月冴ゆる離宮

み馬

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第一部

原罪の箱庭⒃

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「ど、どうなのだ……?」

 クオンはリュンヌをらしておき、寝台のそばから離れると、シルキが毎日書き記す巻物へ目を留めた。墨壺や筆といっしょに、箱にまとめてある。結んである紐を解いて内容を確認すると、寝台のアセビを振り向いた。

「おまえ、しばらく月経げっけいがないのか?」

「……月経? あ、ああ。そう云われてみれば、今月はまだきておらぬ」

「シルキのやつ、おまえとリヤンが枕を共にした周期まで記してやがる。ガキのくせに几帳面きちょうめんだな」

「そ、そんなことより、わたしの身体からだはどうなのだ? 妊娠のきざしはあったのか?」

 クオンは巻物を箱に戻すと、「それはこっちの科白せりふだ」といって、わざとらしく溜め息を吐いた。

「なに?」

「なに、じゃない。医官おれの前だからといって油断するな。云っておくが、妊娠中であろうと性交は可能なんだ。ある程度の注意は必要だが、おれは恩女おまえを抱くことができるんだぜ」

「そんなのは知っている。実際、前にいちど通じ合ったではないか……」

 心なしか、いつもよりクオンの表情がけわしいため、アセビは口を閉ざした。

(なんだ、クオンのやつ。いったいどうしたと云うのだ? 話の本筋をらされているような……)

 クオンの面差おもざしは皇帝と少し似ていたが、まさか異母兄弟だとは思わないアセビは、首を傾げた。

「クオン?」
「……おまえのような女が、素直に身籠るとは意外だな。いつの間にか、ずいぶん飼い馴らされたものだ」
「それは、どういう意味だ。わたしは、皇帝とれ合ってなどいない。死にたくないから服従しているにすぎぬ。それより、わたしの脈はどうなのだ。なんともないか?」
いな、滑脈を捉えた。おまえは妊娠している。リヤンの子で間違いないだろうが、うっかり、、、、おれの子胤だったとしても、皇族の血統だから安心しろ」

 それとなく皇帝と義兄弟であることを明かしたクオンだが、アセビの耳には届いていなかった。

(ついに妊娠……、あの皇帝の子を……! わたしはちゃんと男児を産めるだろうか……)

 アセビは新たな生命せいめいが宿る下腹部に手のひらを添えると、早くも性別が気になった。リヤンが求める赤子は、男のみである。


✓つづく
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