君の瞳は月夜に輝く

文字の大きさ
58 / 104
幕開け

55

しおりを挟む
「早めに来たつもりなのに、もう人がいるんだな…。」
「そう、みたいだね…。」

 今日は、闘技会に出るための測定テストを受けに王都から少し離れた会場に来ている。開場をしてからそんなに経っていないはずなのに、もうすでに入り口には人があふれかえっている。周りを見渡してみると、ちらほらと見知った顔もいる。

「受付がまだ済んでいない方は、こちらにお並び下さーい!!」入り口から少し離れたところでプラカードを持った人が大きく手を振って案内をしている。僕たちはそれに従って列に並ぶ。それにしても人が多いな…。

 受付で僕の名前とあらかじめ知らされていた受験番号を言ってテストの内容や今日の流れが書かれた紙と番号札をもらう。番号札は首からかける形式になっているみたいだった。…うわ~いよいよ始まるんだな…。
「あ、あとこちらの紙にサインをお願いします。」そう言われ、渡された紙に目を落とす。すっごい色んな事が書かれているけど、要約すると『大会中ケガとかしても自己責任でお願いね。』みたいなことだった。………まぁ、闘技って名前についてるくらいだから、ある程度のけがは仕方ないだろうし…そんな致命的なケガをこの歴史ある大会で負うことは、きっとないよね………。きっと……。
 一抹の不安を覚えながらも、サインをする。ちょっと字が震えちゃったような気がするけど、気づかなかったことにする。


「アルは、何番だった?」
「僕はね、130番だったよ。お兄ちゃんは?」
「俺は、131番だった。一緒に受付をしたからかな。」どうやら受け取る番号は来た順で配られるらしい。それなりに早く来たはずなのに、受け取った番号から人の多さがうかがえる。

 僕はテストの内容が書かれた紙を見る。どうやら測定テストは本番形式で行われるみたいだった。一つ違うとしたら戦う相手は人ではなく、ダミーの人形ということぐらいだった。ダミーと言っても実際に攻撃をしてくるから、それを処理しつつ反撃をしなければいけない。その俊敏性とかそもそもの攻撃力とか、技術点だとかを総合的に鑑みて闘技会の部門分けが行われるみたいだ。

「今は…34番か…。結構先だな…。」あと、100人くらいいるのか…。
「時間あるし、一度会場の中を見ておくか?どういう地形でそういう人形が使われているか知っておいたほうが安心だろう。」
「そうだね、行こっか!」

 円形上に作られた観客席の真ん中の方から会場を見下ろす。…なるほど、結構広いな…。会場にはオブジェクトとか何も置かれていないから余計にその広さが目立つ。あとは、時折立ち込める砂ぼこりが目に入るから、すごく嫌だな…。ダミー人形の方は他の試合でも使われるものと一緒だった。等身大の人型に作られた人形に魔術をかけ、目標に魔術や攻撃をすることができるようにしたものだ。見た感じ、魔術に関しても武術に関しても基礎的な動きが多いようだ。まぁ、実力を測るためだしな…。

 35番の子のテストが終わり、36番の人に会場に入るようアナウンスが入る。そこで入ってきたのが…

「え、」
「うそ…。」
「あれって…。」


「「「ロスト様!!!???」」」

 まさかのロストさんだった。闘技会の優勝候補の登場に、観客席はざわつき始める。ところどころ黄色い声援が飛び交うものの、会場全体に緊張が走っているのを感じる。

「まさか、こんなに早くここでのあいつの戦闘姿を見れるとはな…。」隣で見ていたお兄ちゃんがつぶやく。
「…ロストさん、どうやって戦うのかな…?」今までの特訓でのロストさんを思い浮かべるが、これからどう動くのか全然想像ができなかった。




 そうこうしているうちに、ロストさんが会場の中央に立ち、人形に向かって一礼をする。さすが、所作の一つ一つがキレイだ。
 

 離れた所にいる審査員が赤い旗を揚げ、開始の合図を告げる。刹那、ドゴーンという轟音が会場中に響き渡り、大きく砂ぼこりが舞う。それは観客席にまで届き、思わず手で顔を覆う。

 徐々に砂ぼこりが落ち着き、周りの状況が分かるようになってくる。会場を見ると体についた砂を手で払うロストと、地面に深く跡を残しつつ端っこまで吹っ飛んでいる人形がいた。

「あの脳筋…!!!」砂ぼこりから守るために僕に覆いかぶさっていたお兄ちゃんが言う。


 何が起こったのかが全然わからないが、観客席にいる他の人達も同じようで、全員目の前の光景に唖然としている。

 ぱらぱらと誰かが手をたたく。すると、それに呼応するよう拍手がどんどん広がり大きな歓声につながる。いまだに何が起こったのか全然分からないが、僕もとりあえず手を叩く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ
BL
※注意 BLであり前世が女性です ーーーやってしまった。 『もういい。お前の顔は見たくない』 旦那様から罵声は一度も吐かれる事はなく、静かに拒絶された。 前世は椿という名の悪女だったが普通の男子高校生として生活を送る赤橋 新(あかはし あらた)は、二度とそんのような事ないように、心を改めて清く生きようとしていた しかし、前世からの因縁か、運命か。前世の時に結婚していた男、雪久(ゆきひさ)とどうしても会ってしまう その運命を受け入れれば、待っているの惨めな人生だと確信した赤橋は雪久からどうにか逃げる事に決める 頑張って運命を回避しようとする話です

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

【運命】に捨てられ捨てたΩ

あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...