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033 夢オチではない
しおりを挟む枕や布団がいつもとちがうと眠れない、という体質の人がいる。正確には、寝室の環境や寝具が異なる状況では、変化の察知が心理面に作用し、睡眠に影響を及ぼしてしまう。
ゲーム内の宿屋に、低反発枕やマットレスなどは置かれていない。寝返りをうつたび、ギシギシと軋む木製のベッドに、薄い掛け布団、汚れた敷布団といった仕様だ。朝方、背中が痛くて目が覚めた俺は、ハタハタと飛びまわる蛾を目で追った。かろうじて、天井の蜘蛛の巣を回避したが、力なくポトリと床に落ちる。出口を探し、ひと晩じゅう飛んでいたのかもしれない。そもそも、どこから部屋に侵入してきたのか不明だ。窓にも扉にも、鍵は掛けてある。
気づくと部屋にいる虫って
いるよな。そいつらだけの
通り道があるってのは、
リアルの再現率、高ぇな
首だけ横向けると、となりのベッドで静かに眠る[キルクス]の寝顔が見えた。……これは夢ではないのか?
ゆっくり上体を起こした俺は、自分の顎に指を添えた。昨夜は汗をかいたのに、シャワーを浴びずに寝たからな。……髭は伸びていないようだが、ツルツルした肌触りというわけでもない。気になる40代特有の加齢臭(おやじ臭)は、自分で確認するかぎりにおわなかった。ちなみに、キャベツやセロリ、バナナやオレンジといった加齢臭予防が期待できる野菜や果物を、日頃の食生活に取り入れると、抑制に効果的らしい。いちばんの最強メニューは、メカブと納豆の組み合わせだ。メカブに含まれるぬめり成分は、悪臭を排出することができ、さらには腸の粘膜を保護することで、悪臭成分がリンパ管から全身へ行き渡るのを防いでくれる。以前、メカブや納豆を食べると加齢臭予防によいと健康番組で紹介していた。
ひとまず、身だしなみはセーフといったところだろうか。[マグマの遺跡]をクリアしてきた翌朝につき、まだ少し疲れは残っていた。からだのあちこちが、筋肉痛になっている。
……歳を取ると、筋肉痛は
遅れてやってくるとか世間では
言われているくせに……
俺の場合、ふつうに翌朝きたぜ
とくに、太腿や足首が痛い。運動不足の俺が、ダンジョンで剣を振りまわした結果、肩こりもひどい。そういえば、筋肉痛の正式名称は、筋・筋膜性疼痛症候群という。誰にでも経験のある症状だろう。なにやら難しい名前だが、遅発性筋肉痛(運動してから数時間~数日後に生じる筋肉の痛み)を略して、筋肉痛と呼んでいるっぽいな。
とにかく、筋肉痛で現実味がより強まったせいか、無事にアパートへ戻れるのか心配になってきた。
「……説明もなしに、終われるかよ。こうなった以上、なんとしても、ハッピーエンドでクリアしてやるからな」
俺は、固く決意した。
✓つづく
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