8 / 41
解釈B
しおりを挟む胚珠がむきだしになって見える植物は、裸子植物と呼ばれる。胚珠は将来的に種子になる部分で、卵細胞を内臓しており、胚孔を通じて花粉内部の精細胞と受精する。
(雌蕊って、人間でいえば、女性の役割をもっているんだよな……)
最近の山吹は、花図鑑を読みながら眠りにつくようになった。というのも、担当地域の顧客にフラワーショップがあり、ちょっとした興味本位で、近くの書店で分厚い花図鑑を購入した。これまで、草花に関心を示したことはないが、フルカラーで掲載されている写真をながめるうち、においを想像して目を瞑ると、双子兄弟の姿が浮かんできた。
花屋で働く彼らには専門知識が備わっており、購入者の目的に応じて、適切なアドバイスをする。見た目はそっくりなふたりだが、いっしょにならんで作業することは少ない。そのため、彼らが双子である事実を知らない利用客も多かった。
(……あれから一週間経つ。旭くんは、元気だろうか)
山吹は花図鑑を閉じると、枕もとの携帯電話を手に取り、着信画面を確認した。デートのとちゅうで退席した旭は、しばらく音信不通となっている。所用のため(ハンカチを返すため)花屋へ足を運んだとき、店番をしていたのは弟の茜だった。そのさい、新たな事実として、旭は週に三日間ほどレストランでアルバイトをしていることが判明した。
ずっと観てきたテレビドラマの最終回を、うっかり見逃したかのように、頭のなかがもやもやする山吹は、アルバイト先のレストランへ足を運んでみたが、旭に逢うことはできなかった。
朝早く、携帯電話が鳴り響いた。着信画面で相手の名前を確認せずに応答した山吹は、久しぶりに聞く旭の声で目がさめた。
『もしもし、ユウタ』
「……きみは、旭くんか?」
『そうにきまってるだろ。なんだよ、もうおれのこと、忘れちまったのかよ』
「いや、そうではなく……(むしろ逆だ。きみのことばかり考えていた)」
『そっちは、これから仕事だよな』
「ああ、今、起きたところだ」
『きょうさ、帰りに寄れる?』
「花屋にか」
『うん。無理なら、ユウタの自宅を教えて。おれがそっちに行くからさ』
「おれのアパートなら、鳩羽町の七番地だが……」
『オーケー、ちょっと遠いな。仕事が終わったら電話して。とちゅうまで迎えにきてよ』
「わ、わかった。連絡する」
『おう、じゃあな』
旭の声は弟より少し低めだが、滑舌がよく、聞き取りやすい。
(もう連絡がこないものだと思っていたが、元気そうでよかった……)
内心ホッとして身仕度をする山吹は、満員電車の吊り革に摑まって、会社へ出勤した。
(今夜、旭くんがウチにくるのか……。さて、夕食はどうする? デートの仕切りなおしのつもりなら、ふたりで食べにいく流れになりそうだが……)
旭と逢う予定ができた山吹は、少し落ちつかない気分になる。ひとまず、デスクで書類を整理すると、ホワイトボードの名前の横に[外出]のマグネットをつけ、更新の手続きが必要な契約者のもとへ出かけた。その後、定時に退勤すると、駐車場に旭の姿を発見して驚いた。
「よう、ユウタ、おつかれ」
「旭くん、どうしてここに……」
「名刺に会社の住所が書いてあったから、おれが行ったほうが早いと思って。ユウタの車、どれ?」
「おれは電車通勤だ」
「だったら、タクシー呼ぼうぜ。暑くて汗かいたし、駅舎まで歩くのダルい」
「構わないが、いったい、いつから待っていたんだ?」
「さあ、一時間くらい前?」
「このあたりに日除けなんてないだろう。まさか、ずっと立っていたのか? 熱中症になったらどうするつもりだ」
「あのな、子ども扱いすんなって。さっき、コンビニでスポーツドリンクを買ってのんだから平気だよ」
心配するあまり、説教くさい口調になる山吹は、旭に「早くタクシー呼んで」と催促された。最寄の車庫へ電話をかけると、ふたたび旭の顔色をうかがう。
(いつもの旭くんだよな?)
生足がまぶしい。外出するさいも丈の短いシャツと短パン姿とは、正直、驚いた。
(もう少し、肌を隠したほうがいいような気もするが。強すぎる紫外線は、あとあとシミになるぞ。まあ、男の子だし、そんなこと気にしないのかもな……)
舗道へ移動してタクシーを待つあいだ、しばらく会話はとだえた。車内でも旭は無口で、アパートへ到着するなり、「風呂かして」といって、せまい玄関にスニーカーを脱ぎ捨てた。初めて訪ねる他人の家であっても、行動に遠慮がない。山吹はショルダーバッグをワードロープのフックへ吊りさげて腕時計をはずすと、台所で手を洗い、着がえを用意した。
磨りガラスの向こう側で、山吹のボディーソープやシャンプーを使う旭は、流行の歌さえ口ずさんでいる。
(よく考えると、この状況はかなり危ういぞ。旭くんは、本当に無防備すぎる)
いくら顔見知りとはいえ、ひとり暮らしをする男のアパートで、若い子がシャワーを浴びている。なにも起こらないほうが、ふしぎなくらいだ。
「ふ~っ、あっちい。ユウタ、クーラーの風、強くして!」
ガラッと浴室の扉をあける旭は、もちろん全裸である。目の前にいた山吹に驚くようすはなく、その手からバスタオルを奪って、わしゃわしゃとぬれた髪を拭く。旭の下半身を直視した山吹は、とっさに顔を横向けた。
「す、すまない」
「なにが?」
謝罪する山吹をよそに、なにも恥じらわない旭は全裸のまま脇をすり抜けた。
「旭くん、着がえを……」
「あっちぃから、しばらく裸身でいい。クーラーのリモコン、どこ?」
(なんだって? いくらなんでもそれはないだろう!)
絨毯の上にバスタオルを敷いて大の字になる旭は、クーラーの強風を全身に浴びながらまぶたを閉じた。「涼しい~」などと云って、リラックスモードだ。
(待て待て、せめて大事な部分を隠してくれ。つい、見てしまうじゃないか。……なかなか、いい形をしているな。あれが、旭くんの雄蕊か。……かわいいものだな)
山吹は目のやり場に困ったが、思う存分ながめることを許されたような状況につき、旭の躰つきをじっくり見つめてしまった。
❃つづく
0
あなたにおすすめの小説
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
初恋の実が落ちたら
ゆれ
BL
オメガバースの存在する世界。スキャンダルが原因でアイドルを辞め、ついでに何故かヒートも止まって、今は社会人として元気に働く千鶴。お相手である獅勇は何事もなかったかのように活動を続けており、いちファンとしてそれを遠くから見守っていた。そしておなじグループで活動する月翔もまた新しい運命と出会い、虎次と慶はすぐ傍にあった奇跡に気づく。第二性に振り回されながらも幸せを模索する彼らの三つの物語。※さまざまな設定が出てきますがこの話はそうという程度に捉えていただけると嬉しいです。他サイトにも投稿済。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる