40 / 70
いざ、出陣
しおりを挟む眠れる少年の謎を解くため、ネコと現場へ向かうことになった螢介は、さくや亭にもどって昼食をすませた。食器を片づける亭主は、準備ができたらわたしの室へおいでという。螢介は「わかった」とうなずき、護身用の文鎮を手にすると、部屋をでた。
人型のネコは、スクエアカットのシャツにジャンパースカートのミニという恰好で、豊満なボディが強調された姿である。ネコの呼吸にあわせて大きな胸がゆれるたび、螢介は悩ましい気分になった。褐色の肌には艶があり、肉づきのよい太ももがまぶしい。前かがみになると見えそうになる絶妙丈のあんばいが、男の下心をくすぐる……なんて思わない螢介は、スタスタと近づき、ペラッとスカートの裾を持ちあげた。ピンクのパンティーを目視すると、「穿いてるな」とつぶやいて、ホッと息を吐く。
『むっ? なにをするのだ、けいすけ。あたしのうらにわが、みたいのか?』
「ちげぇよ(裏庭って急所のことか? ややこしい隠語だな)。……ネコ、外出先で粗相するなよ」
『あたしは、したいときにするのだ。けいすけのめいれいは、むしするのだ!』
「はいはい。じゃあ、おれの見てないところでたのむぜ。猫の習性は、よく知らねぇけどさ。……で、先生は?」
亭主の室には、ネコしかいない。呼んでおいて本人が不在とは、あいかわらず、なにを考えているのかわからない。螢介はポロシャツにジーンズ姿である。窓辺に黒傘が立て掛けてある。室内なのに不自然すぎるため、警戒して近寄らなかった。ところが、じっとしていられないネコが手にとり、バサッとひらいてしまう。
「ばか、よせ!」
叫んでも遅い。好奇心旺盛なネコに、黒傘には(ぜったい)さわるなと、注意をしておくべきだったのだ。螢介は後悔した。同時に学習した。ネコには教育が必要だと。
『むおっ、なんだなんだ、なんなのだー!!』
「それはこっちの科白だっての! くそっ!」
黒傘を中心に強風が渦を巻き、室じゅうの小物が散乱する。螢介はネコを後ろ抱きにして倒れないよう支えると、「傘をとじろ!」と、耳もとで叫ぶ。人間より聴覚が発達しているネコは、螢介の声にビクッと驚いて肩をふるわせたが、『やってみるのだぁ』と返事をして、中棒をにぎりしめた。なんとか傘をとじようとしたが、風にあおられてうまくいかない。
『にゃにゃにゃぁ! とじれないのだぁ! いらいらするのだ! このかさめぇ!』
「だめだ! 傘を手放すな!」
思うように傘をたためないネコは、苛立ちをあらわにして、壁に傘を投げつけようとした。とっさに、それはまずいと判断する螢介は、片腕でネコの胴体を抱き寄せ、傘の持ち手をつかんだ。その瞬間、カッと、閃光がスパァクし、螢介とネコのからだは、宙に浮きあがった。
「ネコ!」
からだの距離が遠くなっては、互いの状態を把握できないため、螢介は腕をのばしてネコの肩をひき寄せようとしたが、むにゅっ、という、ありえない手応えに、ぎょっとした。わざとではないが、胸をつかんでしまった。反射的に腕をひっこめたい場面だが、強風にあおられて視界が定まらない螢介は、ネコの身体の一部をつかんだまま「先生!」と、さくやを呼んだ。
……さあ、
行っておいで
聞こえるはずもないのに、亭主の声が耳にひびく。螢介は覚悟をきめ、ネコと黒傘を強く抱きしめた。とじていた窓がひらき、いっせいに吹きでる風の流れに身をまかせ、ふたりの影は雑木林の上空へと消えた。さくや亭の屋根に片膝を立てて坐る炎估は、「これで、しばらくは静かになるな」と、皮肉めいた笑みを浮かべた。
雨はやんでいる。しばらくの間、少年の生きる界面で暮らすことになる螢介は、ネコという相棒(あるいは若妻)と共に、探偵ごっこを演じるハメになる──。
『けいすけ、おきるのだ。おきて、しごとをするのだ! おきないと、おしりをぺんぺんするぞぉ』
といって、ネコはほんとうに螢介の下着を脱がせようとする。悪寒がして飛び起きると、ネコと布団のなかにいた。
「げっ!?」螢介は下着しか身につけておらず、思わず青ざめたが、ネコは『うふ』と笑い、上機嫌である。
〘つづく〙
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる