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031 余りもの

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 体育や理科の実験、あるいはペアでなにかをする必要があるとき、「今からふたりひと組になれ~」と、学校の先生は軽くいう。2の倍数で必ず割り切れる生徒数のクラスであっても、欠席者がいるとあまり者がでてしまう。また、ほとんどのクラスの男女比率は均等でないため、好きな子同士で組まれると、男女共に、蚊帳かやの外に置かれてしまう子がいる。そんな立場をむやみに痛感させる教師の配慮はいりょのなさは、子どもながらあきれた。

 給食の時間も好きではなかった。俺の経験では、小学校も中学校も机を向かい合わせにして食べていたが、きらいなやつがとなりの席だった場合、楽しいはずのランチタイムが、地獄に感じる。気まずい状況のなかで食事をすると、消化に悪いような気がした。

 俺がきらいなやつは、相手も俺のことがきらいなんだろうと思う。というより、いつの間にかそいつの地雷を踏んでしまい、一方的に無視される。悪気わるぎがなくても、うっかり相手の心を傷つけたり、勘ちがいによってしょうじる仲間割れや口論など、学舎まなびやでは日常的に起こる件だ。俺が中学1年生のとき、頭のいいやつに根も葉もない噂をひろめられ、呼び出しを受けた母親にまでしかられたことがある。なぜ、俺が標的にされたのか不明だが、腹が立つより先に、悲しい気持ちになった。家族には味方でいてほしかったが、母親ははじをかいたせいもあり、全面否定する俺の言葉を信じなかった。

 頭のいいやつは、単純に俺を困らせたかっただけだろうが、結果的に家庭環境にまで悪影響をおよぼし、母親との関係にギスギスとした亀裂きれつを生じさせた。被害は重大だ。何十年と経過した今でも、忘れることはできないほど、当時の俺は精神的苦痛を味わっている。ほんの軽い気持ちでやったイタズラが、相手の人生を狂わせる。頭のいいやつだったくせに、そんなことも考えず、おもしろ半分に事件を起こす。ただし、新聞には載らず、報道もされない。犯人は未成年者だからな。

 フラッシュバックに頭を悩ませている場合ではない。俺は今、ゲームのなかで[キルクス]を途惑とまどわせている。他者を精神的に追い詰める行為は、俺の良心が痛む。こちらの都合に、少年が無理して付き合う義務ぎむはない。

「キルクス、俺の本音をいうと[仲間のきずな]を使って、味方をつくりたいだけなンだ。いきなり誘っても、初対面の人間を信用できないのは、あたりまえだよな。今夜は、宿屋に泊まるだろう? まずは、親睦しんぼくを深めてみないか。もし、俺の言動が不愉快なら、遠慮なく拒絶してくれ。誰にでも、友人を選ぶ権利はあるからさ」

 すっかり沈黙してしまった少年に、俺は釈明しゃくめいするかのように、ひと息にしゃべる。心に余裕がないのは俺のほうか……。おっさんの、なにやら必死な態度を見た少年は、くすッと笑った。

「考え込んでしまい、すみません。ぼくなんか体力ないですし、足手まといになるかも知れませんが、それでもよければ、ごいっしょさせてください」

「そう不安がるなって。俺も、自信がないから協力を必要としているんだ。せっかくの機会だし、ゲームを楽しもうぜ」

 キルクスは、ふたつある指輪の小さいほうを受け取り、左手の薬指につけた。……念のため、俺も同じ指につけておく。すると、ぴったりまった。結婚指輪みたいだなと思っていると、一瞬、キラッと指輪があわい光を放ち、アイテムの効果が発動した。

「キルクス、改めて、よろしく頼む」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


✓つづく
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