はごろも伝奇

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06. 4年前

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 4年前…、佳奈子がまだ小学6年生だったころ…。

 佳奈子は、穴脇あなわき町ではなく、首都しゅと・東京に住んでいた。

 なぜなら佳奈子の父・幾太郎いくたろうが、おがみ屋の家を嫌い、家を飛び出して、東京で、たい焼き屋をいとなんでいたからだ。

 そんな拝み屋嫌いの父の影響えいきょうもあり、佳奈子は退魔師とは無縁むえんの生活を送っていた。

 ただ、子供の頃から霊力れいりょくが強かった佳奈子は、たびたび小物こものの妖怪や霊たちにちょっかいを出される事があった。

 けれどそれも、父がくれたお守りのおかげで、いつも大事になる事はなかった。

 …あの日までは…。



 …4年前の夏の夜…、佳奈子は家族とお祭りに出かけていた。

 そして、佳奈子の父と母は、町内会の知り合いに挨拶あいさつに行き、佳奈子は、3つ年下の弟・颯太そうたと2人、お祭りの屋台やたいを回っていたのだった。

 ただその時、颯太は足を怪我けがしていたので、足にギプスをつけ、松葉杖まつばづえをついていた。

 なので佳奈子は、弟を気遣きづかって、荷物にもつを持ったり、たこ焼きを食べさせてあげたりして、からかいながら遊んでいた。

 けれどそんな時、突然、お祭りの会場内に、大きな悲鳴が上がったのである。

 そして多くの人々が、ようやく暗くなったばかりの空を、指さし始めた。

 なぜなら夜空には、何かが浮かび、それが地上にりて来ては、また空にのぼるをり返していたからだ。

大首おおくびだ!大首がおそって来た!」

 各地かくちでそんな声が幾つも上がる。

 大首とは妖怪の名で、その姿は、空を飛ぶ、巨大な人の生首なまくびである。

 そして今、その妖怪・大首が、この会場内を飛び回り、会場にいる人間にみついては上空までって、そこから落とすをり返していたのだった…。

 お祭り会場は、悲鳴や、逃げ出す人々で、パニックになってしまった。

 佳奈子と弟の颯太そうたは、逃げる人々によって、もみくちゃにされてしまう。

 そしてそのせいで、颯太は松葉杖を落とし、ころんでしまったのだった。

 さらにパニックになった人々は、颯太そうたの足を、知らずにって逃げて行くのだ。

「ぐあぁぁぁ…!あ、足が…!足がぁ…!」

 颯太は足を蹴られて痛いのか、苦悶くもんの声を上げる。

颯太そうた?!みんなやめて!弟の足をらないで!」

 佳奈子は颯太をかばって、人波ひとなみの前に立った。

「お、お姉ちゃん…、早く逃げないと、大首おおくびが…」

「大丈夫だよ!私たちには、お父さんがくれたお守りがあるんだから!大首だってへっちゃらだよ!」

 佳奈子はそう言って、首から下げた、小さな木のおふだを見せる。

 そしてその直後、上空から、人の頭の6倍はある、妖怪・大首が襲ってきたのである。

「っ!」

 佳奈子は怖いと思いながらも、弟を守る為に、その場に立ち続けた。

 そしてそんな佳奈子に、大首はみつこうとしてくる。

 けれどその瞬間、佳奈子のお守りが光りだし、バリアのようなまくったのである。

 大首はバリアによって、バチン!とね飛ばされ、夜空にい上がった。

「やった!やっぱり、お父さんのお守りはスゴイや!…あれっ?!」

 佳奈子と颯太そうたが喜んだのもつか、佳奈子はお守りを見て驚く。

 なぜなら木のお守りは、パキパキと音を立ててれ、くずれ落ちてしまったからだ…。

「そんなっ!お守りが…!」

 佳奈子たちはこわれてしまったお守りにショックを受ける。

 けれど佳奈子たちは、ショックで落ち込んでいる場合ではなかった。

 なぜなら、さっきね飛ばされた大首が、いかくるって、佳奈子たちを襲って来たからである。

 殺される!

 血走ちばしった目の大首を見て、佳奈子は死を覚悟かくごした。

 それはまさに絶体絶命ぜったいぜつめい…。

 しかしそんな時…、突如とつじょとして、佳奈子たちの前に、黒装束くろしょうぞくの人物があらわれたのである…!




