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第6部
第104話
しおりを挟む好物を焦らされたとき、よだれを垂らすのは、半獣属も同じだった。ミュオンを奪い返したくて興奮するクマは、口の端からボタッと、よだれをこぼした。
「精霊の名前は、ミュオンというのか。やけに上品な響きだ。ハイロとは大熊のことだな。ようやく、すべてに合点がいく。そこの人間の始末は後まわしだ。……どけ。雑魚に用はない」
『ことばを慎め。われは地の精霊ジェミャなり。半獣ごときが、たやすく命じるとは、赦さんぞ』
バサッと4枚の羽をひろげて飛翔したジェミャは、クマの頭上を通過して、キツネの背後へまわり込むと、ゴゴゴッと地面を揺るがせた。
「じ、地震!? 兄者、さっきから誰と話してるんで?」
精霊の姿が視えないキツネは、クマの足もとへ駆け寄った。ミュオンをめぐり敵対する両者は、しばらく沈黙した。
(このクマさん、そんなにミュオンさんが欲しいの? 捕まえたら、食べる気だったりして……。でも、ミュオンさんはハイロさんと子づくり中だし、あとから横取りするなんて、そんなのだめだよね……)
クマの計画は阻止すべき内容につき、亮介は頭のなかでジェミャに話しかけた。
(ジェミャさん、聞こえる? クマさんを改心させる方法、何かないかな。このままだと、丸太小屋までついてきそうだし、ミュオンさんに対する思いを、どうにか変えてもらわないと……)
亮介の心の声を受けとったジェミャは、『クククッ』と微笑するなり、クマに向かって両腕をひろげて見せた。
『おもしろい。そうまでして手に入れたくば、正々堂々、恋敵と勝負せよ。見事、勝利したあかつきには、きさまに〈水の精霊〉を呉れてやるわ!』
(はい? 今、なんて!?)
予想外の発言に、亮介は顔面が崩壊した。目を白黒させ、口をパクパクしていると、同時に「ひょえ~っ」と叫んだコリスの存在で、我に返った。
「ちょっと、ジェミャさん、なに言ってるのさ。ミュオンさんを、勝手に戦利品扱いしないでよ!」
『フッ、かまうものか。水の精霊は、万物に息吹をあたえるものなり。ただのひとりが占有しては、贅沢というものだ』
しれっとした口調で説くジェミャは、この状況を愉しんでいた。ハイロとクマを競わせるとは、単純すぎる。だいいち、こんな提案を敵方が聞き入れるわけがない。しかし、クマは思案顔になり、なにやら考えこんでいた。
★つづく
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