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いざ、出陣
しおりを挟む眠れる少年の謎を解くため、ネコと現場へ向かうことになった螢介は、さくや亭にもどって昼食をすませた。食器を片づける亭主は、準備ができたらわたしの室へおいでという。螢介は「わかった」とうなずき、護身用の文鎮を手にすると、部屋をでた。
人型のネコは、スクエアカットのシャツにジャンパースカートのミニという恰好で、豊満なボディが強調された姿である。ネコの呼吸にあわせて大きな胸がゆれるたび、螢介は悩ましい気分になった。褐色の肌には艶があり、肉づきのよい太ももがまぶしい。前かがみになると見えそうになる絶妙丈のあんばいが、男の下心をくすぐる……なんて思わない螢介は、スタスタと近づき、ペラッとスカートの裾を持ちあげた。ピンクのパンティーを目視すると、「穿いてるな」とつぶやいて、ホッと息を吐く。
『むっ? なにをするのだ、けいすけ。あたしのうらにわが、みたいのか?』
「ちげぇよ(裏庭って急所のことか? ややこしい隠語だな)。……ネコ、外出先で粗相するなよ」
『あたしは、したいときにするのだ。けいすけのめいれいは、むしするのだ!』
「はいはい。じゃあ、おれの見てないところでたのむぜ。猫の習性は、よく知らねぇけどさ。……で、先生は?」
亭主の室には、ネコしかいない。呼んでおいて本人が不在とは、あいかわらず、なにを考えているのかわからない。螢介はポロシャツにジーンズ姿である。窓辺に黒傘が立て掛けてある。室内なのに不自然すぎるため、警戒して近寄らなかった。ところが、じっとしていられないネコが手にとり、バサッとひらいてしまう。
「ばか、よせ!」
叫んでも遅い。好奇心旺盛なネコに、黒傘には(ぜったい)さわるなと、注意をしておくべきだったのだ。螢介は後悔した。同時に学習した。ネコには教育が必要だと。
『むおっ、なんだなんだ、なんなのだー!!』
「それはこっちの科白だっての! くそっ!」
黒傘を中心に強風が渦を巻き、室じゅうの小物が散乱する。螢介はネコを後ろ抱きにして倒れないよう支えると、「傘をとじろ!」と、耳もとで叫ぶ。人間より聴覚が発達しているネコは、螢介の声にビクッと驚いて肩をふるわせたが、『やってみるのだぁ』と返事をして、中棒をにぎりしめた。なんとか傘をとじようとしたが、風にあおられてうまくいかない。
『にゃにゃにゃぁ! とじれないのだぁ! いらいらするのだ! このかさめぇ!』
「だめだ! 傘を手放すな!」
思うように傘をたためないネコは、苛立ちをあらわにして、壁に傘を投げつけようとした。とっさに、それはまずいと判断する螢介は、片腕でネコの胴体を抱き寄せ、傘の持ち手をつかんだ。その瞬間、カッと、閃光がスパァクし、螢介とネコのからだは、宙に浮きあがった。
「ネコ!」
からだの距離が遠くなっては、互いの状態を把握できないため、螢介は腕をのばしてネコの肩をひき寄せようとしたが、むにゅっ、という、ありえない手応えに、ぎょっとした。わざとではないが、胸をつかんでしまった。反射的に腕をひっこめたい場面だが、強風にあおられて視界が定まらない螢介は、ネコの身体の一部をつかんだまま「先生!」と、さくやを呼んだ。
……さあ、
行っておいで
聞こえるはずもないのに、亭主の声が耳にひびく。螢介は覚悟をきめ、ネコと黒傘を強く抱きしめた。とじていた窓がひらき、いっせいに吹きでる風の流れに身をまかせ、ふたりの影は雑木林の上空へと消えた。さくや亭の屋根に片膝を立てて坐る炎估は、「これで、しばらくは静かになるな」と、皮肉めいた笑みを浮かべた。
雨はやんでいる。しばらくの間、少年の生きる界面で暮らすことになる螢介は、ネコという相棒(あるいは若妻)と共に、探偵ごっこを演じるハメになる──。
『けいすけ、おきるのだ。おきて、しごとをするのだ! おきないと、おしりをぺんぺんするぞぉ』
といって、ネコはほんとうに螢介の下着を脱がせようとする。悪寒がして飛び起きると、ネコと布団のなかにいた。
「げっ!?」螢介は下着しか身につけておらず、思わず青ざめたが、ネコは『うふ』と笑い、上機嫌である。
〘つづく〙
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