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幕開け
第2話
しおりを挟む結局、幼児体型に羞恥する亮介がもたつきながら着がえるようすを、水の精霊は笑顔で見つめていた。そもそも、異世界の森に、ファッションセンターなど存在しない。亮介は、学ランの下に着ていたシャツやタンクトップを、頭からすっぽりかぶるだけの格好で過ごしている(ご想像どおり、替えのパンツもないです。針と糸さえあれば、トランクスのゴムを詰めて縫えるけど、1枚しかないし、失敗は許されない……)。
さいわい、亮介の身長は8歳児の平均的な数値につき、シャツ1枚だけで下肢まで蔽うことができた。ただし、派手に転んだり、強風で裾があおられた場合、股のあいだにモザイク加工は必須である。
もっとも、半獣のハイロは素っ裸だし、ミュオンに至ってはスケスケの半透明である。淡い水色の一張羅を身につけていたが、素足だし、肌の露出度は高めだ。現在、きれいな顔だちこそはっきり目視できたが、胸部から下は霞んで見えるため、精霊というよりは幽霊っぽい雰囲気を漂わせている。
(……新しい服がほしいなぁ。なにも着ずにいるよりはマシだけど、もし、このシャツが破れちゃったら、どうしよう。……いくら森のなかでも、全裸で生活するのは無理だからね!)
大熊の下半身も、雄性器官が露出しているわけではない。体毛により、しっかり隠されている。
(いつか、帰れる日がくるのかなぁ。8歳児のまま現代にもどっても、それはそれで困るけど……。神隠しとか黄泉がえりとか、オカルト番組の取材が殺到しそう。ううっ、色々深く考えると、こわくなってきた。そ、そんなことより、学ランとズボンは大事に保管しておかなきゃ!)
ミュオンやハイロに秘密にしておく理由はないが、亮介は実年齢などを打ち明けていなかった。つまり、幼児を演じている状況である。なんとなく、正体を告げるタイミングは重要だと思い、まだ話していないだけである。とはいえ、あきらかにサイズの異なる学ラン(かばんと通学靴は行方不明)を大事にあつかう亮介を見るかぎり、違和感を覚えたはずだ。
亮介は、ハイロが蔦科の植物で編んだカゴへ、学ランをしまっておくことにした。わずか数週間しか通えなかった志望校に未練がないといえば嘘になる。だが、動物好きで大型犬を飼っていた亮介は、なにかと親切なハイロのおかげで、不安や恐怖といった感情は薄れつつあった。
『ふふふ、今朝も眼福ですねぇ。リョウスケくんのやわらかそうな頬やおなか、早く触れるようになりたいです♪』
霊力回復のためとはいえ、ミュオンとの距離感は悩ましいが、亮介にとって命の恩人である以上、無下にすることはできない。
「またそんなこと言って……。どこも触らなくていーから」
となりの部屋へ移動した亮介は、ハイロに教わりながら収穫した木の実を食べて腹拵えすると、小屋の外にでた。肉食動物の縄張りを避けるため、森の片隅で生活を始めた亮介だが、周辺には人間が口にしても害はない草花や、果実、きのこといった食材が豊富に自生していた。
「来たか」
「ハイロさん、きょうもよろしくお願いします」
丸太小屋の裏で木材を斧で割っていたハイロは、小走りで寄ってくる亮介に向かって履物を投げつけた。とっさに腕をのばして受けとった亮介は、歓声をあげた。
「これって、わらじ? しかも、僕の足にぴったりだ!」
いつサイズを測ったのか不明だが、ハイロは裸足で歩く亮介が怪我をしないよう、履物を提供した。履き心地を確かめようとして飛びはねると、フワッとシャツの前が浮きあがり、半獣の視界に亮介の下半身が晒された。
ふだんならば、あわてて隠すところを、貴重な履物を手に入れた亮介は「すごいや、軽くて動きやすい!」といって、うれしさのあまり、その場で足踏みをくり返している。
『……リョウスケくんってば、履物くらいでよろこびすぎですよぅ。こうなったら、もっとすばらしい品を、わたしが用意してさしあげましょう。見てなさい、ムッツリ大熊。ぬけがけは、ぜったい許しません』
木陰からハイロの横顔を凝視するミュオンは、地面に足をつき、森の南側へ向かった。亮介との距離が遠くなるたび、ミュオンの呼吸は息苦しくなるが、半獣に先を越されて悔しいため、より良質な衣類をつくる素材を集めるまで、なんとか耐えぬいた。
ミュオンとハイロが(亮介をめぐり)衝突しやすい間柄になったのは、つい数日前のやりとりが原因である──。
★つづく
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