シールドランド物語 第一部 カタ=リナの少女

第二章

第二章第五節 乱れ突き

試合の開始と同時に、リザ男は風のごとくグランド・ガルドへと近づき、一連の鋭い突きを繰り出した。しかし、彼の攻撃は魔法で強化された鎧によって容易く防がれる。「んー、何かしておるのか? まるで微風のようであるな」とグランドは軽蔑を込めて言った。リザ男の突きが、まるで彼の鎧にとって何の脅威もなさないかのようだった。

リザ男は攻撃を続けるも、グランドはその突きを気にも留めずに、重い足取りで突進してきた。大きく振りかぶった鉾は、リザ男を直撃するかに見えたが、彼はそれを巧みに躱し、反撃の機会を伺う。

「すばしこいトカゲめ! だが、その小細工、我が鉄壁の前では無意味だ。お前のような卑怯者は、真の戦士の面影もない！ 捕まえて、鮫の餌にでもしてやる！」グランドの声が、闘技場に響き渡る。

リザ男は、この挑発に冷静に応えた。「それは困る。かくいう俺も、硬いだけの貴様の殻を木魚のように叩き続けているのは飽きた。愛槍・千本針もそう言っている。そろそろ終わりにしよう。喰らうがいい、秘技「乱れ突き」を！」リザ男の声は決意に満ちていた。

リザ男は、戦闘の構えを解き、静かにグランド・ガルドの前に立った。その無防備な姿に、グランドは一瞬の狼狽を隠せずに「馬鹿め、血迷ったか！」と叫ぶ。彼はこれを絶好の好機と見て、鉾を大上段に振り上げ、リザ男を一撃で仕留めんとする。だが、リザ男は静かで自然な歩みで前へと踏み込み、予想外の動きでグランドの足を払い、彼を顔を押さえながら背中へと押し倒してしまう。

グランドは慌てて起き上がり、「ひ、卑怯な！しかし、ご大層な技も拍子抜けよな！「突き」と言いつつ「突」かぬとは！」と口にした。彼の中には、リザ男の技に対する驚きと、自らの見誤りへの焦りが混ざり合っていた。

リザ男は冷静に応える。「今の技は警告だ。如何にお前が殻の中に潜もうとも、その殻にはところどころ隙間がある。完璧というわけではないのだ。これから俺はお前の隙間を穿つ。傷つきたくなければ降伏せよ！」リザ男の言葉には、自信と戦いへの深い理解が込められていた。

「ほ、ほざけ！」グランドが反発し、苦し紛れにリザ男へ一撃を放つ。しかし、その攻撃がリザ男に当たったはずの次の瞬間、グランドの目は信じられない光景に見張った。リザ男の身体がまるで水の波のように「ぐにゃり」と揺れ、鉾には何の痕跡も残されていなかった。

（い、いかん！奴からの突きが来る！）グランドは、危険を感じ取り、盾を前に構える。しかし、リザ男の影はまるでグランドを嘲笑うかのように、周囲を回りながら青い光弾を連射してきた。豪雨のように降り注ぐ光弾に、グランドは上を向いて盾で防がざるを得ない。だが、その間にもリザ男の影は右後方にゆらりと現れた。（こちらが本命か！）

雨霰のように降り注ぐ光弾を盾でかろうじて防ぎながらも、リザ男の本当の攻撃は別にあった。リザ男の突きは、グランドの装甲が最も脆い太ももを狙い続ける。光弾は防いだものの、リザ男の突きはひたすらに太ももを狙い続け、グランドが盾をかざそうとしても、リザ男の影は角度を自在に変化させ、執拗に太ももだけを狙い続けた。

（揺らぐ、奴の影が！揺らぐ、乱れる、そうか、これが奴の名、「乱れ突き」の所以か！）グランドの心の中で悟りが閃く。しかし、その悟りが来たときには既に遅く、リザ男の執念がグランドの防御を突破し、甲高い音を立てて太ももの鎧が弾け飛んだ。千本針がその内側を深々と抉ると、グランドはついに「参った」と降伏の言葉を吐いた。

息を荒げ、ダラダラと汗を流しながら、リザ男は千本針を高々と天に掲げた。その瞬間、闘技場は歓声と拍手で満ち溢れた。この一戦で、リザ男の「乱れ突き」の名が、その技の本質とともに、闘技場に集まった観客たちの心に深く刻み込まれた。リザ男の勝利は、ただの力の勝利ではなく、彼の技術、精神力、そして戦士としての哲学の勝利であった。