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アリアドネの繭・前編
第14話 ごめんなさい
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「エレン……ごめんなさい」
リリスはエレンに深々と頭を下げる。エレンは困惑の表情で両手を振る。
「ちょ、ちょっとリリスさん!どうしたんですか急に!」
「前……色々と迷惑かけちゃったから、その……それに対する謝罪」
リリスは言葉を絞り出す。視線は床に向けられ、握っていた拳が悔しさで小刻みに震える。パエトーンの宿舎で味わった苦痛は、自分一人の問題だったのにそれをエレンにぶつけてしまった。
リリスは必ずエレンを守ると誓った。しかし怒りに身を任せ、エレンに酷いことをしてしまったと、自分自身を叱責していた。
「そんなの、リリスさんのせいじゃないですよ!私だって、あの時は何も出来なくて……」
エレンが必死にフォローしようとした時、乱暴にドアを蹴破ってベティが現れた。彼女はリリスの前に立つと、いつも通り頭を乱暴に、しかし優しさを込めて撫で回した。
「ああもう、私は犬じゃないって!」
「謝って済むなら軍隊はいらない……いいか?リリス、アイツらに好き勝手やられた自分が許せないなら、明日の模擬戦でそのツラをぶん殴る。それでお釣りは返せる」
ベティは不敵な笑みを浮かべた。彼女の言葉は重みがあるが、迷いがない。二十代半ば、兵士として最も熟している肉体と精神。今の彼女にとって、パエトーンの少女たちがするであろう小細工など、ただの子供騙しでしかない。
「あの、ね。ベティ……私明日の模擬戦で戦えなくなることが怖い」
「前の……ストライカー?の時みたいにか、でもそれは昔の話、もうシンクロ率の低下は克服しただろ?それに……今回は私が前線にいる」
かつてストライカーから味わった敗北の味。突然シンクロ率が低下し、思うように体が動かせずに食いちぎられるあの瞬間、そばにいてくれたのはベティだった。恐怖に押しつぶされそうになった時、それを打ち消してくれたのは目の前にいる戦友の存在だった。
「ほら、エレンもそんな顔しないでさ。明日は特等席で模擬戦を見れるんだから、しっかり見てろ!私が小娘たちをどう調理してやるかをな」
ベティはエレンの頬を軽く指で突いた。エレンは照れたように笑い、リリスの手を握った。そして安心したように言う。
「……はい。ベティさんがいればきっと大丈夫ですよね。リリスさん」
「うん。そうだね……」
リリスは深く息を吐き、顔を上げた。
沈黙を破ったのは、電子音だった。誰かがチャイムを押したのだ。まだ暴風雨は止んでいない。サラはずっと部屋で寝ているので、彼女でもない。
ベティは警戒するようにエレンを後ろに隠した。腰のホルスターに手をかけ、鋭い視線をドアの向こう側に向ける。この暴風雨の中、自分たちの宿舎を尋ねてくる者などいない。つまり、敵の可能性が高い。
「……誰だ」
「パエトーン第一分隊。ニーナ・ワイズ……エリヤ隊長からの伝言だ。通してもらおうか」
「そこで話せないのか?」
「……」
「嘘だよ、とりあえず雨宿りでもしてきな」
ニーナは建物の中に入ると、髪についた水を払った。エレンたちには紫の髪が不思議に魅力的に見えた。ニーナは「犬」と呼ばれているようにパエトーンの中でも命令に忠実で、リリスたちを除く他人にほとんど口を聞くことがない。
「夜分に失礼、明日の模擬戦で変更点があってな」
ニーナは手に持ったタブレットを操作し、図面を見せた。
「会場を第一訓練場に変更。あそこは中央政府直属の特別区画だ。エリヤ隊長がやるならもっと派手に、とな」
「シチュエーションは?」
「三対三のライフ制、妨害用にネクストルムを模したロボットも配置されている」
「いいね、私燃えてきたよ」
