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023 下ネタ注意
しおりを挟む──今朝は最悪な目覚めだ。それというのも、下半身がムダに元気すぎる。それはそれで健康的かもしれないが、激しく暴走されると後始末に時間を要する。……これは雄性ならではの生理現象につき、後ろめたさはないが、トイレで下着を脱いだとき、ハート形のキノコを思いだした俺は、まだ寝ぼけているのかもしれない。さらに、[ファーレン]に茶化されたような気がして、めまいがした。
「くっ、あの変態勇者が……」
飽和状態を処理して手を洗うと、深い溜め息がでた。よもや、ファーレンのふんどし姿を思い浮かべながら興奮を鎮めるとは、頭痛さえ感じる。……なんのことだか意味不明な場合、そっとしておいてくれ。俺は今、自己嫌悪に陥っている。
「ふう、まいったぜ」
最近、ますます変な夢をみるようになってないか?
「リージョンフライハイトのやりすぎかもな……」
この2ヵ月間、ゲームのことばかり考えている。他の管理人がどんなやつか知らないが、俺のやり方は、やけにストレスが蓄積される。バグもバッドエンドも、すべてゲーム内での話だ。もっと心に余裕をもち、柔軟な姿勢でのぞむべきだろう。
朝食と洗濯物を終えてからログインすると、勇者イベントのフラグを立てたプレイヤーを見つけ、これまでどおり案内した。きょうは数人同時に存在しているため、午後まで仕事に集中し、給料分の責任と義務をはたした。あとから一斉送信メールをひらくと、度重なる不具合による利用者離れを懸念してか、全プレイヤーにお詫びのゴールドコインが分配されていた。
「不祥事を金で解決するとは……。安達め、オレの心の平和を乱しまくりやがる……」
やや納得がいかないが、俺の口座にも現金が振り込まれている。受け取り拒否はできないようだ。朝からスッキリしない頭であれこれ考えても、しかたない。俺的には[レンド]の現状が心配だ。仕事が忙しいと言っていたが、勇者の称号をあきらめてほしくはない。
「ったく、個人贔屓はだめだってのに。俺はリージョンマスターだぞ」
アパート暮らしを始めてから、独り言が増えたな。いっそ、桜文鳥でも飼おうかと思ったが、せまい部屋に鳥カゴを置く場所はない。独り身のくせに、家具屋ですすめられたセミダブルの足つきベッドを購入しちまったのが失敗だった。ひとりで寝るにしても、シングルよりセミダブルのほうが寝返りを打ちやすく、サイズ的にも便利らしい。ソファ代わりになるし、恋人が遊びにきた際はふたりでいっしょに横になることができる……とかなんとか。いくらセミダブルベッドの売り文句とはいえ、二十歳をいくつか過ぎた程度の女性スタッフに、恋人と横になる状況を説明された俺の心境は複雑だ……。
とにかく、機能性や素材の説明をしつこく聞かされ、「じゃあ、これにします」的な感じで決めた。ベッドの下に衣類を収納できる箪笥が付いているが、中身は空だ。まったく有効利用していない。着るものが少ないため、衣装ケースもスカスカだ。シャツや下着の予備くらい、あったほうがいいよな。こんど、久々に服を買いに行くとしよう。
「……今晩、なに食おう」
おっと、悩みといえば、この程度の人間だと思われたくないから補足しておく。俺は何度も挫折を経験した男だ。学校に行っても友達は少なかったし、社会人になったあとも、理不尽なことばかりで、頭がおかしくなりそうだった。ゲームの世界に存在する[ブレイク]こそ、俺の隠れ蓑なんだ。
✓つづく
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