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追放令息がゆく!
第25話
しおりを挟む「なんと云うか、斬新な料理だね」
「グレリオ、無理して食べなくてもいいからな」
「そちらは、リツェルさまがつくられたスープです。見た目と食感と味つけに少々難ありですが、仕入れた食材を捨てるわけにはいきませんので、お出ししました」
あきらかに失敗した料理を、ジョセフが配膳する。いつもと異なる雰囲気を察したグレリオは、あとから席につくリツェルをちらッと見て、薄く笑った。
「きみの手料理を味わえるとは、おどろいたな」
「云っとくけど、あしたもあさっても、おれがつくるからな。覚悟しておけよ」
開きなおってスプーンをつかむリツェルは、スープをひと口のんだ。煮くずれた具材はドロッとして、調味料の分量をまちがえたのか酸味が強い。やはり、全然おいしくない。新鮮な食材が台無しだ。
「ジョセフも無理するなよ。残せば、おれが全部食べるから」
無表情でスープ皿を見つめる付人は、「ぼくもいただきます」といって覚悟をきめる。ほんの少しだけ口へ運び、ぴくりと眉が吊りあがる。リツェルは今すぐ料理をつくり直したい気分だった。ジョセフが焼いたライ麦パンは、高価なバターとはちみつをぬって食べる。
「う、うまい……」
後味が悪いスープのせいで、はちみつの甘さが際立つ。グレリオとジョセフは黙々と食べ、スープ皿を空にした。
「ごちそうさまでした」
「なんで、ふたりとも完食するンだ。腹でもこわしたら、どうする気だよ……」
「そのときは胃腸薬を処方してもらうよ。ねえ、ジョセフくん」
寛大な辺境伯は、食後の紅茶をいれるジョセフに「リツェルくんの上達は、きみの腕にかかっている」「それは責任重大ですね」「精進したまえ」などといって、なごやかな空気をつくりだす。ジョセフが食器をかたづけにゆくと、ふたりきりになったリツェルは、食卓をはさんでグレリオのようすを観察した。
ふだんは執務室で書類に目をとおしているが、視察といった業務もあり、ジョセフを残して邸宅を留守にする。辺境伯の護衛は騎士団が務めており、騎士団長が同行することもあった。
「私の顔になにかついているかい」
「べ、べつになにもついてない。ただ少し……」
「少し?」
「疲れてないのかなって……」
「私は疲れてなどいないよ」
「なら、いいけど……(さすがに、ちょっと働きすぎなんじゃとか云えないよな。原因のおれが騎士団の宿舎へ引っ越せば、グレリオの肩の荷も軽くなるはず。……もう少しそばにいたかったけど、おれが邸宅にいる理由もないし、出ていくしかないよな)」
リツェルの内面は顔つきにあらわれやすい。表情から心の声を読み取った辺境伯は、銀のトレイへ元どおりに茶器を置くと、「私の助けが必要なときは、いつでも訪ねてきなさい」という。
「な、なんだよ、突然」
「私は地方長官だ。この邸宅は領民のためにある。相談窓口だと思って、気楽においで」
「やっとおれがいなくなって、問題解決って矢先にする話かよ」
独立してこその成人につき、強がってみせるリツェルだが、内心ではグレリオの気づかいに感謝した。前髪は額を見せてうしろへなびかせてある。グレリオからにおいたつ香水は、いつまでもその場にとどまっていたいと思わせる心地よさがあった。リツェルがぼんやりしていると、ジョセフがもどってきた。
「辺境伯、紅茶のおかわりはいかがなさいますか」
「結構だよ。私は湯を浴びよう」
「かしこまりました。すぐに準備いたします」
椅子を立つグレリオは、「そうだ」といって、リツェルをふり向く。
「きみも、いっしょにどうかな」
「どうって……、木桶風呂はひとり用だろ……」
「あれは移動式だからね。私の浴槽は、ふたりではいっても充分ひろいよ」
ジョセフに見られても平気なふりをしてきたリツェルだが、グレリオと裸身で向き合ったとき、なにが起こるかわからない。タドゥザ伯爵には不感症だと思わせるほど、働きかけに応えなかった身体作用も、グレリオの場合は勝手がちがう。抑制できずに暴走する予感がしたリツェルは、「おれは朝風呂のほうがいい」と首をふった。グレリオも二度は誘わない。うなずいて食堂から姿を消すと、リツェルは「はぁっ」と大きなため息を吐いた。
グレリオの存在をむやみに意識してしまうリツェルは、何気ない会話でも人間性をためされているのではないかと、必要以上に緊張した。
《つづく》
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