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第一部
原罪の箱庭⑻
しおりを挟む翌日、最悪な気分で目覚めたリュンヌは、朝食と薬湯を運んできた医官を睨みつけ、本気で非難した。
「よくも、しれっとした面でわたしの前に姿を見せられたものだな。この偽善者め!」
「なんだよ、その例えは。ま、元気そうで何よりだ。おれのアソコは立派だから、少しは体調を心配してやったのに、無用だったようだな。……まずは洗浄するぞ」
「さ、さっさと終わらせろ!」
全裸のまま待機していたリュンヌは、クオンが到着するなり寝台の上で股をひらき、腟内の綿を取り除いてもらった。その際、必要もないのに膣口を舐められ、憤慨する。
「なっ!? スケベなことするな!」
「一夜を共にした仲だろ」
「きのうは恩女として通じたまでだ。医官ごときが、皇帝の所有物であるわたしに、気安く触れるでない!」
「見事に開き直って結構だが、無防備すぎるだろ」
乳房を摑まれたリュンヌは、「きさまぁ!」と、腕を振りまわして反発した。
「ははっ、柔らかいな。もっと大きけりゃ最高だけどよ」
「うるさい、黙れ!」
「あんまり騒ぐと、その口を塞ぐぞ」
「……っ!!」
クオンによって、初めて唇を奪われた事実のほうがリュンヌの頭を悩ませた。
(おのれ、おのれ、おのれぇ!)
ムスカリ帝国の首都フィグムに立つ大王殿に囚われの身となったアセビは、皇帝の人物像を知る必要があった。
(フン、あやつとて人間だ、弱点のひとつやふたつ、あるはず!)
敵の弱みをにぎれば、いざという時に優位に立つことができる。戦術を変え、内部情報の入手を考えた。
(さすがに、クオンに協力を求めたところで、口を破らぬだろうな……)
鼻歌まじりに不用品を片付けるクオンは、昨日と同じ衣服を着こむリュンヌに、「ほらよ」と、白い髪飾りを差しだした。
「これは?」
「おまえさんの身分を証明する装飾布だ。束ねた髪に巻きつけること。……ずいぶん短くなっちまったな」
腰まであった銀髪は、剣士に切りつけられ、肩の高さまで減っていた。リュンヌが備え付けの鏡台へ移動すると、背後にまわったクオンは櫛を手に取り、銀髪を梳いて整えた。クオンにアセビの名を明かしていないリュンヌは、なんとなく後ろめたさを感じた。
「これでよし。冷めないうちに朝食を召しあがれ、リュンヌさま」
「……ああ、わかった」
テーブルの膳には、温かい料理が並んでいる。さいわい、食事の内容は豪勢につき、栄養不足に陥る心配はなさそうだ。
✓つづく
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