はごろも伝奇

大文字 章

文字の大きさ
1 / 28

01. ドロの妖怪

しおりを挟む
 
 この宇宙には「パラレルワールド」とよばれる、別の歴史をたどった、別世界があるという…。

 そして、そのパラレルワールドには、別の歴史をたどった、もう一つの日本があったのである…。

 しかも、そこにはなんと、迷信めいしん存在そんざいといわれる、あの妖怪ようかいたちが、実際じっさいに、存在していたのであった…!

 …実在じつざいし、だれの目にもうつる妖怪たち…。

 パラレルワールドの人々は、見える彼らを疑う余地よちなく認識にんしきし、り合いをつけながら、日々、生活を送っていた――。

 …けれど…、妖怪たちは、たびたび様々さまざま怪異かいいこし、人々にがいをなす事が多かったのである…。

 そのため人々は、妖怪たちの被害ひがい対処たいしょできる人材じんざいもとめていた…。

 妖怪たちの不思議な力に、対抗たいこうできる者たちを――。

 そしてその妖怪に対抗できる者たちこそ、おがみ屋をいとなむ、『退魔師たいまし』と呼ばれる人々、だったのである――。



 <西暦せいれき 1970年 4月>

 <パラレルワールド・日本…>



 空があかね色にまった夕暮ゆうぐれ時…。

 広い田んぼ横の、のどかな住宅街じゅうたくがいに、あやしい3つの人影ひとかげがあった。

 いや、よく見ればそれらは人影ではない。

 土のドロが1メートルほどの小山こやまとなって、もぞもぞと動いているのだ。

 その動くドロ山には、一つの目玉と、手と口までもがついている。

 どうやらこれは、ただのドロ山ではなく、なにかの妖怪のようである…。


 そしてそんなドロの妖怪たちが、いま何をしているのかというと…。

「ブブーッ!!!」

 なんと妖怪たちは、口からドロ水をいて、民家のへい花壇かだん駐車ちゅうしゃしている車に、ドロ水をかけていたのである…!

 ドロ水をかけられた花壇や車は、みるみるうちに、どろまみれ。

 もとの美しい色が、まったからない状況じょうきょうである。

 そしてそんな状況にした妖怪たちは、意地悪いじわるそうにケタケタと笑っているのであった――。



 やがて、ひとしきり笑った彼らは、次なる標的ひょうてきとなりの民家へとかい始めた。

 そして同じようにドロ水をかけだした、まさにその時である…。

「ちょっと、やめなよ!そこの妖怪、泥田坊どろたぼう!」

 妖怪たちに、そう声をかける存在があらわれたのである。

 3匹の妖怪・泥田坊たちは、ふり返って声のぬしを探す。

 するとそこには、一人の少女が立っていた。

 少女の歳は、およそ15~6歳ほど。

 そしてその格好かっこうは、剣道や、弓道きゅうどうで着るはかま着姿。

 履物はきもの運動靴うんどうぐつ…。

 草履ぞうりでない点が、どうしても統一感とういつかんける姿である…。

 しかし、その容姿ようしはなかなかのもの。

 フワリとしたかたより少し短いかみ

 パッチリとした二重ふたえひとみ

 少女の見た目は、可憐かれんなタイプに違いなかった。

 そしてそんな少女は、妖怪たちにまったおくすることなく声をかける。

「ひとのおうちにドロ水をかけるのは、とっても迷惑めいわくな事なんだよ?それに、そこのお花だって、そんなにドロをかけられたら光合成こうごうせいができなくなって…、あっ…、光合成って言葉はつうじないかも…。え~っと…、もっと違う言葉で…。…そう…!ごはん…!ごはんだ…!うん…!ごはんが作れなくなっちゃって、れちゃうかもしれないの…!それはかわいそうでしょ?だから、ドロをかけるのは、もうやめて?」

 少女は、泥田坊たちが人間の常識じょうしきを知らないと思ったのか、教えるように話しかけた。

 泥田坊は人間の言葉がかる妖怪だ。

 もし、その常識を知らなかったのだとすれば、反省はんせいするかもしれない。

 しかしその泥田坊たちは、まったく反省など見せなかった。

 それどころか――。

「…けっ!ペッ!」

 なんと泥田坊は花壇かだんにむかって、つばをてるように、ドロ水を吐き捨てたのである。

 そして一匹の泥田坊がそんなそぶりを見せると、他の泥田坊たちはケタケタと笑い、彼らもマネするようにして、ペッ!ペッ!とドロ水を吐き捨て始めた…。

 少女はそんな彼らに驚きをかくせない。

「うわっ!なんて悪い態度たいどなの…。…この素行そこうの悪さ…、もしかしてあなた達、最近このあたりで出没しゅつぼつしてるっていう悪い泥田坊?通行人にドロをかけたり、田んぼに引きずりもうとするっていう…」

