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第2部
第49話
しおりを挟む山間に流れる川の幅はせまく、底の傾斜も急である。水の流れもやや速いが、量は少なめで、8歳児でも腰まで浸かることはできそうだった。亮介は砂や土が積もった川原でニッシュの衣服を脱いで裸身になると、不安定な足場に気をつけながら深いところまで移動した。
(うっ、水が冷たい……。でも、慣れてくると、気持ちいいや!)
川の上流まで、けっこうな距離を歩いてきたが、ひと休みする間もなく、それぞれ自己浄化をはじめる。キールやノネコは、浅瀬でバシャバシャと全身に水を浴び、禊というよりは水垢離の真似事をしているように見えた。水位の深いところに立つハイロは、手のひらを胸の前で合わせ、瞑想している。亮介は、たくましい背中を見つめたのち、ハイロと同じポーズをつくり、まぶたを閉じた。
(……どうか、森の精霊さんに逢えますように。……ミュオンさんが、元気になる方法を教えてください。……お願いします)
自己浄化において重要な点は、からだの汚れを洗いながして清めるほか、重苦しい気分を開放(解放)することで、心に溜まってしまった負の感情を、いったん解消し、もとの状態にもどすことである。終わりのない概念にとらわれず、今の状況を受け容れ、前向きな性質へ自己を改める必要があった。亮介とハイロは、ミュオンのために最善の環境を模索し、いつまでも穏やかな日常を送りたいという共通の理念のもと、しばらく瞑想に集中した。
「リョースケとハイロのおっさん、やけに熱心だな」
すでに川原で毛づくろいをすませたキールは、水に浸かったまま動かない亮介と大熊をながめ、ため息を吐いた。ノネコは岩の上にすわり、陽射しを浴びている。思い思いに過ごす時間は充実しており、誰も個人の邪魔をしない。亮介が目を開けたとき、ハイロは身なりをととのえていた。
「どうだ、初体験の感想は」
水からあがると、キールに茶化された。清々しい気分を台無しにされたくなかった亮介は、「すっごくスッキリしたよ」と答えた。ノネコはプッと短く笑い、期待するような反応を得られなかったキールは、「ちぇっ」と顔を背けた。自己浄化を終えた今、精霊のほうから姿を見せる可能性もあるため、無意識に周囲へ視線を泳がせた。
(なんだろう、この感じ。来たときより、空気がヒリヒリする……)
亮介は、妙な胸騒ぎを覚えた。
★つづく
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