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第三章

第三章第一節 カタ=リナの聖女

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医務室に着いたリザ男とグランド・ガルドを待っていたのは、夜空の輝きを思わせる深い黒髪と、星のように輝く瞳を持つ猫耳の女性だった。彼女は迅速に部下へ指示を下し、グランドをベッドに横たえると、彼女の存在自体が周囲に穏やかな光と安らぎをもたらすかのような優雅さで治療を開始した。

「治癒魔法は使わないのか?」とリザ男が訝しげに尋ねると、女性は穏やかに答えた。「それも良いでしょうが、昔ながらの手当ての方が、体はより力強く回復します。」その声には、自然との調和を感じさせる深い知恵が込められていた。

「この傷はあなたが与えたのですか?」と女性が尋ねると、リザ男は「そうだ」と答えた。女性はさらに言葉を続けた。「なんと見事な槍さばき。骨だけを正確に射抜いている。それは相当の鍛錬の証ですね。」その評価には、戦士としてのリザ男の傷跡を超えた深い尊敬が込められていた。

リザ男は、その詳細な知識に興味を惹かれ、「詳しいな。お前の名は?」と尋ねた。女性は猫族特有の優雅な耳をわずかに動かしながら、静かに答えた。「人々は私を『カタ=リナの聖女』と呼んでいます。」

その名前を聞いた瞬間、リザ男の目は大きく見開かれた。彼は確かにその名前を知っていた。カタ=リナの聖女は、死者をも甦らせる力を持つと諸国に響き渡っている伝説の人物だった。リザ男の中で、驚きとともに尊敬の念が湧き上がった。「あなたが、そのカタ=リナの聖女か。まさか、ここでお会いできるとは…」

聖女は優しく頷き、リザ男の深い驚きを理解したように見せた。「はい、わたくしがその人です。しかし今は、この勇敢な戦士の治療が先決です。」彼女の言葉には、彼女自身が持つ偉大な力に対する謙虚さと、その治療技術の見事さがにじみ出ていた。彼女の手から放たれる微かな光が患者の傷に吸い込まれていく様子は、目撃する者すべてを魅了した。
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