30 / 45
030 キルクス
しおりを挟む「この恰好、やっぱり目立ちますか?」
「……いや、ふつうだと思うが」
「ブレイクさんも、いかにも現代人っぽいコスチュームですよね」
「ああ、そうだな(これは俺の私服だが……)」
キリッとした顔つきの少年は、意外とハキハキしゃべる。どこから来たのか訊ねると、ついさっき[勇者イベント]を失敗したという。
……なるほど。それで
俺の名前に反応したのか
もうひとりの俺に、つまりNPCの[ブレイク]と、少年は接点があった。勇者イベントを失敗しても再挑戦は可能だし、[伝説の剣]は最終的に必ず手に入る。勇者になりたい(正しくは称号がほしい)理由を訊ねたい気もするが、タブーだろうか。なりたいものになる。それは個人の自由だ。
とにかく、
仲間に誘ってみよう
道具屋からNPCらしき客がドヤドヤと出てくると、俺とキルクスは扉の前をあけ、少し離れた場所に設置されているベンチへ並んで腰かけた。親子ほどの年齢差がある俺たちだが、キルクスは魔法が使えるキャラクターにつき、俺としては[仲間のきずな]を使いたいところだ。なにせ、このリージョンは戦士タイプが多い。周囲をうろつくキャラクターは、男女共に体格が良く、剣や斧を装備している。慎重派の俺は、攻撃力より防御力を重視する傾向にある。一撃必殺の大技をもつ、アックス系ファイターも魅力的だが、サポートキャラクターが仲間にいる安心感は捨てがたい。
「なあ、キルクス。今後の予定は決まっているのか?」
「はい。勇者イベントは保留にして、レベルを上げようと思います。道具屋の主人から、[カメレオンジャングル]というダンジョンが近くにあると聞きました。モンスターがたくさんいる密林だそうです」
「それならゴールドコインも貯まりそうだな。……よし、キルクス。俺といっしょに行動しないか? ここへくる前、貴重品の[仲間のきずな]を入手したんだ。こいつを使えば、ふたりで攻略が可能になる」
デニムのポケットから指輪を取りだすと、少年はふしぎそうに見つめた。サイズが合うかどうか嵌めるまでわからないが、いちど身につけたら効果が切れるまで外せないだろう。
「もし、俺と組みたくなきゃ、断っていいぞ」
「え? そんなことありません!」
即座に否定され、内心ホッとした。しかし、キルクスの表情は翳りを見せている。
✓つづく
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる