23 / 70
ときはなつもの
しおりを挟む夫人は、来訪者をケイちゃんと呼んだ。夫人は、義姉の娘をケイちゃんと呼んでいた。夫人は、螢介をケイちゃんと呼ぶ。これからの共通点は、ケイちゃんとは女性であり、夫人にとって好感の持てない人物である。そして、五十年まえに、亡くなっているということ──。
いつのまにか落とした白黒写真を探して歩きまわる天蔵螢介は、ほこりだらけの仏壇がある部屋に迷いこみ、遺影を目にして愕然となる。
「……おれ?」
学ラン姿の高校生が、ぼんやりと写されている。現在の時代は不明だが、三島という姓に縁もゆかりもない螢介は、いよいよ、探偵気分になってきた。
「ケイちゃんは女じゃない。男だったのか……。阿婆擦女は、男の実姉……? だとしたら、生まれてきた子どもは、三島家の娘はどこに……」
夫人の独りごとは、頭のなかへ直接ひびいてくるようだった。
「だめよ、景ちゃん。もどりなさい。そっちはだめって、いつも注意していますでしょう。座敷に近づいたことがお義母さまに知れたら、たいへんなのよ。……ああ、うちのひとったら、きょうも残業ね。こんな大雨のなか、傘もささずに出ていくなんて、ほんとうに、なんてひとでなしなの……」
外は激しい雨がふっている。螢介は遺影の写真を抜きとり、ジャージのポケットにつっこむと、玄関へ急いだ。廊下で夫人と出喰わしたら、きっと無事ではすまされない。命がけで謎を解く螢介は、あの老婆の写真を見つけたら、遺影にもどすことを思いついた。……あれは、弔いの写真だったのか? あの老婆は、いったい何者なんだ。……ケイちゃんでなければ、まさか、三島家の娘?
キィーンと、耳鳴りがした。
背後をふり向いたとき、長い腕が首や胴体に巻きついた。ギリッと絞めつけられ、「ぐはっ!」と、息を吐く。
「ああ、あなた……、こんなところにいたの……。座敷の声を、聞いてしまったのね。だから、お義母さまに報せるつもりなのでしょう。そうはさせません。うちのひとと恵御子お義姉さまのじゃまは、だれにもさせないわ!」
「……なに云ってるんだ? あんたは、旦那の姉貴を、憎んでたんじゃないのか……?」
「憎むですって? よくも、そんな勝手なことを……! そのような感情は、とっくに葬りました。そんな感情は、とっくのむかしに葬ったの。だって、そうでしょう。わたしたちには、子どもが必要なんですから。三島家の跡を継ぐ正式な嫡子を生まなければ、血すじが絶えてしまうわ。そんなこと、わたしの代で、できるはずもないのよ……。わかるでしょう? 血は、濃いほうがいいの……」
呼吸が苦しくなる螢介は、なんとか文鎮をふりまわして絞めつける腕からのがれると、伸びたゴムのように長い腕を廊下に擦りながら夫人が詰め寄ってきた。……この女は亡人だ。おれには供養する力なんてないぞ!
「ああ、あなた……、あなた……、だめよ、逃がしません。恵御子さんは、あんなにお体の具合がよろしくなかったのに、うちのひとのために、命をかけてひきうけてくださったのよ。……それをケイちゃんったら、うちのひとったら、なんて恐ろしいことを!」
グワッと、長い腕で襲いかかる夫人の言動は、まともではなかった。病人は男の実姉ではなく、この夫人ではないかとうたがう螢介は、長い腕をかわして脇をすり抜けると、仏壇のある部屋まで走った。遺影に、写真がセットされている。あの、老婆である。だれかが、螢介のかわりに拾った写真をもどしたのだ。
……この家には、
もうひとりいるな。
まだその姿は確認できないが、亡人となってしまった夫人を憐れむものが近くにいた。
〘つづく〙
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる