魔法少女狩り

チャハーン

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新人狩人編

第四話 狂戦士

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 暗闇の独房、辺りを見渡しても外からの光は一切届いていない。上原御守は椅子に縛り付けられた状態で目を覚ました。口も、両手も、両足も、全てが縄と粘着テープで抑えられているため、声を出すことも出来ない。
「目を覚ました?」
 ドアが開き、電灯の光が独房の中に入った。尋問を担当するのは、あの時彩花をスカウトした女性だ。名前を豊橋奏と言い、トヨハシグループ現会長の娘だ。

 ───豊橋奏…まさかここで出会うとは!

「ジェム・ラピス、あなたの身元は確認できた」
 数枚の書類を御守の足元に投げ捨てた。
「上原御守、高校三年生…都内の名門校''小鳥遊高等学校''所属」
 御守は奏の目を見ると野生動物のように睨んだ。組織の情報によれば奏は非戦闘員だ。反撃のチャンスがあれば簡単に床にノックアウトさせることが出来るだろう。

「紹介しよう、私のボディーガードだ」
 黒で統一された服を纏う女性がどこからともなく現れた。奏よりもずっと体格がいい。
「彼女のコードネームは光の子フォス
 フォスは御守の口に貼り付けられた粘着テープを優しく剥がした。
「……私はただの一般人です」
「ふふっ…シラを切るつもり?バッジまであるというのに」
 奏は懐から魔法少女のみ持つことの出来る例のバッジを取り出した。
「それは…!」

「あなたがこれからどうなるかわかる?」
「どうせ殺すんでしょ…」
「そんな乱暴なことしないって~」
 突然、御守は首元に冷たい感触を感じた。
 慎重に振り向くと、フォスが剣の刃を自分の首元に当てていた。

「逃げ出したいなら彼女と戦う、大人しくしていれば乱暴なことはしない」
「もし…もし負けたら?」
「うーん…それはあなたの頑張り次第」
 奏が指を鳴らすと、四肢を拘束していた縄が瞬く間に弾け飛んだ。
「あなたの相手は誰がいい?」

 * * *

 御守が目を覚ます少し前、簡易休憩室。

「工藤彩花、結果が出たぞ」
「はい…今行きます」
 勲章を複数付けた上司が彩花を呼んだ。同僚や上司の話によると、グループの中でも上位に属する人物のようだ。
 彼に連れられ彩花は部屋に入った。見た事のない部屋だ。壁には新聞の切り抜きやトロフィー、肖像画が貼り付けられていた。何かの保管室なのだろうか?彩花は想像力を働かせた。

「お前は今からグループの戦闘員として正式に認められる。決して下働きでは無い」
 机の上に置かれた水晶のような球体は、触れた者の適正魔法を自動で診断する機能を持っている。
「さっき触ったこれだが、もう一度触ってくれ。今度は更に精度が高い」
「……その、これは何を判断するんですか?」
「お前の適正魔法だ。さっきは…エラーが出てな」
「エラーが…?」

 頭に疑問符を浮かべながら言われるがままに球体に触った。
 刹那、電流が走ったかと思うと球体の中にあった曇りが晴れた。反射的に彩花は手を離してしまい、痺れた手を摩った。
「ブラックホール」
 球体にはそう映し出されていた。
「ブラックホールか…珍しいな」
「凄いんですか?」
「まぁそうだな、これを選択する戦闘員は非常に稀だ」

 それは何故?と聞きたかったが、何か嫌な予感がして彩花は聞くのを辞めた。
「ついてこい、授与を始める」
「あっ…えっと、はい!」


 現在グループは、二つのことで盛り上がっていた。
 一つ目は宿敵の魔法少女を捕らえたこと、もう一つは魔法少女を捕まえた労働者が正式な戦闘員として認められることだ。
 活躍している魔法少女を捕らえることは久々な上に、その魔法少女が組織の戦闘員と決闘するというのだ。盛り上がらずにはいられない。
 労働者が正式な戦闘員として認められたことだが、これは彩花がかつて所属していた現場、そこの班員が最も喜びを顕にしていた。チームとしての意識が強い彼らにとって、仲間の昇進はこの上ない喜びでもあった。