 まるで風のように現れた、黒い羽織袴はおりはかまの人物…。

 その人物は、瞬時しゅんじに、光る魔法陣まほうじんのようなものを出して、大首の攻撃を防いでくれた…。

 しかも何をどうやったのか、大首は悲鳴を上げて小さくなってゆき、見えなくなってしまったのだ…。

 佳奈子はその人物の背後はいごにいたので、背中しか見えず、何が起こったのか分からなかった。

 けれどその人物が、自分を助けてくれた事だけは分かる。

 なので佳奈子は、まだ驚きながらも、その人物におれいを言う事にした。

「あ、あの…」

 声をかけると、その人物は佳奈子の方を振り向いた。

 すると、その人はなんと、口だけが出た仮面かめんをつけていたのだ…。

 なので顔は分からなかった。

 ただ背格好せかっこうで、男の人だろうという事は分かった。

 それと、その人の黒い装束しょうぞくには、絵柄えがらのような文字があり、そこには『伊吹』と、書いてあったのだった…。

「あの、助けてくださって、どうもありが…」

 佳奈子がそこまで言った時だった。

「まだ大首がいるぞ!気をつけろ!」

 周囲から、そんな声が聞こえてきたのだ。

 えっ?!と、佳奈子が周囲を見回すと、周囲の人々は、佳奈子の後ろを指さしていた。

 それを見た佳奈子は急いで後ろを振り返る。

 すると、その振り返った先に、2匹の大首の姿が見えた。

 恐ろしいまでに怒った顔で、こちらに向かってくる大首が…。



 2匹の大首は、仲間がやられた事に怒っているのだろう。

 仮面の人物にねらいを定めているようだった。

 しかも大首たちは、佳奈子たちのそばまで来ると、左右に分かれ、旋回せんかいし、両側から同時に攻めてきたのだ。

(うそっ?!これじゃあ、この人でもふせげないよ!)

 佳奈子はそう思い、恐怖にふるえた。

 しかし仮面の人物はまったく動じることがなく、水晶のブレスレットを持って、手でいんの形を作った。

 すると、ブレスレットの水晶から、小さな光のが2つ飛び出して来たのだ。

 そして、その光の輪を、仮面の人物は両手でつかまえ、腕をスッと左右にばした。

 すると、左右に伸ばした腕の先に、先ほどと同じ魔法陣のようなものが、再び現れたのである。

「ギャァァァァ~!」

 魔法陣にぶつかった大首は、大きな悲鳴を上げる。

 どうやら魔法陣に電流のようなものが流されていて、しびれているようだ。

 しかも魔法陣がりついていて、そこから動けないようである。

 大首たちは妖力をけずられているのか、どんどん小さくなっていった。

 そして仮面の人物が、手でいんの形を作ると、なんと大首は、魔法陣ごと、ブレスレットの水晶の中へ、い込まれてしまったのである…。



 佳奈子と颯太そうたは、目の前で起きた出来事に呆然ぼうぜんとする。

 あまりに衝撃しょうげきが強すぎて、その人がカッコ良すぎて…。

 けれどそんな時、

「お~い!佳奈子~!颯太そうた~!どこだ~!佳奈子~!颯太~!」

 そう言って、父が探しに来たのだった。

「ハッ!お父さん?!ここだよ!おとうさ~ん!」

 佳奈子たちはわれに返り、声がした後ろを振り向く。

 そしてそこに父の姿を見つけ、大きく手を振った。

「よかった!お前たち!無事ぶじだったか!」

「うん!あっ、でも颯太そうたは、逃げる人達に、いっぱい足をられちゃって…」

「なに?!颯太、大丈夫か?!足は痛むか?!」

「うん…。かなり痛い…」

「そうか…。救護所きゅうごしょに行って、てもらった方がいいな。颯太、俺の背中に乗れ。佳奈子も行くぞ。大首どもが襲って来てるからな、急ぐぞ」

「あっ、それなら大丈夫だよ!全部、あの人がたおしてくれたから!」

「あの人?」

「うん!そこにいる…って…、あれ?いない…」

 佳奈子と颯太そうたは、周囲を見回した。

 しかし、仮面をつけたあの人は、もうどこにも見えなかったのだった。

「どこに行っちゃったんだろう…あの人…。まだ名前も聞いてないし、おれいもちゃんと言ってないのに…」

「まぁ、大首を倒してくれたなら、誰でもいいさ。れいも後で言えばいい。それより、早く颯太を救護所にれて行くぞ…!」

「あ、うん…!」

 佳奈子は後ろ髪を引かれながらも、父たちとともに、救護所に向かった。
 
(あの人なら、まだ近くにいるはず…。きっと、すぐ会えるよね…)

 そう願いながら…。




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