月冴ゆる離宮

み馬

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第二部

花咲く果実⑺

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 感覚は麻痺していても、体内領域に挿入された異質な肉塊かたまりは、アセビの咽喉のどをふるわせ、細胞は素直な反応を示してゆく。かたく張りつめた乳頭に吸いつき、浅く腰をふる男は、寵主ハイムの意識がはっきりしないうちに性交渉を遂げた。


 グレンハイトの誕生祭当日、寝台から起きあがったリュンヌは、全身が重怠おもだるく、頭がズキズキと痛むのを感じた。目覚めてすぐ、寝所に顔をだしたクオンは、平然としたようすで鎮痛剤を差しだしてくる。

「薬だ。頭がすっきりするぜ」

「よくも、そのようなことが云えるな。この、人でなし医官め……!」

 皇帝にもてあそばれたと誤認したアセビは、クオンに向かって枕を投げつけた。全裸で目を覚ました挙げ句、胸もとに鬱血うっけつした歯形があり、腹部の違和感がいなめない。まして、意識が途絶える寸前、皇帝と目が合っている。

(……お、おのれぇ、リヤンムスカ! わたしを第二夫人と呼んでおきながら、一方的に凌辱するとは許せぬ!)

 怒りのあまり、ボスッと寝台にこぶしを振りおろすアセビに、クオンが口を挟んだ。

「昨夜は、素直でかったぜ」

「なんだと? まさか、見ていたのか!?」

「見ていたもなにも、おまえを抱いたのはリヤンじゃない」

「な、なに? それでは、いったい誰が……」

 困惑こんわくするアセビをよそに、鎮痛剤を口腔に含んだクオンは、口移しで呑ませてきた。あっさり接吻を交わす医官にリュンヌは唖然としたが、にわかに紫寝殿ししんでんの外が騒がしいことに気づき、平静を取り戻した。

「グレンはどうしている」

「皇太子なら、ヒルダの担当だろ。今頃いまごろは朝食の時間だ。こっちも早いところ身装みなりを整えて準備しようぜ。……シルキ、膳を持ってこい」

 クオンは扉を振り向いて声をかけると、廊下で待機していた少年は「かしこまりました」と返事をして、炊事場へ向かった。そのあいだに薬湯でアセビの肌を拭き取り、仮の衣装を着せるクオンの息づかいに過剰反応してしまうアセビは、苦心して気にしないふりをした。

「リュンヌ、食事が済んだら化粧けしょうをするぞ。おれがべにをさしてやる。……口紅を塗る意味を知っているか」

「……いや、知らぬが」

「悪しきものに影響を受けないよう、晴れ舞台の日には赤化粧をするのさ。要するに魔除まよけだ」

 グレンハイトは次期皇帝として臣下に顔見世かおみせを行い、アセビは寵主として、ルリギク皇后と初めて対面する。田舎者で罪人だったアセビは、きょうほど複雑な心境に陥ったことはない。

(悪しきものとは、誰のことだ? リヤンか、あるいは……。むぅ、いかん、緊張してきた……)

「リュンヌさま、失礼します。お食事をお持ちしました」 

 膳を運ぶシルキは、13歳になっていた。当初より背丈も伸び、ずいぶん男らしい顔つきに成長している。クオンが化粧道具を取りに姿を消すと、シルキから「おめでとうございます!」と祝福された。

「なんだかぼくもうれしいです。いよいよ、リュンヌさまが、皇族に認められる日が来たのですね!」

 シルキの笑顔を見たアセビは、ピリピリとした緊張感が少しやわらいだような気がした。


✓つづく
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