月冴ゆる離宮

み馬

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第三部

栄光の約束⒅

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「こ、これはいったい、どういうことだ?」

 閉ざされた離宮の内部は、しん、と静まり返っていた。個室の扉をひらいて見てまわっても誰ひとりおらず、奇妙なほど整然として、アセビは困惑した。

姫君コンジュはどこに? まるで生活の痕跡あとが見られないではないか!)

 あまりにも予期せぬ出来事に、アセビは数秒ほど放心し、ハッと我に返った。

「リヤンめ、はかったな!?」

 離宮に誰もいないことを承知で、立ち入りを許可したにちがいない。アセビは頭に血がのぼり、カッと目を見ひらいて苛立いらだちをあらわにしたが、ふいに、何かが動く気配を察して耳をすませた。

(……だ、誰かいる?)

 すべての部屋を見たつもりだが、隠し扉や天井裏てんじょううら、地下通路の可能性を失念していた。広さにして、正殿と紫寝殿ししんでんを合わせたくらいの床面積だが、壁紙に豪華な金が散りばめられ、はしらには細かな彫刻がほどこされている。上辺うわべに捉われて、判断力を欠いては、真実を見抜くことはできない。

(ここまできて、何も得ずに引き返せるわけがない。ジュリアンさまを見つけなくては……!!)

 アセビは、各部屋の壁や窓、床下などを確認し、念入りに調べた。だが、これといってあやしい部分は発見できず、いったん捜索をあきらめた。

(落ちつけ……、落ちつけ……。離宮ここには絶対なにか意味がある。リヤンの目論見もくろみは、なんだ? 人質ひとじちの確保ではなかったのか? 各地域から集めた若い娘は、今、どこにいる?)

 時が止まったかのような離宮に佇むアセビは、姫君コンジュ行方ゆくえについて、もういちど考え直す必要があった。世間の流行うわさは、誤解釈ごかいしゃくであると判明したからだ。

(目くらましに建てた離宮だとしたら、姫君たちが身をおく場所が他にあるはずだ。もぬけ、、、からだと知る者から、真実を聞きだせるはず……。リヤン本人か、あるいは……)

「クオンムスカ、あやつなのか?」

 皇帝の義兄あにが、離宮を建設した意味を知らないはずがない。

「おのれ、クオンムスカ!」

 こちらの目的など、すべて見透かされている。そう思った。


✓つづく
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