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27.エピローグ
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「以前の僕はヴィオの事を、高慢で計算高い子だと思い込んでいた」
ヴィオレッタは、男子生徒ばかりの生徒会に居る唯一の女生徒だ。
なおかつ学年で一番身分の高い公爵令嬢で、王家の血も流れている。
間違いなく、第二王子の婚約者筆頭候補だと誰しもが思っていた。
(実際そうだったんだろうなぁ。ヴィオレッタも、クリス様のことは憎からず思っていたんじゃないかな?だから生徒会活動を、殿下の代わりに頑張ってたのかなと……本当の事はわからないけど)
「だけどあの春の日から、君の印象が大きく変わった。思い込みで遠ざけていた君がどんな子なのかを知って、もっと知りたいと思うようになった。僕の中の君の存在が、日に日に大きくなっていくのを感じた……それは、今でもそうなんだ。君の事ばかり考えている」
クリス様は再び私の手を取り、その場に跪いた。
「国王陛下は、兄上を王太子に指名するだろう。僕が王冠を戴くことはない。そんな僕が君を望んでもいいのかと迷いもした。だけど僕は、それでも君に手を伸ばしたい。学園を卒業して、生徒会の仲間じゃなくなっても、君の傍に居たい」
初めて出会ったときは閉じられていたエメラルドの瞳が、真っすぐに私を射抜く。
「ヴィオ、君の事が好きだ。僕と婚約して欲しい」
◇◇◇
(プロポーズ……された……まさかの現実世界で…………)
かつて親しんだ乙女ゲームの世界では、何度もこんなシーンを見てきた。
WEB小説もハッピーエンドばかり読んできたし、恋愛小説のハッピーエンドといえば結婚が定番かつ王道だ。どのヒーローも心を砕いてヒロインに愛を乞い、ヒロインもまた幸せそうにそれを受け入れる。
(だけど、それが自分事になるなんて、まったくさっぱり思ってなかった!)
ヴィオレッタはクリス様の婚約者候補だろうなとは思ってたけど、それはあくまで自分が中の人になる前のヴィオレッタのことだと認識していた。
自分の結婚相手は、記憶が戻らないままの娘の様子を見定めた両親が、ほどよい時期にほどよいお相手を見繕ってくれるだろうと、ぼんやりと思っていたのだ。
「ヴィオが僕の事を、とても信頼してくれているのはわかってる。学内では一番親しいと自負もしている。だけど、僕はもうそれだけじゃ満たされない。我儘だけど、君の心も欲しいんだ」
戸惑うばかりで何も言えない私に、更に言葉を重ねてくる。
その上、そっと手の甲にキスをされた。
心臓が爆発しそうだ。
「ク、クリス様、あの、私……」
「君の気持ちが兄上にあるのなら、すぐに忘れてくれとは言わない。そのままの君で、僕の隣に居てくれればそれでいい。だから……」
「へっ?」
何故ここでアレクシス殿下の話になるんだろう。思わず変な声が出た。
「ヴィオは、兄上に懸想しているんじゃないのかい?」
「えっ、そんな事実はございませんが……」
前世で推してはいたけど、私は推しと恋愛したい方のオタクではない。推しが誰かと幸せになる様を見届けたい方のオタクなのだ。
「クリス様は、何故そのような勘違いをなさったのですか?」
「兄上のことを、アレクと呼んだだろう?ずっと兄上への想いを募らせていて、内心ではそう呼んでいるんじゃないかと」
(うーん、そんなことあったっけ?もう自分では覚えてないな……)
恐らく、前世の記憶を引きずったまま、咄嗟に愛称で呼んでしまったんだろう。
本人の前でじゃなきゃいいのだけど……!不敬すぎる!!
「申し訳ございません、自分では覚えがなく」
「では、ヴィオは兄上に懸想してはいないんだね?」
「はい。ご立派な方ですし、お美しい方だとは思っております。ですが、そこに恋愛感情はございません」
「マリアと兄上が恋仲になって、心を痛めていたりは」
「しませんね!むしろ大変喜ばしいことだと思っております」
キッパリと答えると、クリス様はへなへなとその場にしゃがみ込んでしまった。
「ど、どうされたのですか?」
「いや、よかった。安心したよ……誰にも言えず一人で悲しんでいるんじゃないかと、ずっと気になってたんだ」
(この人は、本当に優しい人だ)
当の本人すら忘れた私の些細な言動を覚えていて、密かに気に掛けてくれていたクリス様。
そして、彼の優しさはこれだけじゃないことを、私はもう知っている。
「あの……先程クリス様は、王にならない自分が私を望んでもいいのか、っておっしゃいましたよね」
「あぁ。君は公爵家のご令嬢だし、王家の血も流れている。真面目で勤勉で周囲をよく見ていて、王妃になるのに相応しい淑女だ。公にはしていないものの、女神の導き手という稀有な存在でもある。僕以上に、この国にとって重要な存在だ」
(それが流石に言い過ぎですってー!私はちっともそんな風に思いませんよ、クリス様!)
「私は、そうは思いません。だけどクリス様がそうおっしゃってくださるのは嬉しいし、ずっとそう言ってもらえるような自分でいよう、頑張ろうって気持ちになります。これが恋かどうかは、まだわかりませんが……」
しゃがみ込んだままのクリス様の横に並び、目線を合わせる。
恥ずかしいし、ドキドキが止まらないけど、それ以上に彼の目を見て伝えたいという気持ちが勝った。
「優しくて誠実なクリス様の隣は、居心地がいいです。それに、さっき好きだと言われて、今までで一番胸が高鳴りました。こんな気持ちは……初めてなんです」
今の時点で、クリス様に同じ想いが返せるかはまだわからない。
だけど、今以上にこの人の傍に居られるなら、きっともっとこの人を好ましく思うようになるだろう。そんな確信めいた予感がある。前世の記憶とは関係なく、私にはわかる。
好きになるのは、きっと時間の問題だ。
「王妃の座より、クリス様の隣がいいです。これから先もずっと、お傍にいさせてください」
◇◇◇
それから二年後に、アレクシス・オズウィン・ハルモニア第一王子殿下の立太子の儀が執り行われた。聖教国の王族の血を引く伯爵家令嬢、マリア・クラウトもアレクシス王太子の婚約者として、そして聖女として参加し、人々を大いに沸かせた。
加えてクリストファー・グランツ・ハルモニア第二王子も、婚約者で筆頭公爵家のご令嬢、ヴィオレッタ・ミランと共に参加した。
聖女マリアが感極まって涙をこぼした時、真っ先に彼女に寄り添うミラン公爵令嬢の姿は、大勢に目撃された。更にその様子を見て微笑む王子たちの様子と共に、この国で長く語り継がれた。
ヴィオレッタは、男子生徒ばかりの生徒会に居る唯一の女生徒だ。
なおかつ学年で一番身分の高い公爵令嬢で、王家の血も流れている。
間違いなく、第二王子の婚約者筆頭候補だと誰しもが思っていた。
(実際そうだったんだろうなぁ。ヴィオレッタも、クリス様のことは憎からず思っていたんじゃないかな?だから生徒会活動を、殿下の代わりに頑張ってたのかなと……本当の事はわからないけど)
「だけどあの春の日から、君の印象が大きく変わった。思い込みで遠ざけていた君がどんな子なのかを知って、もっと知りたいと思うようになった。僕の中の君の存在が、日に日に大きくなっていくのを感じた……それは、今でもそうなんだ。君の事ばかり考えている」
クリス様は再び私の手を取り、その場に跪いた。
「国王陛下は、兄上を王太子に指名するだろう。僕が王冠を戴くことはない。そんな僕が君を望んでもいいのかと迷いもした。だけど僕は、それでも君に手を伸ばしたい。学園を卒業して、生徒会の仲間じゃなくなっても、君の傍に居たい」
初めて出会ったときは閉じられていたエメラルドの瞳が、真っすぐに私を射抜く。
「ヴィオ、君の事が好きだ。僕と婚約して欲しい」
◇◇◇
(プロポーズ……された……まさかの現実世界で…………)
かつて親しんだ乙女ゲームの世界では、何度もこんなシーンを見てきた。
WEB小説もハッピーエンドばかり読んできたし、恋愛小説のハッピーエンドといえば結婚が定番かつ王道だ。どのヒーローも心を砕いてヒロインに愛を乞い、ヒロインもまた幸せそうにそれを受け入れる。
(だけど、それが自分事になるなんて、まったくさっぱり思ってなかった!)
