53 / 66
第三部
栄光の約束⒅
しおりを挟む「こ、これはいったい、どういうことだ?」
閉ざされた離宮の内部は、しん、と静まり返っていた。個室の扉をひらいて見てまわっても誰ひとりおらず、奇妙なほど整然として、アセビは困惑した。
(姫君はどこに? まるで生活の痕跡が見られないではないか!)
あまりにも予期せぬ出来事に、アセビは数秒ほど放心し、ハッと我に返った。
「リヤンめ、謀ったな!?」
離宮に誰もいないことを承知で、立ち入りを許可したにちがいない。アセビは頭に血がのぼり、カッと目を見ひらいて苛立ちを露わにしたが、ふいに、何かが動く気配を察して耳をすませた。
(……だ、誰かいる?)
すべての部屋を見たつもりだが、隠し扉や天井裏、地下通路の可能性を失念していた。広さにして、正殿と紫寝殿を合わせたくらいの床面積だが、壁紙に豪華な金が散りばめられ、柱には細かな彫刻がほどこされている。上辺に捉われて、判断力を欠いては、真実を見抜くことはできない。
(ここまできて、何も得ずに引き返せるわけがない。ジュリアンさまを見つけなくては……!!)
アセビは、各部屋の壁や窓、床下などを確認し、念入りに調べた。だが、これといって怪しい部分は発見できず、いったん捜索をあきらめた。
(落ちつけ……、落ちつけ……。離宮には絶対なにか意味がある。リヤンの目論見は、なんだ? 人質の確保ではなかったのか? 各地域から集めた若い娘は、今、どこにいる?)
時が止まったかのような離宮に佇むアセビは、姫君の行方について、もういちど考え直す必要があった。世間の流行は、誤解釈であると判明したからだ。
(目くらましに建てた離宮だとしたら、姫君たちが身をおく場所が他にあるはずだ。もぬけの殻だと知る者から、真実を聞きだせるはず……。リヤン本人か、あるいは……)
「クオンムスカ、あやつなのか?」
皇帝の義兄が、離宮を建設した意味を知らないはずがない。
「おのれ、クオンムスカ!」
こちらの目的など、すべて見透かされている。そう思った。
✓つづく
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
24
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる