二度目の永遠 ~ある夏にコロラドで見つけた牧場主との運命の恋~

泉野ジュール

文字の大きさ
16 / 41
【乃亜の章】

「君にできることはないと思うよ」③

しおりを挟む

「あ……」
 乃亜は片手でそっとつばの先端を触ってみた。麦わら帽子のような柔らかい触感を想像したのに、もう少し硬くてずっしりした重みがある。
「ありがとう……ございます」

 ダグラスの返事は、無言でうなずくというものだった。逆にチャンピオンの方がなにか言いたげにフンフンと鼻を鳴らしている。
 乃亜はじっとダグラスを見つめて、彼がなんらかの指標を示してくれるのを待った。
 ……だって馬に乗っていいなんて言われても、どうしていいのか想像もつかない。

 しばらく経って、乃亜が凝視してくる意味をダグラスは理解したらしかった。ふぅっと深いため息をつくと、乃亜に向かって手を伸ばしてきた。
「掴まってくれ」
「え」
 どこを?
 ……と問う間もなく、ダグラスの腕が乃亜の腰に回される。

 ふわりと軽く身体が浮いたと思うと、乃亜はチャンピオンの胴に横付けされるような格好になっていて、慌てて足を延ばした。たとえ乗馬ははじめてでも、乃亜はバランス第一のバレエをずっとやってきた経験がある。
 本能とダグラスのリードに導かれるまま鞍を跨ぐと、すとんとチャンピオンの背に乗ることができた。

「わっ、できた……」
「そこの突起を掴んで、少し腰を浮かしてくれ」
「ええっ」

 己の成功体験の感動に浸っている暇もなく、ダグラスから次の指示が飛んでくる。

 それでもなんとか言われた通りに軽く腰を浮かせてみると、チャンピオンがグッと大地を踏みしめるのを感じた。
 次の瞬間、大きな肉の塊が乃亜の背後に覆い被さってきた。なんというか……そうとしか表現できないような生々しい肉体の重みと厚み、そして……フェロモンが背中に押しつけられてきた。

「あ、あの、ミスター……マクブライト」

 真後ろにダグラスがいる! 乃亜を抱くようにして、ふたり乗りしている!
 もし自分が漫画のキャラクターだったら、乃亜の目は戸惑いにラーメンのなるとみたいなグルグル巻きになっていたはずだ。

 ダグラスは宙を泳いでいた乃亜の手を背後から取ると、鞍の先端から伸びて股の間から覗いている、二十センチほどの突起に導いた。
「手はここに」
 なるほど、これは確かに持ちやすい。
 でも!

 そうして乃亜が馬上でそれなりに均衡が取れるようになると、ダグラスは両手で手綱を引き寄せた。

 乃亜はもう完全に彼の腕の中に包まれる形になり、その圧というか……熱というか……背徳感に、ふにゃりと背筋が溶けそうになった。
 ダグラス・ジョンソン・マクブライトから発される内分泌物質は、四十八時間前まで日本でおひとり様をしていた乃亜が抗えるタイプのものではなく。

「一日は短いんだ。やることは山ほどある。来ると決めたならさっさとしてもらいたい。さあ」

 しかし、当のダグラス・ジョンソン・マクブライトは、乃亜のことなどその辺に飛んでいる邪魔なハエくらいに思っているようだった。可能ならぺしゃんこに潰して目の前から消してやりたいと思っているはずだ。

 ──いっそ、ハエならハエらしく!
 と、できるだけ縮こまってみるものの、ダグラスはその厚い胸板と硬い腹筋を乃亜の背中に押しつけてきた。

「まっすぐ座ってくれ。落馬されたら困る」
「は、はい」

 たとえ自ら地面にダイブしようとしても、不可能な気がする。

 遠くから見るだけでも大きくてたくましかったダグラスの身体は、こうして背後から包まれるともう同じ人類として申し訳なくなってくるくらいの体格差だった。乃亜は日本人としては小柄ではない。でもバレエのせいもあって華奢だ。
 対してダグラスはおそらくアメリカ人としてもかなり長身の部類に入る。
 190センチくらいだろうか……。
 体重はちょっと想像するのが怖かった。贅肉の類は一切感じられないけれど、筋肉は脂肪より重いというのは常識である。こんな……。
 こんな……。嗚呼!

 煩悩の塊となった乃亜と牧場主を乗せたチャンピオンは、威風堂々とした足取りで広大な牧草地に向かって歩を進めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

恋が温まるまで

yuzu
恋愛
 失恋を引きずる32歳OLの美亜。 営業課のイケメン田上の別れ話をうっかり立ち聞きしてしまう。 自分とは人種が違うからと、避けようとする美亜に田上は好意を寄せて……。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

Pleasure,Treasure

雛瀬智美
恋愛
同級生&身長差カップルの片思いから結婚までのラブストーリー。 片思い時代、恋人同士編、新婚編ですが、 どのお話からでもお楽しみいただけます。 創作順は、Pleasureから、Blue glassが派生、その後Treasureが生まれました。 作者の趣味により、極上dr~、極上の罠~シリーズともリンクしています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

【完結】京都若旦那の恋愛事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

藍生蕗
恋愛
大学二年生、二十歳の千田 史織は内気な性格を直したくて京都へと一人旅を決行。そこで見舞われたアクシデントで出会った男性に感銘を受け、改めて変わりたいと奮起する。 それから四年後、従姉のお見合い相手に探りを入れて欲しいと頼まれて再び京都へ。 訳あり跡取り息子と、少し惚けた箱入り娘のすれ違い恋物語

処理中です...