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敗北勇者は諦めない
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#単語フワッと設定、足りない文才…すみません生暖かい目で見ていただけると嬉しいです(´・∀・`)
*****
何もかもが氷に包まれた城。吐いた息は白く、吸う空気は冷たい。玉座に座ったままの氷の魔王は、嘲笑うかのように不気味に笑う。
『残念であったな勇敢な雑魚共よ、その程度の力で我々に挑もうとするとは…怒りを通り越して呆れてしまったが、ここまで来れたことには賞賛を与えよう』
玉座を見上げる冒険者の2人は、魔王から発せられる威圧と、殺意に耐えながら、睨みつけるかのように魔王を見上げていた。
「まだだ…まだ俺達は戦える!!」
そう宣言し、自分を奮い立たせ、大きな両手剣を構えるCランク冒険者ルクス。彼の長年共にあった相棒は刃こぼれが酷く、例え彼の攻撃が魔王に届いたとしても、ダメージは殆ど与えられないだろう。
また、ルクスのパティーメンバーであるセルディアは、用意していた矢を使い果たし、懐から短剣を取り出して構えていた。
負ける訳にはいかない。そう強い思いが、彼らを奮い立たせていた。
『ふ…ふはははははは!』
まだ諦めない2人を魔王は、嘲笑う。
『どうやって?どうやって我を倒すつもりだ??唯一、我を仕留めることが出来る勇者は動けないというのになぁ!』
そう、魔王の言う通り、全ての闇を吸い込むと言われる黒剣に選ばれた勇者は、腹から血を流し倒れていた。
稀少な治癒の魔法を持つリリナ・テンゼェーナは、必死に勇者の傷を治そうと魔法を使おうとするが、すかさず魔王が作り出した氷の矢によって妨害されてしまう。
『もう、興味は失せた。死ね…』
ニタニタと嗤う顔から一変、スッと無表情になった魔王。
ゾクリと背筋が凍る感覚と共に、魔王の手に魔力が集まり、大量の氷の矢が勇者達に放たれた。
「っ…止めて!!!」
皆が絶望に堕ちた表情で、その魔力に飲み込まれる直前。代々受け継がれてきた王家の杖を掲げ、リリナは3枚の結界を作り出した。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
パリンッと1枚、結界が割れる。それでも、リリナは諦めない。
「止めてくれ!それ以上は姫さんの魔力が無くなっちまう!!」
魔王の強大な魔力を防ぎ続けるリリナの魔力が限界を迎え始め…
パリンッ
また1枚、結界が割れる。
「…お願い。逃げて、わたくしの事はいいの、だからお願い。皆は生きて!」
魔力が底を尽きかけ、リリナの顔は真っ青だった。
「イヤだ。姫様を犠牲にして生きるのはイヤだヨ!!」
「そうだ!一旦退散しよう。皆で、全員で!」
自分を犠牲にして仲間を守ろうとするリリナを、ルクスとセルディアは止めようとする。だが、頑なにリリナはやめようとしない。
「無理ですわ…倒れている2人を抱えて、この攻撃から全員が逃げ切れると思いますの?」
「「っ…でも!!」」
全員で逃げることは不可能。正論を返された2人は言葉を詰まらせる。
「いいんですの、わたくし…皆様と一緒に居られて楽しかったですわっ…くっ!!」
最後に1枚の結界にヒビが入る。
「後悔はありませんわ…ありがとう。どうか、どうか…諦めないで」
蕩けるように微笑むリリナ。ルクスとセルディアは泣きそうな表情のまま、傷を負った勇者と、魔力切れで気絶してしまった魔法使いを抱えて出口へ走り出す。
『させるか!!』
自分を殺す手段をもつ勇者を、生かすわけにいかない魔王がすかさず、ルクスとセルディアに魔法を打とうとする。
「はぁっ!」
そこに最後の力を込めて、リリナが魔法を打つ。純白の胞子に包まれた聖なる結晶の刃が、魔王の額に刺さった。
『っ…貴様っ!貴様ぁ!』
「ぐっ…がっ…」
魔王の腕が、リリナの腹を貫く。赤黒い血を流しながら、リリナは走り去っていくルクスに抱えられた勇者を見ていたのだった。
1週間後…
薄暗い部屋。枕に寄りかかり、呆然と窓の外を見つめる青年がいた。
