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第八話(セバス視点)
しおりを挟む(セバス視点)
「カティア・レモンド侯爵令嬢と結婚することになった」
ある日、レオナルド様がいきなり結婚を決めた。
実際は結婚を決めたのはレオナルド様のご両親――前侯爵夫妻――だったが、今まで婚約者すらいなかった主人の結婚を喜んだ――相手が、”あの”カティア様だと分かるまでは。
悪い噂しか聞かないカティア・レモンド侯爵令嬢。
彼女が夜会に出たことはなく、真偽のほどは確かめられない。
だがセバスは、火のないところに煙は立たないと思っていた。
そして、初めからカティア様に対して先入観を持っていた。
カティア様を迎えに侯爵家へと行った時、セバスは失望した。
けばけばしい下品なドレス。
オドオドとした振る舞いからは気品を感じず、彼女が公爵夫人となることに絶望したものだ。
――やはり、噂通りの人ではないか。
馬車の中で目も合わせず顔をしかめている姿からは、使用人と一緒の馬車に乗っていることへの不満を感じて。
カティア様を妻にしなければならないレオナルド様に同情した。
今ならば、自分がいかに偏った思考を持ち、理不尽な考えをしていたかが分かる。
だがその時はただただカティア様の全てが不満だったのだ。
――彼女は本当に愚かで、高慢で、わがままな人なのだろうか。
そう思える場面はいくつもあった。
質素な食事に不満を言うことなく食べるカティア様。
公爵家の金に手を付けず、一切の贅沢をしないカティア様。
執事として、侯爵家に仕えるものとして、もっと早くに疑問に思うべきだったのだ。
結局セバスは、マリアが声を上げるまで動かなかった。
自分の心にふたをして。
カティア様の噂とは違う振る舞いに気づかないふりをして。
そうして、セバスはカティアを追い詰めた。孤独へと追いやった。
マリアに言われて、ようやく調査を開始したセバスは、深い後悔に襲われる。
噂は事実無根だった。
カティア様の義母と義姉が悪意を持って流しているものだった。
むしろ、義母と義姉からいびられていたのはカティア様で。
本当のカティア様は、まっすぐで、優しく、孤独を抱える小さな少女だった。
――取り返しのつかないことをした。
たった一人で嫁いできたカティア様に対して、酷く冷たく接したセバス。
レオナルド様から顧みられない彼女を当然だと思った。
ひとり部屋に閉じこもるカティアに対し、なんて高慢なんだと蔑みもした。
全部、セバスの独りよがりで見当違いな考えだった。
高慢だったのはセバスの方だった。
調査の結果が出てすぐに、セバスはレオナルドに事実を伝えようとした。
「レオナルド様、カティア様のことなのですが……」
そう切り出したセバスに対し、レオナルドは不快そうに
「あの女の話は止めてくれ。気分が悪い」
と言って聞く耳を持たなかった。
ふと、思い出す。
カティアとルーダの勉強の様子を。
カティア様は、わずかだが笑っていた。
とてもリラックスしているようだった。
セバスが間違えなければ、きっと。
きっとカティア様は自分たちとも打ち解けてくれていただろう。
その機会を奪ったのは他ならぬセバス自身だった。
傲慢で思い上がった自分を深く反省する。深く後悔する。
――もう、間違えない。
決して笑ってくれないかもしれない。
決して打ち解けてくれないかもしれない。
だって、自分たちはそれほどの仕打ちをしたのだから。
それでも。
セバスは、もう間違えない。
小さな少女を孤独から救いたい。
カティア様に、誠心誠意。
最大限の忠誠を。
例え、自分だけでも。
例え、自分たちだけでも。
レオナルド様の分まで、カティア様に敬意を。
それが、セバスにとっての贖罪だ。
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