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騎士の都は面倒くさい!

お目通り

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 ヘントラスを旅立って数日、私の眼前に広がるのは!
 見渡す限り、シーアラみたいな鎧を着た人、人、人!
 大きなアーチの下を行き交う馬車と一般人が行き交っていく光景を見て、つい呆けた。
 行き交う人の半分以上が鎧を着ていて、それ以外にも冒険者やその一行らしきいくつものグループが道を歩いていて、村の人たちの様な装いをしている人の方が少ない。
 道幅もヘントラスよりもずっと広く、歩きやすい様に整備されていて、店がずらりと建ち並んでいる。
 王都っていうくらいだから、当然、人は村よりもずっと多くいるだろうと思ってたけど、これはちょっと。

「鎧着てる人多すぎじゃない?!」

 あまりの多さに、ぎょっとして声が出た。
 リオンはぼんやりしてるし、メイは私の声に苦笑いを浮かべてたけど、それでも思う。
 多すぎる!
 いくらこの国が、外国に対して武力を提供してる―だっけ?―からって、あまりにも多すぎると思ってしまう。
 散々座学で教え込まれた事を思いだして、私は口元を引きつらせた。
 果たして鎧を着ている人のうち、どれぐらいがシーアラの様な実力者なのか。
 ほぼ全員がそうなのだとしたら、と想像して、背筋が凍った。
 氷風の嵐、降って止まない氷柱の様ないくつもの視線、そんなのが大勢いたら、どんな生き物でも動けなくなるに違いない。

「と、とりあえず、移動しない?」

 メイの苦笑いが私に対してなのか、それともこの状況に対してなのかは考えない事にして、私は頷いた。
 門を抜けて、通りを歩きながら王都の様子を見ていく。
 お店は活気づいているけど、その殆どが武器屋と薬屋で、パン屋や果物屋といった食料品店はあまりない。
 王都で暮らす人や冒険者が買いにくるようだけど、食べ物を扱う店に、鎧をまとった人が並んでいる姿は見かけない。
 そういえば、ヘントラスでも兵士たちはパン屋に直接足を運んだりしていなかったか、と思い出した。

 中央に立派な城があり、城の門から一直線の道沿いに、教会がある。
 教会から王都の入り口側へ更に進むと冒険者の出入りが激しい建物があった。
 酒場とは違うようだけど。

「なにあれ」

 私が足を止めて、その建物に視線を向ける。

「冒険者ギルド…」

 リオンがぼんやりと答えてくれた。

「ふーん…」

 冒険者ギルドって何?と思いつつも、それを口にはしなかった。
 確か、メイのお父さんも元冒険者だったっけ。

 止めていた足を動かしだして、更に奥へと進んでいく。
 武器屋だけではなく鎧専門店なんかもある様で、兵士らしき、鎧を着た人が何人か入っていくのが見えた。
 食べ物は自分で買わないけど、鎧や武器は自分で買うらしい。
 そこからもう少し進んだ先には宿屋がいくつも建っていた。
 これは流石にわかる。
 冒険者の中には他国からやってきた人もいるだろうし、同じデイスターニア国内出身の人でも、私たちみたいに端っこの村から来てる人もいるだろうから。
 そういう人たちのために宿屋がいくつもあるんだろう。
 宿屋の前を通っていたら、私達に視線を向けながらこそこそと話している数人のグループが目についた。
 冒険者のグループみたいで旅装束を着ていたけど、その視線はリオンに向いている気がする。

「…ね、ねえ、ハイシア…?」

 メイが眉尻を下げて、困った様な視線を私に向けた。
 あのグループが何をこそこそと喋っているのかなんて、簡単に想像がつく。

「勝手に言わせときゃ良いのよ。どうせ見てくれだけで判断して、なんにも知らないんだから」

 あっかんべーの一つくらいお見舞いしてやっても良いんだけど、と思いつつも、そっぽを向いた。
 そんな私に対して、メイは困った顔のままだ。

「でも…」
「メイ…ハイシアの、言う通りだ」

 リオンが頷くと、メイもようやく頷いた。
 それでも、やっぱり納得はいっていないみたいだった。
 人間が持つ、ダークエルフに対しての印象は村で嫌というほど感じた。
 リオンが村の前で倒れていた時だって手を差し伸べる人は誰もいなかったんだから。
 こそこそと話しているのは、どうせ、ダークエルフがどうのとか、大丈夫なのかとか、そんな、リオンの事を知りもしない人たちだ。

「それより、今日の宿を探さない?王都まで来て野宿するなんてもったいないでしょ。リオンも夜通し見張りやってくれてたんだし、ちゃんと寝たいでしょ?」
「寝るのは、大事だ」

 リオンが、今度は大きく頷いた。

「相変わらずですね、ハイシア・セフィー」

 後ろから突然声をかけられた。
 懐かしい声だけど、凛とした強さの様なものがあって、目を見開く。
 振り返ると、そこにはやっぱり懐かしい顔があった。

「セフィア!」
「お、お姉ちゃん!」

 セフィアは村を出た時よりも、一段と大人びた顔立ちをしていた。
 訓練用の剣ではなく、本物の剣を佩刀して、シーアラほどまではいかなくても立派な鎧を身に纏い、メイと同じ緑色の長い髪を後ろでくくっている。

「お久しぶりです」

 セフィアは柔らかい笑みを浮かべて、メイの頭を一撫でした。
 懐かしい人に出会った様な、そんな優しい笑みだ。

「お姉ちゃん、久しぶり!」
「すっかり軍の兵士っぽくなったじゃない、セフィア」
なったのではなく、今は軍の兵士なんですが。これでも」

 呆れた様にため息をつくセフィアに、私は笑みを向けた。
 騎士ナイト個性スキルの力を惜しみなく発揮できる場所に身を置けているみたいだ。
 シーアラに直談判してた時のセフィアから、更に一歩、自分の目標に近付けたみたいで良かったと思う。
 まあ、この状態で『手合わせをしましょう』とか言われたら、今だったら確実に負ける自信しかないんだけど。

「そちらの方とは初めましてですね。セフィア・ミリィーと申します」

 セフィアがリオンに視線を向けると、リオンもまた、セフィアに、ぼんやりとした視線を向けた。
 相変わらず焦点が合ってるんだか合ってないんだか。

「俺は、リオン。お前の事、シーアラから、聞いてる」
「シーアラ様からですか?それは…恥ずかしい話しか伝わっていない様に思うのですが」

 あの頃は…なんて言いだしそうなセフィアの頬が真っ赤になった。
 リオンは首を傾げて口を開くと、シーアラから聞いたセフィアの事を話しだす。
 十三歳にして稽古をつけてほしいと直談判した、だとか、私と戦って負けた、だとか、素質があり真面目だとか。
 前半二つの話をリオンが喋り出した時には、セフィアはその真っ赤な顔でリオンを止めようとしていた。
 けど後半の、シーアラが持つセフィアに対する評価の話の時には素直に喜んでいた。

「セフィア、あんた相変わらずシーアラの事高く評価してんのね」
「当たり前です」

 シーアラが悪い大人だって事を知ったら、セフィアがどうなってしまうのか興味はある。
 あるんだけど、それを口にしようものなら、村に戻った時に当の悪い大人から向けられるのが、氷風特一級の視線だけじゃ済まなそうだからやめておいた。
 それからセフィアは、こほん、と一つ、咳払いをしてから、私に真剣な目を向ける。

「ハイシア、あなたに一つ知らせておきます」
「なに?言っとくけど、王都で歓迎されてないとかそういう話ならお断りだからね?周りがどうとか、そういうの、いい加減――」
「いえ、全くそういう話ではないんです」

 『飽き飽きした』と言う前に、セフィアが首を横に振る。

「サイトゥル大佐たちが目覚めたそうです」

 セフィアの真剣な声に、私は目を見開いた。
 何年も眠り続けて、王都の魔導士たちが何をしても目覚めさせることが出来なかった、居眠り魔たちが。
 その言葉に、心の奥が少しだけ安堵した様な気がした。