「やぁ、ステファンくん。調子はどう?」
青年が居る部屋の扉が開き、明るい茶髪の長身の男が青年に話しかける。青年は、ハッとした表情で男の方を見た。
「あっ…ぁあ…」
その途端。青年は涙を零し、ベッドの上で土下座をする。
そんな彼を、男は慌てて止めた。男の名は、ジャスティア・テンゼェーナ。彼は、ラドュス王国の王族であり、公爵位を持っている。更には、リリナの父親であった。
「こらこらステファンくん…傷がまだ治ってないんだから、無理しないでくれ」
「っ…ぁぐぅ…ごめんなさぃ」
ジャスティアに止められ、顔を上げた青年、ステファン・フィリシャ。彼こそが、黒剣に選ばれし勇者である。魔王の城で大怪我を負い、今は城で治療中。
そして彼は、リリナの恋人だった。
「僕は、リリナを死なせてしまった…何もできなかった…僕は皆の期待を裏切った。僕は、僕なんか勇者じゃない!!」
ステファンは泣き叫ぶ。彼はリリナを誰よりも愛していた。彼とリリナは幼馴染だった。ずっと、一緒だった。これからも、ずっと一緒だと思っていた。
「それは違うよステファンくん。君は間違いなく勇者だ」
そう言い。ジャスティアは悲しそうに笑う。
ジャスティアは、騎士団の隊長を務めていた。そして3ヶ月前、勇者と発覚したステファンに剣術を教える教師として抜擢されたのだが…ステファンはなんと、ものの3ヶ月でジャスティアの実力を越え、魔王を倒す旅に出ていった。
ステファンは勇者だ。ジャスティアはそう確信していた。
「違う…違う…僕は救えなかった」
ステファンは否定する。何も守れない自分は勇者ではないと…
それを見ていた心優しきジャスティアは、キレた。
「では君は、自分でリリナの仇を討たないと?リリナは昔から強い子だった。そして君を愛していた…リリナはきっと、望んでいる。君が立ち上がる事を!君は良いのか!?こんな所でクヨクヨして!知っているかい?君と共に旅に出た冒険者くん達の事を…ルクスくんは、Bランクに昇格したらしい。では君は?君はいいのか?あの子達は折れず、強くなろうとしてる。君は、こんな所で何をしている?全く…情けない」
早口で捲し立てたジャスティアに、ステファン驚いた表情のまま固まる。
(ジャスティアさんの言う通りだ…)
リリナと同じアクアマリンの瞳が、ステファンはを見ている。
『全く…情けないわよ』
そう、リリナに言われているような気がした。
「仇を討ちます…僕が絶対に!」
ステファンのルビー色の瞳に、また光が宿る。それを見たジャスティアは嬉しそうに笑った。
「大丈夫だステファンくん。私は信じている。君はやり遂げる男だと、私が全力でサポートする。だから強くなりなさい」
そうして、勇者また立ち上がった。
2年後…
ラドュス王国で随一の炎の魔法使いと、魔道具師が共同開発して作り上げた炎の結界により、ラドュスは束の間の平穏が訪れた。氷の檻に閉ざされ、不満を抱いていた者達が魔王に挑み、誰も魔王の顔を拝めず帰ってきた。そこで、もしや3ヶ月で勇者になったあの、敗北勇者は強かったのでは?と、民達思い始めていた。
「かぁ~っ!!うっめぇぇ!」
晴れた晴天の空の下。1馬車に寄りかかり、昼から酒を飲む男。鍛え上げられ、日に焼けた体と彼の傍に置かれた大剣。よく居る冒険者の風貌な彼は、敗北勇者の仲間、ルクスであった。今日から、また彼は新しい旅に出る。それを祝い、彼は酒を飲んでいた。
「ちょ、チョット…ルクスなにしてるノ?昼からマジでなにしてんノ?」
馬車の窓が空き、そこからヒョコッと顔を出した猫目の青年。彼はルクスの仲間、セルディア。彼は、ルクスの姿を見た途端ドン引きした。
「いーじゃねーか、嬉しいんだよ俺は」
「イヤイヤ良くない」
セルディアはすぐさまルクスから酒瓶を奪い取る。
「オイラも嬉しいケド、ルクス酒弱いし、
絡みがウザイからヤメテ」
「えぇ~」
ブーブーと文句を言ってくるルクスを無視し、セルディアは荷物の中に酒瓶を隠した。
「荷物確認はオケーだヨ、いつでもオケー」
「おう…っと、おっとおっとぉ?来たぜ、セルディア!!」
