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しあわせ計画
第43話
しおりを挟むコンラッドに抱きあげられて居間へ移動したリツェルは、長椅子に着席させられた。バタバタとかわいらしい足音が聞こえ、兄妹が顔をだす。
「あっ! リツェル兄ちゃんだ! リツェル兄ちゃん発見!」
「ちがうよ、イリヤおにいちゃん。このひとは、リツェルお姫さまだよ」
「おお、イリヤにエイリ。よく来たね。ロザリアも。アロンツォ兄上とリツェルが到着したよ。わたしがお茶をいれよう」
子どもたちのあとからロザリアも合流し、エストラバ一家が同じ空間にそろった。妊娠中のロザリアはひとり掛けの椅子に坐り、「よいしょ、ふう」と、息を吐く。いつ産まれてもおかしくないほど、大きな腹に両手を添えて、「よく来たわ。兄さん、リツェルくん」と笑顔で会話した。
「は、初めまして。リツェルです」
「ロザリアよ。どうか名前で呼んでね。お母さんなんて思わなくていいし、思ってもらえたら、それはそれでうれしいわ。アロンツォ兄さんから聞いてたけど、こうして逢えるまで心配だったの。エストラバ家の養子になるなんて、リツェルくんのほうにも選ぶ権利があるんじゃないかって……」
「そ、そんなことねぇよ! あ、ありません……。おれは、どうしてもベルナルド領で暮らしたくて、だから、絶対に新しい戸籍が必要だったんだ。そんなとき、あなたたちがおれを引き受けてくれた。感謝します」
スクッと立ちあがって、ガバッと頭をさげると、リツェルの髪飾りにエイリが「ほわぁ~」と声を洩らした。
「きれいな石がついてる。すてき~」
「サファイアかしら。いつかエイリも、運命の王子さまに購ってもらえるわ」
「うん! あたしもリツェルお姫さまみたいなのがほしい~」
「あ、あの、おれのこと、なんでお姫さまって……」
ロザリアとエイリの会話に口をはさむと、じっと横からリツェルの胸もとを凝視していたイリヤが「おっぱいがない」と、つぶやいた。
「おっぱい……?」
「リツェル兄ちゃんは女のひと?」
「お、おれは男だ」
「じゃあ、やっぱり兄ちゃんだ。エイリ、リツェル兄ちゃんは男だってさ」
「え~、きれいなお顔してるのに~?」
「きれい? おれが?」
リツェルが呆然としていると、長椅子のとなりに腰かけるアロンツォが、「男にしては、女々しいからな」と茶化した。あらためてロザリアが子どもたちを紹介すると、廊下から甘いにおいが漂ってきた。台所にいたコンラッドが、茶器と焼菓子を乗せた配膳ワゴンを押してくる。
「あたしもお手伝いする!」
エイリは元気よく手をあげコンラッドのとなりにつくと、イリヤは「おれはリツェル兄ちゃんと話したい」といって、長椅子に飛び乗った。にぎやかなパーティーが始まり、エストラバ家の一員として迎えてもらったリツェルは、しだいに胸が熱くなった。
「なぁなぁ、なんでリツェル兄ちゃんは女みたいなんだ?」
八歳のイリヤに悪気はない。見たままの感想を口にする。リツェルは少し考えたあと、「おれは母親似なんだ」とこたえた。イリヤはロザリアのほうを、ちらッと見た。リツェルの顔だちとは、まったく似ていない。血のつながりがないため当然だ。だが、イリヤは「そっか」と納得した。
微笑ましく家族の団欒を見まもるコンラッドは、アロンツォを「兄上」と呼び、騎士団長として領民のために働く日常を労った。
「おにいちゃん、おにいちゃん」
と、しばらくロザリアのそばでおとなしくしていたエイリが、リツェルに近づいてきた。
「あのね、見せたいものがあるの」
「見せたいもの?」
「あたしの部屋にきて。こっちこっち」
エイリに手を引かれたリツェルは、「ちょっと行ってくる」とアロンツォに云い残して廊下へでた。エイリにしたがって階段をのぼっていくと、遅れてイリヤもついてきた。少女の部屋に初めて足を踏みいれたリツェルは、かわいらしい人形や花柄の絨毯に目をとめ、くすッと笑みがこぼれた。たっぷりと愛情を感じる空間だ。
エイリは机のひきだしから額縁の写真を取りだし、「はい、これ」といってリツェルに手渡した。
「これって……」
ロザリアとコンラッドの挙式を撮影した一枚である。十年以上前の写真につき色褪せていたが、若いころのアロンツォと肩をならべるグレリオの姿も確認できた。
「いっしょに写ってるやつ、辺境伯だろ。おれも同じものを持ってるぜ」
イリヤは、リツェルの手もとをのぞきこんで云った。
《つづく》
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