月冴ゆる離宮

み馬下諒

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第一部

原罪の箱庭⑸

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 剣士はアセビの長い髪を摑むと、武器を使って肩のあたりまでザクッと切り落とした。その髪を側近の老人が箱に詰め、「確かにお預かりしました」といって、急ぎ足で正殿から出ていく。アセビは、パラパラと床に散る黒の入り混じった銀髪を見つめ、なにが起きたのか思考をめぐらせた。

(な、なんだ、今のは……。なぜ、わたしの髪を……、いや、それよりも、わざわざ箱を用意するなんて、いったいどこに持っていく必要が……)

 いくらか動揺するアセビに、傍らの剣士が説明を始めた。

「アセビ・バジよ、そなたはたった今、この場で死んだのだ。先程の髪は、そなたの故郷ルフドゥへ届けさせる。身内により、手厚てあつく供養されるだろう」

「手厚くとは、どういう……?」

 つい、小声で問い返すと、剣士は眉をひそめ、軽く肩をすぼめた。

おまえ、、、は、皇帝陛下の側女そばめ(愛人)が乗る移動馬車に轢かれて死亡した。ゆえに、その犠牲をあわれんだ陛下より、見舞金が遺族に支払われる。……つまり、そういうことだ」

(な、なんだと? そんなニセの情報を送るとは! くっ、父さんや母さんは悲しむ程度だろうが、エリファスさまに無用な誤解を強いるではないか!!)

 内心あせる女騎士は、クオンの言葉を思いだした。

(……死ぬなよ、か。なるほど。運命に悲観して自害するとでも思ったのか? いな、命さえあれば、逃げだす機会はある。むしろ、大王殿にとどまったほうが、ジュリアンさまを探しやすいではないか。こんな場所、ジュリアンさまを見つけ次第、脱出してやる!)

 アセビは、両手をぎゅっと握りしめると、御簾の向こう側をにらみつけた。

「……女人禁制とは知らず、離宮へ近づいたのは事実です。どんな罰でも受けましょう。しかし、わたしのような庶民に大王殿の見学を許すとは、警備が甘いのではないでしょうか」

「冬の大王祭だいのうさいは、皇帝陛下の威厳いげんを示すためにある。3日の昼間かぎり、見物人を中庭まで通している。おまえこそ、門衛の調べを受けて通過したひとりだろう。武器を所持していなかった点と、閨事ねやごとの相性をかんがみて、陛下より温情おんじょうある判決が出たまでだ。感謝しろ」

 剣士の言葉どおりにつき、アセビは口を閉ざしたが、(温情?)と首をかしげた。先程から無言をつらぬく皇帝の顔は、御簾が邪魔をして確認することはできない。どんな表情で罪人を見おろしているのか、不明だった。


✓つづく
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