荷物の準備に疲れたセルディアに、ルクスが呼びかける。彼が指を指した方向から、1台の馬車がやってきた。金の装飾が施された馬車に、それを引く美しい白馬。それを見たルクス達は、待っていた者が来たと確信した。
そしてその馬車は、ルクス達の馬車の隣に止まった。
ガチャ…と扉が開き、タキシードを着た執事の男が荷物を持って降り、その後ろから見知った顔の青年が降りてきた。
「ルクス、セルディア!久しぶり!!」
「おうっ久しぶりだなぁ!ステファン」
「お~!ステファンちょっト男らしくなっタ?」
ルビーのように赤い瞳に、夜の海のような濃い青の髪。ルクス達と共に魔王に挑んだ仲間、勇者ステファン・フィリシャ。今日は2年前、自分達を庇い死んで行った大切な仲間、リリナの仇を討つ為、また彼らは集まったのだった。
「おぉ、確かに凛々しくなったなぁ…だ・け・ど、お前相変わらずチビだな!」
「な、な…チビじゃない!こ、これから大きくなるよっ」
「エ~?これからは無理じゃナイ?だって、オイラ達もう大人だモん」
「う"っ」
ステファンは強くなり、確かに変わったが、身長は変わっていないようだ。
「んぅ…ステファンくんおはよぉ…」
ルクス達とステファンが言い合いをしていると、馬車の中から寝癖を付けたままの女性がフラフラとした足取りで出てきた。
「あ、カレンちゃん久しぶり」
「ん、久しぶり~」
「やっと起きたか」
「だって昨日寝れなかったんだもん」
「寝坊ダヨ」
4人は楽しそうに笑う。
カレンと呼ばれた女性はあの時、魔王との戦いで魔力を使い果たし、気絶していた魔法使いだった。
「ステファンくん…私、あの時何も出来なくてごめんね?」
目を潤ませ、カレンは悲しげにステファンを見上げる。
「ううん、気にしないで…僕もだから…だから今度こそみんな頑張ろう」
ステファンは強くなった。2年間の間に、沢山戦って、戦って…必ず魔王を倒してくると、ジャスティアに背中を押され、ここまで来た。
ルクスは誓った。2年間魔物を倒し、冒険者として腕を上げながら、Aランクへと昇格し、また強くなった。だから今度こそ、誰も泣かせない。誰も、悲しませない。
セルディアは、ルクスの背中をずっと追っていた。気づいたら魔王討伐を手伝う事になっていた2年前、本当はこんな危険なこと、彼はしたくなかった。だが、これからもルクスの背中を追い、ルクスの背中を守る。セルディアは親友の為、また戦う。
カレンは、リリナの死を悲しんでいた。いつもルクスとセルディアの後ろに隠れて、皆が楽しそうに話すのを見ていただけだった。そんな時、リリナが話しかけてくれた時は、嬉しくて仕方なかった。唯一の同性の友達を失った。大切な人を失った。その怒りが、カレンを奮い立たせる。
「絶対全員で勝って、全員で帰ってこよう」
「おう」
「オケー」
「うん、頑張ろ!」
全員が顔を見合せ、笑う。
「それじゃあ、行こう!」
「「「おー!」」」
そして勇者達は旅立つ。魔王を…仇を討つ為に…彼らの意志と想いは、きっと世界を救うだろう。
*****
ステファン・フィリシャ 22歳
黒剣の勇者に選ばれた者。童顔で背が低く、大体年齢より若く見られる。小さい時は泣き虫で、今でもちょっと内気な所が抜けない。実は伯爵家の次男。
リリナ・テンゼェーナ 22歳
稀少な治癒の魔法を使える者。性格はおっとりしているようで、強い芯を持つ女性。ステファンの恋人であり、ジャスティアの娘。
ジャスティア・テンゼェーナ 50歳
ラドュス王国最強と呼ばれた騎士。ステファンに負けた事がちょっと悔しがっている。ステファンとリリナの仲はジャスティアの公認。
ルクス 25歳
大剣使いの冒険者。顔は怖いが頼まれると断れないお人好し。酒は好きだが、弱い。酔うと絡みがとてもウザイらしい。セルディアとカレンは冒険者仲間。
セルディア 25歳
弓使いの冒険者。孤児院育ちで、言葉がカタコト。理由は自己流で言葉を覚えた為、イントネーションがおかしくなってしまったらしい。ルクスとは幼い時に出会い、仲良くなった。
カレン 23歳
魔法の冒険者。元は羊飼い見習いだったが、魔物に襲われたところを助けてくれた冒険者に憧れ、自分も同じ職に着いた。そこで出会ったルクス達と仲間になる。
〔氷の〕魔王
