スーツの下の化けの皮

み馬

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スーツの下の化けの皮/二幕

第58話

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 その後、街でのランチバイキングをすませて旅館にもどったふたりは、夕食の時間まで好きなようにくつろいだ。姫季は美術館で購入した資料を片手に、秋の芸術祭で発表する作品について述べた。幸田は座椅子ざいすにもたれ、耳をかたむけている。

「2年次の後期は、専門領域スタジオを体験するんだ。おれは、原糸素材メーカーに関心があって、ファッションのフリーランスデザイナーとして働くのもいいかなって考えてる。1年のとき、繊維素材の扱いとテキスタイルデザインの基礎を学んだけど、おれに向いてる気がした」

「姫季くんは、んだりったりすることが得意のようだから、アパレル業界に就職するよりも、デザイン作家として活躍する方法もあるだろう」

 学生の実力を高く評価して意見を返すと、姫季は「サンキュー」と笑った。資料をめくる手をのばし、幸田のほおに指でれた。

「……おれさ、潔癖症ってほどじゃないけど、こうやって誰かに触れるのも、躰の一部をさわられたりするのも苦手なんだ」
「だとしたら、石津くんはどうやってきみを抱いたんだ?」
「……そんな話じゃなくて」
「興味あるけどな」
「い、いつか話すよ。それで、いいだろ?」
「ああ、待つと約束したからね」
「……幸田さん、……っん」

 姫季の指に手を添えた幸田は、首をのばして唇を重ねた。このまま押し倒したいところだが、ひとまず自制しておく。ところが、姫季のほうで幸田のシャツを脱がせた。ボタンを解かれて半裸にされた幸田は、見境みさかいをなくすには時間が早すぎると判断し、恋人の腕を、そっと掴んで離した。

「もう少し、きみの話を聞かせてくれないか」
「……それでいいの? 幸田さんは、おれにれたくないの?」
「触れているだろう。充分堪能たんのうさせてもらっているよ」
「……キスばっかじゃん」
「不満なのか?」
「不満というか、あなたがおれを甘やかすから、れったく感じる」
「大事にしたいからね」
「それは、うれしいことばなんだけど……」
「きみこそ無理をしないでくれ。なにも、俺に抱かれることが最終目的ではないのだろう?」
「当然だろ。……おれは、あなたと離れたくない。こうして、ずっとそばにいてほしいんだ」

 そういって、姫季は幸田の腕にすがりついた。


✰つづく
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