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第二十話
しおりを挟む「愛してる」
そうレオナルドがカティアに伝えてから2週間たったが、あの日から特に変わったことはない。
レオナルドは毎日夕食前に帰宅し、共に夕食を食べ、たわいもない話をする。
屋敷から出ず楽しい話題を提供できないカティアに代わり、レオナルドが積極的に話しかける様子にセバス達は密かに驚いていた――あの無口な旦那様が、と。それでも、カティアを大切に扱う様子に胸をなでおろし、ようやく目が覚めたかと安心した。
レオナルドはカティアに何も求めず、だからこそ不自然なほどの日常にカティアは戸惑う。
あの愛の告白の意味も。彼が何を求めているのかも。何もかも分からず不安で、レオナルドの瞳を覗き込むたびに安心する。――彼の瞳には、彼女に向けた愛情も、カティアに向けた蔑みの色もないのだから。
「今日は孤児院に行きたいのですが……」
カティアがその希望を口にした日はたまたまレオナルドの休日で、レオナルドは一も二もなく賛成し、二人は一緒に孤児院へと向かった。
マリアからカティアと子供たちの様子の報告は受けていたが、それでも彼女が子供たちと遊ぶ様子に心が温かくなる。あんなにも慈愛のこもった眼差しで、あんなにも楽しそうに駆けまわるカティアを初めて見たレオナルド。彼女が何の衒いもなく笑う姿に胸が締め付けられた。
ひとしきり駆け回った子供たちは室内でカティアの作ったケーキを頬張り、カティアとレオナルドもその様子を眺めながらお茶をすする。
そこへ院長がやって来て、ルーダからの手紙を差し出した。
「ルーダが久々に帰ってくるようですよ」
手紙には確かに、彼が長期休暇の期間に孤児院を訪れること、そしてカティアの近況を気遣う内容がしたためられていて、カティアは胸がいっぱいになる。
もう会えないと思っていた。彼との再会を望み、それでもその願いが叶うことはないだろうと諦めてもいた。
それなのに、もう一度彼に会えることが嬉しい。
彼が変わらずカティアを気にかけてくれていたという事実がとても嬉しくて、胸が温かい。
自然とほころんだ顔を、レオナルドがどこか呆然とした表情で見つめていたことなど、カティアは少しも気がつかなかった。
*~*~*~*~*~*~*~*~
ルーダという青年の話がでたときの、柔らかく、親愛の情が浮かんだカティアの表情を目の当たりにし、レオナルドはショックを受けた。
自分には決して向けられることのない、信頼と喜びとそして愛情を含んだ彼女の瞳。
彼女を虐げた自分に彼女が振り向いてくれるはずはないと知っていたはずなのに。
それでも、彼女の隣に自分の居場所がない事実が苦しくて、胸が張り裂けそうなほど辛かった。
このまま穏やかに関係を深めていけたらいいなどと考えていた自分がいかに甘ったれていたかに気付かされた。
どうして、彼女が恋を知らないと思えたのだろう。どうして、彼女に最も近い男が自分だと思えたのだろう。自分が彼女を蔑ろにしてきた過去が、今の自分に返ってくる。
礼儀作法も、貴族としての知識も、ダンスも。
何も知らなかったカティアが全てを手に入れるためにどれほど頑張っていたのか、それすら知ろうとしなかったことはレオナルドの罪。
これは、自業自得。そんなことわかっている。それでも、手を伸ばしてしまうのは、彼女を諦められないから。
恋する彼女はあまりにも美しかった。
美しく、そして儚かった。
――どこまでも自分勝手だな、俺は。
伝わらない、伝えられない想いを胸に、レオナルドは一人自嘲した。
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