定年退職後の生活は異世界でした

青山ねこまる

文字の大きさ
62 / 71
村づくり 初級編

山田雄介 西へ! 7

しおりを挟む
 雄介達が出発して一時間ほど、獣道を慎重に進んでいる。

 獣道があるとはいえ、人が歩く程の広さがある訳では無いので、歩き難い足場にラナとエリサの荒い息だけが響き渡る。

 「二人とも大丈夫か?」

 前を塞ぐ藪を切り開くため、マシューと順番を入れ替わったラルフが、二人に振り返り尋ねる。

 「えぇ、息は上がってますが大丈夫です」

 「大丈夫!」

 ラルフは頷いてから、後ろを警戒しながら歩いている雄介に話しかける。

 「雄介」

 「はい。俺は大丈夫ですよ」

 雄介の言葉にラルフは軽く苦笑いをして、

 「そんなのは当たり前だ。それより雄介に一つ聞きたい事があるんだが」

 ラルフの質問に雄介は首をかしげる。

 「これから向かう先にいるオークなんだが、お前さん一人に任せたいんだが良いか?」

 「え!俺一人でですか!?」

 ラルフの提案に雄介を含め、話を聴いていたラナやエリサも同時に驚く。

 「あぁ、今回は雄介のレベル上げも目的の一つだからな」

 「俺のレベル上げですか?」

 「あぁ、俺達も良い歳だからな、何時迄も戦える訳でもねぇから、早めに村を守る戦力を揃えておきたいんだよ」

 「でも、オークですよ?一人でなんて危険じゃないですか?」

 ラナが心配そうに雄介を見た後、ラルフに話しかけるとラルフは肩を窄めて雄介の銃を指差す。

 「雄介の持っている銃があれば、そこら辺は問題ないな、遠く離れた場所からズドンでお終いさ」

 「あー確かにそうかも」

 エリサがゴブリンとの戦いの時を思い出す。

 ラルフの話に納得した雄介は「そういう事なら頑張ります」と気合を入れて頷いた。




 更に一時間程進んだところで、先頭を交代したラルフが手を挙げて全員を停止させた。

 「そろそろキャンプ予定の場所だ、雄介、例のどろーんとか言うのを使ってくれ」

 「了解です」

 雄介はラルフの指示に従い、自分のリュックからドローンを取り出して準備を始める。

 「ねっね!お兄さんそれは?」

 新し物好きのエリサが興味深々に覗き込んでくる。

 「これはドローンて言って、空から遠くを見る道具だよ」

 エリサにドローンを簡単に説明しながら準備を進め、完成したドローンを字面に置いた。

 「準備できました」

 「よし、そんじゃ頼むわ」

 「はい」

 準備が整った雄介に、辺りを警戒しながらラルフが指示を出し、雄介はドローンを始動させる。

 ビィィィィ

 独特のモーター音を響かせながら、ドローンがフワリと浮かび上がり、木々の間を抜けて広場の方へ向かって飛行を始める。

 「おぉぉ!凄い!浮いてる!」

 エリサが目を輝かせながら、浮いてるドローンと操作している雄介の手元を交互に見つめ「ね!それ!後で動かして良い?」と雄介に聴いてくる。

 「・・・終わったらねぇ」

 久しぶりの操作で余裕のない雄介はエリサのお願いに曖昧に応えた。




 上空から映し出された映像には、イーグルが伝えてきた通り、オークが四体屯していた。

 「オークって本当に豚の顔をしてるんですね」

 モニターを見ながら雄介が感想を言うと、

 「そうだぜ、身長は大体俺と同じか少し大きい感じだ。知能は低いから集団での戦闘は出来ねぇぜ」

 雄介の頭の上からマシューがモニターを覗き込んで説明する。

 「こんな風に高いところから見たのは初めてです。ホント凄い機械ですね!」

 雄介の右手からラナが感心しながら覗き込む。

 「ね!お兄さん!交代!」

 雄介の左からエリサがグイグイ身体を寄せながら交代しろと詰め寄って来る。

 「ちょっとエリサ、くっつきすぎ!動かせないって!」

 「雄介、見えてるのは四体だけか?」

 周囲を確認してきたラルフが戻ってきて、雄介にオークの数を確認する。

 「はい。広場には四体以外見当たりません」

 「よし、アイツら逸れだな。他にはいないようだし、そろそろ準備してえんだが、それ、エリサに代わってやれねぇか?」

 「え?まぁ、大丈夫だと思いますけど」

 ラルフの提案にエリサは「ヤッタ!」喜び、雄介は何でですか?と疑問の顔をラルフに向ける。

 「大した事じゃねえよ、折角の機会だから上からの映像?ってやつで空から見てみたいってだけさ」

 「お!それ面白そうだな!」

 「さ!お兄さん!そのコントローラーを貸して!」

 ラルフの提案にマシューが乗っかり、エリサが雄介の持つコントローラーに手を伸ばす。

 「みんな、観戦モードなワケね」

 雄介は苦笑いを浮かべて、エリサに操作方法を教えてからコントローラーを手渡し、立て掛けてあった銃を手に持って立ち上がる。

 「私は応援してます!気を付けてくださいね!」

 ラナの応援に「ありがとう」と答えつつ弾倉の確認をして銃を構える。

 「おう、頑張んな。まぁ、お前さんのソレならあっという間だろうけどな」

 「晩飯の準備もあるんだから、パパッとな」

 ラルフとマシューの適当な応援に、雄介は肩を窄めてから広場の方へ向かっていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

処理中です...