氷の魔法を使いこなす。
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何もかもが氷に包まれた城。吐いた息は白く、吸う空気は冷たい。玉座に座ったままの氷の魔王は、嘲笑うかのように不気味に笑う。
『残念であったな勇敢な雑魚共よ、その程度の力で我々に挑もうとするとは…怒りを通り越して呆れてしまったが、ここまで来れたことには賞賛を与えよう』
玉座を見上げる冒険者の2人は、魔王から発せられる威圧と、殺意に耐えながら、睨みつけるかのように魔王を見上げていた。
「まだだ…まだ俺達は戦える!!」
そう宣言し、自分を奮い立たせ、大きな両手剣を構えるCランク冒険者ルクス。彼の長年共にあった相棒は刃こぼれが酷く、例え彼の攻撃が魔王に届いたとしても、ダメージは殆ど与えられないだろう。
また、ルクスのパティーメンバーであるセルディアは、用意していた矢を使い果たし、懐から短剣を取り出して構えていた。
負ける訳にはいかない。そう強い思いが、彼らを奮い立たせていた。
『ふ…ふはははははは!』
まだ諦めない2人を魔王は、嘲笑う。
『どうやって?どうやって我を倒すつもりだ??唯一、我を仕留めることが出来る勇者は動けないというのになぁ!』
そう、魔王の言う通り、全ての闇を吸い込むと言われる黒剣に選ばれた勇者は、腹から血を流し倒れていた。
稀少な治癒の魔法を持つリリナ・テンゼェーナは、必死に勇者の傷を治そうと魔法を使おうとするが、すかさず魔王が作り出した氷の矢によって妨害されてしまう。
『もう、興味は失せた。死ね…』
ニタニタと嗤う顔から一変、スッと無表情になった魔王。
ゾクリと背筋が凍る感覚と共に、魔王の手に魔力が集まり、大量の氷の矢が勇者達に放たれた。
「っ…止めて!!!」
皆が絶望に堕ちた表情で、その魔力に飲み込まれる直前。代々受け継がれてきた王家の杖を掲げ、リリナは3枚の結界を作り出した。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
パリンッと1枚、結界が割れる。それでも、リリナは諦めない。
「止めてくれ!それ以上は姫さんの魔力が無くなっちまう!!」
魔王の強大な魔力を防ぎ続けるリリナの魔力が限界を迎え始め…
パリンッ
また1枚、結界が割れる。
「…お願い。逃げて、わたくしの事はいいの、だからお願い。皆は生きて!」
魔力が底を尽きかけ、リリナの顔は真っ青だった。
「イヤだ。姫様を犠牲にして生きるのはイヤだヨ!!」
「そうだ!一旦退散しよう。皆で、全員で!」
自分を犠牲にして仲間を守ろうとするリリナを、ルクスとセルディアは止めようとする。だが、頑なにリリナはやめようとしない。
「無理ですわ…倒れている2人を抱えて、この攻撃から全員が逃げ切れると思いますの?」
「「っ…でも!!」」
全員で逃げることは不可能。正論を返された2人は言葉を詰まらせる。
「いいんですの、わたくし…皆様と一緒に居られて楽しかったですわっ…くっ!!」
最後に1枚の結界にヒビが入る。
「後悔はありませんわ…ありがとう。どうか、どうか…諦めないで」
蕩けるように微笑むリリナ。ルクスとセルディアは泣きそうな表情のまま、傷を負った勇者と、魔力切れで気絶してしまった魔法使いを抱えて出口へ走り出す。
『させるか!!』
自分を殺す手段をもつ勇者を、生かすわけにいかない魔王がすかさず、ルクスとセルディアに魔法を打とうとする。
「はぁっ!」
そこに最後の力を込めて、リリナが魔法を打つ。純白の胞子に包まれた聖なる結晶の刃が、魔王の額に刺さった。
『っ…貴様っ!貴様ぁ!』
「ぐっ…がっ…」
魔王の腕が、リリナの腹を貫く。赤黒い血を流しながら、リリナは走り去っていくルクスに抱えられた勇者を見ていたのだった。
1週間後…
薄暗い部屋。枕に寄りかかり、呆然と窓の外を見つめる青年がいた。
「やぁ、ステファンくん。調子はどう?」
青年が居る部屋の扉が開き、明るい茶髪の長身の男が青年に話しかける。青年は、ハッとした表情で男の方を見た。
「あっ…ぁあ…」
その途端。青年は涙を零し、ベッドの上で土下座をする。