ヴィオレッタはクリス様の婚約者候補だろうなとは思ってたけど、それはあくまで自分が中の人になる前のヴィオレッタのことだと認識していた。
自分の結婚相手は、記憶が戻らないままの娘の様子を見定めた両親が、ほどよい時期にほどよいお相手を見繕ってくれるだろうと、ぼんやりと思っていたのだ。
「ヴィオが僕の事を、とても信頼してくれているのはわかってる。学内では一番親しいと自負もしている。だけど、僕はもうそれだけじゃ満たされない。我儘だけど、君の心も欲しいんだ」
戸惑うばかりで何も言えない私に、更に言葉を重ねてくる。
その上、そっと手の甲にキスをされた。
心臓が爆発しそうだ。
「ク、クリス様、あの、私……」
「君の気持ちが兄上にあるのなら、すぐに忘れてくれとは言わない。そのままの君で、僕の隣に居てくれればそれでいい。だから……」
「へっ?」
何故ここでアレクシス殿下の話になるんだろう。思わず変な声が出た。
「ヴィオは、兄上に懸想しているんじゃないのかい?」
「えっ、そんな事実はございませんが……」
前世で推してはいたけど、私は推しと恋愛したい方のオタクではない。推しが誰かと幸せになる様を見届けたい方のオタクなのだ。
「クリス様は、何故そのような勘違いをなさったのですか?」
「兄上のことを、アレクと呼んだだろう?ずっと兄上への想いを募らせていて、内心ではそう呼んでいるんじゃないかと」
(うーん、そんなことあったっけ?もう自分では覚えてないな……)
恐らく、前世の記憶を引きずったまま、咄嗟に愛称で呼んでしまったんだろう。
本人の前でじゃなきゃいいのだけど……!不敬すぎる!!
「申し訳ございません、自分では覚えがなく」
「では、ヴィオは兄上に懸想してはいないんだね?」
「はい。ご立派な方ですし、お美しい方だとは思っております。ですが、そこに恋愛感情はございません」
「マリアと兄上が恋仲になって、心を痛めていたりは」
「しませんね!むしろ大変喜ばしいことだと思っております」
キッパリと答えると、クリス様はへなへなとその場にしゃがみ込んでしまった。
「ど、どうされたのですか?」
「いや、よかった。安心したよ……誰にも言えず一人で悲しんでいるんじゃないかと、ずっと気になってたんだ」
(この人は、本当に優しい人だ)
当の本人すら忘れた私の些細な言動を覚えていて、密かに気に掛けてくれていたクリス様。
そして、彼の優しさはこれだけじゃないことを、私はもう知っている。
「あの……先程クリス様は、王にならない自分が私を望んでもいいのか、っておっしゃいましたよね」
「あぁ。君は公爵家のご令嬢だし、王家の血も流れている。真面目で勤勉で周囲をよく見ていて、王妃になるのに相応しい淑女だ。公にはしていないものの、女神の導き手という稀有な存在でもある。僕以上に、この国にとって重要な存在だ」
(それが流石に言い過ぎですってー!私はちっともそんな風に思いませんよ、クリス様!)
「私は、そうは思いません。だけどクリス様がそうおっしゃってくださるのは嬉しいし、ずっとそう言ってもらえるような自分でいよう、頑張ろうって気持ちになります。これが恋かどうかは、まだわかりませんが……」
しゃがみ込んだままのクリス様の横に並び、目線を合わせる。
恥ずかしいし、ドキドキが止まらないけど、それ以上に彼の目を見て伝えたいという気持ちが勝った。
「優しくて誠実なクリス様の隣は、居心地がいいです。それに、さっき好きだと言われて、今までで一番胸が高鳴りました。こんな気持ちは……初めてなんです」
今の時点で、クリス様に同じ想いが返せるかはまだわからない。
だけど、今以上にこの人の傍に居られるなら、きっともっとこの人を好ましく思うようになるだろう。そんな確信めいた予感がある。前世の記憶とは関係なく、私にはわかる。
好きになるのは、きっと時間の問題だ。
「王妃の座より、クリス様の隣がいいです。これから先もずっと、お傍にいさせてください」
◇◇◇
それから二年後に、アレクシス・オズウィン・ハルモニア第一王子殿下の立太子の儀が執り行われた。聖教国の王族の血を引く伯爵家令嬢、マリア・クラウトもアレクシス王太子の婚約者として、そして聖女として参加し、人々を大いに沸かせた。
加えてクリストファー・グランツ・ハルモニア第二王子も、婚約者で筆頭公爵家のご令嬢、ヴィオレッタ・ミランと共に参加した。
聖女マリアが感極まって涙をこぼした時、真っ先に彼女に寄り添うミラン公爵令嬢の姿は、大勢に目撃された。更にその様子を見て微笑む王子たちの様子と共に、この国で長く語り継がれた。
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