 少女は言いながら、泥田坊たちの反応はんのうを見る。

 彼らが問題の泥田坊なのかどうか、見極みきわめるために。

 なぜなら一般的に泥田坊とは、そう悪い妖怪ではないとされているからだ。

 悪い行いをするのは、ほんの一部いちぶなのである。

 そもそもこの世界に妖怪は多いが、彼らのほとんどは、人に無害むがいなのである。

 人にがいをなすのは、ほんの一部なのだ。

 ただ、妖怪の数が多いために、その一部でも、相当そうとうな数になっているのだが…。


 …まぁ、そんなわけで、この泥田坊たちが問題の泥田坊とはかぎらない。

 …しかしこの素行の悪さからして、彼らが問題の泥田坊でない可能性は、かなり低そうだ…。

「もし、あなたたちが、最近ウワサの悪い泥田坊なら、このままあなた達を放置ほうちする事はできないよ。たくさんの人から苦情くじょうが出ているの。私はおがみ屋の退魔師たいましだから、今日はその泥田坊を…」

「ブブーッ!!!」

「きゃあ!」

 なんと、話の途中とちゅう突然とつぜん、一匹の泥田坊が少女にドロ水をかけたのである。

「もうっ!なんてことするの!」

「ブブーッ!!!」

「きゃっ…!」

「ブブーッ!!!」

「ちょっ…!!!」

「ブブーッ!!!」

「や、やめっ…!!!」

「ブブブブブーッ!!!」

 泥田坊は大量の泥水を少女にかける。

 そのせいで、少女の白かった道着や、紺色のはかまは、もうドロだらけだ。

 手でガードはしたものの、顔や髪にもドロはかかってしまっている…。

 そしてそんな泥だらけの少女の姿をみて、泥田坊たちはケータケタケタ!と大笑い。

 たいする少女は、怒りで、わなわなとふるえていた。

「…そう…。よ~くわかったよ…。やっぱりあなた達が問題の泥田坊なんだね…。ならもう、容赦ようしゃしないから!!!」

 少女はそう言うと、ふところから一枚のおふだを取り出した。

 そして呪文じゅもんとなえる。

「力をしたまえ…!建御雷之男神たけみかづちのおのかみ…!神気しんき招来しょうらい!」

 少女がそう唱えると、持っていたおふだがほのかに光り、バチバチと静電気せいでんきはっし始めた。

 それを見た途端とたん、笑っていた泥田坊たちは急に緊張きんちょうした顔つきになる…。

 少女はそんな泥田坊に向かって「はっ!」と気合きあいけ声とともに、おふだを飛ばした。

 すると、お札は不思議にも一匹の泥田坊の頭上でピタリと止まる。

 そして…。

「落ちよ!雷迅槍らいじんそう!」

 ズドーン!

 なんと少女が呪文を唱えたとたん、お札から強烈きょうれつかみなりが落ちたのである。

「グギャアァァァァ!!!」

 雷が直撃ちょくげきした一匹の泥田坊は、悲鳴ひめいをあげてその場にくずれ落ちる…。

 しかもたおれた泥田坊は、ピクピクと痙攣けいれんしながら、徐々じょじょに小さくなってゆくのだ…。

 そして最終的には、サッカーボールほどの大きさになってしまった…。

 泥田坊は弱体化して、小さくなったのである。

 少女はそんな泥田坊の姿をしっかりと目に焼き付け、息をいた。

「ふぅ。悪い妖怪は、許さないんだから!」

 しかし少女がそう言った途端とたん…。

「なぁにをやってんだい!佳奈子かなこ!このバカものが!」

 そう少女をしかる、きびしい声がかけられたのである。

「えっ?!おばあちゃん?!」

 少女・佳奈子は驚いて、声がした後ろを振り向く。

 するとそこには佳奈子と同じ袴着はかまぎ姿の、初老しょろうの女性が立っていた。

 この女性の名は、八乙女やおとめ 絹代きぬよ

 佳奈子の師匠ししょうであり、実の祖母そぼである。

 そしてそんな絹代のたたずまいは、非常にりんとしており、強い覇気はきにあふれていた。

 しかし、その顔は鬼のような形相ぎょうそうであり、その顔で、彼女のまご・佳奈子をにらみつけていたのであった…。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

碧天のノアズアーク

世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。 あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。 かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。 病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。 幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。 両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。 一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。 Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。 自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。 俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。 強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。 性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして…… ※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。 ※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。 ※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。 ※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

二十五時の来訪者

木野もくば
ライト文芸
とある田舎町で会社員をしているカヤコは、深夜に聞こえる鳥のさえずりで目を覚ましてしまいます。 独特でおもしろい鳴き声が気になりベランダから外を眺めていると、ちょっとしたハプニングからの出会いがあって……。 夏が訪れる少し前の季節のなか、深夜一時からの時間がつむぐ、ほんのひと時の物語です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...