「――おっそいのよ、あの雷親父一級保持者」

 気がしたけど、ムカつくから、そんな事を口に出してなんてやりたくなくて。

「じゃ、じゃあ、シーアラ様はまた、王都に戻るの?」

 メイが代わりに聞くと、セフィアは首を横に振る。

「いいえ。年齢も年齢ですし、サイトゥル大佐は軍を退役されて、故郷に戻られるそうです。残りの兵士たちは、体力を戻して改めて配属先を決められるのだとか」
「…まあ、あれから何年も経っちゃってるしね」

 大佐じゃないサイトゥルなんて、正直想像がつかない。
 私が初めて剣術の稽古をした時から、サイトゥルは大佐として村にいた。
 だから大佐じゃないサイトゥルなんて、見た事がない。
 鋭い睨みもその眼から出てくる事はないんだと思うと、少しだけ寂しい気もする。

 ランが魔王に即位してから初めて会った、あの日から、時間は流れ過ぎた。
 けどじゃあ、私があの時、何があったのかを話していたらサイトゥル達はもっと早く目覚めていたのかと言われると、きっとそうでもない。
 だって、王都直属の魔導士の力は通じなかったから。
 どう転んでもこうなっていたんだと、そう思う。

――そう思いたいだけかもしれないけど。

「ま、一言お礼くらいは言ってもよかったかもね」
「ハイシア?」

 不思議そうな顔をするメイに、私は首を横に振る。
 サイトゥルの故郷を私は知らないし、きっとサイトゥルは、これほどの時間が経ったのは私のせいだと言うかもしれない。
 右から左に受け流せるほど子供ではなくなった私に何を言うのかは分からないけど、これでだって、言ってやるしかきっと出来ない。
 十歳の私を戦場に立たせたことを私は許していないし、きっとサイトゥルも私を許さない。
 それで良いんだって、思うしかないんだ。

「ハイシア・セフィー。あなたに来ていただきたい場所があるのですが」

 セフィアの言葉に、今度は、私たち三人が首を傾げた。



   ***



 天上からは煌びやかな装飾で飾られたシャンデリアが幾つも下がっていた。
 軍の施設とは違い、真っ白な大理石が一面を覆って、その中心に赤い絨毯が遠くまで敷かれている。
 行き交うのはメイドや執事、そして多くの、鎧をまとった兵士たち。
 セフィアを先頭にして歩いていき、すれ違う、明らかにセフィアよりも年上の兵士たちはセフィアに向かって軽く会釈をしていく。
 そして私たちに視線を向けて、ぎょっとする。
 この工程を、何度も見た。
 何回そんな様子を見たのかわからないくらいね。
 メイはどこかよそよそしくて、リオンはただぼんやりとセフィアの後ろを歩く。
 私はというと、むず痒くてしょうがなかった。
 一体どこに連れて行かれるのかと思えば、この王都の中心。
 ここは、デイスターニア国の中心も中心、デイスターニア城。
 なんで城なんかに連れて来たのかと思ったけど、考えれば、思い当たる理由は幾つかある。

 勇者の教育費用はすべて国から出ている。
 それだけでも、私が城に呼ばれる理由は十分だ。
 それも悪い意味で。
 シーアラがどんな報告をしてたのかは知らないけど、少なくとも、サイトゥルもシーアラ同様に報告を行っていたはずだ。
 果たして何を言われるのやら。
 言われるのは別に良いけど、いる場所が悪い。
 城とかいう煌びやか、優雅、気品、そんなものがそこかしこにある場所は、むず痒くてむず痒くて、たまったもんじゃない。

「ここです」

 セフィアが私たちを案内したのは、城の中でも一番高い階にある部屋、だと思う。
 これ以上階段があるのかは知らないけど、相当城の中を歩いたし、階段も何回か上ったから、とりあえず、暫定的に一番高い階にある部屋って事で。
 通ってきた廊下に沿うようにして設置されたどの部屋よりも、大きく、そして縁取りが金色で豪華な扉の前で、セフィアは足を止めた。
 こんな場所に住んでたら、私なら二日と持たず脱走する。

