月冴ゆる離宮

み馬下諒

文字の大きさ
46 / 66
第三部

栄光の約束⑾

しおりを挟む

 ルリギク・ジュアは、名家の娘で、父親は皇宮に仕える臣下しんかである。皇后こうごうの父親だからといって、特別な地位が用意されているわけではなく、政治的な能力や信頼できる働きをしたかどうかで、名誉ある称号を与えられた。

 アセビが皇后の部屋を訪ねた時、ルリギクは化粧室にいた。女官に場所を教えてもらい、回廊をさらに半周し、見事な装飾の鏡の間にたどり着く。

「ルリギクさま、拝謁いたします」

 長い髪を女官に編み込んでもらっていた皇后は、パッと明るい表情をして振り向いた。

「まあ、リュンヌではないか。いらっしゃい。ごめんなさい、ちょっと待ってくださる?」

 麗しい貴人でありながら、病弱な体質につき、皇帝リヤンとの仲は疎遠そえんとなっている。夫婦の営みに至っては、アセビが皇太子グレンを身籠ってから完全に途絶えてしまったが、第一夫人としての地位は失っておらず、年中行事には必ずリヤンと肩を並べて参加した。婚姻当初は泣き暮らしていた皇后も、最近は笑顔も増えるようになったという。

「リュンヌ、こちらにきて見てください。きょうは、どの髪飾りが良いかしら?」

 ルリギクは、宝石箱を開けて中身をアセビに見せると、髪飾りを選ばせた。

「わたくしに? えっと、そうですね……。こちらの珊瑚玉さんごだまのかんざしは、いかがでしょう。ルリギクさまの白い肌に、紅玉がえると思います」

「では、これにしよう」

 皇后付きの女官は、アセビが化粧室に姿をあらわした時から、不愉快そうな表情をしていたが、ルリギクから珊瑚玉のかんざしを受け取ると、首のうしろの編み目に差しこんだ。アセビの銀髪もだいぶ伸びてきたが、白い髪飾りで束ねている。その白い布は、皇宮で唯一、寵主アセビだけが身につけることができる色だった(本人は気にしてないが、意味を知る者たちの目には留まりやすい)。

「よし、これで良い。リュンヌよ、これから一緒に展示てんじへ行きましょう」

「展示? は、はい……」

 話があったのは寵主のほうだが、ルリギクの誘いを断るほど軽率ではない。皇后の一歩うしろに下がりついていくと、長方形の広間に到着した。見れば、ガラクタ、、、、のような物ばかり台座に並んでいる。

(これが展示の間? 壊れた食器に、何が描いてあるのか不明な油絵、その辺に落ちていそうな石に、汚れた着物? ……いったい、これらはなんなのだ)

 渋い顔つきになって展示品を見つめるリュンヌに、ルリギクが補足した。

「驚いたか? ここにあるものは、すべて皇帝陛下が民から買いつけた処分品なのだ。本来ならば個人的に金銭を恵んでやれぬ立場の御方おかただが、偵察に訪れた地で、わざわざ素性を隠してまで、不用品を買い取るようにしているそうだ。……少しでも、貧困層の助けになればとのお考えなのだろう」

 一時的とはいえ、救われる者は身分を隠した皇帝に感謝の意を伝えただろう。リヤンムスカは、独裁者というわけではない。むしろ、民衆への関心は高く、定期的に地方の役人から現状報告を受けていた。

(……それでも、帝国の都合で搾取さくしゅされた姫君ものたちが存在している。その点は、非倫理的であることに変わりはない)

 リヤンの強引な人間味にんげんみを非難しつつ、苦悩する姿を垣間見たアセビは、ほんの少し気持ちの変化を認めた。正の側面と、負の側面を有する人間だからこそ、理想の境地に到達するまで苦悩から解放されることはない。アセビは、リヤンに同情した。


✓つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...