定年退職後の生活は異世界でした

青山ねこまる

文字の大きさ
23 / 71
異世界到着編

エルフ救出作戦

しおりを挟む
 ラルフを先頭に歩きながら簡単に状況のすり合わせを行う。

 ゴブリン達はこの森を先にある開けた場所に三十匹ほど確認できた。その場所には建物らしきものが数軒立っており、出入りしているホブゴブリンを複数体確認した。たぶん上位種である、ゴブリンジェネラルがいると予想される。また、連れていかれたエルフ達は建物の外にまとめられており、鎖に繋がれてはいたが、暴力や乱暴はされていない様子だった。

 「ユースケ・・・あの子供は残念ながらダメだった・・・すまねぇ」

 ゴブリンに引き摺られていた子供は既に死亡していたらしく、ゴブリン達に喰われてしまったそうで、その状況を見ていたラルフが悔しそうに教えてくれた。

 「喰う・・・・ですか・・・ラルフさんが悪いわけじゃないんですから、謝らないでください」

 雄介は、そのおぞましさと悔しさで泣きそうになったが、奥歯を噛み締めて絞り出す様に答えた。

 そんな重苦しい雰囲気の中、更に森の中を進み、雄介がスプレーで目印をつけた木が見えてきた。

 「おっあった!このよく解んねぇ目印みたいなところを右だ」

 ラルフは木に着けた目印から右方向へ足を向ける。雄介は結界のことを伝えるべきか悩みつつラルフ達の後を追った。




 「ここだ・・・見えるか?」

 ラルフがしゃがんだ姿勢で木の陰から様子を伺う。
 雄介はラルフとは反対側からそっと前方を確認し、おおよそ50メートル先にウロウロ、ギャアギャア言っているゴブリンを確認した。

 「見えます。アレは見張りですかね?」

 「多分そうだろう」

 二人は一旦その場を離れマシュー達の元へ戻り状況報告を行う。

 「もう少し奥までの状況が知りたいな・・・ラルフ、木に登って偵察してくれるか?」

 マシューがラルフに指示を出したところに雄介がストップをかけ、カバンからドローンを取り出して準備を始める。

 「なんだそれは?」

 「魔道具か!?」

 マシュー達は不思議そうに、ダンゴはギラギラした目で雄介の手で組み立てられていくドローンを見つめる。準備が整った雄介は、「音が大きいので遠まりで近づけます」と言いながらドローンを起動させた。

 ビィィィィ

 ドローン特有のモーター音を響かせてドローンが浮かびあがり、ゴブリン達に気づかれない様に飛行していく。

 その光景を見ていた深淵の翼のメンバーは、ポカーンと口を開けたまま飛んでいったドローンを見ていた。

 ハッと、我に返ったマシューは雄介に詰め寄る勢いで話し出す。

 「おいおいおい!なんだよアレ!空飛んでんぞ!」

 「シッ!声が大きい!ユースケアレはなんだ?魔道具か!?」

 そんなマシューを抑えて、ラルフが驚きつつも雄介に聞いてきた。

 雄介は操縦に集中しながら、空中から見える光景を映す魔道具だと説明する。

 「飛んでる先が見える魔道具・・・」ダンゴが目をギラギラさせながらコントロラーを触ろうとしている姿にミリーが気付き、杖で頭を殴りつけながら「落ち着きなさい!」と小声で怒鳴っていた。

 雄介の操作するドローンは、ゴブリン達に気づかれる事なく、いくつかの小屋の中心にある建物の上空に到着し、地上の映像を映し出す。

 「見えました」雄介の言葉に、マシューが雄介の頭越しに画面を見ておぉ!!と驚き、ラルフは横から画面を覗き、ミリーがその反対側からグイグイと画面に顔を近づけてくる。

 因みにダンゴは・・・もはや語るまい・・・。

 「ちょっミリーさん近い!動かせませんて!えっと、これが中央の建物かな?」

 画面を覗きこんでいたマシューがあっ!と声を上げる。

 「出てきた!あれは・・・ゴブリンジェネラルか?」
 
 マシューがラルフに問いかけるとラルフは無言で頷く。

 「まっ楽勝だな。ユースケ、アイツがどこに向かってるか見せてくれ」

 雄介はマシューの指示に従い、ゴブリンジェネラルの後を追うようにドローンをゆっくりと旋回させる。

 建物から離れたゴブリンジェネラルは、鎖に繋がっているエルフ達の方へ向い、エルフ達に近ずくと、威嚇しながら一人の女性の鎖を握り、無理やり引き摺り出して女性を殴りつけた。

 殴られた女性はその場に倒れて動かない。

 ゴブリンジェネラルは持っていた鎖を手放し、次の女性の鎖を引っ張りまた殴りつける。




 音の無いその映像は余りにも凄惨だった。

 雄介とミリーは余りの出来事に言葉を失い、ラルフは舌打ちをしながら「ああやって恐怖を植え付けて反抗心を無くさせるんだ」と説明する。

 雄介の頭上から、ギリッと歯軋りの音とドスの効いた声で、「クソ野郎どもが!チマチマ作戦なんて立ててる場合じゃねぇ!俺はいくぞ!」とマシューはひとりでゴブリンの方へ走り出した。

 「同感じゃ!」ダンゴも両手斧を持ってマシューの後を追う。

 ラルフは走り出した二人を追うため、雄介とミリーに「俺達が奴らを引きつけるからミリーは援護を頼む。ユースケはミリーの側にいてくれ、後は出たとこ勝負ってことで!」と指示を出して走り出した。

 三人の動きに雄介はドローンの回収を諦め、銃を持って走り出そうとしてミリーの様子を伺う。

 ミリーは雄介にもっと近づかないと魔法が届かないことを伝え一緒に走り出した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

処理中です...