「ハイシア・セフィー、これから、王に謁見をしてもらいます」
「それ、しなきゃだめなの?」

 一応、聞いてみる。
 セフィアは首を横に振った。

「だめです。あなたにとって喜ばしいことでないのは分かっていますが、『勇者』として――」
「やーっぱりそれ」

 勇者として王様に会って、今までの援助に対しお礼ないといけないって事みたいだ。
 セフィアも私の性格を分かっているからこそ、私にとって喜ばしくない事だって言ったんだろう。

「セフィアの頼みじゃなかったら、抜け出してたわよ」
「…でしょうね」

 本当に、腹が立つったらない。
 苦笑いを浮かべるセフィアに免じて、言う通りにしようと思うしかない。

「とっとと終わらせるし」
「は、ハイシア…」

 私の言葉に、よそよそしかったはずのメイまでも苦笑いを浮かべる。
 姉妹揃って、似るところは似ているというか。

「俺は、待ってる」

 ぼんやりとした目で、リオンが口にする。

「せっかくだし、リオンも居たら?」
「いい。オマエ、動きにくくなる、気がする」
「関係ないでしょ。一緒に旅してるんだし、そもそもリオンはシーアラが認めて、私の魔法基礎・実技の先生やってたんだから。どうせシーアラ、リオンの事も報告してるでしょ」

 私の言葉に、リオンは暫く黙った。
 ぼーっとしている様に見えるけど、考えているみたいで、それからリオンは首を縦に振った。
 私たちの反応を見てから、セフィアが扉を開く。

「王、勇者の一行をお連れしました」

 シーアラに『勤務時間外』のスイッチがあった様に、セフィアにもそれがあるらしい。
 きりっとした表情で『王』に声をかけるセフィアは、まさしく『勤務時間中』のシーアラそっくりだった。

「入れ、許そう」

 偉そうな物言いとは反対に、声が、想像していたよりずっと若い事に驚いた。
 それこそサイトゥルや村長ぐらいの年齢を想像していたけど、シーアラよりも若く聞こえた。

 驚きながらも、言われた通りに空間へと歩む。
 城の中でも恐らく一番豪華と言っていい装飾を施したシャンデリアが、いくつも下がっていた。
 部屋の奥には、玉座が二つあった。
 が、玉座に座っているのは一人だけだ。
 そば仕えらしい執事とメイドが一人ずついるが、そのどちらも剣を佩刀していた。
 玉座に腰を据えている王様は、絵本や昔話に出てくるような恰好ではなく、鎧を身に着けていた。
 軍事力が人間族の中で最も高いとされる国は、王自らが、王であると同時に軍に所属しているということなのだろうか。
 それとも見せかけなのか。
 それは分からないけど、この国を象徴する様な装いをしている事に間違いはなかった。

「貴様が勇者、ハイシア・セフィーか」

 プラチナブロンドにブルーの瞳をした、シーアラよりも若い見た目の男に言葉をかけられ、反応が一瞬遅れる。

「こうして王にお目通りが叶う事、恐悦至極にございます。ヘントラス村より参りました、ハイシア・セフィーと申します」
「そうか」

 たったそれだけだ。
 それだけ。
 何のために来たのか、呼ばれたのかわからないが、王はそれから少し、黙った。
 若く、まるでガラスの様に透き通った様な声をしている。
 そこに感情がのっているかと言われると、そうではないけれど。
 第一印象は『偉そうでちょっとヤバそうなやつ』である。

「そのような世辞はいい」

 暫くしてから王が、そう言った。

「シーアラから、もっと面白い奴だと聞いていた。それだけに、とても残念だ」
「はあ。そうですか。じゃあ帰って良いですか?」

 反射的に飛び出した言葉に、隣でメイがぎょっとした。
 メイドと執事に並んで事を見ていたセフィアがあからさまに顔を逸らす。
 その肩が微かに揺れていたから、多分、笑ってる。
 あ、やっば、品がどうとか言われそう、と思ったものの、言ってしまったものはしょうがない。
 目の前の、ご立派な椅子に座る王はその言葉に目を見開いた後、豪快な笑みを浮かべた。