そんな彼を、男は慌てて止めた。男の名は、ジャスティア・テンゼェーナ。彼は、ラドュス王国の王族であり、公爵位を持っている。更には、リリナの父親であった。
「こらこらステファンくん…傷がまだ治ってないんだから、無理しないでくれ」
「っ…ぁぐぅ…ごめんなさぃ」
ジャスティアに止められ、顔を上げた青年、ステファン・フィリシャ。彼こそが、黒剣に選ばれし勇者である。魔王の城で大怪我を負い、今は城で治療中。
そして彼は、リリナの恋人だった。
「僕は、リリナを死なせてしまった…何もできなかった…僕は皆の期待を裏切った。僕は、僕なんか勇者じゃない!!」
ステファンは泣き叫ぶ。彼はリリナを誰よりも愛していた。彼とリリナは幼馴染だった。ずっと、一緒だった。これからも、ずっと一緒だと思っていた。
「それは違うよステファンくん。君は間違いなく勇者だ」
そう言い。ジャスティアは悲しそうに笑う。
ジャスティアは、騎士団の隊長を務めていた。そして3ヶ月前、勇者と発覚したステファンに剣術を教える教師として抜擢されたのだが…ステファンはなんと、ものの3ヶ月でジャスティアの実力を越え、魔王を倒す旅に出ていった。
ステファンは勇者だ。ジャスティアはそう確信していた。
「違う…違う…僕は救えなかった」
ステファンは否定する。何も守れない自分は勇者ではないと…
それを見ていた心優しきジャスティアは、キレた。
「では君は、自分でリリナの仇を討たないと?リリナは昔から強い子だった。そして君を愛していた…リリナはきっと、望んでいる。君が立ち上がる事を!君は良いのか!?こんな所でクヨクヨして!知っているかい?君と共に旅に出た冒険者くん達の事を…ルクスくんは、Bランクに昇格したらしい。では君は?君はいいのか?あの子達は折れず、強くなろうとしてる。君は、こんな所で何をしている?全く…情けない」
早口で捲し立てたジャスティアに、ステファン驚いた表情のまま固まる。
(ジャスティアさんの言う通りだ…)
リリナと同じアクアマリンの瞳が、ステファンはを見ている。
『全く…情けないわよ』
そう、リリナに言われているような気がした。
「仇を討ちます…僕が絶対に!」
ステファンのルビー色の瞳に、また光が宿る。それを見たジャスティアは嬉しそうに笑った。
「大丈夫だステファンくん。私は信じている。君はやり遂げる男だと、私が全力でサポートする。だから強くなりなさい」
そうして、勇者また立ち上がった。
2年後…
ラドュス王国で随一の炎の魔法使いと、魔道具師が共同開発して作り上げた炎の結界により、ラドュスは束の間の平穏が訪れた。氷の檻に閉ざされ、不満を抱いていた者達が魔王に挑み、誰も魔王の顔を拝めず帰ってきた。そこで、もしや3ヶ月で勇者になったあの、敗北勇者は強かったのでは?と、民達思い始めていた。
「かぁ~っ!!うっめぇぇ!」
晴れた晴天の空の下。1馬車に寄りかかり、昼から酒を飲む男。鍛え上げられ、日に焼けた体と彼の傍に置かれた大剣。よく居る冒険者の風貌な彼は、敗北勇者の仲間、ルクスであった。今日から、また彼は新しい旅に出る。それを祝い、彼は酒を飲んでいた。
「ちょ、チョット…ルクスなにしてるノ?昼からマジでなにしてんノ?」
馬車の窓が空き、そこからヒョコッと顔を出した猫目の青年。彼はルクスの仲間、セルディア。彼は、ルクスの姿を見た途端ドン引きした。
「いーじゃねーか、嬉しいんだよ俺は」
「イヤイヤ良くない」
セルディアはすぐさまルクスから酒瓶を奪い取る。
「オイラも嬉しいケド、ルクス酒弱いし、
絡みがウザイからヤメテ」
「えぇ~」
ブーブーと文句を言ってくるルクスを無視し、セルディアは荷物の中に酒瓶を隠した。
「荷物確認はオケーだヨ、いつでもオケー」
「おう…っと、おっとおっとぉ?来たぜ、セルディア!!」
荷物の準備に疲れたセルディアに、ルクスが呼びかける。彼が指を指した方向から、1台の馬車がやってきた。金の装飾が施された馬車に、それを引く美しい白馬。それを見たルクス達は、待っていた者が来たと確信した。
そしてその馬車は、ルクス達の馬車の隣に止まった。
