あやし聞書さくや亭《十翼と久遠のタマシイ》

み馬下諒

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いざ、出陣

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 夜になる 依るになる
 (中略)──
 ぼくがいって ぼくが願った
 質問をうける 頭を横にふる
 なにもかも 消してしまおうか
 あれは飢えているといわれた
 (中略)──
 ぼくは いま      
 おそろしいことにとりつかれている  
 頭を横にふらなくては
 ならないのに
 そうしては ならないのに
 あれは待ってはくれないから
 ぼくの人生は決定されて
 おなかをかせた魔物が
 大きな口をあけて待っていた
 夜になると 
 ぼくのまがごころが深くなる
 ごめんなさい お父さん
 ごめんなさい お母さん
 ぼくのねたみ 深くなる
 だから そのまえに



「この夜ってのは、時間のことをしてるっぽいよな」

「そうだのう。なにもかも消すとは、心中おだやかな話ではないのう。第三者のにおい、、、がプンプンするのう」

「第三者って、この質問をうけるってところだな。こいつ、魔物にこわがっているし、いや存在やつが、身近にいるってことじゃねぇの? ごめんなさいって両親に謝罪してるけど、どっち、、、の意味だろう……」

「だれかに、そそのかされたような、不本意な結末に悩んでいるからこそ、最初から最後まで、なにやら不穏な唄なのであろう。しかし、意思決定は少年側にある。これまでのことを、後悔しておるのやもしれん」

「先生は、どう思う?」

 螢介と風估の解釈に、亭主はニコッと笑みをつくり、「謎解きの基本は現場をたずねることかな」といって、料紙を丸めた。……現場? あ、いやな予感。

「行っておいで」

 そう云われるだろうと想像できた螢介は、「いいけど、先生もいっしょに来てくれよ」と、やや語気を強めた。亭主は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの表情へもどった。


此度こたびの件は、ネコを連れておゆき。わたしがそばにいるよりも、彼女のほうが力になるよ」

「ネコを?(あいつ、化猫なんだよな?) おれは先生とふたりで調べたいのに……」


 ねた口調で亭主を見つめる螢介の脇腹を、風估がひじで突いた。

「身のほど知らずめが。くらやみの云うことは、素直にきいておくがええ」

「なめこさん(なんか腹たつな)。……はいはい、わかりました。わかったよ! ネコと、現場検証してくればいいンだろ。行ってくるよ」

「天蔵の小僧よ、急所は大事に使うのだぞ。まず、相手を選ぶことが重要である」

「……急所?」

「男の急所といえば、きまっておるじゃろう。ひとたび使えば元気になれて、極上の裏庭はやみつき、、、、になるという……」

「風估、彼は未成年ですよ。あまり茶化さないでください」

 なにやら小声で話す亭主と風估は、螢介の下半身を一瞥した。……さては、ふたりして、おれを揶揄からかってるな。未成年なのは、あと数ヵ月だってのによ!(※十八歳で成人あつかいの設定。ただし飲酒や喫煙などは二十歳はたちになるまで禁止)

 亭主にたいする螢介の思いは、説明がむずかしい。家族ごっこだと考えるようにしていたが、とくべつな感情は募ってゆく。男の急所がなにかを察した螢介は、「おれだったら、まず最初は先生に使うかもな」と口にして、さくやを困惑させた。めずらしく涼しげな顔が赤面したので、螢介は満足して肩をすぼめた。

 聞書後、静かに眠る少年の寝顔は安らかに見えたが、タマシイの抜けた肉体は、常に危険に晒される。

「待っていろよ。おれが、おまえの真実とやらを調べてきてやるぜ」

「たのもしいのう。くらやみよ、天蔵が無事にやり遂げたさいは、褒美をあたえてやるがええ」

 その提案に亭主が肯定すると、螢介は俄然がぜんひきうける気が増した。……オーケー、ネコと協力して、こんなのはサクッと終わらせてきてやる!


〘つづく〙
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