47 / 66
第三部
栄光の約束⑿
しおりを挟む帝国とは、君主制でありながら民主政的な概念も兼ね備えた、混合政体である。
「……あの、ルリギクさま」
リヤンの人柄に、個人的な魅力を感じないアセビは、痺れを切らして口を割った。元はと云えば、共通の話題で、皇后と意気投合したいわけではない。
「あら、そういえば寵主の用向きを訊ねていませんでしたね。私としたことが、すまぬな」
ルリギクのほうでも気がつき、リュンヌの顔を見据えた。
「そなたの話を聞こう。私に答えられる質問であればよいのだが……」
皇宮では女人は政治や軍事に口を挟めないため、ルリギクから入手できる内部情報は少ない。とはいえ、アセビには、確認しておきたい事柄があった。ちなみに、中庭で襲われた件は、未解決となっている。禁軍の取り調べは連日続いたが、覆面をして襲った男たちは、真犯人を白状する前に地下牢で首を吊り自害した。結局、事件の記録だけが残されるカタチとなり、アセビとしても、やりきれない思いだった。
(それも致し方なし、か。ここは様々な陰謀が渦巻く皇宮だからな。わたしみたいな場違いの女が、排除の対象と見做されるのは当然なのだが……、注意すべき点は、あきらかに凌辱が目的だったということだ。単に、命を奪うのではなく、この国の法に則とり、わたしを寵主の位から廃そうとした者がいる。まさかとは思うが、やはり、気がかりだ……)
クオンによって無理やり貞操帯を着用させられた結果、なんとか未遂で済まされたが、女性の権利を冒涜する浅ましい犯罪行為であり、それを指示して覆面たちを中庭まで手引きした真犯人は、まだ皇宮内にいるはずだ。事件後、クオンから、ルリギクに対する発言には気をつけるよう忠告されたアセビは、ある疑念を抱く。
(わたしを邪魔だと思う人物のひとりに、ルリギクが含まれていたとしたら……?)
色白で脆弱な印象を受ける皇后だが、利用価値が高い地位にいるため、言葉たくみに誑かす連中が接触してきてもおかしくはない。アセビとしても、グレンハイトの第二の母でもある皇后の潔白を、きちんと本人の口から確かめておく必要があった。
(……すまぬな、クオン。おぬしの忠告を無下にするが、これは大事なこと故、許せよ)
意を決して、アセビは皇后に問う。
「おそれながら申しあげます。ルリギクさまは、医官のクオンと、親しい間柄なのでしょうか?」
「リ、リュンヌ? どうしたのだ? なぜ急に、そのようなことを訊くのだ……」
にわかに動揺する皇后の表情は硬い。アセビは(やはりな)と、確信した。クオンは、ルリギクと内通している。そうでなければ、事件当日、寵主をひとり残し、宴席へ引き返す意味がない。クオンは、ルリギクの動向を懸念したに違いないのだ。あの日、初めて皇后とアセビは対面したが、グレンハイトの誕生祭は数日前から決まっており、寵主を陥れる準備期間は十分あった。
(クオンとルリギクは、顔見知りであるのは確かだ。互いに、他人を見る目ではなかったからな)
皇宮に身をおくアセビは、日頃から周囲の動きを注意深く観察した。クオンとシルキ、それにルリギクのようすは、特に用心すべきである。
✓つづく
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
24
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる