曙花町男娼夜鷹坂

み馬下諒

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〘57〙男娼冥利

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「あッ、あッ、……ぁんッ、あんッ!」

 十日ぶりに、アカラギの案内にしたがって壺の間へ向かったハルチカは、体内領域を掻き乱す利用客に対し、素直にがって咽喉のどをふるわせた。上級男娼として、できるだけ魅力的にふるまい、夢中になって優越感にひたる客と性交渉を遂げる。二年半ほど前から夜鷹坂に身をおくハルチカは、アカラギの協力(手ほどき)を経験したことで、次第に娼館の日常に適応してゆき、今では枕席ちんせきでの性行為は、仕事として割り切ることができた。

「あんッ、あッ! ……あァん!」

 どんなに図々しく腰をふられても嫌悪せず、むしろ、余分な力を抜き、最奥まで突かせ、充分な快感を提供したのち、程よく内壁の筋肉をしめると、挿入している側はがまんできずに射精する。相手の性欲にもよるが、なるべく挿入時間を短くするすべを考えついたハルチカは、たとえ連続絶頂を強要されても、体力と気力を完全燃焼することなく、役目を果たせるようになった。当初は、客の好き勝手にされた挙句、ぐったりと伏せてしまい、アカラギに面倒をかけていた。

「ハァハァッ、ぁッ、……んんッ!」

 ズプッと陰茎を引き抜いたアダシノは、ハルチカの胸のうえに手のひらを添え、汗ばむ首筋にキスをした。

「アダ……シノさま……、」

 十日ぶりの利用者はアダシノという馴染なじみ客のひとりで、貴族の嫡子ちゃくしだが偽名ぎめいを使い、なぜか身分を隠していた。三十路みそじの紳士で、体格も均整がとれている。キリコやヒョウエは、「シノ」「シノさん」と親しみを込めて呼ぶが、ハルチカは関係性にかかわらず「アダシノさま」と、丁寧に呼んだ。

「きみは、ふしぎな子だな。ハルくんの成長には、めざましいものがある。見事な活躍を讃えよう。」

 アダシノは穏やかな口調でハルチカの髪を撫でると、身なりを整え、スーツの内側から紙の束を取りだした。

「……アダシノさま、い、いけません。」
「遠慮しないで。きみには、受けとる権利がある。」
「で、ですが……、」
「私は、たいへん満足しました。次も、あなたを指名します。これは、そのときのぶんも含むということで、いかがですか。」
「……そ、それなら、……承知いたしました。……こんなにたくさん、ありがとうございます。」

 裸身のハルチカは、両手で紙の束を受けとり、深々と頭をさげた。壺の間で褒美などの受け渡しが発生した場合、かならずヒシクラへ報告しなければならない。アダシノとは今後も枕席に侍ることになるが、ハルチカは割札わりふだを差しださなかった。たとえ贔屓の男であっても、特別扱いはしない。ハルチカにとって常連客は、ただの顔見知りていどであり、個人的な感情が芽生えることはなかった。

 夜が明けて客足が去ったあと、風呂場で躰を洗ってから帳場へ向かったハルチカは、ふいに、ガクンッと膝の力が抜け落ちた。床に片手をついて呼吸を整えていると、異変に気づいたヒシクラが歩み寄ってきた。

「ハルチカ、具合でも悪いのか、」
「に……、」
「に?」
「妊娠したかも……。おなかが痛い……。」
「おまえな、そりゃ、ただの性交痛だろう。なんせ、十日ぶりだったからな。」
「……これ、アダシノさまから、」
「なんだ? 褒美か? こいつはまた、大金を寄越よこされたな。」
「次回も指名するって、そのぶんも、はいってるみたい……、」
「待ってな。帳簿に記してくる。」

 廊下の端によけて坐りこむハルチカは、方卓で書き物をするヒシクラのうしろ姿をながめ、無意識に笑みを浮かべた。生きているかぎり、それぞれにしかできない仕事がある。ハルチカは、そう思った。


✓つづく
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