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しあわせ計画
第44話
しおりを挟む当時は、十代後半と思われるグレリオだが、写真から渋い香調がにおいたつようで、リツェルは一瞬、頭がクラッとした。
「やべぇ、かっこいい……(この写真、めちゃくちゃほしい!)」
「かっこいいよな、団長。うちの父さんなんか、このときから小太りで、今じゃすっかりしあわせ太りだよ」
リツェルが賞賛した人物は辺境伯のほうだが、写真をのぞきこむイリヤがアロンツォに向けて発したことばだと受けとってうなずく。たしかに、若き騎士のアロンツォも、なかなか凛々しい顔をしている。このときすでに左顎に傷痕があった。無意識に眉をひそめたリツェルは、「あのさ」と、イリヤとエイリを交互に見て質問した。
「アロンツォの顔の傷、いつできたのか知ってるか?」
「うーん、いつだっけ?」とイリヤ。
「まえに、母さまから聞いたことあるような……」とエイリ。
本人にたずねてもはぐらかされたので、身内にさぐりをいれたが、やはり子どもの記憶はあいまいのようだ。妹のロザリアならば、確実に知っていると思われた。傷痕の理由が判明したところで、なにかが変わるわけではない。たんなるリツェルの好奇心である。
「エイリ、貴重な写真を見せてくれてありがとう。これは大事なものだから、しまっておきな」
「うん! あたしがお嫁さんになったとき、おにいちゃんもいっしょに写真とろうね」
「え? あ、ああ。そうだな……」
エストラバ家の養子となった今、イリヤとエイリはリツェルにとって義兄妹である。いつか、エイリの花嫁姿を見ることができるだろうか。新しい家族と思い出を共有してゆく愉しみが増えたリツェルは、「あははっ」と笑った。扉の外で子どもたちのようすを見まもるロザリアは、リツェルの明るい声を聞いてホッと息を吐いた。静かに階段をおりて居間へもどると、実兄と目が合い、「ふふっ」と笑みがこぼれた。
「兄さんが、わたしにリツェルくんの話を持ちかけた意味がわかった気がするわ」
「そうかよ」
「ええ。安心して。リツェルくんは、これから先もずっとエストラバ家の一員よ。なにがあっても、母親のわたしが子どもたちを守ってみせるから」
「逆だろ。あいつは成人している。見た目は貧弱だが、騎士団の宿舎で長く働けば、そのうち化けるだろ。たまには里帰りさせるつもりだ。そのときは、たのむぜ」
「わかったわ。兄さんこそ、あまり無茶なことしないでね」
「へいへい」
久しぶりにロザリアと会話するアロンツォは、やがて誕生する三人目の子どもについてふれ、実妹の体調を気づかった。
「そうだわ。リツェルくんにもお産に立ち会ってもらえないかしら。エイリが産まれるとき、イリヤがとても感動したらしいの。こんどはエイリとリツェルくんに、家族が増える瞬間を見届けてもらえたら、うれしいわ」
「おお! ロザリアよ、それはいい考えだ。わが妻の命がけの出産を、家族みなで支えようではないか!」
コンラッドもよろこびの瞬間は分かちあうべきだと主張したが、なにも知らないリツェルは、二階の部屋でエイリと人形遊びをしていた。
「このブタの人形、ちゃんとおっぱいがついてるンだな」
「うん、おかあさんブタさん。おっぱいがたくさんついているのは、子ブタさんにおちちをあげるためなんだよ」
「おちち……」
「おにいちゃんにも、おっぱいついてるの?」
「いや、おれは男だから……」
「おっぱい見せてぇ」とエイリ。
「あ、おれも見たいかも」とイリヤ。
「え? ちょ、ちょっと!?」
小さな兄妹を力づくで振りはらうわけにもいかず、ふたりがかりで襯衣の釦をはずされてゆくリツェルは、「うわわっ」と、たじろいだ。身動きできずに青ざめていると、助け舟がやってきた。
「そこまでだ。おまえら全員、コンラッドとロザリアが呼んでるぞ」
アロンツォが顔をだし、リツェルから兄妹を引きはがした。「はーい」と返事をして廊下を駆けていくちびっこをよそに、半裸の状態で放心するリツェルを見たアロンツォは、「これくらいで動揺するやつが出産に立ち会ったら、途中で失神しそうだな」とつぶやく。
「な……に、それ、なんの話……」
「さっさと身なりをととのえろ。おまえの白い肌を見ていると、喰いちぎりたくなる」
「へ、変態っ!」
アロンツォに腕力を発揮された場合、リツェルは抵抗しても無駄である。あわてて襯衣を着なおすと、アロンツォといっしょに居間へ引きかえした。
《つづく》
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