ガチャ…と扉が開き、タキシードを着た執事の男が荷物を持って降り、その後ろから見知った顔の青年が降りてきた。
「ルクス、セルディア!久しぶり!!」
「おうっ久しぶりだなぁ!ステファン」
「お~!ステファンちょっト男らしくなっタ?」
ルビーのように赤い瞳に、夜の海のような濃い青の髪。ルクス達と共に魔王に挑んだ仲間、勇者ステファン・フィリシャ。今日は2年前、自分達を庇い死んで行った大切な仲間、リリナの仇を討つ為、また彼らは集まったのだった。
「おぉ、確かに凛々しくなったなぁ…だ・け・ど、お前相変わらずチビだな!」
「な、な…チビじゃない!こ、これから大きくなるよっ」
「エ~?これからは無理じゃナイ?だって、オイラ達もう大人だモん」
「う"っ」
ステファンは強くなり、確かに変わったが、身長は変わっていないようだ。
「んぅ…ステファンくんおはよぉ…」
ルクス達とステファンが言い合いをしていると、馬車の中から寝癖を付けたままの女性がフラフラとした足取りで出てきた。
「あ、カレンちゃん久しぶり」
「ん、久しぶり~」
「やっと起きたか」
「だって昨日寝れなかったんだもん」
「寝坊ダヨ」
4人は楽しそうに笑う。
カレンと呼ばれた女性はあの時、魔王との戦いで魔力を使い果たし、気絶していた魔法使いだった。
「ステファンくん…私、あの時何も出来なくてごめんね?」
目を潤ませ、カレンは悲しげにステファンを見上げる。
「ううん、気にしないで…僕もだから…だから今度こそみんな頑張ろう」
ステファンは強くなった。2年間の間に、沢山戦って、戦って…必ず魔王を倒してくると、ジャスティアに背中を押され、ここまで来た。
ルクスは誓った。2年間魔物を倒し、冒険者として腕を上げながら、Aランクへと昇格し、また強くなった。だから今度こそ、誰も泣かせない。誰も、悲しませない。
セルディアは、ルクスの背中をずっと追っていた。気づいたら魔王討伐を手伝う事になっていた2年前、本当はこんな危険なこと、彼はしたくなかった。だが、これからもルクスの背中を追い、ルクスの背中を守る。セルディアは親友の為、また戦う。
カレンは、リリナの死を悲しんでいた。いつもルクスとセルディアの後ろに隠れて、皆が楽しそうに話すのを見ていただけだった。そんな時、リリナが話しかけてくれた時は、嬉しくて仕方なかった。唯一の同性の友達を失った。大切な人を失った。その怒りが、カレンを奮い立たせる。
「絶対全員で勝って、全員で帰ってこよう」
「おう」
「オケー」
「うん、頑張ろ!」
全員が顔を見合せ、笑う。
「それじゃあ、行こう!」
「「「おー!」」」
そして勇者達は旅立つ。魔王を…仇を討つ為に…彼らの意志と想いは、きっと世界を救うだろう。
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ステファン・フィリシャ 22歳
黒剣の勇者に選ばれた者。童顔で背が低く、大体年齢より若く見られる。小さい時は泣き虫で、今でもちょっと内気な所が抜けない。実は伯爵家の次男。
リリナ・テンゼェーナ 22歳
稀少な治癒の魔法を使える者。性格はおっとりしているようで、強い芯を持つ女性。ステファンの恋人であり、ジャスティアの娘。
ジャスティア・テンゼェーナ 50歳
ラドュス王国最強と呼ばれた騎士。ステファンに負けた事がちょっと悔しがっている。ステファンとリリナの仲はジャスティアの公認。
ルクス 25歳
大剣使いの冒険者。顔は怖いが頼まれると断れないお人好し。酒は好きだが、弱い。酔うと絡みがとてもウザイらしい。セルディアとカレンは冒険者仲間。
セルディア 25歳
弓使いの冒険者。孤児院育ちで、言葉がカタコト。理由は自己流で言葉を覚えた為、イントネーションがおかしくなってしまったらしい。ルクスとは幼い時に出会い、仲良くなった。
カレン 23歳
魔法の冒険者。元は羊飼い見習いだったが、魔物に襲われたところを助けてくれた冒険者に憧れ、自分も同じ職に着いた。そこで出会ったルクス達と仲間になる。
〔氷の〕魔王
氷の魔法を使いこなす。
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