 あ、これは。
 面倒くさい予感がする。

「それがお前の本性?いいな、面白い」
「残念だってさっき言いましたけど」
「いや、良い、忘れてくれ。父上はお前に対して嫌味をよく言っていたが、なるほど、父上が嫌がりそうなタイプだ」

 くつくつと、何が面白いのか知らないけど笑っている王とは反対に、私はあからさまに眉を寄せた。
 ガラスの様で感情がのっていないと思っていたけど、一瞬にしてそれは崩れ去った。

「この町を見てどう思った?」
「どうって…兵士がやたら多いなとか、冒険者がよく集まってるな~とか…」

 それぐらいしか印象にない。
 町を見てどう思ったとか、どこがいいとか、どこがダメとか、そんなところまでいちいち見ていないのは本当だし。

「そうか。父上はよく言っているよ。魔族がいつ攻め入ってくるかわからない。本当にそうなった時、この国は最初の砦であり、同時に最後の砦であると」

 王が私を、鋭い視線で睨む。
 砦という言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
 この国は人間という種族すべてを守るために、兵士を様々な国に派遣している。
 武力的な技術もダントツって事だ。
 この国が防衛を担っていると言いたいんだと理解した頃、私の口から盛大なため息が漏れそうになった。
 それをなんとか堪えて、かわりに、王に視線を向ける。

「で?だからなに?そんなことがない様に一刻も早く魔族を倒しに行けって?」
「いや、そうではないんだ」

 そうではない?

「新たな魔王が即位したと、確かに過去、そんな情報が入った。そして我が国の兵であり民である者たちの、長い時間が止まった。勇者であるハイシア・セフィーを除いてだ。そして、それ以来あちらは全く動きを見せていない。前代の魔王同様、冷戦を維持する意向なのかとも思ったが、それなのであれば、サイトゥル達を眠らせる意味もない。ならばなぜ、あれらは何も仕掛けてこない」

 鋭い視線が私に向けられ、反射的に睨み返す。

「お前なら、どう考える?俺はそれが知りたい」
「そんなの、私が答える事じゃないでしょ。私の役目は聖剣を手に入れて、魔族の領域に行くこと。魔王をぶん殴っておしまい。相手がどうして出てこないのかとか考えるのは私の役目じゃない」

 両腕を組んで仁王立ちをする。
 後ろでメイが慌てふためいてる気配がして、すかさずリオンがメイのフォローに入った。

「倒す、殺すのではなくぶん殴る、か。面白いな、お前は―― で、お前は何を?」

 王の口元に笑みが浮かぶ。
 けれど、刺すような鋭い視線が私に向けられる。

「王って、ただ城の玉座でふんぞり返ってるだけかと思ったけど、そうでもないってわけね」
「その発言は、意図的に国に対して隠しごとをしているとみなされるぞ?それも、人類の存亡を揺るがしかねない様な秘密を」
「勝手に言ってれば?どうせ何言ったって、自分の信じたい事しか信じられない様に出来てるんだから、人間っていうのは」
「今ここで、お前を捉える事も出来るが、どうるす?」

 王の言葉と同時、控えていたメイドと執事が腰に佩刀した剣のグリップに手を添える。
 セフィアはただ静観している様だった。
 リオンが一歩、動こうとする。

「リオン」

 それを言葉で止めて、私は肩をすくめた。

「で?捕らえて殺して、新しい勇者の誕生を待って、自分達の思い通りに動く勇者に今度こそ育てるって?人形育てて何が楽しいのか知らないけど、そんな茶番に付き合わされる新しい勇者も可哀想ね」
「なるほど、度胸もある。考え方もまるで違う。面白い。良い」

 嫌味を言ってやったっていうのに、王はまた笑うと、片手をあげる。
 それを合図に、メイドと執事がグリップから手を離し、先ほどと同じ姿勢に戻った。

「また明日にでも来い。セフィア、彼女たちを一等良い宿屋に案内しろ」
「畏まりました」

 最後に見た王の口元は、何かを企むかのように弧を描いていた。
 面倒くさい予感しかしないんですけど、これ。
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