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第三部
栄光の約束⑾
しおりを挟むルリギク・ジュアは、名家の娘で、父親は皇宮に仕える臣下である。皇后の父親だからといって、特別な地位が用意されているわけではなく、政治的な能力や信頼できる働きをしたかどうかで、名誉ある称号を与えられた。
アセビが皇后の部屋を訪ねた時、ルリギクは化粧室にいた。女官に場所を教えてもらい、回廊をさらに半周し、見事な装飾の鏡の間にたどり着く。
「ルリギクさま、拝謁いたします」
長い髪を女官に編み込んでもらっていた皇后は、パッと明るい表情をして振り向いた。
「まあ、リュンヌではないか。いらっしゃい。ごめんなさい、ちょっと待ってくださる?」
麗しい貴人でありながら、病弱な体質につき、皇帝との仲は疎遠となっている。夫婦の営みに至っては、アセビが皇太子を身籠ってから完全に途絶えてしまったが、第一夫人としての地位は失っておらず、年中行事には必ずリヤンと肩を並べて参加した。婚姻当初は泣き暮らしていた皇后も、最近は笑顔も増えるようになったという。
「リュンヌ、こちらにきて見てください。きょうは、どの髪飾りが良いかしら?」
ルリギクは、宝石箱を開けて中身をアセビに見せると、髪飾りを選ばせた。
「わたくしに? えっと、そうですね……。こちらの珊瑚玉のかんざしは、いかがでしょう。ルリギクさまの白い肌に、紅玉が映えると思います」
「では、これにしよう」
皇后付きの女官は、アセビが化粧室に姿をあらわした時から、不愉快そうな表情をしていたが、ルリギクから珊瑚玉のかんざしを受け取ると、首のうしろの編み目に差しこんだ。アセビの銀髪もだいぶ伸びてきたが、白い髪飾りで束ねている。その白い布は、皇宮で唯一、寵主だけが身につけることができる色だった(本人は気にしてないが、意味を知る者たちの目には留まりやすい)。
「よし、これで良い。リュンヌよ、これから一緒に展示の間へ行きましょう」
「展示? は、はい……」
話があったのは寵主のほうだが、ルリギクの誘いを断るほど軽率ではない。皇后の一歩うしろに下がりついていくと、長方形の広間に到着した。見れば、ガラクタのような物ばかり台座に並んでいる。
(これが展示の間? 壊れた食器に、何が描いてあるのか不明な油絵、その辺に落ちていそうな石に、汚れた着物? ……いったい、これらはなんなのだ)
渋い顔つきになって展示品を見つめるリュンヌに、ルリギクが補足した。
「驚いたか? ここにあるものは、すべて皇帝陛下が民から買いつけた処分品なのだ。本来ならば個人的に金銭を恵んでやれぬ立場の御方だが、偵察に訪れた地で、わざわざ素性を隠してまで、不用品を買い取るようにしているそうだ。……少しでも、貧困層の助けになればとのお考えなのだろう」
一時的とはいえ、救われる者は身分を隠した皇帝に感謝の意を伝えただろう。リヤンムスカは、独裁者というわけではない。むしろ、民衆への関心は高く、定期的に地方の役人から現状報告を受けていた。
(……それでも、帝国の都合で搾取された姫君たちが存在している。その点は、非倫理的であることに変わりはない)
リヤンの強引な人間味を非難しつつ、苦悩する姿を垣間見たアセビは、ほんの少し気持ちの変化を認めた。正の側面と、負の側面を有する人間だからこそ、理想の境地に到達するまで苦悩から解放されることはない。アセビは、リヤンに同情した。
✓つづく
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