定年退職後の生活は異世界でした

青山ねこまる

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プロローグ

Iターンフェアに行ってきます

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 会社を退社して10日が経った。

 うーん、暇だ。

 のんびりすると決めていたが、長年の社会人生活が抜けないのか、10日も休むと何だか落ち着かなくなる。

 「そろそろ、引っ越し先を決めようと思うんだけど、どうかな」

 リビングでお茶を飲みながら、台所にいる優希に声をかけた。

 「私も、パート先に辞める事を伝えたし、いいんじゃない?」

 台所で洗い物を終えて自分のお茶を持ちながら、優希がリビングへ入ってくる。

 山田  優希  45歳、自分が務めていた会社で知り合った後輩だ。
 ぱっと見30歳ぐらいにみえ、40代とは思えない美人で自慢の妻である。
 入社当時はその美貌が有名で、自分と結婚するとなった時は、大変な騒ぎとなったのは良い思い出だ。

 「で、何処に住みたいの?」

 お茶を啜りながら、優希が聞いてくる。

 「うーん、やっぱり北海道かなぁ、俺暑いの嫌いだし。」

 「北海道ねぇ、行ったことが無いから、富良野のラベンダー畑のイメージしかないわぁ」

 確かに、行ったことが無いとイメージが付きにくいなぁ。
 田舎でのんびりするって目的だけで退社したから、具体的な場所を決めてないのは良くないな。

 「今週末にIターン・Uターンフェアがあるから一緒に行ってみようよ」

 「そうね、予定もないし行きましょうか」

 そんなたわいもない会話をしつつ金曜日の夜、息子が数ヶ月ぶりに帰宅してきた。

「ただいま~」

「あれ?雄介じゃないか。どうした?」

 山田 雄介 20歳  小さい頃から自衛官に憧れて、高校卒業後自衛隊に入隊した。
 自衛官になる事に関して特に反対もしていなかったが、寮生活になったことで、夫婦共に寂しく感じていたのを思い出す。

 まぁ、2年も経てば慣れたものだ。

 「長期休暇が取れたからね。実家でゆっくりしようと思ってさ」

 「あぁ、成る程ね」

 「あら、お帰りなさい。晩御飯はどうする?」

 「母さんただいま、ご飯食べるよ」

 我が山田家は家族仲は悪くなく、親子で一緒に晩御飯を食べながら、これからの田舎暮らしの話をする。

 「明日、母さんと一緒にフェアを除いて見ようと思うんだ」

 「それなら俺も一緒に行って良い?」

 「もちろん構わないよ」

 雄介も住むかもしれない場所を探すので、付いてきてくれると助かる。

 その後、親子三人で軽く呑みながら明日の事を話しつつ夜は更けていった。

 翌日、フェアの開催場所へ到着し、会場の大きさや人の多さに三人とも驚いていた。

 「結構人が多いんだなぁ」

 思わず呟いた言葉に優希、雄介とも頷いていた。

 驚きつつも、人の流れに沿って会場へ入る。

 入場してすぐ両サイドに各地方の企業ブースがあり、そこそこの人が覗いたり、説明を受けたりしている。

 就職する気のない私達は、そこを無視して地方自治体かJAあたりが出展しているであろう、永住希望のブースを探すため、通路の奥へすすで行った。

 ん?
 
 何か幕の様な物を抜けた感じがし、思わず立ち止まり周りを見渡してみると、結構な人が居るのに自分の周りだけ人気がなく、周りの音も聞こえない。

 優希や雄介も同じ様に感いたらしく、同じように周りを見て驚いていた。

 「優希!雄介!」

 二人を呼ぶと気付いたらしく、

 「あなた!」
 「オヤジ!」

 二人とも自分の元に集まってきた。

 三人で何が起きているのか理解が出来ずオロオロしていると、通路の先にあるブースから、背中から白い翼を生やした若い女性が手招きしている。

 目が合い、思わず自分を指差すと、コクリと頷き、おいでおいでと手招きをしてくる。

 手招きにしたがい、ブースへ近ずくと、翼の生えた女性が話しかけてきた。

 「山田さまご一家ですね。 ようこそ、ベリニア開拓村支援センターへお越しくださいました。」

 「はい?」

 全く意味がわからず、間抜けな返事をしてしまうが、女性は気にした様子もなく話し始めた。

「これより、創造神ニエル様の元へお連れいたします。」

 全く持って意味がわからない。

 取り敢えず、目の前の女性に声を掛けようとした瞬間、辺りが真っ白になっていた。
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