リリスが言うと、ニーナは背を向ける。ベティの返事を待たずにそのまま傘を開き、降りしきる雨の中に消えていった。
リリスはエレンに深々と頭を下げる。エレンは困惑の表情で両手を振る。
「ちょ、ちょっとリリスさん!どうしたんですか急に!」
「前……色々と迷惑かけちゃったから、その……それに対する謝罪」
リリスは言葉を絞り出す。視線は床に向けられ、握っていた拳が悔しさで小刻みに震える。パエトーンの宿舎で味わった苦痛は、自分一人の問題だったのにそれをエレンにぶつけてしまった。
リリスは必ずエレンを守ると誓った。しかし怒りに身を任せ、エレンに酷いことをしてしまったと、自分自身を叱責していた。
「そんなの、リリスさんのせいじゃないですよ!私だって、あの時は何も出来なくて……」
エレンが必死にフォローしようとした時、乱暴にドアを蹴破ってベティが現れた。彼女はリリスの前に立つと、いつも通り頭を乱暴に、しかし優しさを込めて撫で回した。
「ああもう、私は犬じゃないって!」
「謝って済むなら軍隊はいらない……いいか?リリス、アイツらに好き勝手やられた自分が許せないなら、明日の模擬戦でそのツラをぶん殴る。それでお釣りは返せる」
ベティは不敵な笑みを浮かべた。彼女の言葉は重みがあるが、迷いがない。二十代半ば、兵士として最も熟している肉体と精神。今の彼女にとって、パエトーンの少女たちがするであろう小細工など、ただの子供騙しでしかない。
「あの、ね。ベティ……私明日の模擬戦で戦えなくなることが怖い」
「前の……ストライカー?の時みたいにか、でもそれは昔の話、もうシンクロ率の低下は克服しただろ?それに……今回は私が前線にいる」
かつてストライカーから味わった敗北の味。突然シンクロ率が低下し、思うように体が動かせずに食いちぎられるあの瞬間、そばにいてくれたのはベティだった。恐怖に押しつぶされそうになった時、それを打ち消してくれたのは目の前にいる戦友の存在だった。
「ほら、エレンもそんな顔しないでさ。明日は特等席で模擬戦を見れるんだから、しっかり見てろ!私が小娘たちをどう調理してやるかをな」
ベティはエレンの頬を軽く指で突いた。エレンは照れたように笑い、リリスの手を握った。そして安心したように言う。
「……はい。ベティさんがいればきっと大丈夫ですよね。リリスさん」
「うん。そうだね……」
リリスは深く息を吐き、顔を上げた。
沈黙を破ったのは、電子音だった。誰かがチャイムを押したのだ。まだ暴風雨は止んでいない。サラはずっと部屋で寝ているので、彼女でもない。
ベティは警戒するようにエレンを後ろに隠した。腰のホルスターに手をかけ、鋭い視線をドアの向こう側に向ける。この暴風雨の中、自分たちの宿舎を尋ねてくる者などいない。つまり、敵の可能性が高い。
「……誰だ」
「パエトーン第一分隊。ニーナ・ワイズ……エリヤ隊長からの伝言だ。通してもらおうか」
「そこで話せないのか?」
「……」
「嘘だよ、とりあえず雨宿りでもしてきな」
ニーナは建物の中に入ると、髪についた水を払った。エレンたちには紫の髪が不思議に魅力的に見えた。ニーナは「犬」と呼ばれているようにパエトーンの中でも命令に忠実で、リリスたちを除く他人にほとんど口を聞くことがない。
「夜分に失礼、明日の模擬戦で変更点があってな」
ニーナは手に持ったタブレットを操作し、図面を見せた。
「会場を第一訓練場に変更。あそこは中央政府直属の特別区画だ。エリヤ隊長がやるならもっと派手に、とな」
「シチュエーションは?」
「三対三のライフ制、妨害用にネクストルムを模したロボットも配置されている」
「いいね、私燃えてきたよ」
リリスが言うと、ニーナは背を向ける。ベティの返事を待たずにそのまま傘を開き、降りしきる雨の中に消えていった。
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