2 / 171
幕開け
第2話
しおりを挟む結局、幼児体型に羞恥する亮介がもたつきながら着がえるようすを、水の精霊は笑顔で見つめていた。そもそも、異世界の森に、ファッションセンターなど存在しない。亮介は、学ランの下に着ていたシャツやタンクトップを、頭からすっぽりかぶるだけの格好で過ごしている(ご想像どおり、替えのパンツもないです。針と糸さえあれば、トランクスのゴムを詰めて縫えるけど、1枚しかないし、失敗は許されない……)。
さいわい、亮介の身長は8歳児の平均的な数値につき、シャツ1枚だけで下肢まで蔽うことができた。ただし、派手に転んだり、強風で裾があおられた場合、股のあいだにモザイク加工は必須である。
もっとも、半獣のハイロは素っ裸だし、ミュオンに至ってはスケスケの半透明である。淡い水色の一張羅を身につけていたが、素足だし、肌の露出度は高めだ。現在、きれいな顔だちこそはっきり目視できたが、胸部から下は霞んで見えるため、精霊というよりは幽霊っぽい雰囲気を漂わせている。
(……新しい服がほしいなぁ。なにも着ずにいるよりはマシだけど、もし、このシャツが破れちゃったら、どうしよう。……いくら森のなかでも、全裸で生活するのは無理だからね!)
大熊の下半身も、雄性器官が露出しているわけではない。体毛により、しっかり隠されている。
(いつか、帰れる日がくるのかなぁ。8歳児のまま現代にもどっても、それはそれで困るけど……。神隠しとか黄泉がえりとか、オカルト番組の取材が殺到しそう。ううっ、色々深く考えると、こわくなってきた。そ、そんなことより、学ランとズボンは大事に保管しておかなきゃ!)
ミュオンやハイロに秘密にしておく理由はないが、亮介は実年齢などを打ち明けていなかった。つまり、幼児を演じている状況である。なんとなく、正体を告げるタイミングは重要だと思い、まだ話していないだけである。とはいえ、あきらかにサイズの異なる学ラン(かばんと通学靴は行方不明)を大事にあつかう亮介を見るかぎり、違和感を覚えたはずだ。
亮介は、ハイロが蔦科の植物で編んだカゴへ、学ランをしまっておくことにした。わずか数週間しか通えなかった志望校に未練がないといえば嘘になる。だが、動物好きで大型犬を飼っていた亮介は、なにかと親切なハイロのおかげで、不安や恐怖といった感情は薄れつつあった。
『ふふふ、今朝も眼福ですねぇ。リョウスケくんのやわらかそうな頬やおなか、早く触れるようになりたいです♪』
霊力回復のためとはいえ、ミュオンとの距離感は悩ましいが、亮介にとって命の恩人である以上、無下にすることはできない。
「またそんなこと言って……。どこも触らなくていーから」
となりの部屋へ移動した亮介は、ハイロに教わりながら収穫した木の実を食べて腹拵えすると、小屋の外にでた。肉食動物の縄張りを避けるため、森の片隅で生活を始めた亮介だが、周辺には人間が口にしても害はない草花や、果実、きのこといった食材が豊富に自生していた。
「来たか」
「ハイロさん、きょうもよろしくお願いします」
丸太小屋の裏で木材を斧で割っていたハイロは、小走りで寄ってくる亮介に向かって履物を投げつけた。とっさに腕をのばして受けとった亮介は、歓声をあげた。
「これって、わらじ? しかも、僕の足にぴったりだ!」
いつサイズを測ったのか不明だが、ハイロは裸足で歩く亮介が怪我をしないよう、履物を提供した。履き心地を確かめようとして飛びはねると、フワッとシャツの前が浮きあがり、半獣の視界に亮介の下半身が晒された。
ふだんならば、あわてて隠すところを、貴重な履物を手に入れた亮介は「すごいや、軽くて動きやすい!」といって、うれしさのあまり、その場で足踏みをくり返している。
『……リョウスケくんってば、履物くらいでよろこびすぎですよぅ。こうなったら、もっとすばらしい品を、わたしが用意してさしあげましょう。見てなさい、ムッツリ大熊。ぬけがけは、ぜったい許しません』
木陰からハイロの横顔を凝視するミュオンは、地面に足をつき、森の南側へ向かった。亮介との距離が遠くなるたび、ミュオンの呼吸は息苦しくなるが、半獣に先を越されて悔しいため、より良質な衣類をつくる素材を集めるまで、なんとか耐えぬいた。
ミュオンとハイロが(亮介をめぐり)衝突しやすい間柄になったのは、つい数日前のやりとりが原因である──。
★つづく
573
あなたにおすすめの小説
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった
水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。
そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。
ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。
フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。
ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!?
無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。
【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる
路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか?
いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ?
2025年10月に全面改稿を行ないました。
2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。
2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。
2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。
2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる