月冴ゆる離宮

み馬

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第三部

栄光の約束⑿

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 帝国とは、君主制でありながら民主政的な概念も兼ね備えた、混合政体である。


「……あの、ルリギクさま」

 リヤンの人柄ひとがらに、個人的な魅力を感じないアセビは、しびれを切らして口を割った。元はと云えば、共通の話題で、皇后と意気投合したいわけではない。

「あら、そういえば寵主ハイムの用向きをたずねていませんでしたね。私としたことが、すまぬな」

 ルリギクのほうでも気がつき、リュンヌの顔を見据えた。

「そなたの話を聞こう。私に答えられる質問であればよいのだが……」

 皇宮では女人は政治や軍事に口を挟めないため、ルリギクから入手できる内部情報は少ない。とはいえ、アセビには、確認しておきたい事柄ことがらがあった。ちなみに、中庭で襲われた件は、未解決となっている。禁軍の取り調べは連日続いたが、覆面をして襲った男たちは、真犯人を白状する前に地下牢で首を吊り自害した。結局、事件の記録だけが残されるカタチとなり、アセビとしても、やりきれない思いだった。

(それもいたかたなし、か。ここは様々な陰謀が渦巻うずまく皇宮だからな。わたしみたいな場違いの女が、排除の対象と見做みなされるのは当然なのだが……、注意すべき点は、あきらかに凌辱が目的だったということだ。単に、命を奪うのではなく、この国の法にのっとり、わたしを寵主ハイムくらいから廃そうとした者がいる。まさかとは思うが、やはり、気がかりだ……)

 クオンによって無理やり貞操帯を着用させられた結果、なんとか未遂で済まされたが、女性の権利を冒涜ぼうとくする浅ましい犯罪行為であり、それを指示して覆面たちを中庭まで手引きした真犯人は、まだ皇宮内どこかにいるはずだ。事件後、クオンから、ルリギクに対する発言には気をつけるよう忠告されたアセビは、ある疑念をいだく。

(わたしを邪魔だと思う人物のひとりに、ルリギクが含まれていたとしたら……?)

 色白いろじろ脆弱ぜいじゃくな印象を受ける皇后だが、利用価値が高い地位にいるため、言葉たくみにたぶらかす連中れんちゅうが接触してきてもおかしくはない。アセビとしても、グレンハイトの第二の母でもある皇后の潔白を、きちんと本人の口から確かめておく必要があった。

(……すまぬな、クオン。おぬしの忠告を無下むげにするが、これは大事なこと故、許せよ)

 意を決して、アセビは皇后に問う。

「おそれながら申しあげます。ルリギクさまは、医官のクオン、、、と、親しい間柄あいだがらなのでしょうか?」

「リ、リュンヌ? どうしたのだ? なぜ急に、そのようなことをくのだ……」

 にわかに動揺する皇后の表情はかたい。アセビは(やはりな)と、確信した。クオンは、ルリギクと内通している。そうでなければ、事件当日、寵主をひとり残し、宴席へ引き返す意味がない。クオンは、ルリギクの動向を懸念したに違いないのだ。あの日、初めて皇后とアセビは対面したが、グレンハイトの誕生祭は数日前から決まっており、寵主をおとしいれる準備期間は十分あった。

(クオンとルリギクは、顔見知りであるのは確かだ。互いに、他人を見る目ではなかったからな)

 皇宮に身をおくアセビは、日頃から周囲の動きを注意深く観察した。クオンとシルキ、それにルリギクのようすは、特に用心すべきである。


✓つづく
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