターテイメントは聞いたことあります、、、、でも、その方が突然何の用でしょうか」


青年は少し落ち着いたのが警戒心を含ませた少し強い言い方で牧田に問う。
そんな彼の様子に多少冷静になってきた牧田は気を引き締めて発言をする。

「まずは突然部屋に乱入して驚かせてしまってごめんなさい。
結論から申しますと君にはぜひTWエンターテイメントに来てほしくて声を掛けました。」

青年は目を大きく見開く


「…え、スカウト?、俺を?」

「はい、そいいうことです。」

「……まじか」

青年は先ほどとは違う意味で大困惑していた。
この様子だと自分がスカウトされるなんて想像したことない、というような反応だった。

「ちなみに今おいくつですか?」

「17です」

「高校2年生?3年生?」

「2年です…」

(よし、今から練習生始めるには少し遅いが悪くない。こんな逸材が逆によく今まで埋もれて見つからなかったな…自分がまさか、みたいな感じだし。あまり都会とか行かない感じか?)


「もしかして芸能界とかあまり興味がないですか?」

「いや、その正直考えたこともなかったというか…」

「では他に将来やりたいことが?」

「…いいえ、ぜんぜん」

青年は気まずそうな顔をしていた。

改めて青年の容姿を見れば見るほど、青年の自分がスカウトを受けたことが信じられないという様子自体が信じられなかった。
一重で少し釣り目がちな大きな黒目が印象的なきらきらして吸い込まれそうな瞳、高すぎず低すぎないきれいな鼻筋、パーツがバランスが良く配置されており、女顔ではないがどこかあどけなさを残す不思議な印象を与える顔。正統派な顔ではないが何故か頭に残る、そんな雰囲気を持っていた。
何よりも近くで見ると肌がとんでもなくきれいだった。そして、頭顔の大きさがおそらく顔が小さいと言われる女性と並んでも遜色がない小ささで、細身だが手足の長さが服越しでもわかる、等身バランスが尋常じゃなかった。


「高校2年生ということは進路についても悩み始める時期ですよね?大学進学を考えてますか?」

「はい、、、一応」

「一ミリもアーティストになるという可能性はないですか?学業と並行して活動しているアーティストもいますし私達の会社は全面的にサポートできます」

「えっと、その」

畳みかける牧田の突然の質問に青年は押されていた。
しかし、牧田は口を止めることはしなかった、いや止められなかった。

「君は絶対にアーティストになるべきです。部屋の外から聞こえたあなたの歌声に僕は感動しました。こんなにきれいな歌声は初めて聞きました。歌は習ってましたか?」

「え、いや、全然です。」

「では独学ですか?」

「えっと、独学っていうか、ただカラオケで歌ってるしか、ないですけど…」

(天才かもしれない)
何年も練習生期間を経てデビューした事務所のアイドルと比較してもそれと同等以上のうまさたっだため、多少何かしら習っているかと思っていた牧田だったが、まさかカラオケだけとは驚きを隠せなかった。

「すごいね…それであんに上手いなんて…、周りの友達から歌手になったらとか言われたことないですか?」

「あるにはあるけど、お世辞かと…」

「絶対お世辞ではないです。本当に上手です。プロを見てきた僕がいうので間違えないです。」

そう真剣にストレートにいう牧田の言葉に少し照れくさそうにする青年。
「ありがとうございます、、、」とつぶやく姿は優れた容姿も相まってか牧田の封印されていたオタク心がうずいた。

「何よりも君はビジュアルがいいです。学校でもモテますでしょう?」

「いや、その、中高男子校なのでそんなことないです。」

「男子校なんだ!でも告白されたことくらいあるでしょう」

「まぁ、ありがたいことに何回かありますけど、、、」

ここまで彼と話していてまったく彼から傲慢さが感じられないことから何となく性格もいい子と牧田は確信しており、それに加えてこのビジュアルでモテないはずがないだろ!と心のなかで突っ込んでいた。

「ですよね!
とにかくその君の歌声は絶対に歌手になるべきです。
どんな雑音の中でも引きこまれる君のその才能に僕は一瞬でほれ込みました」

牧田は熱量勢いのまま、名刺を持った青年の手を握る

「芸能界は確かに甘い世界ではないし、成功するのはほんの一握りです。
でも、僕は君のその歌声が世界中の人に届く姿が見たい。
ぼくはきみの才能にはその力があると確信してます。
だからこそ今ここで君との出会いをいちスカウトマンとして、いちファンとして見逃すことができません。
もし少しでも可能性があるのなら僕たちのところへ来てほしい」

まぎれもなく心からあふれる本心だった。牧田は握った手の力が自然と強くなっていた。


そんな牧田の言葉になんて返せばいいか迷っているのか牧田の目を見つめながらも口を閉ざす青年。

つい数分前まで芸能界のことなど一ミリも頭になかったのだから彼の戸惑いも当たり前だった。

「突然のことで君が戸惑うのも当然です。今すぐ答えなくても大丈夫だから、少し考えてみてほしい。もしそれでちょっとでも興味が出てきたらこの名刺に書いてある電話番号でもメールにでも連絡をしてください。」

青年は改めて手に握った名刺を見つめた。
その表情に困惑が浮かび上がっていたため、牧田は自分が強く握ったことによるものだと思いあわてて、
「あ、手、ごめんなさい!」
と言って、バッっと手を離す。

「い、いいえ、大丈夫です……」

気まずい空気が漂う室内。

本当は彼の詳細な情報を問いただしたいところだが、今日はここで一回引くべきだとスカウトとしての勘がそれを止める


「大分混乱させてしまったし、もう出ていくね。これ以上邪魔するのは申し訳ないので…
改めて本当にすいません、突然変な感じで入ってきて驚かせてしまって……」
牧田は改めて青年に向かい腰を折って謝罪をした。

「あ、えっと、いいぇ、大丈夫、です」

「ありがとうございます……それでは、僕は失礼しますね…」

牧田はもう一度軽く会釈をすると青年もそれを反射的に会釈で返す。
青年に背を向けドアに手をかける。
牧田はまた突発的に体だけもう一度青年の方へ向け、
「本当にいつでも連絡して!僕ずっとまってるので、絶対に連絡してください」

と、言い残しそのまま部屋を後にした。

残されたのは牧田の名刺を見つめた困惑した青年だけだった。







これが、後に世界を席巻することとなる彼らの始まりとなる。










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