君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 あの時、目が合って、それで…それで………。



 闘技会も無事終わって、しばらく経つけれど、僕の心は依然闘技会から抜け出せていなかった。


 え、あの時、笑ってた…?リュークさんって笑うの?なんかこう…、勝手なイメージだけど、ずっと無表情だったから表情筋固まってるのかなって思ってた…。えぇ、どうしよう…。なんだかあのリュークさんが笑った顔が頭から離れない…。
 ……ダメダメダメ!宿題に集中しないと!!たくさん出されてるのに一つも手を付けれてないじゃないか!

 ちらと、机の横に積み重ねられている大量の宿題を見てため息をつく。

 ………気分転換に違う部屋で始めるか…。







 違う部屋に行っている道中もリュークさんのことを考えてしまっている。


 あの時、笑ったのって、僕の見間違いとかじゃないよね…。『負けちゃう…。』って思って、大声出したら、こう…目が合って…。『リュークさん、笑ったなー。』と思ったら、なんかビリ!!って電流みたいなのが全身に流れて…。というか、リュークさんってあんなに魔術すごかったんだ…。お兄ちゃんから聞いてた話と全然違うな…。
「やぁ、アルス君。」
「あ、どうも。」
 なんか、だれよりもすごかったよな…。そもそもあんな魔術見たことなかったし…。やっぱりリュークさんほどになると、自分で魔術とか生み出しちゃうのかな…。そこからの巻き返しもすごかったし、かっこよかったな…。
 ……ん…。待てよ…。今のって…。

 僕は振り返ってさっきすれ違った人物を確認する。

 やっぱり!!カルロ殿下だった!!え、どうしよう。なんとなくで挨拶しちゃったけど、引き返して挨拶しなおしたほうがいいのかな…?え、歩くスピード速!!ちょ、追いつけないって!!
 …あれ、殿下が歩いていく方向…。お兄ちゃんに用事かな…?








カルロside

「そういえば、さっきアルス君にすれ違ったけど、何か難しい顔してたよ。」
「あぁ、闘技会終わってからずっとあんな感じなんですよ。」
「もしかして、リューク=シャンブルクのせいかな?」
「…。」無言で目の前の紅茶をすするアラン。
「だって、あの顔すごく分かりやすかったもんね。みんなが試合に夢中で助かったね。」
「…。」だんだんと顔が険しくなっていくアラン。ほんと、アルス君のこと大好きだよね…。



「…さてと、さっさと本題に入るか…。」僕は城を出る前に受け取った手紙を机に置く。その手紙を見たアランの顔がさらに険しくなる。
「…結局、招待がかかってしまった。もちろんアルス君も。すまない…。」
「いえ、今回ばかりは例外は適応されませんから…。しかし……。」
「もちろん、こちらとしてもかなりの準備をするつもりでいる。アルス君が王宮にいる間は城の誰よりも警備をつけるつもりだし、君たち一家がいる間はリリーシュにも見張りをつける予定だ…。」
「そうですか…。」それでも、どこか心配をしている様子のアラン。

 すまない、あんなのが兄で…。




 どうしてアランがこんなにもリリーシュのことを警戒しているのか。もちろん大きな理由はリリーシュがアルス君を部屋に閉じ込めようとしたことなんだろうけど、僕の影響も少しはあるんだろうなって感じる。会話の節々から。


 なんで僕が、いや僕たちがリリーシュのことを苦手としているのか…。
 
 それは小さなころ彼から悪質ないじめを受けていたからだ。暴力・暴言はもちろんのこと、いわれのない噂を広められ人間関係をめちゃくちゃにされた。
 おかげで、人間不信に陥った僕と姉のソフィアは海外への留学を行かざるを得ず、未だにリリーシュに強い嫌悪感を抱いている姉は帰ってこれずにいる。
 

 ただ、不思議なことに兄がアルス君と初めて会った日からピタリといじめが止んだ。不気味なくらい、急に。そればかりか、王位継承者にふさわしい行動をするようになった。それまで、荒れに荒れていた素行を正し、国民のお手本になるべく精進し、分け隔てなく人々にやさしく接するようになった。
 あまりにもの献身ぶりに、最初は懐疑的だった周りの人も、彼のことを聖人君主だと崇めるようにまでなった。

 いくらあいつが改心して、王にふさわしい人間になったとしても、僕らの幼少期をめちゃくちゃにした事実は変わらない。なのに、そんな過去などなかったかのように人格者ぶっているのがすごく気持ち悪い。あの笑顔の下には黒くドロドロとしたものが隠れていることを僕らは忘れてない。


 僕は少しでも安心させるようにと、依然として眉間にしわを寄せているアランの手を握る。




 君をそんな顔にさせるあいつの弟だという事実が憎いよ…。
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