記憶は返事にこたえない

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1幕

1-4

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 話が終わったら大音量のヘッドホンか何かを付けられるのかと思ったが、そのまま放置されたので疑問を抱いた。二回目だからと考えたが、付けない理由にはならない。後ろから聞こえるかけらのような音と、本当に隣にカナミがいるのか疑問に思うほど消えた気配、安定した自動車の走行音はゴイチを混乱させた。

 体感では数日たったかのようだった。すべてに疑心暗鬼になりそうになった時に車道がアスファルトから土に変わった。

 車は停車し、ドアが開けられる音が聞こえ、ゴイチが予想していた人数分降りたのが分かった。隣は誰もいないのではないか、と不安に思っていたがそんなことはないとわかり疑念は和らいだ。興奮でじんわりと汗をかいていたが、外気の冷たさで一気に寒気に変わった。頭にかぶせられた袋を乱暴に外された。

 袋を取ったのはカナミではなかった。
 
 ゴイチは無意識に身をこわばらせた。それは怯えからではなく、不可解さからだった。

「降りてください」

 ゴイチはその人物の感情は読めなかった。口角を歪ませたままその指示に従った。



 通された部屋は監視カメラがあり、およそ人が住むには欠けているところが多いものだった。窓はなく四方をコンクリートで固められている、人によっては短時間で気がふれてしまいそうな作りだった。マットレスは交換してるのか、汚れは見当たらないものの一人寝るのがやっとなパイプで作られた簡単なベッドと、半身までしか隠せないような仕切りが付いているトイレ。あとは簡単な洗面台。部屋というよりは収容室と言った方がいいだろう。

 ゴイチは入った瞬間、ここにいた時に考えていたことがよみがえってくるような感覚に吐き気を催した。すかさずトイレに駆け寄り、吐いたが胃酸しか出なかった。

「安定剤です」

 ゴイチを連れてきた人物は、それを見ても何も感じなかったのか、はたまた慣れきっているのか、作業的に半透明の紙に包まれた一錠の白い錠剤をベッドに置いた。

 効果のほどは身をもって知っている。

 このまま目が覚めなければいい、と思いながら水道水で流し込んだ。錠剤の味なのか水道の味なのか、薬品の味がした気がした。





 研究室のような個室で間宮カナミはゴーグル型のヘッドセットを外した。長めの背伸びをして、机に置いていたラベルのない目薬を差し、その長いまつげの生えた目を強く閉じてよく揉みほぐす。

「会場は異常なし」と、つぶやき、画面のチェック項目に印をつけた。「加々島さんはどう動いてくれるかしら」

 どことなく楽しげだった。
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