 ジェム・ラピス、彼女はバッジを返却されると地下の闘技場に連れていかれた。彼女が立っている場所を中心に、無数のカメラと観客が囲んでいる。観客には非番の戦闘員や作業員、更にはグループと癒着している大物の姿もあった。
 ラピスはこの景色に衝撃を受けざるを得なかった。
「ほら行くぞ」
 決闘に勝てば晴れて自由の身だ。しかしもし負けたら───

「うおおおおお!」
 ラピスは喉が潰れるまで雄叫びをあげた。
 ───魔法少女の底力、見せてやるわ。
「準備は出来たようだな」
 対戦相手はフォスと名乗った女性だ。黒の手袋と上着を脱ぎ去ると、ノースリーブが顕になった。

「私はフォス、お前を叩きのめす者だ。覚えておくがいい」
「望むところよ…懸賞金四千万の力、味わせてあげるわ」
 開戦のゴングが鳴ると、二人は距離を縮め始めた。ラピスは警戒しながら近寄り、フォスは固い表情を崩さずに近寄った。

大鎌の結晶クリスタルサイズ!」
 ラピスが叫ぶと光が彼女の手の中に集まり、大鎌を作り出した。大体何でも切れると自負している大技だ。
「…星の聖剣アストラルセイバー
 それに応えるようにフォスが言い、光から聖剣を作り出した。
 二人の距離はおよそ三メートル、お互いの攻撃が──あくまで斬撃のみ──かろうじて届かない限界だ。

「………」
「どりゃああ!」
 ラピスは大鎌を振り回すと縮地、一瞬で間合いを詰めて鎌を浴びせた。
 フォスは余裕綽々の表情で鎌を受け止めた。鎌を弾くと突きを繰り出した。
「あぶっ!」
 胴体を貫く刹那、鎌の持ち手が剣を弾く。
「やはり…手応えが無いな」
「バカにして…」
「お前の弱点は既に判明している」

 フォスの言った弱点、それは広すぎる間合いだ。大鎌は破壊力と射程に優れているが、間合いを一瞬で詰められた時反撃が出来ない。剣とは訳が違う。
「弱点?そんなの気にしてる暇無いわよ!」
 彼女は空を舞うと、縦横無尽に鎌を振り回した。こうすることで先程の弱点は解消される。この振り回す攻撃を止められるほどの技を出さない限り、全ての攻撃は鎌によって弾かれる。

結晶凝固クリスタルコントロール!」
 鎌を握っていない手で印を結ぶと、フォスの周りに無数の結晶が出現した。この結晶は耐久力こそ低いものの、魔力消費が少ないため再展開すること擬似的に相手を拘束することが出来る。
「ほう…」
 聖剣を軽く振り回すと、結晶は砕けて空気に戻った。しかし結晶は瞬く間にフォスを覆った。
「なるほど…あえて耐久を削り無限に結晶を出せるようにしたのか、目障りだな…」
「あなたにこの攻撃と拘束のコンボを破れるかしら!」
 泰然自若、フォスは落ち着いた様子で剣を握った。

 ───光子の槍フォトンジャベリン

「……ぐっ!?おぁ…!」
 鎌の動きが止まり、空中にラピスが静止した。何事かと観客が目を凝らすと、複数の光の槍がラピスの身体を貫いていた。
「そ…んな、いつの間に…」
 自分が無数の槍に貫かれたという事実を受け入れられずにいたラピスは全身から力が抜け、鎌を落としてしまった。

「さすがフォス!」
 観客席から歓声が上がった。
「ふん…雑魚だったな、これが四千万とは」
 フォスは颯爽と闘技場を後にしようとした。

 刹那───

「…なんだ?」
 重低音が響くと、ラピスに刺さっていた無数の槍が半分に割れ、粉々に砕け散った。一筋の汗がフォスの頬を伝う。
 一度消えた聖剣は、フォスが右手を握ると再び出現した。
「お前がやったのか?」

 ゆっくりと落ちてくるラピスを両手で優しく捕まえると、そっと地面に降ろした。彼女の体は確かに槍に貫かれたはずだ。しかし一切の傷が残っておらず、血が流れた跡も無かった。

「私の友達をこれ以上傷つけるのは許さない」
 黒のスカート、その上には月と太陽をモチーフとした飾り付けがされている。ターコイズブルーのジャケットは海のように光っている。
 茶髪の彼女に似合う衣装だ。

「工藤…彩花!」
「コードネームで呼んで欲しいな。''狂戦士ベルセルク''って」
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